上 下
29 / 113
第二部

第三章 ちょっと待て、どこがゴリラだ!ゴリラ成分ZEROだろうが!! 3

しおりを挟む
 黒髪の少年は、シエテに黙らされた後落ち着きを取り戻したようで、二人を店の中に案内した。
 シエテは、用は済んだと帰ろうとしていたが、シーナから「帰っちゃうの?」と言った残念そうな視線を感じたため、渋々店の中に入っていった。
 
 店の中は、シーナにとって珍しいもので溢れていた。
 見たことのないような道具たちに、何かの素材たち。光る石に輝く液体。
 瞳を輝かせて店の中の商品を見つめるシーナを見たシエテは、帰らなくてよかったと心底思っていた。
 そこへ、少年がお茶とお菓子を勧めてきた。
 
「小りすちゃん。品物はゆっくり見ていいから、とりあえずお菓子でも食べてお話でもしようよ」

 そう言われたシーナは、少し名残惜しくはあったが勧められるままにお菓子とお茶の用意されているテーブルの椅子に座った。
 
 少年は、大人しく座ったシーナをニコニコしながら見つめていた。
 
 用意されていたお茶からはとても甘い匂いがした。シーナは、カップを両手で持って湯気を立てるお茶にふーっと、息をかけて冷ましながら一口飲んだ。
 その瞬間口の中に広がる、爽やかな甘さに驚きつつも、その美味しさからコクコクと続けて飲んだ。
 心ゆくまで堪能したシーナは、カップから口を離してから、唇の端に残っていた甘さを舌でぺろりと舐めてから、ほっと息をついた。
 
「美味しい……」

「そっか、良かったよ。姉ちゃんが趣味でブレンドしてるお茶なんだよ。お菓子も食べてね」

「ありがとう」

 お礼を言いつつ、ニコリと微笑むシーナにデレッとした表情を黒髪の少年がした途端、シエテが少年の足をテーブルの下で蹴りつけた。
 痛がる黒髪の少年を無視してシエテはシーナに少年のことを改めて説明した。
 
「シーたん。こいつは、クリフだ。俺たちと同い年だから、タメ口でいいからな」

「クリフ?同い年なんだね」

 同い年だと知ったシーナは、黒髪の少年をじっと見つめた。
 黒髪の少年は大きな青い瞳にじっと見つめられて、慌てたように言った。
 
「おっ、俺!クリストフ・レイゼイだ!よ、よろしくな!」

「クリストフ?分かった。よろしくね。私は、シーナだよ」

「シーナちゃんだな!!シエテとはどんな関係なの?幼馴染とか?」

「違うよ?私とにーには双子の兄妹だよ」

 クリストフは、シーナからシエテとは双子だと聞いた瞬間、目を見開いた。そして、それまで大人しくお茶を飲んでいたシエテに視線を向けて大声で言った。
 
「おっ、お前!!妹は、ゴリラじゃなかったのかよ!!」

「はっ?」

「えっ、だって……。前に、妹の話をしていたときに、俺がシエテに妹もお前に似てるのかって聞いたらそうだって!だから俺、妹もお前みたいに年の割に筋肉のあるゴリラ女だとばっかり……」

「そんなこと一言も言っていない。俺は、お前から妹と似ているかと聞かれたから、(栗色の髪の色は)似ているとしか言っていない」

「だって、妹は剣も弓も体術もできるって……。だから、てっきりムキムキのゴリゴリマッチョゴリラ女だと……」

「俺は、妹は(小柄で華奢な体つきだが)剣も弓も、体術もできるとしか言っていない」

「そっ、そんな……。お前の妹がこんなに可愛いって知っていたらもっと早くお知り合いになりたかったのに!!!」

 打ちひしがれるクリストフを、冷めた目で見ていたシエテは心のなかで(誰がお前のような男に、可愛いシーたんを紹介するものか。今回は、俺が口を滑らせたせいで仕方なくだ……)と、心の狭いことを考えていた。
 
 そこに、シーナの可愛らし声が割って入った。

「ねぇ?にーには、私のことゴリラ女って思わせるように、あえてクリストフに誤解を与えるように話していたってことかな?そうなのかな?それとも、にーにには、私が筋肉盛り盛りでゴリゴリマッチョな脳筋ゴリラ女に見えているのかな?返答次第では、にーにとの接し方が変わるかもしれないね?」

 シーナのそんな言葉を聞かされたシエテは、いつかのように速攻で床に這いつくばり低姿勢で謝罪した。
 
「シーたん!!ごめんなさい。敢えて誤解させるように言いました!!だって、可愛いシーたんのことを知られると、クリフに興味を持たれると思ったから!!だから、敢えて誤解させました。シーたんのことは、可愛くて可愛くて、そのちっちゃい所とか、おっきなお目々とか、柔らかい髪とか、甘い匂いとか、すべすべな所とか、全部全部大好きで大好きです!!世界一可愛いよシーたん!!!」

 シエテの謝罪に、シーナはとても恥ずかしくなり真赤になってしまった顔を隠すために俯いた。
 クリストフは、いつもは冷静で少し冷たいところもあるシエテがここまでシスコンを拗らせていることに驚愕して声を出せずにいた。
 
 傍から見ると、ものすごい構図になっていた。
 可愛い美少女の足元に這いつくばり許しを請う、残念なイケメンというものすごい構図ができあがっていた。
 
 そして、運悪くクリストフの姉が店に顔を出したのだ。
 この異様な光景を目の当たりにしたクリストフの姉は、努めて冷静な声音で言ったのだ。
 
「お茶が冷めてるから、淹れ直してあげるよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち
恋愛
 7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。  前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。  唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。  そして――。  この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。  この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。  しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。  それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。  しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。  レティシアは考えた。  どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。  ――ということは。  これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。  私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

処理中です...