1 / 5
1 婚約解消
しおりを挟む
マリーアンはライザックが差し出した花束を、無表情に受け取った。
「ありがとうございます。とても、嬉しいですわ」
抑揚の全くない言い方は、少しも嬉しくなさそうに聞こえるけれど、ライザックは気にしないようにつとめた。
マリーアンは婚約者で、私が彼女を好きになったきっかけは、些細なことだった。
彼女は半年前、学園の裏庭で捨て犬らしき子犬に話しかけていた。
この貴族用の学園では、規則上はそのような捨て犬や捨て猫は、発見次第、すぐに学園の衛生保安員に取り押さえられて保健所に連れて行かれることになっていた。
だが、彼女はその子犬を腕に抱えて優しく話しかけているところだった。
「可哀想に・・・・・・捨てられてしまったのね・・・・・・もふもふしていて、とても可愛いのに・・・・・・そうだ、私が秘密で飼ってあげるわ。休暇になったらオレゴン家の屋敷に連れて行ってあげるから、それまで女子寮の私のお部屋でおとなしくできるかしら?」
私は、その様子を見て微笑んだ。いつもは冷たい美貌のマリーアンが子犬に、にこにことして話しかけている様子がとても可愛かったからだ・・・・・・絶対、マリーアンは優しくて良い子に違いない!
私は、動物好きだし、特に犬は最も愛する動物だと思っていた。犬は人間を裏切らないし、癒やしを与えてくれる。
あぁ、もちろん、猫もウサギも好きだけれどね。
私は父上に手紙を書き、マリーアン・オレゴン候爵令嬢と婚約したいと知らせた。
年頃の貴族の令息や令嬢しかいないこの学園は、学びの場というよりは、このように好きな女性を見初めて婚約者を見つける場でもあった。
この世界では、この学園入学前に貴族の令息や令嬢は家庭教師から勉強やマナーの教育は習得済みなのだ。
私の父上のプレミアム公爵は快諾し、二人は婚約者同士になれたのだが、彼女は私が好きではないようだった。
あの子犬に見せていたような笑顔を私に見せることは一回もなかった。
デートをするたびに、こわばった笑顔か無表情のマリーアンの態度に、そろそろ耐えられなくなってきた頃、
「君は、寮で子犬を飼っている?」
私は、唐突に彼女に聞いてみた。
「え? まさか! 犬なんて大嫌いですわ」
マリーアンは、心底、大嫌いだという顔をして見せた。
それっきり、黙ってしまい、会話も弾まなかった。
押し黙ってきつい顔つきで唇を噛みしめている。
どうやら、マリーアンから私は嫌われているようだ。
私の立場は筆頭公爵家の嫡男だ。きっと私の父上からの婚約の打診にマリーアンの父上が断れなかっただけなのだろう。そう考えると、可哀想なことをしたし、自分が身分を笠に着て無理矢理、婚約させた愚か者な気がして、いたたまれなかった。
「マリーアン、私達は婚約解消した方がいいかもしれないね?」
「えぇ。・・・・・・ライザック様が、そうお思いになるのなら・・・・・・」
顔色1つ変えずに固い表情のまま、冷たい声の答えだった。
この申し出を、本当は否定してほしかった。少なくとも、少しは動揺してほしかったのに・・・・・・
「ありがとうございます。とても、嬉しいですわ」
抑揚の全くない言い方は、少しも嬉しくなさそうに聞こえるけれど、ライザックは気にしないようにつとめた。
マリーアンは婚約者で、私が彼女を好きになったきっかけは、些細なことだった。
彼女は半年前、学園の裏庭で捨て犬らしき子犬に話しかけていた。
この貴族用の学園では、規則上はそのような捨て犬や捨て猫は、発見次第、すぐに学園の衛生保安員に取り押さえられて保健所に連れて行かれることになっていた。
だが、彼女はその子犬を腕に抱えて優しく話しかけているところだった。
「可哀想に・・・・・・捨てられてしまったのね・・・・・・もふもふしていて、とても可愛いのに・・・・・・そうだ、私が秘密で飼ってあげるわ。休暇になったらオレゴン家の屋敷に連れて行ってあげるから、それまで女子寮の私のお部屋でおとなしくできるかしら?」
私は、その様子を見て微笑んだ。いつもは冷たい美貌のマリーアンが子犬に、にこにことして話しかけている様子がとても可愛かったからだ・・・・・・絶対、マリーアンは優しくて良い子に違いない!
私は、動物好きだし、特に犬は最も愛する動物だと思っていた。犬は人間を裏切らないし、癒やしを与えてくれる。
あぁ、もちろん、猫もウサギも好きだけれどね。
私は父上に手紙を書き、マリーアン・オレゴン候爵令嬢と婚約したいと知らせた。
年頃の貴族の令息や令嬢しかいないこの学園は、学びの場というよりは、このように好きな女性を見初めて婚約者を見つける場でもあった。
この世界では、この学園入学前に貴族の令息や令嬢は家庭教師から勉強やマナーの教育は習得済みなのだ。
私の父上のプレミアム公爵は快諾し、二人は婚約者同士になれたのだが、彼女は私が好きではないようだった。
あの子犬に見せていたような笑顔を私に見せることは一回もなかった。
デートをするたびに、こわばった笑顔か無表情のマリーアンの態度に、そろそろ耐えられなくなってきた頃、
「君は、寮で子犬を飼っている?」
私は、唐突に彼女に聞いてみた。
「え? まさか! 犬なんて大嫌いですわ」
マリーアンは、心底、大嫌いだという顔をして見せた。
それっきり、黙ってしまい、会話も弾まなかった。
押し黙ってきつい顔つきで唇を噛みしめている。
どうやら、マリーアンから私は嫌われているようだ。
私の立場は筆頭公爵家の嫡男だ。きっと私の父上からの婚約の打診にマリーアンの父上が断れなかっただけなのだろう。そう考えると、可哀想なことをしたし、自分が身分を笠に着て無理矢理、婚約させた愚か者な気がして、いたたまれなかった。
「マリーアン、私達は婚約解消した方がいいかもしれないね?」
「えぇ。・・・・・・ライザック様が、そうお思いになるのなら・・・・・・」
顔色1つ変えずに固い表情のまま、冷たい声の答えだった。
この申し出を、本当は否定してほしかった。少なくとも、少しは動揺してほしかったのに・・・・・・
11
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
【完結】王太子殿下に真実の愛だと見染められましたが、殿下に婚約者がいるのは周知の事実です
葉桜鹿乃
恋愛
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け止めて欲しい」
何を言ってるんだこの方は? という言葉を辛うじて飲み込んだユーリカ・クレメンス辺境伯令嬢は、頭がどうかしたとしか思えないディーノ・ウォルフォード王太子殿下をまじまじと見た。見つめた訳じゃない、ただ、見た。
何か否定する事を言えば不敬罪にあたるかもしれない。第一愛を囁かれるような関係では無いのだ。同じ生徒会の生徒会長と副会長、それ以外はクラスも違う。
そして何より……。
「殿下。殿下には婚約者がいらっしゃいますでしょう?」
こんな浮気な男に見染められたくもなければ、あと一年後には揃って社交界デビューする貴族社会で下手に女の敵を作りたくもない!
誰でもいいから助けて欲しい!
そんな願いを聞き届けたのか、ふたりきりだった生徒会室の扉が開く。現れたのは……嫌味眼鏡で(こっそり)通称が通っている経理兼書記のバルティ・マッケンジー公爵子息で。
「おや、まぁ、……何やら面白いことになっていますね? 失礼致しました」
助けないんかい!!
あー、どうしてこうなった!
嫌味眼鏡は今頃新聞部にこのネタを売りに行ったはずだ。
殿下、とりあえずは手をお離しください!
※小説家になろう様でも別名義で連載しています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
とっても短い婚約破棄
桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。
「そもそも婚約ってなんのこと?」
***タイトル通りとても短いです。
※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる