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8 クラーク・キナン伯爵、乗り込む

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ーー★クラーク視点★ーー


 伝書鳩がラベンダーからの罵詈雑言がたくさん詰まった密書を届けてきた。

 

 早くよぼよぼのじぃ様の扮装をして帰国しなよ
 遅いったらありゃしないよっ!
 母親を亡くしたばかりで誰も頼れる人間がいないお嬢ちゃんの気持ちを考えたことがあるかい?
 オクタビアはお嬢ちゃんをじじぃに嫁がせて、爵位を愛人の娘に継がせようとしているよ
 三ヶ月も待っていたらお嬢ちゃんの心が死んでしまうよ
 

 まだまだ続く文句の手紙に思わず苦笑するが、もっともな意見に急いで帰国の準備をした。王家に寄ってからオマリ家に乗り込むことにした私は翌日の朝早く祖国へと馬車を走らせた。国王陛下には、密書を送りオマリ家の不審な様子を報告していたのだ。

 
☆彡★彡☆彡


 夕方には、王宮に着き国王陛下に謁見できた。

「国王陛下に拝謁いたします。栄光あるキルステン王国に・・・・・・・・」

「挨拶など省いてよいぞ! 遅かったなぁ。クラークよ! そろそろオマリ伯爵家に乗り込む時期だと思っていたよ。つい先週に奇妙なことがあってなぁーー。アーソリンに似ても似つかない娘が絵画コンクールで最優秀賞をとり芸術学園への留学を断った。こんなおもしろい話があるか?」

「・・・・・・それは、多分・・・・・・」

「そう、多分・・・・・・だ。執事のエマーソンが文官にずっと相談していたという報告書も読んだが、間違いないな。オマリ伯爵家乗っ取りだ!」

 国王陛下は怒気を含んだ声で、苦々しく顔を歪めた。

「そればかりではないようです。人身売買も追加ですね。オクタビアはエイヴリーを老人の金持ちに嫁がせようと結婚斡旋所に複数登録していました。しかも、嫁がせる娘の名前はヴァネッサになっている。金もその際に要求してくるはずです」

「伯爵令嬢の人生をまるごと奪うということか? これは、捨ておけんな。老人の話だが・・・・・・」

「え? 国王陛下が老人に扮するのですか?」

 私は悪戯っぽい笑顔を浮かべる国王陛下に呆れ顔をした。

「最近、お家の乗っ取り事件が多発しておる! 儂が直々に介入して、厳しく断罪することにより見せしめにもなろう。段階的に追い詰めて、せいぜい喜ばせてからの転落劇など最適ではないか? 少し、待て。すぐに老人に化けよう」

「あら、楽しそうですわ。それでは、私は侍女にでも化けましょう」
 王妃様までが興味津々でおっしゃり、王太后様はきっぱりと宣言した。

「私も行きますよ。アーソリン女伯爵の絵を、私はとても愛していました。他人の作品を盗むなど、それだけで万死に値します。王族を欺いたのですよ? アーソリンの娘の仇は私がうちましょう」

 王太后様まで、お出ましになるのなら、裁きは極刑以外あり得ないだろうな・・・・・・邪悪で残念な者どもめ・・・・・・地獄への招待状が出されたようだ。



☆彡★彡☆彡(第三者視点)


 王家の紋章を取り除いた豪奢な馬車が8台連ね、護衛騎士がその周りをびっしり守っている。その一行が通り過ぎる様子に民衆は目を見張り、貴族達は大きな事件が起きたのだと推測した。

 大きな事件、おそらくはめでたいことではなく・・・・・・

 その頃、オマリ伯爵家では声がでなくなったエイヴリーをラベンダーが慰め気を揉みながら、キナン伯爵の到着が遅いことを呪っていた。

 オクタビアと継母はエイヴリーがショックで声がでないことを喜んでいた。

「ちょうどいいじゃないか。これで、安心して嫁がせられるよ」

「話せなければ、自分がエイヴリーとも名乗れないしねぇーー。天はあたしたちに味方した。あっははは」

 継母は笑い、ヴァネッサは鼻歌をくちずさむ。

「これで、あたしが完璧にエイヴリーよね?」



「恐ろしく豪奢な馬車8台を連ねて、ラベンダーの雇い主だと名乗る老人と侍女やお付きの者達が到着しました」

 オマリ伯爵家の侍従が来客の到着を告げた。

 大富豪と思われる老人が多くの従者を従えて続々と入って来る様子を見て、オクタビアは腰を抜かしそうになったのだった。

 一方、継母は『大金が手に入りそうだ』と舌なめずりしながらそれを眺めていた。
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