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オリバーの帰還
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♦♢ビクトリアside
「オリバー様! お帰りなさいませ」
満面の笑みで出迎えたビクトリアは、安堵の表情を浮かべるオリバーに歩み寄り、その手をしっかりと握りしめた。
「ご無事で本当に良かった。どれほど心配したか……」
「大丈夫ですよ。アレクサンダー皇帝陛下が優秀な部下をお貸しくださったおかげで、無事に帰ることができました」
「彼らが今回の事件の元凶ですか? お兄様が謁見の間で、その者たちに会うとおっしゃっていましたわ。それにしても皇家の精鋭部隊の皆様も、本当にご苦労様でした。オリバー様をお守りいただき、ありがとうございます」
皇女殿下の感謝の言葉に、皇家の精鋭部隊の者たちは深く感動していた。彼らの後ろには、スペイニ国王に囚われていたという女たちが不安げな様子で立っていた。事情を聞いたビクトリアは、思わず涙を流した。
フリートウッド王国で自分が辛い思いをしてきたと感じていたことが、ビクトリアには恥ずかしく思えた。その女たちやスペイニ国の民たちは、遥かに過酷で悲惨な運命を強いられてきたのだ。
「さぁ、こちらにいらっしゃい。辛い経験をしたことでしょう。でも、もう大丈夫。これからは私があなたたちを守るわ。ローマムア帝国はあなたたちを歓迎します」
ビクトリアが優しく声をかけると、女性たちは感極まってビクトリアの前にひざまずき、涙を流した。
その中にラクエルの姿を見つけたマドリンは、ビクトリアの後ろから駆け寄り、ラクエルの腕に飛び込んだ。初めこそ衰弱していたラクエルだったが、移動中は快適な馬車で適切な治療を受け、栄養のある食事も与えられたことで、体力を取り戻していた。
「マドリン! 生きていてくれたのね。元気そうで安心したわ」
「うん……でも私、ひどい誤解をしていたの。実は皇女様に毒をかけるお手伝いをしてしまったの……姉さんを連れ去ったのはローマムア帝国の騎士だと信じてたから……」
「違うわ。私を攫ったのはスペイニ国王の部下だったの。城の地下に閉じ込められていたのよ。でも、どうして皇女様に毒を?」
「スペイニ国の人たちが、アレクサンダー皇帝が皇女様を宝物のように大切にしているから、皇女様を失えば自分たちの苦しみを知るだろうって……私たちはアレクサンダー皇帝が悪人だと信じていたから」
「……なんてことを。皇女様、どうかマドリンの罪を私に背負わせてください。この子はまだ幼く、十分な教育も受けておりません。人の言葉をそのまま信じただけなのです。許していただけるとは思っておりません。ただ、この子の代わりに罰をお受けいたします」
「お兄様は私が無事であっても、犯罪に加担した者を許すべきではないとおっしゃっています。でも、私はマドリンを許します。スペイニ国の民たちは、みんな被害者ですもの」
「だったら、余たちのことも許してくれるよう、アレクサンダーに頼んでくれんか? ぐへっ……」
「皇女殿下に無礼を働くな! お前のような腐れ外道が話しかけていいお方ではない!」
皇家の精鋭部隊の一人が、スペイニ国王の横腹に容赦なく拳を叩きつけた。スペイニ国王は痛みに顔を歪めながらも、卑しい笑みを浮かべて、ビクトリアに視線を向けた。
「美しい……さすが皇女様だ。夢の中だけでも、あんたを……」
その下卑た言葉に、ビクトリアは思わず後ずさった。アレクサンダーが急いで駆けつけ、よろめくビクトリアをしっかりと支えた。
「まったく、愚かで低俗で、恥知らずな王だな。ビクトリアは皇女宮に戻っていなさい。こんな者どもの不快な話を耳にする必要などない」
♦♢アレクサンダーside
アレクサンダーは謁見の間で、オリバーや皇家の精鋭部隊たちからスペイニ国王の今までの悪行の報告を受けていた。皇女に関する会話に及ぶと、アレクサンダーは固く握りしめた拳をワナワナと震わせた。
――私の妹を拉致しようとしただと? 奴隷にして自分のものにする、などと言い放っただと? 許さん! 断じて、許さん。我が国の騎士を騙り自国の民たちを迫害したことの罪も重いが、さきほどの『夢のなかだけでもあんたを……』の発言も呆れるばかりだ。
「お前たちは迷うことなく極刑だ。清々しいほどの悪人だからな。刑を行う場はローマムア帝国のコロッセウムとする。猛獣との戦いは見世物としても人気があるのだよ。スペイニ国の民も招待しよう。お前らの最期をみな楽しみにしているだろうからな」
「猛獣と戦う? 嘘だろう? 余は人と剣を交えたこともないんだぞ。無理だ、とても戦えない」
「ふむ、可哀想になぁーー。ローマムア帝国の騎士団でしばらくしごかれろ。少しはライオン相手に戦えるかもしれないぞ」
スペイニ国王はへなへなと床に座り込んだ。
「頼むから斬首台や毒杯にしてくれ! ライオンと戦うなんて……無理だ」
「戦うのはライオンだけじゃないぞ。熊とトラ、最近ではカンガルーだな。あぁ、そうしよう。カンガルーは後ろ足を使ったキックが最大の武器なのだよ。まずはカンガルーから散々蹴られた後、ライオンと熊に可愛がってもらえ!」
「嘘だろう? カンガルー、ライオン、熊? 私をエサにするのか?」
スペイニ国王は絶望した。死を願うほどの罰、とはこのことだったのか? 猛獣に骨を砕かれる音をみずから聞きながら絶命する……
「まさか。カンガルーやライオンたちはとてもグルメさ。お前のような汚物は食べない。まぁ、じゃれて遊ぶというかんじかな。最期に動物と戯れることができるんだ。私に感謝しろよ」
アレクサンダーはにっこりと笑いかけたのだった。
「オリバー様! お帰りなさいませ」
満面の笑みで出迎えたビクトリアは、安堵の表情を浮かべるオリバーに歩み寄り、その手をしっかりと握りしめた。
「ご無事で本当に良かった。どれほど心配したか……」
「大丈夫ですよ。アレクサンダー皇帝陛下が優秀な部下をお貸しくださったおかげで、無事に帰ることができました」
「彼らが今回の事件の元凶ですか? お兄様が謁見の間で、その者たちに会うとおっしゃっていましたわ。それにしても皇家の精鋭部隊の皆様も、本当にご苦労様でした。オリバー様をお守りいただき、ありがとうございます」
皇女殿下の感謝の言葉に、皇家の精鋭部隊の者たちは深く感動していた。彼らの後ろには、スペイニ国王に囚われていたという女たちが不安げな様子で立っていた。事情を聞いたビクトリアは、思わず涙を流した。
フリートウッド王国で自分が辛い思いをしてきたと感じていたことが、ビクトリアには恥ずかしく思えた。その女たちやスペイニ国の民たちは、遥かに過酷で悲惨な運命を強いられてきたのだ。
「さぁ、こちらにいらっしゃい。辛い経験をしたことでしょう。でも、もう大丈夫。これからは私があなたたちを守るわ。ローマムア帝国はあなたたちを歓迎します」
ビクトリアが優しく声をかけると、女性たちは感極まってビクトリアの前にひざまずき、涙を流した。
その中にラクエルの姿を見つけたマドリンは、ビクトリアの後ろから駆け寄り、ラクエルの腕に飛び込んだ。初めこそ衰弱していたラクエルだったが、移動中は快適な馬車で適切な治療を受け、栄養のある食事も与えられたことで、体力を取り戻していた。
「マドリン! 生きていてくれたのね。元気そうで安心したわ」
「うん……でも私、ひどい誤解をしていたの。実は皇女様に毒をかけるお手伝いをしてしまったの……姉さんを連れ去ったのはローマムア帝国の騎士だと信じてたから……」
「違うわ。私を攫ったのはスペイニ国王の部下だったの。城の地下に閉じ込められていたのよ。でも、どうして皇女様に毒を?」
「スペイニ国の人たちが、アレクサンダー皇帝が皇女様を宝物のように大切にしているから、皇女様を失えば自分たちの苦しみを知るだろうって……私たちはアレクサンダー皇帝が悪人だと信じていたから」
「……なんてことを。皇女様、どうかマドリンの罪を私に背負わせてください。この子はまだ幼く、十分な教育も受けておりません。人の言葉をそのまま信じただけなのです。許していただけるとは思っておりません。ただ、この子の代わりに罰をお受けいたします」
「お兄様は私が無事であっても、犯罪に加担した者を許すべきではないとおっしゃっています。でも、私はマドリンを許します。スペイニ国の民たちは、みんな被害者ですもの」
「だったら、余たちのことも許してくれるよう、アレクサンダーに頼んでくれんか? ぐへっ……」
「皇女殿下に無礼を働くな! お前のような腐れ外道が話しかけていいお方ではない!」
皇家の精鋭部隊の一人が、スペイニ国王の横腹に容赦なく拳を叩きつけた。スペイニ国王は痛みに顔を歪めながらも、卑しい笑みを浮かべて、ビクトリアに視線を向けた。
「美しい……さすが皇女様だ。夢の中だけでも、あんたを……」
その下卑た言葉に、ビクトリアは思わず後ずさった。アレクサンダーが急いで駆けつけ、よろめくビクトリアをしっかりと支えた。
「まったく、愚かで低俗で、恥知らずな王だな。ビクトリアは皇女宮に戻っていなさい。こんな者どもの不快な話を耳にする必要などない」
♦♢アレクサンダーside
アレクサンダーは謁見の間で、オリバーや皇家の精鋭部隊たちからスペイニ国王の今までの悪行の報告を受けていた。皇女に関する会話に及ぶと、アレクサンダーは固く握りしめた拳をワナワナと震わせた。
――私の妹を拉致しようとしただと? 奴隷にして自分のものにする、などと言い放っただと? 許さん! 断じて、許さん。我が国の騎士を騙り自国の民たちを迫害したことの罪も重いが、さきほどの『夢のなかだけでもあんたを……』の発言も呆れるばかりだ。
「お前たちは迷うことなく極刑だ。清々しいほどの悪人だからな。刑を行う場はローマムア帝国のコロッセウムとする。猛獣との戦いは見世物としても人気があるのだよ。スペイニ国の民も招待しよう。お前らの最期をみな楽しみにしているだろうからな」
「猛獣と戦う? 嘘だろう? 余は人と剣を交えたこともないんだぞ。無理だ、とても戦えない」
「ふむ、可哀想になぁーー。ローマムア帝国の騎士団でしばらくしごかれろ。少しはライオン相手に戦えるかもしれないぞ」
スペイニ国王はへなへなと床に座り込んだ。
「頼むから斬首台や毒杯にしてくれ! ライオンと戦うなんて……無理だ」
「戦うのはライオンだけじゃないぞ。熊とトラ、最近ではカンガルーだな。あぁ、そうしよう。カンガルーは後ろ足を使ったキックが最大の武器なのだよ。まずはカンガルーから散々蹴られた後、ライオンと熊に可愛がってもらえ!」
「嘘だろう? カンガルー、ライオン、熊? 私をエサにするのか?」
スペイニ国王は絶望した。死を願うほどの罰、とはこのことだったのか? 猛獣に骨を砕かれる音をみずから聞きながら絶命する……
「まさか。カンガルーやライオンたちはとてもグルメさ。お前のような汚物は食べない。まぁ、じゃれて遊ぶというかんじかな。最期に動物と戯れることができるんだ。私に感謝しろよ」
アレクサンダーはにっこりと笑いかけたのだった。
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