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2 王妃殿下や王太子殿下の仕事は私の仕事です
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「クララ様がご懐妊なさいました」
王家の使いがダックワース公爵家にやって来て、私は王宮にお祝いに駆けつける。私との婚姻が来週にと迫ったなかでのこの知らせに、体中の血が嫉妬で煮えたぎるように感じた。
クララ様はすでに後宮に迎えられクララ宮も建設中だ。それに引き換え私は、ルシア王妃殿下が住まうルシア宮の片隅に部屋を与えられることになっている。(王族が愛する女性の為に建てる宮はその女性の名前をつけて呼ばれる慣習がある)
通常なら王太子妃を優先しそうものなのに、誰もそれに異を唱えない。愛されていない王太子妃の扱いが雑すぎることは私の責任だからだ。
「リオナに魅力がないからこのようなことになるのですよ。けれど、いずれ王妃になるのだし私の宮で充分でしょう? 二つも新しく宮を建設するお金は勿体ないですからね」
ルシア王妃殿下にもそのように諭され、このような軽い扱いをされるのは全て自分の至らなさなのだと反省した。
「リオナは人形のようで面白くない。表情も乏しくなにを考えているかわからないではないか! だからクララのような素直な喜びを表現できる女を愛でたのだ。だが、お前の役目は完璧な王太子妃の仕事をこなすことだ。だからそのままでいることを許してやる」
常に私を貶すクラーク王太子殿下に、今の私は愛せないけれど王太子妃の仕事をこなす為にはそのままで良いと認めてもらう。
「はい、ありがとうございます。このたびはクララ様のご懐妊、誠のおめでとう存じます」
「うむ。これから生まれる子は世継ぎとなるであろう。リオナも敬うように。クララは世継ぎのご生母様になるのだから」
「はい、かしこまりました」
このような魅力の無い私が王太子妃でいられるのはこのお優しいクラーク王太子殿下のお蔭なのだ。感謝するようにと家族からも言われ、私は国王陛下達やクラーク王太子殿下、クララ様にもお礼を申し上げた。
「いいのよ、お飾りの王太子妃殿下は必要ですから。どうぞ、ずーーっと人形のようでいてくださいね」
クララ様は見下したような視線を私に投げかけた。
次の週、私とクラーク王太子殿下との結婚式は国を挙げて大々的に行われた。諸外国の王族達も招かれた式ではクララ様は表に出ない。この世界では愛妾や側妃を持つことを許されている国は少ないのだ。
世継ぎが望めない時だけ愛妾や側妃を持つことを許す、そんな国が大半の為にクララ様は諸外国の方々も集う式には姿を見せなかった。
初夜はない。クラーク王太子殿下は式とパレードが終わるとすぐにクララ様のもとに向かった。
「あとの面倒なことはリオナがやっておけ!」
「かしこまりました」
やがて、王妃殿下の執務室が私の執務室となり、到底ひとりではこなせない量の書類がデスクの上に積み重なり始めた。
「これはルシア王妃殿下がサインをする書類ですよね?」
書類の署名欄には明らかにルシア王妃殿下がサインをしなければならない箇所がいくつもあった。もちろん王太子が署名すべき書類も当然のように混じっている。
「ルシア王妃殿下はリオナ様に、早くから王妃になる自覚をもたせようと今から仕事に慣れさせたい、とおっしゃっております。ですから、今から修行のつもりで王妃殿下担当の書類も処理なさってください」
「なるほど、わかりました。ルシア王妃殿下はそれだけ私を信用してくださっているということですよね。ありがたいことです」
朝から晩まで書類とにらめっこをし、寝る間もないほど仕事に励んだ。国内の貴族達が集う王家主催の舞踏会や夜会などでは、段取りは全て私が仕切り準備をしてきたのに、なにもしなかったクラーク王太子殿下の隣で微笑んでいるクララ様が褒められた。それでもクラーク王太子殿下が嬉しそうにしていれば、それだけで自分の存在価値があると、そう信じられた。
私はクラーク王太子殿下の幸せの為に生きているのだから・・・・・・
王家の使いがダックワース公爵家にやって来て、私は王宮にお祝いに駆けつける。私との婚姻が来週にと迫ったなかでのこの知らせに、体中の血が嫉妬で煮えたぎるように感じた。
クララ様はすでに後宮に迎えられクララ宮も建設中だ。それに引き換え私は、ルシア王妃殿下が住まうルシア宮の片隅に部屋を与えられることになっている。(王族が愛する女性の為に建てる宮はその女性の名前をつけて呼ばれる慣習がある)
通常なら王太子妃を優先しそうものなのに、誰もそれに異を唱えない。愛されていない王太子妃の扱いが雑すぎることは私の責任だからだ。
「リオナに魅力がないからこのようなことになるのですよ。けれど、いずれ王妃になるのだし私の宮で充分でしょう? 二つも新しく宮を建設するお金は勿体ないですからね」
ルシア王妃殿下にもそのように諭され、このような軽い扱いをされるのは全て自分の至らなさなのだと反省した。
「リオナは人形のようで面白くない。表情も乏しくなにを考えているかわからないではないか! だからクララのような素直な喜びを表現できる女を愛でたのだ。だが、お前の役目は完璧な王太子妃の仕事をこなすことだ。だからそのままでいることを許してやる」
常に私を貶すクラーク王太子殿下に、今の私は愛せないけれど王太子妃の仕事をこなす為にはそのままで良いと認めてもらう。
「はい、ありがとうございます。このたびはクララ様のご懐妊、誠のおめでとう存じます」
「うむ。これから生まれる子は世継ぎとなるであろう。リオナも敬うように。クララは世継ぎのご生母様になるのだから」
「はい、かしこまりました」
このような魅力の無い私が王太子妃でいられるのはこのお優しいクラーク王太子殿下のお蔭なのだ。感謝するようにと家族からも言われ、私は国王陛下達やクラーク王太子殿下、クララ様にもお礼を申し上げた。
「いいのよ、お飾りの王太子妃殿下は必要ですから。どうぞ、ずーーっと人形のようでいてくださいね」
クララ様は見下したような視線を私に投げかけた。
次の週、私とクラーク王太子殿下との結婚式は国を挙げて大々的に行われた。諸外国の王族達も招かれた式ではクララ様は表に出ない。この世界では愛妾や側妃を持つことを許されている国は少ないのだ。
世継ぎが望めない時だけ愛妾や側妃を持つことを許す、そんな国が大半の為にクララ様は諸外国の方々も集う式には姿を見せなかった。
初夜はない。クラーク王太子殿下は式とパレードが終わるとすぐにクララ様のもとに向かった。
「あとの面倒なことはリオナがやっておけ!」
「かしこまりました」
やがて、王妃殿下の執務室が私の執務室となり、到底ひとりではこなせない量の書類がデスクの上に積み重なり始めた。
「これはルシア王妃殿下がサインをする書類ですよね?」
書類の署名欄には明らかにルシア王妃殿下がサインをしなければならない箇所がいくつもあった。もちろん王太子が署名すべき書類も当然のように混じっている。
「ルシア王妃殿下はリオナ様に、早くから王妃になる自覚をもたせようと今から仕事に慣れさせたい、とおっしゃっております。ですから、今から修行のつもりで王妃殿下担当の書類も処理なさってください」
「なるほど、わかりました。ルシア王妃殿下はそれだけ私を信用してくださっているということですよね。ありがたいことです」
朝から晩まで書類とにらめっこをし、寝る間もないほど仕事に励んだ。国内の貴族達が集う王家主催の舞踏会や夜会などでは、段取りは全て私が仕切り準備をしてきたのに、なにもしなかったクラーク王太子殿下の隣で微笑んでいるクララ様が褒められた。それでもクラーク王太子殿下が嬉しそうにしていれば、それだけで自分の存在価値があると、そう信じられた。
私はクラーク王太子殿下の幸せの為に生きているのだから・・・・・・
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