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「私が参加していない夜会で気絶を頻繁にするのはなぜなの? あなたはとても健康なはずよ」
死んだはずのバーバラが目の前に立っておりアデラインにお説教をしていた。
「ちょっと待って! お姉様が生きているわ! どうしてなの?」
驚きと喜びでいっぱいになるがアデラインはこれが幻なのではと疑った。
さきほどまでのアデラインは確かに処刑場でうずくまっていたはずだ。毎晩バーバラの斬首シーンと悲しげに泣く夢にうなされ、後悔の念で食欲も失せ食べ物も喉を通らなかったアデライン。娘を心配するあまりヒューストン公爵夫妻はジギタリスの葉の煎じクスリに、心臓の病に効くと思われる新薬を混ぜ込んでアデラインに飲ませていたのだ。
その新薬もジギタリスの葉でさえも未知のものである。ジギタリスも本来は毒がありその処方を間違えればたちまち死に至る恐ろしい植物なのだ。アデラインが常に感じていた頭痛に吐き気、食欲減退に気力の喪失、体の痺れに味覚障害はその副作用なのかもしれなかった。アデラインがますます痩せ細り衰弱していったのはヒューストン公爵夫妻の娘への愛が深かったから。病のふりをしたばかりに自ら招いたこの結果は皮肉なものであった。
ところが今のアデラインは吐き気も頭痛も倦怠感もまるでない。痛いところはひとつもなく、死んだはずのバーバラは元気にアデラインにお説教をしている。初めはこれが幻や夢だと思い、次には自分はすでに死んでいてここは天国かもしれないとも思ったアデライン。
ふと以前にバーバラに言われた言葉を思い出し、まだ続いていたバーバラのお説教を振り切り屋敷の図書室に駆け込む。散々探し回ると家系図に挟まれた極秘資料がやっと見つかった。それを丁寧に読んでいくと……
魅了の魔法使いは、自分を心から愛してくれた者を一度だけ生き返らせることができる。その際は時間も巻き戻り新たな時を刻み始める。
アデラインはその1文を見つけると納得してバーバラのいるサロンに、駆け足で戻った。
「お姉様! ありがとう! 大好きよ」
バーバラに抱きつきむせび泣くアデライン。
「ふふふ。どうしたのよ? 今日のアデラインは少しおかしいわね。私もアデラインが大好きよ。ところでさきほどのお話だけれど嘘をひとつ、つけばそれを覆い隠すためにまた嘘をつかなければならない。嘘が嘘を呼び、どんどんと膨れ上がり取り返しのつかないことになってしまう。そうなる前にやめなさい! なにもいいことは得られないのよ」
以前にはうるさいとしか思わずに聞いたお説教を、今回は素直な気持ちで受け止める。バーバラの言葉には真実があり、この忠告は心からの姉の愛であることを今のアデラインは知っている。
「はい! お姉様の言うことは絶対ですわ」
アデラインは姉に抱きついていた腕にさらに力をこめて大きく頷いたのであった。
完
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
最後までお読みくださりありがとうございます。
これで完結となります。
なお、これは予約投稿のため完結表示に切り替わるのは少し後になります。
死んだはずのバーバラが目の前に立っておりアデラインにお説教をしていた。
「ちょっと待って! お姉様が生きているわ! どうしてなの?」
驚きと喜びでいっぱいになるがアデラインはこれが幻なのではと疑った。
さきほどまでのアデラインは確かに処刑場でうずくまっていたはずだ。毎晩バーバラの斬首シーンと悲しげに泣く夢にうなされ、後悔の念で食欲も失せ食べ物も喉を通らなかったアデライン。娘を心配するあまりヒューストン公爵夫妻はジギタリスの葉の煎じクスリに、心臓の病に効くと思われる新薬を混ぜ込んでアデラインに飲ませていたのだ。
その新薬もジギタリスの葉でさえも未知のものである。ジギタリスも本来は毒がありその処方を間違えればたちまち死に至る恐ろしい植物なのだ。アデラインが常に感じていた頭痛に吐き気、食欲減退に気力の喪失、体の痺れに味覚障害はその副作用なのかもしれなかった。アデラインがますます痩せ細り衰弱していったのはヒューストン公爵夫妻の娘への愛が深かったから。病のふりをしたばかりに自ら招いたこの結果は皮肉なものであった。
ところが今のアデラインは吐き気も頭痛も倦怠感もまるでない。痛いところはひとつもなく、死んだはずのバーバラは元気にアデラインにお説教をしている。初めはこれが幻や夢だと思い、次には自分はすでに死んでいてここは天国かもしれないとも思ったアデライン。
ふと以前にバーバラに言われた言葉を思い出し、まだ続いていたバーバラのお説教を振り切り屋敷の図書室に駆け込む。散々探し回ると家系図に挟まれた極秘資料がやっと見つかった。それを丁寧に読んでいくと……
魅了の魔法使いは、自分を心から愛してくれた者を一度だけ生き返らせることができる。その際は時間も巻き戻り新たな時を刻み始める。
アデラインはその1文を見つけると納得してバーバラのいるサロンに、駆け足で戻った。
「お姉様! ありがとう! 大好きよ」
バーバラに抱きつきむせび泣くアデライン。
「ふふふ。どうしたのよ? 今日のアデラインは少しおかしいわね。私もアデラインが大好きよ。ところでさきほどのお話だけれど嘘をひとつ、つけばそれを覆い隠すためにまた嘘をつかなければならない。嘘が嘘を呼び、どんどんと膨れ上がり取り返しのつかないことになってしまう。そうなる前にやめなさい! なにもいいことは得られないのよ」
以前にはうるさいとしか思わずに聞いたお説教を、今回は素直な気持ちで受け止める。バーバラの言葉には真実があり、この忠告は心からの姉の愛であることを今のアデラインは知っている。
「はい! お姉様の言うことは絶対ですわ」
アデラインは姉に抱きついていた腕にさらに力をこめて大きく頷いたのであった。
完
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