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1 麗しの妹は嘘を吐く(いつものことです)
しおりを挟む「お姉様が私のブローチを盗りました。ひどいです !」
それはもともと私のブローチで、ひと月程前にダーシーがあまりに欲しがったのであげました。それなのに自室の宝石箱にも入れず、サロンにあるピアノの上に置きっぱなしだったので私が片付けました。
「もういらないのかと思ったのよ。だって、ひと月も放置していたら普通はそう思うでしょう?」
「いいえ! もらった物をどう扱おうと私の自由なはずです。それを勝手に片付けるなんて泥棒と一緒ですよね!」
――え? だから、なぜそうなるの?
「お父様に言いつけてやるんだから! お父様は亡きお母様に生き写しの私を、お姉様よりも可愛がっていますもの!」
――よく、把握していますね。その通りですよ。
バタバタバタバタ。ダーシーがすごい剣幕でお父様の所に移動します。よく走って元気ですこと!
「お父様ぁーー。お姉様が私のブローチを盗ったのぉーー」
執務室から漏れ聞こえる猫なで声にため息がでてきますね。ほどなくして怒りの表情をたたえたお父様がやって来ました。
「お前はなぜいつも妹を虐めるんだ! ダーシーは王太子殿下の許嫁なのだぞ? 意地悪をして困るのはお前だからな」
ダーシーはお父様の後ろで舌を出しています。
ーーまぁ、いいです。お父様にはなにを言っても無駄。
「申し訳ありませんでした」
謝った私に「今日の夕食は抜きだ」のお父様の今月に入ってもう4回目の宣言です。
――へいへい。慣れましたよっと。
私は自室で寝そべって可愛い弟が来るのを待っていました。
「お姉さま。大丈夫? 安心して。僕ね、コックさんと仲良しだから。お姉さまのぶんは僕が持って来てあげたよ。パンとスープとサラダしか持って来れなかったけれど・・・・・・スープには特別に余ったお肉と野菜を入れて煮込んであげたよ。コンソメスープだったからバターと小麦粉練って、ミルクを加えてね・・・・・・クリームシチューにしてみたんだ。メインディッシュがなくてごめんね」
「ふふっ。美味しい! このシチューがメインディッシュよ。ありがとう!アルバート」
「いいんだよ。それにしてもダーシーお姉様は酷いね ! ダーシお姉様なんて夜中じゅうお腹でも壊せば良いんだ」
物騒なことを言う弟は本当の弟ではありません。数ヶ月前にエジャートン候爵家に引き取られた遠縁の子なのでした。
「あら、怖いことを言ってはダメよ。あれでもあなたのお姉様でもあるのだから」
その夜お隣のダーシーの部屋からは一晩中、うめき声が聞こえていました。
「お腹、いたぁーーい。なんでかしら? 下痢が・・・・・ひゃぁーー」
切羽詰まった声が時折聞こえ、ダーシーに天罰が下ったことがわかりました。
「うん、神様っているのですわねぇ」
翌朝私が感心していると弟は爽やかな笑顔で微笑んだのでした。
「まさか、なにもしていないわよねぇ?」
「助けてあげただけだよ? 乳酸菌飲料をダーシーお姉様のスープに入れてあげたよ。便秘だと以前言っていたから乳酸菌でお通じがよくなるはずでしょ? ・・・・・ちょっとだけ賞味期限切れてたかもだけど・・・・・・」
「ぷ。あっはははは。大丈夫? 死なないわよね?」
「はい。死ぬほど痛いかもしれませんが、死にはしません」
美しい顔をにこにこと微笑ませて言ったアルバートは実の妹よりも私の家族なのでした。
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