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第三部

第四章 とあるメイドの独り言 5

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「屋敷に火を付けろ」

 その言葉に、ミュルエナたちは無言になった。
 カインは、それを気にする素振りも見せずに続けて言った。

「この荒れようだ。どうせ大々的にリフォームか建て替えをする必要が出てくる。だから問題ない。それと、この死体を使ってイシュタルも死んだように見せられるか?」

 その言葉を聞いたミュルエナは無言で頷いた。
 さらにカインは、ミュルエナに死体の工作が終わった後に火を付けることを命じた。
 
 ミュルエナは、死体の中にあったメイドたちの体のパーツからもう一つの死体を作り出した。火で焼かれれば、多少の違和感があっても分からないだろうと判断して、手早く工作を終えた。
 その後、屋敷の至る所に火を付けた。
 時間差で全体に火が回るようにしてから、乗ってきた馬車で屋敷を後にした。
 
 屋敷を大分離れたところで、大きな爆発音が鳴り響いた。そして、遠くに見える屋敷から火の手が上がっているのがはっきりと目に見ることが出来た。
 そうしているうちに、元々乗ってきた馬車を隠していた場所まで戻ってきた。
 カインは、馬車を乗り換えてから、使用人に空になった馬車の片付けを命じてからもう一度、公爵の屋敷に向かった。
 公爵の屋敷に着くと、沢山の人集りができていた。
 ざわめく人集りを押し退けて、カインは消火作業についての状況を確認すべく行動した。
 水をかけての作業をしているようだったが、火はまったく消えていなかった。
 カインは、懐に忍ばせていた魔道具を取り出してミュルエナに命じてそれを屋敷の四方に設置させた。
 ミュルエナに魔道具の設置をさせている間に、敷地内にいる全員に外に出るように指示を出した。
 全員が外に出たことを確認したタイミングで、ミュルエナも魔道具の設置を終えた。
 カインは、魔道具を起動させて屋敷を囲むように結界を展開させた。
 この結界は、技術特区謹製の特殊なもので結界の中に入れるものを指定・・できるようになっていた。
 カインは、その指定をする際に結界の中に酸素を通さないように指定をした。
 そのため、火は徐々に弱まりやがて完全に消えた。
 火が消えたと判断したカインは、結界を解いた。
 その後、集まっていた領地を警備する兵に身分を明かし「領地に戻るイシュミールの事を心配して追ってきたら屋敷が燃えていた。彼女が心配だ」と言って、屋敷内に入っていった。
 屋敷の中は、煤けており何人もの焼け焦げた人間の死体が転がっていた。
 警備兵は、そこにあった遺体の数は、イシュミールとそれに同行した使用人、警備兵の数と一致すると報告をしてきた。
 
 こうして、アックァーノ公爵一家は、公爵夫妻だけではなく、その長女のイシュミールも死んだと世間には知らされた。
 その際に、幽閉していたイシュタルも自害・・したと周囲には知らされたのだった。
 
 こうして、カインは周囲を欺き復讐相手をその手中にしたのだった。
 全ては、真実を知りイシュミールの汚名を雪ぐためだった。
 
 ミュルエナは、そんな回りくどい事をするカインを面倒だと思ったが、何をするにも周りを固めることも大事だと思って何も言わなかった。
 それからは、カインの屋敷の地下にイシュタルを閉じ込めてどうやって周りを操ったのか聞く日々だった。
 イシュタルの世話はミュルエナの仕事だった。
 カインは、屋敷とイグニシス領を行き来する日々だった。
 そんなある日、とうとうカインはイシュタルの力の秘密を見つけ出したのだ。
 
 魅了眼。
 
 その瞳に見つめられると、その相手の言いなりになるという恐ろしい瞳だった。
 
 その事を知ったミュルエナは、抉ってしまえとカインに言った。しかし、カインはそれを却下した。
 そして、特殊な薬で両目を潰した。
 
 ミュルエナは、これでイシュミールの汚名を雪ぐ事ができると思ったが、カインはそうしなかった。
 この事を公表し、イシュタルを断罪すべきだとカインに迫ったが、カインはそれをしなかった。
 なにか考えがあるようで、未だにイシュタルを閉じ込めたままにしていた。
 そんなカインのことを見ていられなくなったミュルエナは、ある時カインに言ったのだ。
 
「王子殿下……。過去だけを見ているだけでは駄目です。私も人のことをとやかく言える状態ではないですが……。お嬢様はきっと、今の王子殿下を見たらきっと悲しみます。だから、少しでも良いので前を見ましょう」

 敬愛するイシュミールが、今のカインを見たらきっと悲しむという思いから出た言葉だった。
 それからカインは、王都から遠く離れた領地を得て、領地と王都を行き来する日々を過ごすことになった。
 ミュルエナは、その間も王都に残りイシュタルの世話をした。
 その間、カインから命じられていたあることもしながら、未だに復讐に燃える心を滾らせていたのだった。
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