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2 不協和音のはじまり? (アイラ視点)

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 夫の家族達が旅行に行く前日は、

『あれがない、これがない』

と、エスメラルダ様とウェンディが、騒ぎ立てて大変でした。

「私の帽子と日傘がないわ! あのお気に入りのじゃなければダメなのに……アイラは捜し物が得意だから探してちょうだい!」

 エスメラルダ様が私に言いつけると、ウェンディも同じように『腕時計がないわ!』と叫びだします。

 私と侍女達で散々探し回ったあげくそれをようやくみつけると、

『やっぱり、別のものにする』

と、言い出す二人に侍女達は皆、渋い顔をしていました。そんなことの繰り返しで、皆さんが揃って馬車に乗り込み出発した時には、私と侍女達は心からホッとしたものです。

 翌朝、私はマルタンの飲み水を替え、ドッグフードをあげると外に連れ出します。ヴィセンテ男爵家の敷地のなかで遊ばせて、ブラッシングをし朝のお世話は完了です。マルタンは白毛のロングコートチワワで、大きな目が愛らしいです。

 マルタンはウェンディがエスメラルダ様にねだって買ってもらった犬だそうですが、気が向いたときに頭を撫でるだけでお世話は私が任されました。

「アイラにこのマルタンをあげるわ! 結婚祝いよぉ。だから、お世話はアイラが全部してね。たまに、私に貸してくれればいいからぁーー」

 そう言いながらマルタンを渡されて、ウェンディは都合の良いときだけ可愛がるのです。それでも、私は犬が好きなので喜んでお世話をしています。


 さてと、そろそろ出勤の時間ですわ。馬車で10分ほどのところにヴィセンテ家具屋があります。そこに着くと、早速、朝礼がはじまります。

「本日から3日間、社長のオーランド様と副社長のエスメラルダ様、専務のイアン様はいません。ですからなにかあったら、全て私に報告してくださいね」

 私の言葉に従業員は『それって、いつもと変りませんよね?』と苦笑しました。

 確かに、なにか問題が起きると必ず私が対処させられ、そこは社長がやるべきなのでは? と思われることさえ、やらされていた私なのでした。

「かえって、あの人達がいないほうがよっぽど仕事がはかどりますよ」

 従業員の女性達は上機嫌で仕事に取りかかったのでした。従業員同士の仲は良く、職場の雰囲気はとても和やかでした。

 この和やかさがまさか崩されるとは、その時の私は思いもしなかったのです。


☆彡★彡☆彡



 その三日後に、旅行から戻ったオーランド様が

「カーラが、今日からここで働くことになった。よろしくな!」

と言い出すまでは、この職場は明るく平和でした。


「わたしぃ、ほんとはで働かなくてもいいお嬢様ですけれどぉ、来ましたぁー」

 語尾をのばす甘ったるい口調で、香水をプンプンさせてやって来たカーラ様の自己紹介に従業員の女性達は、早速ぶつぶつと不満を言い出したのでした。
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