上 下
16 / 22

16  夜会で子豚は木に登る(ヴァネッサ視点)

しおりを挟む
 あの醜いお爺さんに会ってから、私には良いことばかり続く。公爵家などの上位貴族の令嬢たちから、お茶会に誘われるようになったのだ。

 お茶会では皆が私の容姿の可愛さとともに、絵の才能をたっぷりと褒めてくれた。

「国王陛下はエイヴリー様の描いた絵を王宮に飾りたいとおっしゃっているそうですわ。素晴らしい絵ですもの、当然ですわね? やはり、宮廷お抱えの画家様におなりになるのでしょう?」

「エイヴリー様のお母様は女伯爵でいらして領地の経営もしっかりなさる才女、加えて色を操る天才とたたえられる画家様でいらしたでしょう? あのペガサスの写実的な絵は生きているみたいで、お母様の得意分野ですものね?   やはり絵の才能は遺伝しますのね」

「私達の肖像画をお願いしたいわぁ」

 公爵・侯爵令嬢の名門貴族で上品な令嬢達が、私を憧れの眼差しで見つめてくるなんて夢みたいだ!

「今から、サインをもらっておきたいわぁーー」

「うん、そうよね! 世界的に有名になりすぎたら、そうそうサインもいただけないわ」

 その令嬢達が色紙を差し出し、簡単なデッサンもお願いしてくるので、薔薇の花を一輪描いてみた。

 それはお世辞にも上手とは言えない薔薇の花なのだが、彼女達はとんでもなく喜んでくれた。

「この微妙な線のタッチ! さすがですわ。少し、抽象絵画的にもなってますのね?」

「うーーん! 素晴らしい芸術ですわぁ。私達のような凡人にはわかりかねますが、これは心の葛藤を描いているのでしょう? この正体のよくわからないクチャっとした物体のなかに・・・・・・」

 クチャっとした物体?・・・・・・それは薔薇の花なんだけど・・・・・・

「やはり天才とは、このようなものをさっとお書きになれるものなのですね?」

「え? えぇ、まぁ、そういうことですわ! 私は、そう、天才だと思いますわ」

 そうよ、これだけ皆が褒めてくれるのだから私は天才よ! ただ、抽象画のつもりじゃないけど・・・・・・まぁ、いいわよね・・・・・・きっと私の溢れる才能が暴走してしまうのだわ。

 

☆彡★彡☆彡



 どこに行っても絵画の天才と言われて、夜会でも高位貴族のウィリー様から好意をもたれてお付き合いするようになった。アドニス公爵家の三男のウィリー様は、緑の髪と瞳の美しい男性で優しい方だ。

 このように、王家主催の夜会までは私は天国にいたのだった。

 その夜会に私はウィリー様のエスコートのもと参加した。まさに全てを手に入れたかのような気分は、さらに驚きのお言葉をいただき絶頂の瞬間を迎えた。

「エイヴリーの絵の才能は神が与えたものである。エイヴリーを女伯爵として認めると共に、栄誉ある宮廷画家とする」

 皆が私に祝福の言葉を投げかける。私の両親も満面の笑みで、目にはうっすらと喜びの涙を浮かべていた。

「今日はとっても、おめでたい日ですわね! せっかくですから、ここにある果物を写生してくださらない? 私の姪もちょうどおりますから・・・・・・競い合ってごらんなさい」

 予想外のことが起こった! こんな夜会の席で王妃様が素晴らしい微笑を向けて、私に提案してきたのだ。

 写生・・・・・・なんでそんなことさせるのか、一瞬たじろいだ私だが、私は才能があるから大丈夫よね・・・・・・

 こんな林檎やバナナなんて簡単よ・・・・・・競い合うですって? 笑わせないでよ! 私の絵の方が優秀なのに決まっているのに・・・・・・

「やめた方がよくないですか? 王妃様の姪様が恥をかくことになったら申し訳ないです!」

 日頃から、思ったことはすぐに口にしてしまう私なのだった。 
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

window
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

継母に惚れた夫と離婚したのだが、その後復縁したいという申し出があった。無理です!

ほったげな
恋愛
継母は私をいじめていた。そんな継母に惚れたという夫から、離婚の申し出があって離婚することにした。しかし、その後、復縁したいと言ってきた!それは無理です!

処理中です...