レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#10-5

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 釣り糸を垂らしてから数分が経過した。私も待つのは嫌いでは無いのだが、ただじっとしているのには、好きではない…。水面に魚影は見えているものの、たった一本の釣り針に引っかかるまでは、相当時間がかかると見た…。
 そう考えると、私に釣りは向いていないのだろう…。
 おまけに、岩の上は直射日光こそは当たらないが、風も当たらない。だから、熱気が籠もり、何もしていなくても、汗が吹き出してくる…。
 「熱いから下に降りてるね…。」
 「うん…。」
 足でも、川の水に浸けられれば、少しは涼めると思い、岩を降りた。
 岩の下は、少しだけ体感温度が低く、これなら熱中症にならなくて済みそうだ。
 「どう?ハマりそう?」
 私も彩も、別の趣味が欲しいと思って、季則さんに頼んで、釣りを始めたは良いものの、釣果がなければ面白くないのが私の正直なところだ…。
 「…今のところは全然…。」
 流石の彩も、私と同じ気持ちらしい…。
 小さい平たい岩の上に腰を下ろし、川の中に足を投げ入れた。川の水は、滝の近くと変わらず、冷たい。
 「いたいた!おーい!」
 私が足を冷やしていると、上流の方から、声が聞こえてきた。
 「何か釣れた?」
 麻由美と寧々だ。脇には私達が置いてきた夏野菜を抱えていた。
 

 浅瀬にもう一度ブールを作り、そこに野菜たちを入れた。
 「ありがとう。持ってきてくれて。もう少し向こうで遊んでると思ったから、置いてきちゃった。」
 「流石に私たちも疲れたから、あんたたち探しに来たけど…何か釣れそう?」
 彩から受け取ったヘアゴムでポニーテールにまとめた麻由美が身軽に岩に登った。
 「…イワナばっかりだね…。」
 「あれくらいなら手掴みでイケるけど、釣りの方が良いんだよね?」
 「うん。私も香織ちゃんも、釣りやったこと無いから、やってみたくて。」
 「なるほど…。だったらもう少し、竿を動かして…。」
 慣れているのか、麻由美が少し釣り竿を動かすと、一匹、吸い込まれる様に疑似餌を突き始めた。そして…。
 「引き上げて!」
 麻由美のその言葉に従う様に、彩が糸を引き上げると、魚が一匹釣れた。
 「つ、釣れた!」
 「香織!網!網!」
 私もその言葉に従い、網を手に持ち、釣れた魚を網の中に入れた。
 「スゴい…。直ぐ釣れた…。」
 岩から降りてきた彩が釣れたばかりの魚に感動した声でそう言った。
 「ここらはあまり人が来ないから、少し仕掛ければ直ぐ釣れるの。」
 「へぇ…。麻由美は釣りも得意なのか…。」
 寧々が感心したようにそう言った。
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