上 下
92 / 113
番外編

【IF】シエテルート2nd 1

しおりを挟む
「姫の家族として生まれて、姫を守り慈しみ愛したい」

 カーシュの返答を聞いた精霊たちはくすくすと笑いながらからかうように言った。
 
「くすくす。あれ?恋人になるには家族じゃ駄目だよ?」

「いや。恋人でなくていい。俺は家族として姫を大切にしたい。そして、今生で与えられなかった家族の愛で姫を包み慈しみ守り愛したいんだ」

「ふふふん。君は欲が無いようで欲張りだね。分かったよ。家族として生まれるように転生の準備をしよう」

「ありがとう。感謝します。それと、厚かましいお願いなのだが……」

「分かっているよ。できるだけ記憶を引き継げるようにしておく。でも完全じゃないよ?」

「それでいい。姫を守るためには、俺の学んだ戦闘技術が役立つはずだ。それと姫を守り慈しむ心さえ引き継げれば問題ない」

「はいはーい。愛し子の記憶はどうしよう。確認してなかったや。一応、それとなく。そうだ、夢物語のように夢で見るようにしよう。そうすれば、自分で決めてもらえる。夢が夢で終わるのも、それを前世の自分だと考えるのも次のあの子が自分で好きに決めればいい。それこそ自由ってもんだよね。それじゃぁ、ちょっとサービスしておくからね!良い来世を!ふふふ!!君の幸せも私達は祈っているよ。どうか、幸せになってね!!」

 精霊たちの楽しそうな謎理論と送り出しの言葉を聞きながら、カーシュの意識は遠くなっていき、次に目覚めた時は、シエテ・ゾールとして生を受けたいた。



 カーシュが、シエテとして目覚めたのは5歳のときだった。それまでは、ふわふわとした夢心地だったが、あることが切っ掛けでカーシュとしての記憶を完全に思い出したのだ。
 それは、シエテが5歳の時だった。
 母から、「シエテ、もうすぐお兄ちゃんになるのよ」と言われたシエテは、母親に言った。
 
「お母さん!きっと、可愛い妹が生まれるんだ!!」

 幼いシエテは、なんとなく生まれてくるのは妹だと思ったのだ。
 それを聞いた母は、小さく笑って、シエテに言った。
 
「そっか、それなら可愛い妹に格好いいお兄ちゃんって思ってもらえるように頑張らなくちゃね」

「うん!!」

 そして、母親が妊娠五ヶ月の時に、父親の親友の家に行くということで、馬車に乗って向かった時に悲劇は起きた。
 シエテと両親は、辻馬車で親友の家に向かっていたが、途中馬車の車輪が外れて横転してしまったのだ。
 更に悪いことに、倒れた馬車は崖下に滑り落ちてしまったのだ。
 馬車から外に投げだれたシエテと両親だったが、三人が投げ出された頭上に、馬車が落ちてきたのだ。
 両親が、とっさにシエテに覆いかぶさったことで、シエテは無事だったが、両親はシエテを庇ったことでこの世を去っていた。
 両親と、生まれてくるはずの妹を失ったシエテは泣き叫んだ。
 そして、両親の死体の下敷き状態でシエテは前世を思い出したのだ。
 それと同時に、敬愛するイシュミールが生まれ変わる前に死んでしまったことにシエテは声が枯れても泣き叫び続けた。
 
 どのくらいの時が経ったのか分からなくなった時、救助が来たのだ。
 シエテは、朦朧とした意識の中で、イシュミールのいない世界で生きることの無意味さを感じながら意識を手放した。



 シエテは、救助されたすぐ後に、両親の親友だというソル家に養子として引き取られることになった。
 ソル家は、領主の屋敷で住み込みで働く庭師だった。
 義父と義母。そして、1つ年下の義妹との暮らしが始まった。
 シエテは、両親と生まれてくるはずだったイシュミールを失ったことで心を閉ざしていた。
 
 そんなシエテに、義妹となったシーナが慰めるように、シエテの頭をなでながら言ったのだ。
 
「にーに?どこか痛い?痛いの痛いの飛んでいけ~」
 
 そこで初めてシエテは、義妹をきちんと見たのだ。
 栗色の柔らかそうな髪に、大きな青い瞳の可愛らしい少女だった。
 シーナの青い瞳を見たシエテは、直感的に理解したのだ。
 この幼い少女が、イシュミールの生まれ変わりだということをだ。
 イシュミールと似ても似つかない少女だったが、シエテには分かったのだ。
 両親と、生まれてくることが出来なかった妹を思うと心が痛くて痛くて仕方がなかったが、シエテは運命の巡り合わせを知り、精霊に感謝した。
 
 
 シエテはまったく知らなかったが、両親と生まれてくるはずの妹の死は、精霊たちにとっても予想外の展開だった。
 精霊たちの考えでは、両親と共にソル家に遊びに行った際に、シーナと出会い、シーナに恋をして愛を育み家族になるという展開を予定していたのだ。
 こんなことになると知っていれば、小細工せずに二人を双子の仲良し兄妹として転生させればよかったと精霊たちは後悔したのだった。


 それからシエテは、改めて家族になってくれた義父と義母、シーナを家族として受け入れたのだった。

 一緒に暮らすうちに分かったことだが、シーナは前世の記憶を持っていないようだった。しかし、両親の死を経験したシエテを優しく家族として受け入れてくれたのだ。
 それは、シエテが5歳にして、義妹となったシーナの為に生きようと決めた瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?

カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。 ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を 助けようとして、事故死。 その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。 魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

悪役令嬢?それがどうした!~好き勝手生きて何が悪い~

りーさん
恋愛
※ヒロインと妹の名前が似ているので、ヒロインの名前をシェリアに変更します。 ーーーーーーーーーーーーーー ひょんな事からある国の公爵令嬢に転生した私、天宮 えりか。 前世では貧乏だったのに、お金持ちの家に生まれておおはしゃぎ!───かと思いきや、私って悪役令嬢なの? そんな……!とショックを受ける私────ではなかった。 悪役令嬢がなんだ!若いうちに断罪されるって言うなら、それまでに悔いなく生きれば良いじゃない!前世では貧乏だったんだもの!国外追放されても自力で生きていけるわ! だから、適当に飯テロや家族(妹)溺愛していたら、いろんな事件に巻き込まれるわ、攻略対象は寄ってくるわ……私は好き勝手生きたいだけなんだよー! ※完全に不定期です。主に12時に公開しますが、早く書き終われば12時以外に公開するかもしれません。タイトルや、章の名前はコロコロ変わる可能性があります。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...