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※さまざまな人物視点からの描写になります。読みにくかったら申し訳ないです。残酷描写あり。ヒューゴの死ぬ場面です。




ーーアーロー、カイ、スタンは、ヒューゴがエルシーを誘導したバルコニーの近くで耳を澄ませ、その会話の一部始終を聞いているーー


(アーロー視点)

 私はヒューゴの言葉で全てを思い出した。

 こいつは馬車に細工を仕掛け、叔父上達を死に追いやりエルシーと結婚した。マケラ侯爵家があっという間に没落したのは、この男が湯水のごとく金を使ったからだ。

 その後・・・・・・エルシーの遺体が、路地裏で発見された。私は部下達と真相を突きとめ、願ったことは時間の巻き戻し。

「エルシーを生き返らせてください! あの男の毒牙にかかる前の時間に。神よ、お願いします!」

 そう願ったことを、たった今鮮明に思い出す。



(カイ視点)

 僕はヒューゴの言葉で全てを思い出した。

 ヒューゴはエルシー嬢の両親を殺し財産を全て奪い、妻であるエルシー嬢さえも殴り殺し路地裏に捨てた極悪人だ。

 こいつは死刑になったが、この凶悪事件は世界的に有名になりすぎた。小説になり劇化され、男爵家のイメージは地に落ちる。

 ここで問題なのはウィレムス男爵家だけではなく、男爵という爵位そのものがマイナスなイメージを植え付けられたということだ。

 三男は特にろくでなしの危険人物と見なされた。何も悪いことなどしていないのに、それからの僕の人生は困難を極めた。

 騎士団のなかにいても、出世するのは男爵家出身ではない者ばかり・・・・愛する女性からは拒まれ、男爵家の三男というだけで婚約者候補から外される。

 僕は神に祈った! ヒューゴが犯罪を起こす前に戻してほしいと! 男爵家の男達は皆、神に祈ったのだ。



(スタン視点)

 私はヒューゴの言葉で全てを思い出した。こいつはエルシー嬢を殴り殺した凶悪殺人犯だ。

 こいつの悪事が暴かれるきっかけになったのは、私と私の妹リリーがエルシー嬢を目撃したことだ。私はリリーを溺愛しており、度々市井のカフェに連れて行きスイーツを食べさせていた。

 その帰りの馬車でマケラ公爵家の馬車とすれ違い、ヒューゴに寄り添うように身を寄せるエルシー嬢と思われる女性を目撃する。

 婦人帽で隠しきれない顔半分が異常に腫れ上がり、どす黒い死斑が浮かび上がっていた。明らかに死体だと私は判断する。

 早速上司のアーロー様に報告し、いろいろ調べ上げて犯罪の一部始終が明らかにされた。奴は死刑になったが、妹のリリーが・・・・・・

 リリーは、半開きの方目を見てしまった。死人の目と視線が合ったと思い込んだリリーは、それ以来悪夢にうなされるようになる。

 不幸な死に方をした人間を見て感情移入してしまったのだろう。闇の感情に引っ張られすっかり元気をなくし、部屋に閉じこもりがりになった妹が心配だった。

 そもそも女性を殺すようなヒューゴが悪い! 

 そして私は神に祈った。時間を巻き戻してくれと!


(王弟視点)


 私の娘は密かに市井で暮らしていた。女官に産ませた子で、身分を明かさずとも遠くから見守っていた。

 ところが、その娘はウィレムス男爵家のヒューゴと付き合い始め、金を貢ぎだす。なんとか止めようと動いてはいたが恋に盲目になっている娘の気持ちは変わらない。

 そのうち娘が姿をくらまし・・・・・・娼館に売られたことがわかる。保護した時には・・・・・・気がおかしくなっていた。

 私は神に祈る。時間を巻き戻してくださいと! 娘が娼館で気が狂う前に戻してほしい・・・・・・

 その翌日、時間は見事に巻き戻り、娘を気が狂う前(客をとる前)に救い出せた。この国の王族はその昔魔力があったと言われていたが、今まで使ったことはないし時間が巻き戻ったことも初めてだった。

 神に感謝し、ヒューゴを・・・・・・



(ヒューゴ視点)

 マケラ公爵家の馬車置き場の鍵を持って、真夜中にウィレムス男爵家の屋敷を抜け出す。小細工をしかける工具を脇に抱えて鼻歌を歌いながら。

 屋敷を出てからすぐに後頭部を殴りつけられた・・・・・・目を開けると・・・・・・大観衆が熱狂的な声援を張り上げる闘技場コロシアムにいる。

 周りにいて震えている男達は、これからコロシアムに投げ込まれる剣闘士達だ。コロシアム中央では、怒り狂ったライオンが暴れ回っていた。

「ちょっ、ちょっと待て。これ、おかしいだろう?  まだ何もしてないよな? 馬車の細工をしようと屋敷を出ただけ・・・・・・」

「まだ思い出さないのか? 皆思い出したんだよ、お前のしたことを」

 振り返ると王弟が、俺が娼館に売った女と一緒に立っていて・・・・・・アーローをはじめ、たくさんの男達が怒りの表情で俺を睨んでいた。




 あぁ、思い出したよ。あれだ、男のくせに女みたいに綺麗な神様。

「お前は一度、死刑になって死んでいる。それでも殺された者の家族や被害者の怨念がすごくてね。だから、特別に殺人を犯す2週間前から死刑執行までの時間枠を、永遠にループさせてあげるね! お前だけが何度も、死の痛みと恐怖を体験する。あ、ライオンに殺されるのに飽きたら、毒蛇も熊も豹もいるから安心してね?」

(おい、めちゃくちゃじゃねーーかよ! 死んだら後は天国か地獄だろう? あ・・・・・・ここって実は地獄なんじゃぁ・・・・・・)

 怒り狂ったライオンのいるコロシアムに放り込まれた俺は・・・・・・



(ヒロイン視点)

 時間が巻き戻って復讐をしようと思ったのに、ヒューゴは馬車置き場に現れず突然行方不明となってしまう。不完全燃焼で戸惑っていると、アーローと伯父様のワウテルス公爵夫妻、私の両親が顔を輝かせながら私を誘った。

「今夜は闘技場コロシアムに行こう。とても楽しいショーが見られるからね」

「お母様もお父様も、残酷な殺し合いはお好きではなかったでしょう? なぜ急に、そんなものに行く気になったのですか?」

「人食いライオンに食われる男の最期をどうしても見たくなったのさ」

 お父様達がギョッとするようなことをおっしゃる。




 格闘技コロシアム。怒り狂った猛獣と戦わせられる者は・・・・・・全く剣闘士らしくない体つきだ。よく見ればそれはサラサラの金髪にエメラルドグリーンの瞳・・・・・・ヒューゴ!

 私はお父様達を振り返り、一人一人の顔を見つめた。アーローと伯父様夫妻は全てを知っているかのように頷き、両親は私を抱きしめる。

 多分ここにいる皆が、時間の巻き戻りの前の記憶があるのだろうと確信した。

 殺せ、殺せ、殺せの大合唱が始まると・・・・・・

 ヒューゴは武器を持たされ、ライオンの放たれたコロシアムに投げ込まれる。逃げまどうヒューゴに笑いながら腐ったトマトをぶつける観客。

「ぎゃぁああぁぁああぁぁーー!!」

 右手が食いちぎられて鮮血が飛び散る。すぐに休憩の声がかかりショーは中断された。止血の手当がされてしばらくの後、また再開され今度は左足が食いちぎられる。

「なんでいちいち手当をするのかしら?」

 私はアーローの手を握りしめながら聞く。彼は私の頬に口づけて肩を抱いた。

「あぁ、ひと思いに殺したくないからだろう。被害者の恨みの数だけ、あいつは罪を償う。つまり、君が殴られた数だけライオンに食いつかれるのさ」


 あぁ、そういうことか・・・・・・だったらこのショーは終わらない。だってヒューゴは散々酷いことをしてきた男で、酷い目にあったのは私だけじゃないのだから! 


 アーローに寄り添い満足の笑みを深めた私の耳に、ヒューゴの最期の悲鳴が心地よく響いた。





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みんなの感想(34件)

志戸呂 玲萌音
ネタバレ含む
青空一夏
2022.06.14 青空一夏

志戸呂 玲萌音様

(´◉ω◉` )

あ、このような残酷劇場に
いらしてくださり恐縮です💦

ありがとうございます🎶
こちらこそ最後までお読みいただきありがとうございます🙇🏻‍♀️

解除
志戸呂 玲萌音
ネタバレ含む
青空一夏
2022.06.09 青空一夏

志都呂 玲萌音様

はい、そんな感じです
ハッピーエンドに絶対なると思います😊

ありがとうございます🎶
コヨーテブラウンって、あんまり聞かないですけど
なんとなく使ってみました😅

感想ありがとうございます🌷

解除
華龍
2022.06.04 華龍
ネタバレ含む
青空一夏
2022.06.04 青空一夏

華龍様

素晴らしい見解だと思います
‧˚₊*̥(* ⁰̷̴͈꒨⁰̷̴͈)‧˚₊*̥
確かにおっしゃるように
人に恨まれないような生き方をするのが一番ですよね

感想ありがとうございます🌷


解除

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