上 下
17 / 113
第二部

第一章 第二の人生は生きたいように生きる 2

しおりを挟む
 翌日から、シエテによる戦闘訓練が始まった。
 といっても、最初に行われたのは基礎体力増強メニューだった。
 毎日の長距離走と筋力トレーニングがメインの内容だった。
 自分に兄ほどの体力がないことは重々承知していたシーナは地道な体力トレーニングを真面目にこなしていた。
 
 半年ほど体力トレーニングだけの日々を送っていたが、ある程度の体力がついたと判断したシエテから新しく2つのメニューが追加された。
 一つは、木刀での素振りだった。
 シエテいわく、いくつかの剣術の型を反復練習した後に、実際に打ち合いをするということだった。
 もう一つは弓だった。
 ただし、実際に弓矢は使わずに、弓の弦を引き絞るだけのメニューだった。ただ、最初は全く弓を引くことが出来ず、シエテから弓を完全に引ききった状態を保つことができるまで弓矢を使用することは禁止されたのだった。
 
 木刀での素振りは2ヶ月ほど経ったところで打ち合い稽古に移行した。
 その際、シエテから剣での戦いについての駆け引きも同時に教えられた。
 シーナはそれを吸収していき、訓練をはじめて一年ほどで剣術はお墨付きをもらえた。
 弓は、筋力が付くまでに時間はかかったが、弓を引けるようになったあとは直ぐに要点を得て狙った的に当てられるようになった。
 弓も、一年ほどでお墨付きとなった。
 シーナは訓練をする上で体を動かすことが大好きとなりお墨付きをもらっても満足せずに、その他にも槍や格闘術、更には簡単な魔術も習得するに至った。
 
 シーナは、シエテから訓練を受けている時に、何度も既視感に襲われる事があった。
 それは、シーナに訓練を付けるシエテの剣技や足運びの独特な癖が、夢で見た騎士に似ていると思うことが度々あったのだ。それを不思議に思ったのだ。
 そして、一度気になるとそれをスッキリさせたいと考えたシーナは、夢の中で見た騎士、カーシュのことを考えた。
 そして、ここでありえない仮説が閃いてしまったのだ。

(まさか……。でも、私もそうなるとありえないということになるし……。考えても仕方ない。ここはストレートに聞こう!!)

 自分の立てた仮説が合っているのか確かめるため、シーナは訓練の休憩中に、シエテの目を見つめて言った。
 自分のことをじっと見つめる可愛い妹の姿にデレッとした表情になったシエテを見て一瞬、カーシュと同一人物なのか疑わしい気持ちになりつつも、違うなら違うで、スッキリすると考えてすっぱりストレートに聞いた。
 ただ、釘を刺すことは忘れずにだが。

「嘘を言ったら口利かないからね!!」

「ん?なんだ?お兄ちゃんに聞きたいことがあるのか?シーたんの質問になら何でも答えちゃうよ!!」

「にーにって、もしかしてカーシュなの?」

「…………」

 思いも寄らない質問をされたシエテは、最初は無言になり、その後なにかに葛藤する様子を見せてから、大量の冷汗を流しつつ、目を泳がせた。
 何も言わなければ、嘘にはならないとの判断だったようだ。
 しかし、シーナはさらなる追撃を与えた。

「何も言わないで誤魔化すのは最上級の罪だよ。もう、にーにとは呼ばないし、家族の縁を切るからね!!」

 それを言われたシエテは、高速で地面に這いつくばり叫んだ。
 それは見事な程の低姿勢だった。

「お兄ちゃんは、カーシュだよ!!お願いだから嫌いにならないで!!シーたんの事が好きすぎて、家族の縁を切られたらお兄ちゃん生きていけないよ!!!!姫も大切だったけど、今はシーたんが一番だよ!!シーたんが大好きなんだよーーーーー!!!」

 そう、シーナに告げたあと最後にはわんわん泣き出した。

 シーナはそんなシエテの頭を優しく撫でて言った。

「別ににーにを嫌いにならないよ。それに、ただ気になって聞いただけ。イシュミールに代わって言いたいことがあるの。イシュミールを守ってくれて、大切にしてくれてありがとう」

 それを聞いたシエテは更に号泣した。それはもう、まぶたが赤く腫れ上がるほど。
 
 ただし、シエテの号泣は嬉し泣き半分と残念な自分を呪ったもの半分となった。
 
「そっか、やっぱりそうなんだ。カーシュはあんなに格好良かったのに、どうしてにーにはこんなに残念な感じになっちゃんだんだろうね?」

 自分が前世の自分よりも残念な存在になっていたことは否定できないが、大切な妹にもそう思われていたことを知り泣きたくなったと言うか、マジ泣きしたシエテだったのだった。
 
 お互いに前世の記憶を持っていることを知ってからも、特にそのことを話すことはなく、今この時を大切にしていた。
 そう、庭師の両親のもとに生まれた仲良しの、いや、仲が良すぎる双子の兄妹として。
 
 
 その後、シーナは庭師の両親の手伝いをする傍ら、一番上達した弓を生かして猟師業を趣味とするようになっていた。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

処理中です...