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7章:廻り
7 誤解
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特別な観光地と言う訳ではないが、連休ともなれば、温泉目当てでやって来る旅行客は一段と増える。
そのため、小さいころから、学校の長期休みや連休と言うのが、嫌いだった。両親たちは、忙しいながらも、私の相手はしてくれていたが、夏休みにどこかに行ったりは、殆どなかった。
だが、高学年になるにつれ、妥協する様になった。どうやったって、状況が変わる訳でもないし、放置されている訳でもない。私は次第に、手伝うようになっていた。
それで、母さんたちが、少しでも楽になるなら、それで良いと思っていた。
でも、夏休み明けに日焼けして登校してくる子や、年末年始に田舎の祖父母の家で過ごしたと語る人たちは、羨ましかった。
高校に入って、ようやっと、私と同じような経験をしてきた人と、知り合えた。そう思っていたのも、一瞬だった。
想像の斜め上を行っていた。旅行はおろか、親には愛されず、他人と遊ぶ暇すらない。私その娘となら、お互いの苦しみを分かりあえると思っていた。
そんな物だから、彼女を救ってやりたかった。少しでも、あの娘の味方で居たかった。何もかも奪われたあの娘に、少しでも自分のやりたい事を、実現させてほしかった。
だが、今年の5月の連休時に、私の望みは、異変へと変わった。
彼女が旅館でバイトをしているとき、幾ら貰っているか、解らなかった。たまたま、昔の事務書類を整理していた時、彼女の給与明細が紛れていた。時給にすれば、至極一般的な額だった。
だが、肝心なのはもう一枚の方だった。借用書のコピーだった。こういう家業の為、借用書は何度も見てきたが、ウチが使っている物とは、書式が明らかに違う。それより、書かれている名前は、香織の名前だった。だが、字の癖は、彼女の物ではないのは、明らかだった。訳が分からず、すぐさま母に訊ねた。
だが、帰って来た答えは、『分からない』だった。態度や口調からは、嘘を付いている訳でもなさそうで、調べてみると言われた。
「その時の、借用書に掛かれていた、金額が、300万だった。今もそのお金の行方も、誰が借りたのかも分らないまま…。」
彼女のバイト先で、それを話した。聞いていたのは、彩と寧々、九条さんと古川さんの4人だ。他にも知り合いが居るらしく、皆必死になって彼女の事を探してくれている。
「なるほど…。じゃぁそのことは、香織ちゃん自身は知らないって事か…。」
「はい…。何度も話そうとはしましたが、なかなか言い出せなくて…。」
「どちらにせよ、香織様本人が裏切られたと感じているのは、事実でしょう。自分の信頼した人にしか教えていない住所。なのに、身に覚えのない、督促状が届いた。
今の彼女は疑心暗鬼になっているのは、まず間違いないでしょう…。」
その言葉を聞き終えるか否かのタイミングで、寧々が勢いよく立ち上がり、格子戸に手を掛けた。
「闇雲に探しても、意味がありませんよ。」
「香織は泣き虫の癖に、今まで誰にも助けてもらえず、ずっと苦しんできた。
今だって、どっかで泣いてるのかもしれない…。もしそうだったら、じっとはしてられない。」
そう言い残して、寧々は店を出て行った。
すると彩までも立ち上がり、開きっぱなしの格子戸に向かった。
「私も昔、大事な人に、取り返しの付かない事をした。香織ちゃんを探すだけで、罪滅ぼしになるのかは、解らない。
少しでも、可能性が上がるなら、闇雲でも、探しに行きます。」
続けざまに、彩も出て行った。知らない内に、仲間や友だちが増えていた。
昔は、倒れても、私しか、手を貸してくれる人がしなかった、香織が…。数か月の内に、『居なくなった』と聞いて、仕事そっちのけで探し回ってくれる、社長や仕入れ業者、骨董品屋の店主、刑事、藤吉先生までもが、動いてくれている。
私だけじゃなく、あの娘を見てくれる人は、沢山いた。少しだけだが、私も、肩の荷が下りた気がした。
そのため、小さいころから、学校の長期休みや連休と言うのが、嫌いだった。両親たちは、忙しいながらも、私の相手はしてくれていたが、夏休みにどこかに行ったりは、殆どなかった。
だが、高学年になるにつれ、妥協する様になった。どうやったって、状況が変わる訳でもないし、放置されている訳でもない。私は次第に、手伝うようになっていた。
それで、母さんたちが、少しでも楽になるなら、それで良いと思っていた。
でも、夏休み明けに日焼けして登校してくる子や、年末年始に田舎の祖父母の家で過ごしたと語る人たちは、羨ましかった。
高校に入って、ようやっと、私と同じような経験をしてきた人と、知り合えた。そう思っていたのも、一瞬だった。
想像の斜め上を行っていた。旅行はおろか、親には愛されず、他人と遊ぶ暇すらない。私その娘となら、お互いの苦しみを分かりあえると思っていた。
そんな物だから、彼女を救ってやりたかった。少しでも、あの娘の味方で居たかった。何もかも奪われたあの娘に、少しでも自分のやりたい事を、実現させてほしかった。
だが、今年の5月の連休時に、私の望みは、異変へと変わった。
彼女が旅館でバイトをしているとき、幾ら貰っているか、解らなかった。たまたま、昔の事務書類を整理していた時、彼女の給与明細が紛れていた。時給にすれば、至極一般的な額だった。
だが、肝心なのはもう一枚の方だった。借用書のコピーだった。こういう家業の為、借用書は何度も見てきたが、ウチが使っている物とは、書式が明らかに違う。それより、書かれている名前は、香織の名前だった。だが、字の癖は、彼女の物ではないのは、明らかだった。訳が分からず、すぐさま母に訊ねた。
だが、帰って来た答えは、『分からない』だった。態度や口調からは、嘘を付いている訳でもなさそうで、調べてみると言われた。
「その時の、借用書に掛かれていた、金額が、300万だった。今もそのお金の行方も、誰が借りたのかも分らないまま…。」
彼女のバイト先で、それを話した。聞いていたのは、彩と寧々、九条さんと古川さんの4人だ。他にも知り合いが居るらしく、皆必死になって彼女の事を探してくれている。
「なるほど…。じゃぁそのことは、香織ちゃん自身は知らないって事か…。」
「はい…。何度も話そうとはしましたが、なかなか言い出せなくて…。」
「どちらにせよ、香織様本人が裏切られたと感じているのは、事実でしょう。自分の信頼した人にしか教えていない住所。なのに、身に覚えのない、督促状が届いた。
今の彼女は疑心暗鬼になっているのは、まず間違いないでしょう…。」
その言葉を聞き終えるか否かのタイミングで、寧々が勢いよく立ち上がり、格子戸に手を掛けた。
「闇雲に探しても、意味がありませんよ。」
「香織は泣き虫の癖に、今まで誰にも助けてもらえず、ずっと苦しんできた。
今だって、どっかで泣いてるのかもしれない…。もしそうだったら、じっとはしてられない。」
そう言い残して、寧々は店を出て行った。
すると彩までも立ち上がり、開きっぱなしの格子戸に向かった。
「私も昔、大事な人に、取り返しの付かない事をした。香織ちゃんを探すだけで、罪滅ぼしになるのかは、解らない。
少しでも、可能性が上がるなら、闇雲でも、探しに行きます。」
続けざまに、彩も出て行った。知らない内に、仲間や友だちが増えていた。
昔は、倒れても、私しか、手を貸してくれる人がしなかった、香織が…。数か月の内に、『居なくなった』と聞いて、仕事そっちのけで探し回ってくれる、社長や仕入れ業者、骨董品屋の店主、刑事、藤吉先生までもが、動いてくれている。
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