レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#2-4

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 「香織!」
 質問攻めを遮る様に、麻由美の声が、響いてきた。
 声の方に、視線を送ると、中居用の着物を纏った、麻由美と、更に、懐かしい顔が、見えた。
 「久しぶりね。香織ちゃん。」
 「有美さん!」
 薄紫色を基調とした、生地に、白い桔梗の模様が、裾の方に描かれた、美しい着物を身に纏った、女性の名前は、鈴木有美。麻由美の実の母親であり、ここ、百乃季の女将でもある。
 「もし、ガリガリに痩せて居たら、麻由美を、張り倒すところだったけど、良かった、余り変わってなくて。寧ろ、ちょっと太ったんじゃない?」
 「忙しい毎日ですが、お陰様で、何とか、私なりに、上手くやって行けています。」
 「そう…。」
 有美さんは、優しい瞳で、私を見詰め返した。私は、この視線が、好きだった。何と言うか、くすぐったい感じは、するものの、ちゃんと、「私」を見てくれている。そんな実感が、湧いてくる。私が、ここで働いて居た時も、何度も、それに、助けられた。
 だから、私は、その視線が、好きだ。独り占めしたくなる程に…。
 「で、そちらの二人が、麻由美と香織ちゃんの友だちの、寧々ちゃんと、彩ちゃんね?」
 視線が、私の背後にいた、彼女等に移った。
 「まさか、ウチに、“タダ”で泊まらせてくれなんて、言う娘が来るなんて、思っても居なかったわ。」
 「はい。今日は無理を言って、申し訳ありません。」
 寧々が、深く頭を下げた。それに釣られ、彩も頭を下げた。
 「その根性、とっても気に入ったし、香織ちゃんと、麻由美の顔に免じて、許可しました。多少、手伝って貰うけど、ゆっくりして行ってね?」
 「ありがとうございます!」
 有美さんは、頷くと、他のスタッフを持ち場に戻させた。
 「麻由美に、部屋に案内させるから、荷物置いてきて頂戴。その後、大浴場の掃除と、客室の掃除を、それぞれ分担してお願いね。
 麻由美、アンタに一任するから、疲れない程度にやっておいて。」
 有美さんは、そう言うと、フロントの裏へと、消えて行った。

 私たちは、麻由美と、光さんの後に続き、旅館内を歩いた。
 部屋はどうやら、“別館”、従業員専用の建物の5階らしい。
 別館とはいえ、直接外に出る必要はない。ただ、少し細長い、渡り廊下を、20メートル程歩かなければならなかった。
 更に、建材が木材で、屋根はある物の、窓ガラス等ない。暴風雨の時なんかは、ここを通り抜けるのは、一苦労だ…。
 それでも、ここからは、唯一、中庭を、下から見ることのできる場所でもある。
 景観の為、中庭は、上から見下ろして、初めて、美しく見える様な、作りになっているが、下から見ても、かなり荘厳だ。今は夏だから、青々とした葉が、時折吹き抜ける、風に、揺られているが、秋になると、全ての葉が、色着き始める。それを、下から見上げるのも、私は、好きだ…。
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