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6 もう旦那様はいらないわよ! やるべきことをやりましょう! 最終話
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「ご懐妊? …… そんな覚えは無いわよ……そっか、私じゃない時に……」
マリは慌ててジュリエットに問いかける。
『ジュリエット! えっと、身に覚えはあるわよね? 』
(えぇ、不本意ながら?)
ジュリエットは気まずそうに俯いて答えた。
この場合はおめでとうでいいんだろうか?
真理はジュリエットになんて声をかけていいのかわからない。
一応イリスィオスとジュリエットは夫婦。どんなに遊び人の夫であっても国一番の資産家のケビン公爵家だ。正妻であれば跡継ぎを産んだ方がいいに決まっている。
『おめでとう! ジュリエット。子育てなら任せてよ、経験者だしね』
(真理、これっておめでとうでいいの? 私はどうしたらいいのかしら? 愛人を堂々と囲う夫の子供を育てるなんて……考えたこともなかったのに……)
『どうもなにも……肝っ玉母さんのようにでんとしてればいいのよ。女は度胸男は愛嬌よ。逆だった気もするけど……この際どうでもいいわ。考えたら、子供ができたという事はとても良い事よ。この子が跡継ぎになるし、この状況ならこの子供こそが生きがいになるわ。もう夫に振り回されなくていいのよ。子供ってすっごく大変だけれどジュリエットの場合は楽勝よー。侍女もメイドもいるし乳人も雇えて何でも手伝ってくれる人がたくさんいるわ。天国じゃないの』
(そんなものかしら?)
『もちろんよ。私がいた世界では核家族化が進んでいてね。一人で子育てする若いママ達が育児ノイローゼになったりも少なくなかったわ。一人で子育ては辛いのよ。そこへきて旦那もあてにならないとなればママは気が狂うわよ。でもジュリエットは違う! これがどんなに幸せなことか! ないものを悲しむより、当たり前に思っていたことに感謝して生きるのよ!』
偉そうなことをジュリエットに言った真理だったが、沖縄の海のようなエメラルドグリーンの素晴らしさを堪能しながら大昔の自分に思いを馳せた。恋多き女、真理にこそ若い頃はいろいろあった。モテまくったバブルの時代! 恋の悩みだってそれなりにあったし、恋愛における武勇伝は数知れず打ち立ててきたつもりだ。
けれど真理はすでに人生を達観するオバタリアンである。モテた記憶やいい思い出は取り出しやすい引き出しに、悲しい恋愛の記憶はずっと奥の引き出しにいれてしまい紅茶キノコのように発酵させ、すっかり美化していた。
『あの甘酸っぱい紅茶キノコ、母がキッチンの流しの下に手作り梅酒と一緒に瓶を並べていたっけなぁ』
真理は知っている。どんなに愛している者同士でも時間の流れで変わっていくことを。男性の価値は容姿ではなく、その心根と男気にあることを(稼ぎも大事)。
きれいな貝殻をペクスィモと拾いあい、ジュリエットも真理と同化したように一緒にはしゃぎだす。
キラキラと眩しい陽光に煌めく海面と砕け散る泡が美しい。
ジュリエットはお腹に新しい命が芽生えている不思議をかみしめる。
「敵は愛人にあらず。妻を裏切る夫である」
真理が言った言葉をジュリエットは思い出し、小さく頷き苦笑を浮かべた。
(間違っていない。本当にその通りよね。だって浮気は一人ではできないもの)
苦笑を浮かべた隣にペクスィモがいて、にっこりと花のように微笑んで言った言葉は、
「お姉様、心からおめでとう! お姉様に子供ができてこんなに嬉しいことはないわ。お姉様なら私は全然悔しくないもん」だった。
率直にハキハキと本音を漏らすペクスィモに嫌な気はしなかった。ジュリエットの気持ちが少しづつ変化していく瞬間であった。
屋敷に戻るとすでにイリスィオスはエラスティスとダイヤモンド鉱山視察に出発した後だった。
「まぁ、大変ですよね。旦那様もお仕事頑張ってくださってありがたいことです」
真理がそう言うとペクスイモは複雑な顔をした。
「あれはお仕事と言うよりも遊びですよ。近くに温泉があって高級リゾート施設がたくさん立ち並んでいます。ダイヤモンド鉱山なんか旦那様は常に人任せですよ。私も何度も連れて行ってもらいましたが、遊んでばかりいましたもの」
「あら、まぁ。温泉ですって? 私たちもそちらに行ってみましょうか? 温泉ならばお腹の子供にもとても良いはずですわ。アルシナ、みんなを連れて温泉旅行でも行きましょうか。社員旅行みたいなものよ。使用人の皆さんがこの1年とてもよく働いてくれたご褒美に、ケビン公爵家総出で参りましょう。それぐらいのお金の余裕はありますか? ちょうどもうすぐ年末ですわ」
「もちろんございます。旦那様が女性に使うお金に比べればどうということもありません」
アルシナは自信を持って答え、屋敷に戻ると執事のマーカスも大賛成をしたのだった。
「あちらのダイヤモンド鉱山ではイリスィオス様の従兄弟のエディ様が責任者です。とても責任感のある立派な方ですよ。旦那様はエディ様に任せっきりですが、本来は旦那様がやるべき仕事です。この機会に奥様がそちらの方の管理をなさるのもいいでしょう。ご懐妊されたのでしたら次期当主様のご生母様です。ケビン公爵家の全てを仕切る権限はすでにお持ちです」
それを聞いた真理はジュリエットにニヤリと笑って呟いた。
「まさに亭主、元気で留守がいい、だわ。イリスィオスなんてエラスティスに押しつけて私たちはやるべきをやりましょう! 子供達の為にもね」
温泉大旅行の前にお抱えの医者を何人も呼びつけた侍女長アルシナは医者達の見解を聞いて大満足の笑みを浮かべ、ケビン公爵家には使用人達の大合唱が始まった。
「おめでとうございます、奥様!」
「これこそ、神の思し召しですわ。これでケビン公爵家は安泰です!」
「奥様のお子様にたくさんの祝福がありますように……」
「素晴らしいことです! 感動です!」
口々に心からの祝福を口にする。その様子にジュリエットは初めてケビン公爵家に嫁いで良かったと思う。真理はにこにこと余裕の笑みでそんなジュリエットの変化を祖母のような気持ちで見守るのだった。
この後ジュリエットは双子の男の子と女の子を産み、ケビン公爵家の事業を切り盛りし大いに繁栄をもたらした。使用人達からは慕われ愛人には尊敬され、素晴らしい女傑として歴史にも残る女性となった。
夫のイリスィオスの資料は女好きのろくでなしとしか記されておらず子孫からはことごとくバカにされていたようである。
その100年後の子孫イエリアはケビン公爵家の一人娘であるが、イリスィオスの肖像画にちょび髭を書いたり髪をなくしたりして遊んでいたが、誰も注意をする者はいない。
一方、ジュリエットの肖像画は大事にガラスケースに入れられ家宝として受け継がれたのである。ゴッドマザーと呼ばれたジュリエットが若い頃に世を儚んで自殺未遂を起こしかけたことがあることは誰も知らない。ただジュリエットが足を滑らせて湖に落ちた日があり、その日は『奥様が真に目覚めた日』と記され、領地では最もおめでたい日とされ祭日となっているということである。
完
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
ご注意
●『肝っ玉かあさん』(きもったまかあさん)は、1968年から1972年までTBS系で全3シリーズにわたって放送されたテレビドラマ。通算放送回数は全117回。石井ふく子プロデューサーが主役に抜擢した京塚昌子が、太った体を生かし、少しおっちょこちょいだがしっかり者の母親を演じて大好評だった。30%前後の視聴率を誇り、後の『ありがとう』や『渡る世間は鬼ばかり』に通じる人気路線の先駆けとなった。Wikipediaより抜粋。
●「男は度胸、女は愛嬌」ということわざがあります。これは、男にとっては物おじしない“度胸”が、女にはにこやかでかわいらしい“愛嬌”が大事だという意味。
●紅茶キノコ
紅茶キノコ(こうちゃキノコ、露: Чайный гриб)は東モンゴル原産で、後にシベリアでよく飲まれるようになった発酵飲料。紅茶、もしくは緑茶に砂糖を加え、そこに培地で栽培されたキノコにも見えるゲル状の塊を12日から14日ほど漬け込む事で発酵させる。
日本では1970年代に健康食品として流行した。家庭で栽培できたことから、株分けにより口コミ的にも広まったが、ブームは『紅茶キノコ健康法』の発行によるところが大きい。
欧米やオーストラリアではコンブチャ(英語: Kombucha)と呼び、健康飲料として売られている。マンゴー味、ストロベリー味、ローズヒップ味といった、欧米向けに加工されているものもある。日本でもSNSなどを通じて関心を集め、「逆輸入」の形で2014年から2016年頃にかけて販売が拡大した 。「コンブチャ」の名称は、その後も日本国内で製造されている紅茶キノコ飲料にも使われている。Wikipediaより抜粋。
マリは慌ててジュリエットに問いかける。
『ジュリエット! えっと、身に覚えはあるわよね? 』
(えぇ、不本意ながら?)
ジュリエットは気まずそうに俯いて答えた。
この場合はおめでとうでいいんだろうか?
真理はジュリエットになんて声をかけていいのかわからない。
一応イリスィオスとジュリエットは夫婦。どんなに遊び人の夫であっても国一番の資産家のケビン公爵家だ。正妻であれば跡継ぎを産んだ方がいいに決まっている。
『おめでとう! ジュリエット。子育てなら任せてよ、経験者だしね』
(真理、これっておめでとうでいいの? 私はどうしたらいいのかしら? 愛人を堂々と囲う夫の子供を育てるなんて……考えたこともなかったのに……)
『どうもなにも……肝っ玉母さんのようにでんとしてればいいのよ。女は度胸男は愛嬌よ。逆だった気もするけど……この際どうでもいいわ。考えたら、子供ができたという事はとても良い事よ。この子が跡継ぎになるし、この状況ならこの子供こそが生きがいになるわ。もう夫に振り回されなくていいのよ。子供ってすっごく大変だけれどジュリエットの場合は楽勝よー。侍女もメイドもいるし乳人も雇えて何でも手伝ってくれる人がたくさんいるわ。天国じゃないの』
(そんなものかしら?)
『もちろんよ。私がいた世界では核家族化が進んでいてね。一人で子育てする若いママ達が育児ノイローゼになったりも少なくなかったわ。一人で子育ては辛いのよ。そこへきて旦那もあてにならないとなればママは気が狂うわよ。でもジュリエットは違う! これがどんなに幸せなことか! ないものを悲しむより、当たり前に思っていたことに感謝して生きるのよ!』
偉そうなことをジュリエットに言った真理だったが、沖縄の海のようなエメラルドグリーンの素晴らしさを堪能しながら大昔の自分に思いを馳せた。恋多き女、真理にこそ若い頃はいろいろあった。モテまくったバブルの時代! 恋の悩みだってそれなりにあったし、恋愛における武勇伝は数知れず打ち立ててきたつもりだ。
けれど真理はすでに人生を達観するオバタリアンである。モテた記憶やいい思い出は取り出しやすい引き出しに、悲しい恋愛の記憶はずっと奥の引き出しにいれてしまい紅茶キノコのように発酵させ、すっかり美化していた。
『あの甘酸っぱい紅茶キノコ、母がキッチンの流しの下に手作り梅酒と一緒に瓶を並べていたっけなぁ』
真理は知っている。どんなに愛している者同士でも時間の流れで変わっていくことを。男性の価値は容姿ではなく、その心根と男気にあることを(稼ぎも大事)。
きれいな貝殻をペクスィモと拾いあい、ジュリエットも真理と同化したように一緒にはしゃぎだす。
キラキラと眩しい陽光に煌めく海面と砕け散る泡が美しい。
ジュリエットはお腹に新しい命が芽生えている不思議をかみしめる。
「敵は愛人にあらず。妻を裏切る夫である」
真理が言った言葉をジュリエットは思い出し、小さく頷き苦笑を浮かべた。
(間違っていない。本当にその通りよね。だって浮気は一人ではできないもの)
苦笑を浮かべた隣にペクスィモがいて、にっこりと花のように微笑んで言った言葉は、
「お姉様、心からおめでとう! お姉様に子供ができてこんなに嬉しいことはないわ。お姉様なら私は全然悔しくないもん」だった。
率直にハキハキと本音を漏らすペクスィモに嫌な気はしなかった。ジュリエットの気持ちが少しづつ変化していく瞬間であった。
屋敷に戻るとすでにイリスィオスはエラスティスとダイヤモンド鉱山視察に出発した後だった。
「まぁ、大変ですよね。旦那様もお仕事頑張ってくださってありがたいことです」
真理がそう言うとペクスイモは複雑な顔をした。
「あれはお仕事と言うよりも遊びですよ。近くに温泉があって高級リゾート施設がたくさん立ち並んでいます。ダイヤモンド鉱山なんか旦那様は常に人任せですよ。私も何度も連れて行ってもらいましたが、遊んでばかりいましたもの」
「あら、まぁ。温泉ですって? 私たちもそちらに行ってみましょうか? 温泉ならばお腹の子供にもとても良いはずですわ。アルシナ、みんなを連れて温泉旅行でも行きましょうか。社員旅行みたいなものよ。使用人の皆さんがこの1年とてもよく働いてくれたご褒美に、ケビン公爵家総出で参りましょう。それぐらいのお金の余裕はありますか? ちょうどもうすぐ年末ですわ」
「もちろんございます。旦那様が女性に使うお金に比べればどうということもありません」
アルシナは自信を持って答え、屋敷に戻ると執事のマーカスも大賛成をしたのだった。
「あちらのダイヤモンド鉱山ではイリスィオス様の従兄弟のエディ様が責任者です。とても責任感のある立派な方ですよ。旦那様はエディ様に任せっきりですが、本来は旦那様がやるべき仕事です。この機会に奥様がそちらの方の管理をなさるのもいいでしょう。ご懐妊されたのでしたら次期当主様のご生母様です。ケビン公爵家の全てを仕切る権限はすでにお持ちです」
それを聞いた真理はジュリエットにニヤリと笑って呟いた。
「まさに亭主、元気で留守がいい、だわ。イリスィオスなんてエラスティスに押しつけて私たちはやるべきをやりましょう! 子供達の為にもね」
温泉大旅行の前にお抱えの医者を何人も呼びつけた侍女長アルシナは医者達の見解を聞いて大満足の笑みを浮かべ、ケビン公爵家には使用人達の大合唱が始まった。
「おめでとうございます、奥様!」
「これこそ、神の思し召しですわ。これでケビン公爵家は安泰です!」
「奥様のお子様にたくさんの祝福がありますように……」
「素晴らしいことです! 感動です!」
口々に心からの祝福を口にする。その様子にジュリエットは初めてケビン公爵家に嫁いで良かったと思う。真理はにこにこと余裕の笑みでそんなジュリエットの変化を祖母のような気持ちで見守るのだった。
この後ジュリエットは双子の男の子と女の子を産み、ケビン公爵家の事業を切り盛りし大いに繁栄をもたらした。使用人達からは慕われ愛人には尊敬され、素晴らしい女傑として歴史にも残る女性となった。
夫のイリスィオスの資料は女好きのろくでなしとしか記されておらず子孫からはことごとくバカにされていたようである。
その100年後の子孫イエリアはケビン公爵家の一人娘であるが、イリスィオスの肖像画にちょび髭を書いたり髪をなくしたりして遊んでいたが、誰も注意をする者はいない。
一方、ジュリエットの肖像画は大事にガラスケースに入れられ家宝として受け継がれたのである。ゴッドマザーと呼ばれたジュリエットが若い頃に世を儚んで自殺未遂を起こしかけたことがあることは誰も知らない。ただジュリエットが足を滑らせて湖に落ちた日があり、その日は『奥様が真に目覚めた日』と記され、領地では最もおめでたい日とされ祭日となっているということである。
完
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ご注意
●『肝っ玉かあさん』(きもったまかあさん)は、1968年から1972年までTBS系で全3シリーズにわたって放送されたテレビドラマ。通算放送回数は全117回。石井ふく子プロデューサーが主役に抜擢した京塚昌子が、太った体を生かし、少しおっちょこちょいだがしっかり者の母親を演じて大好評だった。30%前後の視聴率を誇り、後の『ありがとう』や『渡る世間は鬼ばかり』に通じる人気路線の先駆けとなった。Wikipediaより抜粋。
●「男は度胸、女は愛嬌」ということわざがあります。これは、男にとっては物おじしない“度胸”が、女にはにこやかでかわいらしい“愛嬌”が大事だという意味。
●紅茶キノコ
紅茶キノコ(こうちゃキノコ、露: Чайный гриб)は東モンゴル原産で、後にシベリアでよく飲まれるようになった発酵飲料。紅茶、もしくは緑茶に砂糖を加え、そこに培地で栽培されたキノコにも見えるゲル状の塊を12日から14日ほど漬け込む事で発酵させる。
日本では1970年代に健康食品として流行した。家庭で栽培できたことから、株分けにより口コミ的にも広まったが、ブームは『紅茶キノコ健康法』の発行によるところが大きい。
欧米やオーストラリアではコンブチャ(英語: Kombucha)と呼び、健康飲料として売られている。マンゴー味、ストロベリー味、ローズヒップ味といった、欧米向けに加工されているものもある。日本でもSNSなどを通じて関心を集め、「逆輸入」の形で2014年から2016年頃にかけて販売が拡大した 。「コンブチャ」の名称は、その後も日本国内で製造されている紅茶キノコ飲料にも使われている。Wikipediaより抜粋。
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