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おまけ
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私のお母様はボニー・ゴンザレス女侯爵で、お父様は王弟であるガルシア・カステロ公爵と公にされたが、まだお二人は結婚されていない。
「私はあなたのお父様、ガルシア様のことが今でも好きですよ。実はね、私達はその昔、恋人同士で結婚を誓い合った仲だったの。でもガルシア様に隣国の王女殿下との婚約の話がもちあがってね。国同士の取り決めだから、私達は話し合って別れたわ。その後に妊娠がわかったのだけれど、愛する人の子供を身ごもれて嬉しかった。レティシアはとても大事な子よ。だから、娘のあなたが幸せになることが一番なの」
お母様はガルシア様に正式に結婚を申し込まれたけれど、「嬉しいけれど、レティシアの気持ちを優先したいわ」とお答えになっていた。
ガルシア様は三日ごとに、ゴンザレス侯爵家を訪れる。お母様にはお花、私には本やぬいぐるみ、異国の珍しいお菓子等をくださる。
「まぁ! ウサギのぬいぐるみなんて、もうレティシアは子供ではないのですよ」
「あぁ、わかっているよ。でも私は父親として、レティシアに何もしてあげられなかったからね。今更だけれど、父親らしいことを今からでもたくさんしてあげたいのさ」
父親の愛を知らないで育った私は、とても戸惑った。ガルシア様は王族だし、私は孤児だと思って育ってきたからつい敬語になってしまう。
「ガルシア様。ぬいぐるみをくださり、ありがとうございます。とても可愛いです」
ぎこちなく言う私に、にっこりと微笑みかけるその瞳は私と同じアメジストだ。二人で並ぶと確かによく似ていて、私はガルシア様の娘であることがよくわかる。
(なんだか不思議・・・・・・)
まもなくガルシア様はゴンザレス侯爵家を訪れる際に、甥っ子のウィリアム殿下をお連れするようになった。ウィリアム殿下は第3王子だ。
何度もお会いするようになって、その気さくな人柄と優しさに触れ、笑い合いながらおしゃべりするようになっていく。
ある日のこと。
「今度の夜会はエスコートさせてもらえないかな?」
ウィリアム殿下が少しだけ顔を赤くしておっしゃった。
「はい、喜んで」
私は白い結婚が認められており、今やお婿さん候補がたくさん屋敷を訪れるようになっていた。
「まぁ、それではドレスを・・・・・・」
と、おっしゃるお母様の言葉を優しく否定するウィリアム殿下は、
「ドレスは私からプレゼントしますよ。僕の瞳の色と同じものをね。着てくれるよね?」
とおっしゃった。
ウィリアム殿下の瞳は鮮やかなブルー。私は、戸惑いながらも頷く。
ウィリアム王子殿下にエスコートされてドキドキだったけれど、後ろにはお母様とガルシア様がいらっしゃるからとても心強かった。
ウィリアム殿下の腕に抱かれて踊っている間中、ふわふわとした浮き立つ気持ちで、こんなに楽しい思いは初めての経験だった。
お母様もガルシア様も、私達の踊る姿を嬉しそうに眺めていらっしゃる。幸せな穏やかな時間がゆっくりと過ぎていき、私のウィリアム殿下への思いは次第に募っていった。
(人を好きになるってこういうことなのね。嬉しくて楽しくて見るもの全てが輝いて見える・・・・・・もし、これを失うことを考えたら切なくて心が張り裂けそうだわ。・・・・・・かつてのお母様はとても悲しい思いをなさったに違いない・・・・・・だから、お母様にもこれからは、幸せになって欲しいわ・・・・・・)
私がウィリアム殿下から正式にプロポーズをされた日、お母様もガルシア様もその場にいらした。ゴンザレス侯爵家のサロンは途端に、お祝いムードに満たされる。私が正式にゴンザレス侯爵家の跡取り娘になってから、もうすぐ1年が経とうとしていた頃である。
「良かったわねぇ、レティシア! 二人とも両思いなのは見ていてわかりますからね」
「あぁ、本当にめでたい! ウィリアム、レティシアを幸せにしてくれよ。なんと言っても私の愛娘だからな!」
私を愛おしげに見つめるアメジストの瞳は、お母様が私を見つめる時と同じだ。たまらなく大事なものを見つめる眼差し、愛のたくさん詰まった優しい瞳だった。
(今こそ、この言葉を言わなきゃ!)
「お父様、お母様とはいつ結婚なさるの? 私とウィリアム殿下の結婚式と一緒にできるといいのに・・・・・・」
私の言葉に、お母様とガルシア様は驚きの声をあげる。
「お父様と呼んでくれて嬉しいよ。初対面の強引な印象は薄れたかな? あれはボニーに、酷く叱られたからね。『レティシアのことが一番なのよ! 私達のことは後回しだわ』ってね」
ガルシア様はお母様を悪戯っぽく見てウィンクする。
ガルシア様は陽気で普段から冗談も多くおっしゃる楽しい方だ。この屋敷はますます賑やかで、笑いが絶えない素敵な場所になるだろう。
「お母様達のことは後回し、なんておっしゃらないで! お母様も私も、お父様もウィリアム殿下も、皆で一緒に幸せになることが一番ですわ」
私はウィリアム殿下に寄り添いながら、心の底からそう言った。
完
「私はあなたのお父様、ガルシア様のことが今でも好きですよ。実はね、私達はその昔、恋人同士で結婚を誓い合った仲だったの。でもガルシア様に隣国の王女殿下との婚約の話がもちあがってね。国同士の取り決めだから、私達は話し合って別れたわ。その後に妊娠がわかったのだけれど、愛する人の子供を身ごもれて嬉しかった。レティシアはとても大事な子よ。だから、娘のあなたが幸せになることが一番なの」
お母様はガルシア様に正式に結婚を申し込まれたけれど、「嬉しいけれど、レティシアの気持ちを優先したいわ」とお答えになっていた。
ガルシア様は三日ごとに、ゴンザレス侯爵家を訪れる。お母様にはお花、私には本やぬいぐるみ、異国の珍しいお菓子等をくださる。
「まぁ! ウサギのぬいぐるみなんて、もうレティシアは子供ではないのですよ」
「あぁ、わかっているよ。でも私は父親として、レティシアに何もしてあげられなかったからね。今更だけれど、父親らしいことを今からでもたくさんしてあげたいのさ」
父親の愛を知らないで育った私は、とても戸惑った。ガルシア様は王族だし、私は孤児だと思って育ってきたからつい敬語になってしまう。
「ガルシア様。ぬいぐるみをくださり、ありがとうございます。とても可愛いです」
ぎこちなく言う私に、にっこりと微笑みかけるその瞳は私と同じアメジストだ。二人で並ぶと確かによく似ていて、私はガルシア様の娘であることがよくわかる。
(なんだか不思議・・・・・・)
まもなくガルシア様はゴンザレス侯爵家を訪れる際に、甥っ子のウィリアム殿下をお連れするようになった。ウィリアム殿下は第3王子だ。
何度もお会いするようになって、その気さくな人柄と優しさに触れ、笑い合いながらおしゃべりするようになっていく。
ある日のこと。
「今度の夜会はエスコートさせてもらえないかな?」
ウィリアム殿下が少しだけ顔を赤くしておっしゃった。
「はい、喜んで」
私は白い結婚が認められており、今やお婿さん候補がたくさん屋敷を訪れるようになっていた。
「まぁ、それではドレスを・・・・・・」
と、おっしゃるお母様の言葉を優しく否定するウィリアム殿下は、
「ドレスは私からプレゼントしますよ。僕の瞳の色と同じものをね。着てくれるよね?」
とおっしゃった。
ウィリアム殿下の瞳は鮮やかなブルー。私は、戸惑いながらも頷く。
ウィリアム王子殿下にエスコートされてドキドキだったけれど、後ろにはお母様とガルシア様がいらっしゃるからとても心強かった。
ウィリアム殿下の腕に抱かれて踊っている間中、ふわふわとした浮き立つ気持ちで、こんなに楽しい思いは初めての経験だった。
お母様もガルシア様も、私達の踊る姿を嬉しそうに眺めていらっしゃる。幸せな穏やかな時間がゆっくりと過ぎていき、私のウィリアム殿下への思いは次第に募っていった。
(人を好きになるってこういうことなのね。嬉しくて楽しくて見るもの全てが輝いて見える・・・・・・もし、これを失うことを考えたら切なくて心が張り裂けそうだわ。・・・・・・かつてのお母様はとても悲しい思いをなさったに違いない・・・・・・だから、お母様にもこれからは、幸せになって欲しいわ・・・・・・)
私がウィリアム殿下から正式にプロポーズをされた日、お母様もガルシア様もその場にいらした。ゴンザレス侯爵家のサロンは途端に、お祝いムードに満たされる。私が正式にゴンザレス侯爵家の跡取り娘になってから、もうすぐ1年が経とうとしていた頃である。
「良かったわねぇ、レティシア! 二人とも両思いなのは見ていてわかりますからね」
「あぁ、本当にめでたい! ウィリアム、レティシアを幸せにしてくれよ。なんと言っても私の愛娘だからな!」
私を愛おしげに見つめるアメジストの瞳は、お母様が私を見つめる時と同じだ。たまらなく大事なものを見つめる眼差し、愛のたくさん詰まった優しい瞳だった。
(今こそ、この言葉を言わなきゃ!)
「お父様、お母様とはいつ結婚なさるの? 私とウィリアム殿下の結婚式と一緒にできるといいのに・・・・・・」
私の言葉に、お母様とガルシア様は驚きの声をあげる。
「お父様と呼んでくれて嬉しいよ。初対面の強引な印象は薄れたかな? あれはボニーに、酷く叱られたからね。『レティシアのことが一番なのよ! 私達のことは後回しだわ』ってね」
ガルシア様はお母様を悪戯っぽく見てウィンクする。
ガルシア様は陽気で普段から冗談も多くおっしゃる楽しい方だ。この屋敷はますます賑やかで、笑いが絶えない素敵な場所になるだろう。
「お母様達のことは後回し、なんておっしゃらないで! お母様も私も、お父様もウィリアム殿下も、皆で一緒に幸せになることが一番ですわ」
私はウィリアム殿下に寄り添いながら、心の底からそう言った。
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