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6 因果応報 アレックス王太子殿下side
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アレックス王太子殿下視点
「はぁ? アレックス王太子殿下だと? お前はただの頭のいかれた男の踊り子じゃないか。アレックス王太子殿下は重病で面会謝絶だよ。感染する危険のある病気だそうで西の棟に隔離されていらっしゃる。命の危険もあるって話だぜ。悪いことは言わないからさっさと帰った方がいいぞ。怖い騎士様達に見つかったらむち打ちになるぜ」
人の良い顔つきの門番の一人が困ったような顔で忠告してきた。
「いや、俺は本当にアレックス王太子だってっば。あぁ、婚約者のシャーロット・ビビアン侯爵令嬢を呼んでくれ。話せばわかる。頼む、ここに呼んできてくれ」
「シャーロット・ビビアン侯爵令嬢をお呼びするには第2王子殿下の許可が要るから無理だな。俺ら門番なんかには声をかけられない身分の方達だ。諦めておとなしく帰りな」
「なんだと? なんで弟の許可がいる?」
「アレックス王太子殿下が瀕死の重病だからだよ。第2王子殿下が新しい王太子になるって話でさ。シャーロット・ビビアン侯爵令嬢はその婚約者になるって噂で持ちきりだよ。まぁ、そういうわけだから名を騙るなら別な人物に変えることだな。はっはっはっは!」
噂話好きな門番はおかしそうに腹を抱えて笑う。
「瀕死の重病? 嘘だろう? 俺はここにいるぞ!」
その瞬間、王族の死に際し響かせる哀悼の鐘が鳴り響いた。
「アレックス王太子殿下がお亡くなりになったぞぉおお!!」
「アレックス王太子殿下が・・・・・・万歳!!」
「ひゃっほーー!! 神様はいらしたわけだな。あの方は我が儘で愚かで素行も悪い問題児だったからな!」
「そうそう。皆が第2王子殿下を慕っていたのに長子が継ぐという国の決まりに我々を始め国王陛下夫妻でさえ絶望を抱えていたからなぁーー。ありがたい!!」
耳を疑う騎士達の声が城の方からどよめきと共に聞こえてくる。
「嘘だろう・・・・・・俺はどうなるんだよ・・・・・・生きているんだ、ここにこうして・・・・・・これから一体どうしたらいいんだよ」
俺は門の外で項垂れて頭を抱えたのだった。しばらくそうしていると突然門が開き騎士が現れて無言で俺を謁見の間に連れて行く。
(助かった! これで元の王太子に戻れる。しかしなんで瀕死の重病の設定にしたんだよ! シャーロットの奴め! あとで説教してやらんとな)
そこで待ち構えていた父上は俺を見て深くため息をついた。
「お前は本当に愚か者だよ。詳細はシャーロット・ビビアン侯爵令嬢から聞いている。踊り子にうつつを抜かし王太子の仕事も放り投げて、市井で遊ぶ為に変装し宮殿から抜け出すなんて。お前をこのまま王太子にしておくわけにはいかん。ワシら王族の肩には国の存亡がかかっているのだぞ。お前の名誉の為に今回は病死とする。新しいお前の人生は親のせめてもの温情で希望を叶えてやろう」
「そうよ、これは私達の息子への愛だわ。シャーロット・ビビアン侯爵令嬢に「男にばかり尽くす女に価値はない」と言ったそうね。だったら今度はあなたが尽くす必要がある女性と一緒にさせてあげるわ。マリッサ・ジェイデン公爵令嬢よ。あの方は足も手も不自由であなたより一回り年上だけれど独身なのよ。しっかり面倒を見て差し上げなさい」
「え? そんな、嫌ですよ。絶対嫌だ! シャーロットにそう言ったことは謝りますよ。それから二度と内緒では市井に遊びには行きません。これからはちゃんと報告します。お願いだから王太子に戻してくださいよ。そんなみっともない年増の身体障害者と暮らすなんてまっぴらだよ! 俺の運気が下がる!」
「・・・・・・呆れた男だ。それが体の不自由な方に対する発言か? お前はたまたま五体満足で生まれただけで、足も手もない人を蔑む権利などないぞ! もぉ、顔も見たくないわい。このまま放ってやるから一生男の踊り子として生きて行けば良い」
俺のどこがいけないんだ? カンカンに怒った父上は俺を外につまみ出すように言うと、二度とそれっきり一生会ってはくれなかった。
頼む! 王太子に戻してくれよ! 豪華な食事と清潔な衣服、大勢の使用人ときらびやかな夜会。あの世界こそが完璧な世界だったのに・・・・・・俺は剣舞を踊って日銭を稼ぐしかなくなった。
(あぁ、こんなことなら体の不自由な公爵令嬢と一緒にさせてもらったほうがまだマシだった)
男一人の剣舞の舞いではたいした稼ぎにはならないし、他に特技はなにもない。俺は自由が謳歌できる平民にはなったが、踊り子の生活なんて少しも楽しくないことが日に日にわかってきたのである。
いつも金に困っているし、着ている服はボロボロだ。病気になっても医者に診てもらう金すら払えない。
俺は素泊まりのボロ宿で、寂れた商店街でもらったパンの耳をかじりながらむせび泣いたのだった。
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
次回、最終回です
「はぁ? アレックス王太子殿下だと? お前はただの頭のいかれた男の踊り子じゃないか。アレックス王太子殿下は重病で面会謝絶だよ。感染する危険のある病気だそうで西の棟に隔離されていらっしゃる。命の危険もあるって話だぜ。悪いことは言わないからさっさと帰った方がいいぞ。怖い騎士様達に見つかったらむち打ちになるぜ」
人の良い顔つきの門番の一人が困ったような顔で忠告してきた。
「いや、俺は本当にアレックス王太子だってっば。あぁ、婚約者のシャーロット・ビビアン侯爵令嬢を呼んでくれ。話せばわかる。頼む、ここに呼んできてくれ」
「シャーロット・ビビアン侯爵令嬢をお呼びするには第2王子殿下の許可が要るから無理だな。俺ら門番なんかには声をかけられない身分の方達だ。諦めておとなしく帰りな」
「なんだと? なんで弟の許可がいる?」
「アレックス王太子殿下が瀕死の重病だからだよ。第2王子殿下が新しい王太子になるって話でさ。シャーロット・ビビアン侯爵令嬢はその婚約者になるって噂で持ちきりだよ。まぁ、そういうわけだから名を騙るなら別な人物に変えることだな。はっはっはっは!」
噂話好きな門番はおかしそうに腹を抱えて笑う。
「瀕死の重病? 嘘だろう? 俺はここにいるぞ!」
その瞬間、王族の死に際し響かせる哀悼の鐘が鳴り響いた。
「アレックス王太子殿下がお亡くなりになったぞぉおお!!」
「アレックス王太子殿下が・・・・・・万歳!!」
「ひゃっほーー!! 神様はいらしたわけだな。あの方は我が儘で愚かで素行も悪い問題児だったからな!」
「そうそう。皆が第2王子殿下を慕っていたのに長子が継ぐという国の決まりに我々を始め国王陛下夫妻でさえ絶望を抱えていたからなぁーー。ありがたい!!」
耳を疑う騎士達の声が城の方からどよめきと共に聞こえてくる。
「嘘だろう・・・・・・俺はどうなるんだよ・・・・・・生きているんだ、ここにこうして・・・・・・これから一体どうしたらいいんだよ」
俺は門の外で項垂れて頭を抱えたのだった。しばらくそうしていると突然門が開き騎士が現れて無言で俺を謁見の間に連れて行く。
(助かった! これで元の王太子に戻れる。しかしなんで瀕死の重病の設定にしたんだよ! シャーロットの奴め! あとで説教してやらんとな)
そこで待ち構えていた父上は俺を見て深くため息をついた。
「お前は本当に愚か者だよ。詳細はシャーロット・ビビアン侯爵令嬢から聞いている。踊り子にうつつを抜かし王太子の仕事も放り投げて、市井で遊ぶ為に変装し宮殿から抜け出すなんて。お前をこのまま王太子にしておくわけにはいかん。ワシら王族の肩には国の存亡がかかっているのだぞ。お前の名誉の為に今回は病死とする。新しいお前の人生は親のせめてもの温情で希望を叶えてやろう」
「そうよ、これは私達の息子への愛だわ。シャーロット・ビビアン侯爵令嬢に「男にばかり尽くす女に価値はない」と言ったそうね。だったら今度はあなたが尽くす必要がある女性と一緒にさせてあげるわ。マリッサ・ジェイデン公爵令嬢よ。あの方は足も手も不自由であなたより一回り年上だけれど独身なのよ。しっかり面倒を見て差し上げなさい」
「え? そんな、嫌ですよ。絶対嫌だ! シャーロットにそう言ったことは謝りますよ。それから二度と内緒では市井に遊びには行きません。これからはちゃんと報告します。お願いだから王太子に戻してくださいよ。そんなみっともない年増の身体障害者と暮らすなんてまっぴらだよ! 俺の運気が下がる!」
「・・・・・・呆れた男だ。それが体の不自由な方に対する発言か? お前はたまたま五体満足で生まれただけで、足も手もない人を蔑む権利などないぞ! もぉ、顔も見たくないわい。このまま放ってやるから一生男の踊り子として生きて行けば良い」
俺のどこがいけないんだ? カンカンに怒った父上は俺を外につまみ出すように言うと、二度とそれっきり一生会ってはくれなかった。
頼む! 王太子に戻してくれよ! 豪華な食事と清潔な衣服、大勢の使用人ときらびやかな夜会。あの世界こそが完璧な世界だったのに・・・・・・俺は剣舞を踊って日銭を稼ぐしかなくなった。
(あぁ、こんなことなら体の不自由な公爵令嬢と一緒にさせてもらったほうがまだマシだった)
男一人の剣舞の舞いではたいした稼ぎにはならないし、他に特技はなにもない。俺は自由が謳歌できる平民にはなったが、踊り子の生活なんて少しも楽しくないことが日に日にわかってきたのである。
いつも金に困っているし、着ている服はボロボロだ。病気になっても医者に診てもらう金すら払えない。
俺は素泊まりのボロ宿で、寂れた商店街でもらったパンの耳をかじりながらむせび泣いたのだった。
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次回、最終回です
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