上 下
7 / 10

父様……、ごめんなさい……

しおりを挟む
 何も見たくなかったわたしは、瞼を閉じたまま手を引かれて連れられるがままに移動していた。
 
 結構な距離を移動したと思うけど、周辺はとてもシンと静まり返っていた。
 目を開ける勇気もなく、ただただ不安で仕方がなかった。
 
 そうしていると、誰かがわたしの側にやって来たのが分かった。
 
 身を固くしていると、声を掛けられた。
 
「ソフィエラ……、とても綺麗だよ……。こんな日が来るだなんて……、父さんは……父さんはっ……」

 声の主は父様だった。
 父様の声は、震えていた。
 もしかして泣いているのかしら?
 
 そうよね……、王太子の不興を買った娘がこれから惨めに晒されるという場面に立ち会わされるだなんて、泣きたくもなるわよね。
 でも、わたしだって泣きたいわ。
 ここまでされるようなことした覚えがないものだも。
 
 わたしは隣で泣いている父様に、下を向いたまま瞼を閉じた状態だったけど、辛うじて小さな声で言葉を掛けていた。
 
「父様……、ごめんなさい……。わ、わたし……」
 
 言葉が続かなかった。これ以上言ったら、きっと泣いてしまうから。
 惨めな姿をこれ以上晒したくないという思いから、ぐっと泣くのを堪えたわ。
 
 そんなわたしのことを心配してか、父様は優しく言ってくれたわ。
 
「ん?どうして、ソフィエラが謝るんだ?悪いのは父さんだ。済まないな……、こんな事になってしまって。お前に大変な思いをさせてしまって……。一週間、辛かっただろう?父さんも反対したんだよ?でも、王太子殿下の強い希望で、断れなかったんだ。でも、父さん少しだけ頑張って、王太子殿下に仕返ししてやったぞ?さぁ、これから大変だとは思うけど胸を張って!!殿下を驚かせてやろう!!」

 そう言って、父様に手を引かれたわたしは、覚悟を決めた。
 父様が扉を開ける気配がした。そして、扉の先には沢山の人の気配があった。
 
 怖い、怖いよ……。
 
 でも、どんなに嘲笑われても、顎を引いて毅然とした態度でこの残酷な運命を乗り越えると……、あれ?なんで?? 
 
 覚悟を決めて目を開けて、目の前に広がる光景を見たわたしは意味が分からなかった。
 
 わたしの頭の中は、沢山のどうしてで埋め尽くされていた。
 
 そして、わたしの視線の先には、真っ白な衣装に身を包んだ誰かが立っているのが見えたの。
 
 その光景は、丸でわたしの結婚式のようだった。
 
 ベールで目の前が薄っすらとしか見えないわたしは訳も分からずに、父様に手を引かれるまま広間を進む。
 白い衣装の誰かの前に着くと、父様は涙声で言った。
 
「どうか、娘を……、末永く幸せにしてやってください」

 まさかの展開に、体から血の気が引いた。
 カウレス様の結婚式と同じ日に、誰とも知らない相手と結婚させられることになるなんて……。
 
 でも、カウレス様がわたしにと選んでくれた結婚相手だ。
 受け入れよう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

【完結】元悪役令嬢の劣化コピーは白銀の竜とひっそり静かに暮らしたい

豆田 ✿ 麦
恋愛
 才色兼備の公爵令嬢は、幼き頃から王太子の婚約者。  才に溺れず、分け隔てなく、慈愛に満ちて臣民問わず慕われて。  奇抜に思える発想は公爵領のみならず、王国の経済を潤し民の生活を豊かにさせて。  ―――今では押しも押されもせぬ王妃殿下。そんな王妃殿下を伯母にもつ私は、王妃殿下の模倣品(劣化コピー)。偉大な王妃殿下に倣えと、王太子の婚約者として日々切磋琢磨させられています。  ほら、本日もこのように……  「シャルロット・マクドゥエル公爵令嬢!身分を笠にきた所業の数々、もはや王太子たる私、エドワード・サザンランドの婚約者としてふさわしいものではない。今この時をもってこの婚約を破棄とする!」  ……課題が与えられました。  ■■■  本編全8話完結済み。番外編公開中。  乙女ゲームも悪役令嬢要素もちょっとだけ。花をそえる程度です。  小説家になろうにも掲載しています。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

この影から目を逸らす

豆狸
恋愛
愛してるよ、テレサ。これまでもこれからも、ずっと── なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

愛と浮気と報復と

よーこ
恋愛
婚約中の幼馴染が浮気した。 絶対に許さない。酷い目に合わせてやる。 どんな理由があったとしても関係ない。 だって、わたしは傷ついたのだから。 ※R15は必要ないだろうけど念のため。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

処理中です...