上 下
20 / 22

20 カーク・キナンは……(カーク視点)

しおりを挟む
 エイヴリーの代わりにヴァネッサが跡継ぎ娘になると言われた時は、正直不思議な気はしたけれど深くは考えなかった。私はエイヴリーの婚約者というより、オマリ伯爵家の跡継ぎ娘の婚約者なのでどの娘が継ごうとも変わらない。

 それより問題なのはオマリ伯爵家の跡を継ぐ者の資質だと思う。領民を労る優しい心がなければいけないはずだ。
その点エイヴリーは落第点だと断言できたのだ。なぜなら、 エイヴリーがヴァネッサやその母親を蔑むとも聞いており、それは本当かと尋ねたらあっさり認めたからだ。

 私は兄上のように優秀ではないが人の心は大事にしたいと思っている。だからエイヴリーのように弱い者虐めをする人間は大嫌いだ。だから、エイヴリーに当然の意見をしたし、彼女を悪だと決めつけた。

 今になって考えると、不審な点はいくつもあったのに見て見ぬふりをして過ごしているうちに、エイヴリーが忽然と消えヴァネッサがエイヴリーと名乗りだした。流石に私はオクタビア様に尋ねたよ。

「エイヴリーはどこに行ったのですか?」

「あぁ、好きな男ができたとかで家出してしまったよ。だから、ヴァネッサをエイヴリーにする」

 愚かなエイヴリーならしそうなことだよ。それから兄上から連絡があり、今までのことを説明したら凄まじい勢いでなじられた。

「お前はバカか? エイヴリーはアーソリン女伯爵の娘だ。ということは、エイヴリーしか伯爵家は継げない! 婿が浮気して作った子供など一滴たりともオマリ伯爵家の血を継いでないではないか! なぜ、それを鵜呑みにしたのだ? 愚か者が! ヴァネッサ側について、エイヴリーをなじるとは! お前はいったいなにを勉強してきたのだ?」

「は? お言葉ですが勉強は兄上には遠く及びませんが人の心は持っているつもりです。エイヴリーはヴァネッサをいつも虐めて平民だったことをバカにしていたと聞いています。こんなのが女伯爵になったら領民が可哀想だと思ったのです」

「人の心? お前からその言葉を聞くとは! 幼い頃より婚約者だったエイヴリーに情けもかけず、ヴァネッサ側の言葉だけを信じたお前が……」

「エイヴリーにも尋ねましたが、あいつはすべてを肯定していた。私になにができたと言うんですか? 私はキナン伯爵家の次男でしかない。兄上と違って私には婿養子になるしか貴族でいられる方法はないんだ!」

 兄上は生まれた時からキナン伯爵家を継ぐことが決まっていたし、国王陛下から目をかけられている秀才だ。あの場にもし兄上がいたのなら、即座にエイヴリーを庇うこともオクタビア様と対峙することもできるだろう。だけど、私にそんなことができるわけないだろう!

「お前はもうオマリ伯爵家の跡継ぎ娘の婚約者ではない。エイヴリーは、私の婚約者になる」

「え? 伯爵同士で結婚してもよいのですか? エイヴリーは女伯爵になるのですよね? だったら今まで通り私の婚約者ですよね! これは幼い頃から決まっていたことだ!」

 私が疑問をぶつけても兄上は国王陛下の許可がおりたので問題ない、と冷たく言うばかりだった。

「そ、そんな……私はどこに婿入りすればよいのですか? 今から婿養子にしてくれる貴族なんて見つからないです……」

 どこかの貴族に婿入りできなければ、私は平民になってしまう。

「そんなことは知らん。自分でせっせと夜会にでも出て養子に迎えてくれるご令嬢を探すのだな」



☆彡★彡☆彡



 オマリ家での『乗っ取り事件』は詳細に内容を貴族達に伝えられ、あの3人の末路も公表された。3人とも毒を押し付け合い、争い、いがみ合いながら、毒死したとのことだった。
 毒の成分と効き目まで公表され、今後このような『乗っ取り事件』が起きた際には犯人の家族達で連帯責任とするとの御触れもだされた。

 私は、必死で夜会や舞踏会に顔をだし跡継ぎ娘のご令嬢に近づくも、少しも相手にされずに『勘違いの無能男』と呼ばれているようだ。

「あのオマリ家の事件で婚約者のカーク様は、少しもエイヴリー様を庇わなかったのでしょう?」

「えぇ、聞きましたわ。ヴァネッサの肩を持ち正当な跡継ぎのエイヴリー様に居候と罵ったとか……そんな男を婿養子になどできませんわ! 貴族の常識もないなんて!」

 公表された事実や噂話が広まりすぎて誰も婚約などしてくれなかった。兄上に泣きついても『愚か者はいらない』と言われ……

 どこにも行くところがなくなって……途方に暮れていると30歳も年上の某女男爵未亡人が結婚してもいいわよ、と言ってくれた。

 そして……私の名前はなくなった……

 『ペット君』と呼ばれ社交界でもそのあだ名が広まると、恥ずかしくて外にも出かけられなくなった。なんでこうなったのかな……こんなはずじゃなかったのに…… 
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されてすぐに新しい婚約者ができたけど、元婚約者が反対してきます

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私ミレッサは、婚約者のウルクに罪を捏造されて婚約破棄を言い渡されてしまう。    私が無実だと友人のカインがその場で説明して――カインが私の新しい婚約者になっていた。  すぐに新しい婚約者ができたけど、元婚約者ウルクは反対してくる。  元婚約者が何を言っても、私には何も関係がなかった。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。

夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、 自分の姿をガラスに写しながら静かに 父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。 リリアーヌ・プルメリア。 雪のように白くきめ細かい肌に 紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、 ペリドットのような美しい瞳を持つ 公爵家の長女である。 この物語は 望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と 長女による生死をかけた大逆転劇である。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。 ⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず
恋愛
 ※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。  幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。  ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。  この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。  貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。  だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

【完結】口は災いの元って本当だわ

kana
恋愛
ずっと、ずっと後悔してる。 初めて一目惚れをして気持ちがたかぶってたのもある。 まさか、聞かれてたなんて・・・

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

処理中です...