上 下
70 / 113
第三部

第七章 二度目の恋と最後の愛 3

しおりを挟む
 どさくさに紛れて、とんでもないことを知ってしまったとカインは、冷や汗をかいていたが、本来の目的を遂げるべく、改めて国王と王妃に向かい合った。
 技術特区で受け取ってきたものを取り出し、二人に見せてから説明を始めた。
 
「これを見てください。これは、俺から技術特区に依頼して用意したものです」

 カインが見せたものは、戸籍の登録に使う魔道具だった。
 それを見た二人は首を傾げて、魔道具を手にとって眺めた。
 カインは、二人にその魔道具について説明を始めた。
 
「その魔道具は、人の持つ特殊な能力を判別することが出来ます。例えば、魅了眼と言った特殊な力をです」

 カインの言葉に、国王と王妃は息を呑んだ。
 さらに続けてカインはもう一つの魔道具の説明をした。
 
「そして、これは人の精神に影響を及ぼすような特殊な力を封印するための魔道具です。俺からの要件は、今後戸籍の登録の際は必ずこの魔道具を使うことと、人の精神に影響を及ぼすような力があると分かった場合は、必ずこの魔道具で力を封印するという事です。俺は、これを完成させるためにイシュタルを今まで生かしていました。本来は、法の下に裁かれるべきでしたが、ミュルエナが裁いてしまっているので、それは叶いませんが」

 そう言ってから、カインは改めてイシュタルの魅了眼から始まったイシュミールとの入れ代わりについて語った。
 そして、イシュタルを捕らえていたことも全て話したのだった。
 
 ある程度ミュルエナから報告されていたのか、国王と王妃はただ静かに話を聞くだけだった。
 カインが全て話し終えた時に、国王は魔道具の量産を改めて特区に依頼し、出来上がり次第各領地に送るように手配すると言った。
 それを聞いたカインは安堵の息を吐いた。
 しかし、カインにはまだしなければならないことがあった。
 民衆に伝わっている、イシュミールの汚名を雪ぐことが終わっていなかった。
 カインは、自分の名で事のあらましを公表することを国王に言ったが、それは拒否されてしまった。
 
「何故です!?俺の名前で全てを公表することのどこがいけないんですか!!」

 カインが、国王に食って掛かったが、それはあっさりとかわされてしまった。
 
「カインよ。これはとても重大な問題だ。たとえ当事者だとしても、お前の名前で公表すべきものではない。これは、儂の名で広く国民に知らせる。あの時、お前の様子は明らかに可怪しかったが、儂は何もせずに刑を決めてしまった。王妃には、後で叱られてしまったが、そのときにはもう遅かった。随分と時間が経ってしまったが、本当にすまなかった。イシュミール嬢にも悪いことをしてしまった……」

 そう言って、国王は最後は眉を寄せて謝罪の言葉を語った。
 しかし、国王の行動は早かった。カインにそう言ったあと、予め用意でもしていたかのような迅速さで国中に知らせを出したのだった。
 
 その知らせには、18年前に起こった、アックァーノ公爵令嬢のイシュミールの身に起きた悲劇とその結末について知らせる内容だった。
 そして、悲劇の元凶たるイシュタルは既に、カインの手によって断罪され葬られている事が知らされたのだった。
 その知らせと共に、人々には魅了眼の恐ろしさが伝えられたのだった。
 そのことから、新しい戸籍登録にも民衆は納得する者が大多数だった。
 中には、特殊な力を使って悪事を働こうとする考えを持つ者もいたが、それについては、裏社会のボスとなったミュルエナが許さなかったため、表と裏、どちら側も新しい戸籍登録に従順に従ったのだった。
 
 その知らせとは別に、昨日の騒ぎについてはカインの名で知らせが出された。
 その内容は、「雇っていたメイドが手元を狂わせて屋敷が燃えて、運悪く爆発した」というものと、「年の離れた女性と両思いになったため婚約を考えているが、その女性の兄に反対されて口論になった」という、事実ではあるが、真実でもない当たり障りのない内容が伝えられたのだった。
 しかし、昨日の騒ぎを聞いていた者たちは、その内容に多少の不満はあったが、「あまりお貴族様の内情をああだこうだ言うのも面倒事に巻き込まれそうで面倒だ」という、心情から深く追求されることはなかったが、あの日飛び交ったカインの、変態疑惑や童貞疑惑は実しやかに囁かれていたのは仕方ないと言えよう。
 ただし、ロリコン疑惑については疑惑ではなく真実として広く知られることになるのだった。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

全てを義妹に奪われた令嬢は、精霊王の力を借りて復讐する

花宵
恋愛
大切なお母様にお兄様。 地位に名誉に婚約者。 私から全てを奪って処刑台へと追いやった憎き義妹リリアナに、精霊王の力を借りて復讐しようと思います。 辛い時に、私を信じてくれなかったバカな婚約者も要りません。 愛人に溺れ、家族を蔑ろにするグズな父親も要りません。 みんな揃って地獄に落ちるといいわ。 ※小説家になろうでも投稿中です

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

処理中です...