上 下
2 / 9

2 王妃殿下や王太子殿下の仕事は私の仕事です

しおりを挟む
「クララ様がご懐妊なさいました」

 王家の使いがダックワース公爵家にやって来て、私は王宮にお祝いに駆けつける。私との婚姻が来週にと迫ったなかでのこの知らせに、体中の血が嫉妬で煮えたぎるように感じた。

 クララ様はすでに後宮に迎えられクララ宮も建設中だ。それに引き換え私は、ルシア王妃殿下が住まうルシア宮の片隅に部屋を与えられることになっている。(王族が愛する女性の為に建てる宮はその女性の名前をつけて呼ばれる慣習がある)

 通常なら王太子妃を優先しそうものなのに、誰もそれに異を唱えない。愛されていない王太子妃の扱いが雑すぎることは私の責任だからだ。

「リオナに魅力がないからこのようなことになるのですよ。けれど、いずれ王妃になるのだし私の宮で充分でしょう? 二つも新しく宮を建設するお金は勿体ないですからね」

 ルシア王妃殿下にもそのように諭され、このような軽い扱いをされるのは全て自分の至らなさなのだと反省した。

「リオナは人形のようで面白くない。表情も乏しくなにを考えているかわからないではないか! だからクララのような素直な喜びを表現できる女を愛でたのだ。だが、お前の役目は完璧な王太子妃の仕事をこなすことだ。だからそのままでいることを許してやる」

 常に私を貶すクラーク王太子殿下に、今の私は愛せないけれど王太子妃の仕事をこなす為にはそのままで良いと認めてもらう。

「はい、ありがとうございます。このたびはクララ様のご懐妊、誠のおめでとう存じます」

「うむ。これから生まれる子は世継ぎとなるであろう。リオナも敬うように。クララは世継ぎのご生母様になるのだから」

「はい、かしこまりました」

 このような魅力の無い私が王太子妃でいられるのはこのお優しいクラーク王太子殿下のお蔭なのだ。感謝するようにと家族からも言われ、私は国王陛下達やクラーク王太子殿下、クララ様にもお礼を申し上げた。

「いいのよ、お飾りの王太子妃殿下は必要ですから。どうぞ、ずーーっと人形のようでいてくださいね」
 
 クララ様は見下したような視線を私に投げかけた。






 次の週、私とクラーク王太子殿下との結婚式は国を挙げて大々的に行われた。諸外国の王族達も招かれた式ではクララ様は表に出ない。この世界では愛妾や側妃を持つことを許されている国は少ないのだ。

 世継ぎが望めない時だけ愛妾や側妃を持つことを許す、そんな国が大半の為にクララ様は諸外国の方々も集う式には姿を見せなかった。

 初夜はない。クラーク王太子殿下は式とパレードが終わるとすぐにクララ様のもとに向かった。

「あとの面倒なことはリオナがやっておけ!」

「かしこまりました」

 





 やがて、王妃殿下の執務室が私の執務室となり、到底ひとりではこなせない量の書類がデスクの上に積み重なり始めた。

「これはルシア王妃殿下がサインをする書類ですよね?」
 
 書類の署名欄には明らかにルシア王妃殿下がサインをしなければならない箇所がいくつもあった。もちろん王太子が署名すべき書類も当然のように混じっている。

「ルシア王妃殿下はリオナ様に、早くから王妃になる自覚をもたせようと今から仕事に慣れさせたい、とおっしゃっております。ですから、今から修行のつもりで王妃殿下担当の書類も処理なさってください」

「なるほど、わかりました。ルシア王妃殿下はそれだけ私を信用してくださっているということですよね。ありがたいことです」

 朝から晩まで書類とにらめっこをし、寝る間もないほど仕事に励んだ。国内の貴族達が集う王家主催の舞踏会や夜会などでは、段取りは全て私が仕切り準備をしてきたのに、なにもしなかったクラーク王太子殿下の隣で微笑んでいるクララ様が褒められた。それでもクラーク王太子殿下が嬉しそうにしていれば、それだけで自分の存在価値があると、そう信じられた。

 私はクラーク王太子殿下の幸せの為に生きているのだから・・・・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義姉から虐げられていましたが、温かく迎え入れてくれた婚家のために、魔法をがんばります!

野地マルテ
恋愛
大公の後妻の娘、アザレア。彼女は前妻の娘である長女ストメリナから陰湿な虐めを受けていた。一族でただ一人、朱い髪を持って生まれてきたアザレアは「不義の子」との疑いを掛けられ、虐げられていたのだ。 辛く厳しい生活を送るアザレアに、隣国の筆頭貴族イルダフネ侯爵家次期当主サフタールとの結婚話が上がる。 サフタールは誠実な青年だと人柄に定評があり、アザレアと年齢も近かった。 アザレアは魔法の教師兼侍女のゾラ一人を伴い、婚家のイルダフネ家へ向かう。 この婚姻が自身の転機となることを願って。 「不義の子」との疑いをかけられ、ずっと虐げられていたアザレア。そんなアザレアが、婚約者のサフタールや嫁ぎ先のイルダフネ家で受け入れられたことをきっかけに、本来の力を発揮するように。 アザレアが不遇だった過去を乗り越え、宿敵ストメリナとの決着をキッチリつけて幸せをがっつり掴む物語です。 ※まめに更新する予定です。

婚約破棄されたのは私ではなく……実は、あなたなのです。

当麻月菜
恋愛
アネッサ=モータリアはこの度、婚約者であるライオット=シネヴァから一方的に婚約を破棄されてしまった。 しかもその理由は、アネッサの大親友に心変わりをしてしまったというあり得ない理由で………。 婚約破棄をされたアネッサは、失意のどん底に突き落とされたまま、大親友の元へと向かう。 向かう理由は、『この泥棒猫』と罵るためか、『お願いだから身を引いて』と懇願する為なのか。 でも真相は、そのどれでもなく……ちょいとした理由がありました。 ※別タイトル(ほぼ同じ内容)で、他のサイトに重複投稿させていただいております。

私の婚約者が浮気をする理由

風見ゆうみ
恋愛
ララベル・キーギス公爵令嬢はキーギス家の長女で、次期女公爵になる事が決まっていた。 ララベルは、幼い頃から、ミーデンバーグ公爵家の後継ぎとして決まっているフィアンに思いを寄せていたが、キーギス家を継ぐつもりのララベルにとって、叶わぬ恋の相手の為、彼を諦めようと努力していた。 そうしている内に、彼女には辺境伯の次男である、ニール・メフェナムという婚約者ができた。 ある日、彼が他の女性とカフェで談笑しているところを見たララベルは、その場で彼に問いただしたが「浮気は男の本能なんだ。心は君の元にある」と言われてしまう。 彼との婚約は王命であり、婚約を解消をするには相手の承諾がいるが、ニールは婚約解消を受け入れない。 日が経つにつれ、ニールの浮気は度を越していき…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物、その他諸々現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観です。 ※話が合わない場合はとじていただきますよう、お願い致します。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

処理中です...