上 下
4 / 9

おまけ

しおりを挟む
 私のお母様はボニー・ゴンザレス女侯爵で、お父様は王弟であるガルシア・カステロ公爵と公にされたが、まだお二人は結婚されていない。

「私はあなたのお父様、ガルシア様のことが今でも好きですよ。実はね、私達はその昔、恋人同士で結婚を誓い合った仲だったの。でもガルシア様に隣国の王女殿下との婚約の話がもちあがってね。国同士の取り決めだから、私達は話し合って別れたわ。その後に妊娠がわかったのだけれど、愛する人の子供を身ごもれて嬉しかった。レティシアはとても大事な子よ。だから、娘のあなたが幸せになることが一番なの」
 お母様はガルシア様に正式に結婚を申し込まれたけれど、「嬉しいけれど、レティシアの気持ちを優先したいわ」とお答えになっていた。



 ガルシア様は三日ごとに、ゴンザレス侯爵家を訪れる。お母様にはお花、私には本やぬいぐるみ、異国の珍しいお菓子等をくださる。

「まぁ! ウサギのぬいぐるみなんて、もうレティシアは子供ではないのですよ」

「あぁ、わかっているよ。でも私は父親として、レティシアに何もしてあげられなかったからね。今更だけれど、父親らしいことを今からでもたくさんしてあげたいのさ」

 父親の愛を知らないで育った私は、とても戸惑った。ガルシア様は王族だし、私は孤児だと思って育ってきたからつい敬語になってしまう。

「ガルシア様。ぬいぐるみをくださり、ありがとうございます。とても可愛いです」
 ぎこちなく言う私に、にっこりと微笑みかけるその瞳は私と同じアメジストだ。二人で並ぶと確かによく似ていて、私はガルシア様の娘であることがよくわかる。

(なんだか不思議・・・・・・)


 まもなくガルシア様はゴンザレス侯爵家を訪れる際に、甥っ子のウィリアム殿下をお連れするようになった。ウィリアム殿下は第3王子だ。
 何度もお会いするようになって、その気さくな人柄と優しさに触れ、笑い合いながらおしゃべりするようになっていく。







 ある日のこと。
「今度の夜会はエスコートさせてもらえないかな?」
ウィリアム殿下が少しだけ顔を赤くしておっしゃった。

「はい、喜んで」
 私は白い結婚が認められており、今やお婿さん候補がたくさん屋敷を訪れるようになっていた。

「まぁ、それではドレスを・・・・・・」
 と、おっしゃるお母様の言葉を優しく否定するウィリアム殿下は、
「ドレスは私からプレゼントしますよ。僕の瞳の色と同じものをね。着てくれるよね?」
 とおっしゃった。

 ウィリアム殿下の瞳は鮮やかなブルー。私は、戸惑いながらも頷く。









 ウィリアム王子殿下にエスコートされてドキドキだったけれど、後ろにはお母様とガルシア様がいらっしゃるからとても心強かった。

 ウィリアム殿下の腕に抱かれて踊っている間中、ふわふわとした浮き立つ気持ちで、こんなに楽しい思いは初めての経験だった。

 お母様もガルシア様も、私達の踊る姿を嬉しそうに眺めていらっしゃる。幸せな穏やかな時間がゆっくりと過ぎていき、私のウィリアム殿下への思いは次第に募っていった。

(人を好きになるってこういうことなのね。嬉しくて楽しくて見るもの全てが輝いて見える・・・・・・もし、これを失うことを考えたら切なくて心が張り裂けそうだわ。・・・・・・かつてのお母様はとても悲しい思いをなさったに違いない・・・・・・だから、お母様にもこれからは、幸せになって欲しいわ・・・・・・)









 私がウィリアム殿下から正式にプロポーズをされた日、お母様もガルシア様もその場にいらした。ゴンザレス侯爵家のサロンは途端に、お祝いムードに満たされる。私が正式にゴンザレス侯爵家の跡取り娘になってから、もうすぐ1年が経とうとしていた頃である。

「良かったわねぇ、レティシア! 二人とも両思いなのは見ていてわかりますからね」

「あぁ、本当にめでたい! ウィリアム、レティシアを幸せにしてくれよ。なんと言っても私の愛娘だからな!」
 私を愛おしげに見つめるアメジストの瞳は、お母様が私を見つめる時と同じだ。たまらなく大事なものを見つめる眼差し、愛のたくさん詰まった優しい瞳だった。

 (今こそ、この言葉を言わなきゃ!)

「お父様、お母様とはいつ結婚なさるの? 私とウィリアム殿下の結婚式と一緒にできるといいのに・・・・・・」
 私の言葉に、お母様とガルシア様は驚きの声をあげる。

「お父様と呼んでくれて嬉しいよ。初対面の強引な印象は薄れたかな? あれはボニーに、酷く叱られたからね。『レティシアのことが一番なのよ! 私達のことは後回しだわ』ってね」
 ガルシア様はお母様を悪戯っぽく見てウィンクする。
 ガルシア様は陽気で普段から冗談も多くおっしゃる楽しい方だ。この屋敷はますます賑やかで、笑いが絶えない素敵な場所になるだろう。


「お母様達のことは後回し、なんておっしゃらないで! お母様も私も、お父様もウィリアム殿下も、皆で一緒に幸せになることが一番ですわ」
 私はウィリアム殿下に寄り添いながら、心の底からそう言った。

 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

横暴男爵の夫の浮気現場に遭遇したら子供が産めないダメ女呼ばわりされて離婚を言い渡されたので、王太子殿下の子供を産んでざまぁしてやりました

奏音 美都
恋愛
夫であるドレイク男爵のマコーレ様の浮気現場に遭遇した私は、謝罪どころか激昂され、離婚を言い渡されました。 自宅へと向かう帰路、私を攫ったのは……ずっと心の中でお慕いしていた王太子殿下でした。

【完結】偽物令嬢と呼ばれても私が本物ですからね!

kana
恋愛
母親を亡くし、大好きな父親は仕事で海外、優しい兄は留学。 そこへ父親の新しい妻だと名乗る女性が現れ、お父様の娘だと義妹を紹介された。 納得できないまま就寝したユティフローラが次に目を覚ました時には暗闇に閉じ込められていた。 助けて!誰か私を見つけて!

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

婚約破棄されたのは私ではなく……実は、あなたなのです。

当麻月菜
恋愛
アネッサ=モータリアはこの度、婚約者であるライオット=シネヴァから一方的に婚約を破棄されてしまった。 しかもその理由は、アネッサの大親友に心変わりをしてしまったというあり得ない理由で………。 婚約破棄をされたアネッサは、失意のどん底に突き落とされたまま、大親友の元へと向かう。 向かう理由は、『この泥棒猫』と罵るためか、『お願いだから身を引いて』と懇願する為なのか。 でも真相は、そのどれでもなく……ちょいとした理由がありました。 ※別タイトル(ほぼ同じ内容)で、他のサイトに重複投稿させていただいております。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。

長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。 *1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。 *不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。 *他サイトにも投稿していまし。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

遊び人の婚約者に愛想が尽きたので別れ話を切り出したら焦り始めました。

水垣するめ
恋愛
男爵令嬢のリーン・マルグルは男爵家の息子のクリス・シムズと婚約していた。 一年遅れて学園に入学すると、クリスは何人もの恋人を作って浮気していた。 すぐさまクリスの実家へ抗議の手紙を送ったが、全く相手にされなかった。 これに怒ったリーンは、婚約破棄をクリスへと切り出す。 最初は余裕だったクリスは、出した条件を聞くと突然慌てて始める……。

処理中です...