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廃洋館

#29

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 「その邪悪な、もう一人は、今どこにいるんだ?」
 寺井さんが、少し強い口調で、ナツミさんを見据えた。
 ナツミさんは、暫く黙ったあと、静かに口を開いた。
 『今は、地下室に封印されています。邪悪とは言っても、元は私の悪い部分が、そのまま具現化した存在…。呪いこそはすれど、他人に害を及ぼすことはないです…。余程、彼女の怒りを買う事をしなければ、の話です。
 会ってみますか?』
 彼女のその言葉に、一早く応えたのは、大谷だった。
 「お願いします。」
 ナツミさんは、その言葉を聞くと、急に立ち上がり、檻に向かって歩き出した。そして、まるで、お店の暖簾を潜るかの様に、檻を文字通り、すり抜けた。
 それを見て、私は思わず驚き、声を上げた。
 ナツミさんは、優しく微笑んだ。
 『皆、最初は、貴女と同じ反応をするものですよ。』
 彼女はそう言い、両腕を上に挙げ、身体を伸ばした。
 『外に出たのは、久々…。さ、行きましょうか。』
 そう言うと彼女は、上ってきた階段の方に歩き出した。
 私たち三人は、彼女の後に続き、階段の方に向かった。
心なしか、檻の中にいるときよりも、生き生きとしている様な気がする…。彼女に対して、“生き生き”は、どうなのかとは思うが、今は、気にしないことにした。
 『よく、この階段の場所が分かりましたね…。確か、陣内さん…でしたっけ?』
 「え、えぇまぁ…はい…。こういう事は、得意な物でして…。」
 『羨ましいですね…。そう言った“特技”というものが、あって…。』
 彼女は、少し寂しそうにそう言った。特技。私に言わせれば、壁をすり抜けたり、幻影を見せるのも、立派な特技だと思う…。
 「それより、この建物に、地下室なんてのも、有ったんだな…。」
 「僕たちが、探索していた時は、そう言った入り口や、階段なんてものは、見なかったですけど…。

 『それが、あるんですよ。』
 私たちは、書斎を抜け、更に、1階に続く階段を降り、大広間に入った。
 『この部屋にも、実は、隠し扉があるんですよ。』
 ナツミさんは、暖炉の前にしゃがみ込み、柵状になっている、ファイヤーガードの両脇を、手前に引っ張った。
 すると、暖炉の脇の床が、グラグラと揺れ、ゆっくりと開いた。
 そして、下へと続く階段が露わになった。
 「こんな仕掛けが…。」
 『からくり屋敷って、いうものですから…。』
 彼女はその階段を、降りた。私たちも逸れに続いた。
 地下室と言われる空間は、少し黴臭さを漂わせていた。無理もない…。壁や天井には、窓はおろか、換気扇の類も、見当たらないのだから…。
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