上 下
7 / 17

第七話

しおりを挟む
「おかしい……」

 麗らかな日差しが眩しいある日の昼下がり。シユニナは、首を傾げていた。
 そして、目の前には忙しいはずのミハエル。
 
 王国騎士団で異例の速さで副団長の地位についていたミハエルは、その腕を買われて第二王女の護衛騎士の統括業務も兼任していた。
 そんな忙しいはずのミハエルは、一日置きという高頻度でアガート伯爵家に顔を出していたのだ。
 留学から戻ったばかりのシユニナは、男になった事で公の場に出ることを控えていた。
 そのため、伯爵家にて剣術の鍛錬を繰り返すだけの日々を送っていたのだ。
 庭園の一角で剣の鍛錬をするシユニナに付き合う様に、ミハエルも剣を振るっていた。
 時には、手合わせもすることもあった。
 シユニナとしては、現役の騎士であるミハエルに稽古を付けてもらえることはとてもありがたかった。
 しかし、こうも頻度が高いと心配になってくるものだ。
 
「えっと、ミハエル様?」

「ん? どうした?」

「えっと、ミハエル様は第二王女の護衛騎士をされているんですよね?」

「ああ。だが、俺が実際に護衛するのは公の場でだけだ。通常の護衛は、他の騎士が務めている」

 だとしてもだ。騎士団の副団長もしている身で、ここまで時間を作るのは並大抵なことではない。
 何故ここまで自分に構うのか?
 シユニナには理解できなかった。
 


 
 シユニナが帰国してから数日、日々鍛錬に明け暮れていたシユニナだったが、ある情報を聞いてこれからの身の振り方を決めていた。
 
 その日は、年に一度の王国騎士団の入団試験が行われる日だった。
 騎士団の入団条件はとても緩く、犯罪歴がなければ性別も年齢も問わないと言うものだった。
 
 留学先で剣術を学び、帰国後はミハエルの稽古を受けていたシユニナは、この先男として身を立てる手段として騎士の道を進むことにしたのだ。
 ミハエルとの仮初の婚約関係もいつ解消されるか分からない。
 今後は、一人の男として伯爵家に貢献するために選んだ道だった。
 
 二人の師匠がよかったこともあり、シユニナは優秀な成績で騎士団入団を果たすのだ。
 シユニナから騎士団への入団を知らされた両親は、シユニナの好きなようにしていいと言ってくれたが、重度のシスコンであるシュミットは、大騒ぎをする。
 
「どうして? 騎士なんて危ないから辞めなさい! 大丈夫。お兄ちゃんがシユンのこと一生面倒みるから」

「いやいや。駄目でしょう? それに、私は私がしたくて騎士団に入ることを決めたんだから。お兄様には応援して欲しいな」

「ぐっ……。可愛い妹のお願いでも、こればかりは……」

「お兄様、私のこと応援して欲しいな? お願い!」

「くぅ~~~~」

 そんなやり取りを繰り返していた時だった。
 その日も、いつものように伯爵家にやってきたミハエルが二人の不毛なやり取りに割って入ったのだ。
 
「俺もシユンが怪我をしてしまったりするのは嫌だな……。でも、下手に反対して無理をされるよりは……。シュミット。少し耳を貸せ」

「ん?」

 二人は、肩を組むようにして内緒話を始めた。
 
「シュミット。このまま反対し続けてもシユンの意志は固そうだ」

「だがな……。俺はシユンが心配なんだ」

「俺だってシユンが心配だ。だがな、反対ばかりでは嫌われるだけだ」

「っ!!」

「だからここは、シユンのしたいようにさせるのが一番だ」

「嫌われるのは嫌だが、それはもっと無理だ。心配すぎて俺がヤバい……」

「大丈夫だ。シユンは、俺の監視下に置いて絶対に怪我を負わせないようにするさ」

「だがなぁ……」

「俺に任せろ」

「…………。分かった。信じるぞ。親友」

「ああ。任せろ。親友」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の子を身篭れるのは私だけ

月密
恋愛
『もう一度、触れさせて欲しい』『君にしか反応しないんだ』 *** 伯爵令嬢のリーザは、一年前に婚約者に浮気された挙句婚約破棄され捨てらて以来、男性不信に陥ってしまった。そんな時、若き公爵ヴィルヘルムと出会う。彼は眉目秀麗の白銀の貴公子と呼ばれ、令嬢の憧れの君だった。ただ実は肩書き良し、容姿良し、文武両道と完璧な彼には深刻な悩みがあった。所謂【不能】らしく、これまでどんな女性にも【反応】をした事がない。だが彼が言うにはリーザに触れられた瞬間【反応】したと言う。もう自分に一度触れて欲しいとリーザは迫られて……。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...