上 下
10 / 22

10 断罪のはじまりー2(エイヴリー視点)ー(ちょっと安心したエイヴリーちゃん)

しおりを挟む
 私は信じられない思いでその男性の手を取りました。ずっと恋い焦がれていた方のお顔は忘れるはずはありません。もちろん、私はカーク様の婚約者ではありましたが、この辛い時期に思い出すのはクラーク様しかおりませんでした。

 私の手をそっと取ったクラーク様は私に小さな声でささやきました。

「私が来たからには、エイヴリーは安心していい」

 この声をどれだけ私は聞きたかったことでしょう。この顔をどれだけ夢にみたことか・・・・・・会わないでいる間にすっかりおとなびた様子になっているクラーク様の手をギュッと握りしめて、私は後について歩きます。

「さぁ、馬車に乗って王宮に行こう」

「・・・・・・」

「どうした? エイヴリー?」

 クラーク様は、その声にうなづくだけで、ひと言も発しない私に首を傾げました。

「エイヴリー様は絵画を盗まれたショックで声をなくしましたっ! ったく、遅いんですよ」

 ラベンダーさんが舌打ちしながらクラーク様を責めています。私はクラーク様の前に立ってラベンダーさんに首を振ります。

 こうして会えただけでも嬉しくて、助けに来てくれただけでも幸せに感じました。私にとっては決して遅くはありません。私はクラーク様の手をずっと握りしめておりました。これが夢でどこかに行ってしまったら困ります。

 クラーク様は、私の髪をそっと撫でると抱きかかえて馬車に乗ります。その間も、私は決して手は離しません。これを離したらこの方は消えてしまう・・・・・・

「大丈夫だよ・・・・・・ずっとエイヴリーの側にいるから」

 そう何度も言われましたが、それでも不安な私はクラーク様にしがみついています。我ながら情けないとは思いましたが、今まで悲しかったぶんこのぬくもりを手放したくないのです。

「あら、あら。まぁ、いいではありませんか。どうせお二人は結婚なさるのですし、このぶんだと早速私は赤ちゃんのお世話に明け暮れそうですねぇ。うん、子供は大好きですからね。何人でも任せてください」

 ラベンダーさんの言葉に全てがわかりました。これは、クラーク様の用意してくださった復讐劇なのだと。

「落ち着いたら声も絶対戻ってくるから心配しなくていい。大丈夫だ。私がついているから」

 優しく囁かれて抱きかかえていただくと、切り傷だらけの心がどんどん修復されていくのがわかりました。すこしづつ、温かい感情が戻ってきて大きな傷も小さな傷も塞がれていく感覚を、私は大好きな男性の膝のうえで味わっていました。




▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃

字数が少ないので、もう1話、今日中に投稿します。

しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

window
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

継母に惚れた夫と離婚したのだが、その後復縁したいという申し出があった。無理です!

ほったげな
恋愛
継母は私をいじめていた。そんな継母に惚れたという夫から、離婚の申し出があって離婚することにした。しかし、その後、復縁したいと言ってきた!それは無理です!

私の婚約者はお姉さまが好きなようです~私は国王陛下に愛でられました~

安奈
恋愛
「マリア、私との婚約はなかったことにしてくれ。私はお前の姉のユリカと婚約したのでな」 「マリア、そういうことだから。ごめんなさいね」 伯爵令嬢マリア・テオドアは婚約者のカンザス、姉のユリカの両方に裏切られた。突然の婚約破棄も含めて彼女は泣き崩れる。今後、屋敷でどんな顔をすればいいのかわからない……。 そこへ現れたのはなんと、王国の最高権力者であるヨハン・クラウド国王陛下であった。彼の救済を受け、マリアは元気づけられていく。そして、側室という話も出て来て……どうやらマリアの人生は幸せな方向へと進みそうだ。

処理中です...