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プロローグ
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目の前が赤く染まっていた。それと同時に全身、特に両足に激痛が走った。
自分の身に何が起こったのか確かめるためだと一瞬だけ、視線を両足に向ける。
視線の先には、潰されてぐちゃぐちゃになっているわたしの足らしきものがあった。
自分の置かれている状況に吐き気が込み上げたけど、今はそれどこれではなかったのだ。
わたしの足などどうでもよかった。足は全く感覚もなく動かなかったけど、腕は動くし、わたしはまだ動ける。
それが分かればよかったのだ。
わたしの体のことよりも、あの方をお守りすることの方が優先だった。
わたしは、体中の力を振り絞ってあの方の元に這っていく。
両腕で這いずる様にして向かった先で、わたしの大切なあの方は、ぐったりとした様子で倒れていた。
激痛の走る体に鞭打って震える腕を伸ばしたわたしだったけど、指先に付いた血に気が付いて慌ててドレスで血を拭ってから、大切なあの方に触れて安堵の息を吐いていた。
触れた指先には、確かな温もりがあったからだ。
だけど、このままと言う訳にもいかない。
この方を狙った者が、まだ近くに潜んでいる可能性があるからだ。
わたしは、残りの魔力を振り絞って、大切な方を守る様に結界を展開させていた。
そこでわたしの意識はブラックアウトしていた。
次に目が覚めた時わたしは、全身を包帯でぐるぐる巻きにされていた。
まるで、本で読んだミイラ男みたいだと思ったわたしは、なんとなくおかしくって笑ってしまっていた。
そんなわたしだったけど、すぐに意識を失う直前の出来事を思い出していた。
わたしの大切なあの方の安否を確認しなければと思ったわたしは、部屋の中を見回していた。
だけど、わたしが目を覚ました部屋には誰もいなかったのだ。
体を起こそうにも身動きすらできなかったわたしは、自分の体のもろさに舌打ちをしていた。
いつものわたしなら、魔力を使って周囲の状況を調べているんだけどそうもいかない事情があった。
恐らくだけど、わたしのいる場所は王宮の一室だと思われる。そうなると、魔力を使うことは憚られた。
理由は簡単。王宮内で許可のない者の魔力の使用は禁止されていたからだ。
まぁ、あの時は緊急事態だったから、力の使用については大目に見て欲しい。
だけど、あの方が心配だったわたしは、魔力を使うことを早々に決断していた。
目を閉じて、魔力を使って王宮内を探る。
いくつかの部屋を覗いた時、ようやくあの方を見つけることが出来たのだ。
あの方は、左手に包帯を巻いていたけど他に怪我はなさそうだった。
そのことに安堵しつつも、この方を守り切れなかった自分が情けなかった。
そんなことを考えていると、わたしの大切な方の口から、わたしの名前が出ていたのだ。
「陛下、フェルルカとの婚約を破棄したい……」
わたしは、思いもよらない彼の言葉に意識が遠くなっていった。
そして、気が付くと自分の体に意識が戻ってきていた。
わたしは、わたしの大切な婚約者から見限られてしまったことを知って絶望した。
だけどそれも仕方がないことだと自分でも分かっていた。
この国の王太子である彼を守れなかったんだもの。
彼の美しい体に傷を付けてしまったんだもの。
その後、わたしの体の傷は完全回復したけど、潰された足が動くことはなかった。
そして、正式に王家からわたし、フェルルカ・アーデン侯爵令嬢と、この国の王太子、マティウス・ディアドラ殿下の婚約の破棄が伝えられたのだった。
わたしの大切なマティウス様……。もう二度とお会いすることはないでしょう。
そんなことを考えながらわたしは、自領へと旅立ったのだった。
こんな昔のことを思い出しながら、マティウス様が好きだと言ってくれた薄桃色の長い髪をハサミで切り落としていた。
チョキチョキとハサミの音がして、わたしの髪がさらりさらりと床に落ちるのを見ながら、あれから三年も経ったのにいまだにマティウス様を好きな気持ちがあることを思い知らされていた。
悲しくもないのに涙が止まらなかった。
腰まであった髪は、少年のように短いものとなっていた。
だけど、わたしにはこれしか弟を守る方法が無かった。
わたしはこれから、弟のシュナイゼル・アーデンとし生きると決めたのだから。
自分の身に何が起こったのか確かめるためだと一瞬だけ、視線を両足に向ける。
視線の先には、潰されてぐちゃぐちゃになっているわたしの足らしきものがあった。
自分の置かれている状況に吐き気が込み上げたけど、今はそれどこれではなかったのだ。
わたしの足などどうでもよかった。足は全く感覚もなく動かなかったけど、腕は動くし、わたしはまだ動ける。
それが分かればよかったのだ。
わたしの体のことよりも、あの方をお守りすることの方が優先だった。
わたしは、体中の力を振り絞ってあの方の元に這っていく。
両腕で這いずる様にして向かった先で、わたしの大切なあの方は、ぐったりとした様子で倒れていた。
激痛の走る体に鞭打って震える腕を伸ばしたわたしだったけど、指先に付いた血に気が付いて慌ててドレスで血を拭ってから、大切なあの方に触れて安堵の息を吐いていた。
触れた指先には、確かな温もりがあったからだ。
だけど、このままと言う訳にもいかない。
この方を狙った者が、まだ近くに潜んでいる可能性があるからだ。
わたしは、残りの魔力を振り絞って、大切な方を守る様に結界を展開させていた。
そこでわたしの意識はブラックアウトしていた。
次に目が覚めた時わたしは、全身を包帯でぐるぐる巻きにされていた。
まるで、本で読んだミイラ男みたいだと思ったわたしは、なんとなくおかしくって笑ってしまっていた。
そんなわたしだったけど、すぐに意識を失う直前の出来事を思い出していた。
わたしの大切なあの方の安否を確認しなければと思ったわたしは、部屋の中を見回していた。
だけど、わたしが目を覚ました部屋には誰もいなかったのだ。
体を起こそうにも身動きすらできなかったわたしは、自分の体のもろさに舌打ちをしていた。
いつものわたしなら、魔力を使って周囲の状況を調べているんだけどそうもいかない事情があった。
恐らくだけど、わたしのいる場所は王宮の一室だと思われる。そうなると、魔力を使うことは憚られた。
理由は簡単。王宮内で許可のない者の魔力の使用は禁止されていたからだ。
まぁ、あの時は緊急事態だったから、力の使用については大目に見て欲しい。
だけど、あの方が心配だったわたしは、魔力を使うことを早々に決断していた。
目を閉じて、魔力を使って王宮内を探る。
いくつかの部屋を覗いた時、ようやくあの方を見つけることが出来たのだ。
あの方は、左手に包帯を巻いていたけど他に怪我はなさそうだった。
そのことに安堵しつつも、この方を守り切れなかった自分が情けなかった。
そんなことを考えていると、わたしの大切な方の口から、わたしの名前が出ていたのだ。
「陛下、フェルルカとの婚約を破棄したい……」
わたしは、思いもよらない彼の言葉に意識が遠くなっていった。
そして、気が付くと自分の体に意識が戻ってきていた。
わたしは、わたしの大切な婚約者から見限られてしまったことを知って絶望した。
だけどそれも仕方がないことだと自分でも分かっていた。
この国の王太子である彼を守れなかったんだもの。
彼の美しい体に傷を付けてしまったんだもの。
その後、わたしの体の傷は完全回復したけど、潰された足が動くことはなかった。
そして、正式に王家からわたし、フェルルカ・アーデン侯爵令嬢と、この国の王太子、マティウス・ディアドラ殿下の婚約の破棄が伝えられたのだった。
わたしの大切なマティウス様……。もう二度とお会いすることはないでしょう。
そんなことを考えながらわたしは、自領へと旅立ったのだった。
こんな昔のことを思い出しながら、マティウス様が好きだと言ってくれた薄桃色の長い髪をハサミで切り落としていた。
チョキチョキとハサミの音がして、わたしの髪がさらりさらりと床に落ちるのを見ながら、あれから三年も経ったのにいまだにマティウス様を好きな気持ちがあることを思い知らされていた。
悲しくもないのに涙が止まらなかった。
腰まであった髪は、少年のように短いものとなっていた。
だけど、わたしにはこれしか弟を守る方法が無かった。
わたしはこれから、弟のシュナイゼル・アーデンとし生きると決めたのだから。
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