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第三話

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「やだなぁ。私はシユニナ・アガートだよ? もしかして忘れちゃった?」

「「いやいやいやいや!!」」

「う~ん。あっ、ちょっと見た目が変わったけど、私だよ?」

「「…………」」

「えっと、カイドは、昔から優しくて、お兄ちゃんって感じだった。カレンは、優しいお姉ちゃんだね。ふふ。二人とも私に甘すぎで、お兄様も本当にそれに輪をかけて甘々で……。お兄様、お手紙では元気そうに過ごしていると書いてあったけど……」

 そう言って、二人の前でふんわりと微笑んだり、眉を寄せてシュミットを心配するその人は間違いなくシユニナ・アガートだと感じたが、カイドとカレンはどうしてそうなってしまったのか頭を抱えていた。
 
 二人のその姿に可愛らしく首を傾げたシユニナは、ハッとした表情で両手を合わせた。
 
「あっ。そうだよね。すっかりこれに慣れてしまって、忘れていた。私のこれには事情があって……」


 カイドとカレンは、シユニナから聞く信じられない出来事に気を失いそうになっていた。
 しかし、こうなってしまった以上どうしようもない。
 そして、どんなことがあってもシユニナの味方であることに変わりはないと頷き合ったカイドとカレンは、元の笑顔を取り戻していた。
 
「事情は分かりました。ですが、伯爵家に帰った時ですが、俺が旦那様たちに説明するので、少しだけ猶予を下さい」

「説明? 猶予?」

 カイドの言葉にシユニナは首を傾げる。そんなシユニナを見たカレンは、力強く言った。
 
「絶対にワンクッション必要なんです!! じゃないと、絶対にシュミット様の心臓が止まります!!」

 固く拳を握ってそう熱弁するカレンにシユニナは首を傾げていたが、カイドは同意するように頷いていた。
 
「分かった。それじゃ、帰ったらよろしくね?」

「はい」

「お任せください!!」

 そんなやり取りの後、騎士養成学校の寮の管理人に別れを告げたシユニナたちは、十日掛けてアガート伯爵家に帰ったのだった。
 
 
 馬車がアガート伯爵家に到着したとき、カイドはシユニナに強く言って聞かせていた。
 
「シユニナ様。俺が説得を終えるまで、決して馬車から出ないようにしてください」

「……わかった」

「カレン。頼んだぞ」

「カイド。シユニナ様のことは任せて」

「それじゃ……。行ってくる……」

 戦場に赴くかのような、そんな様子のカイドにシユニナは、首を傾げていたが、それを見送るカレンは、戦友を見送る兵士の如く勇ましい顔でカイドを見送ったのだった。


 それから、一時間が経過してもカイドは戻ってこなかった。
 何かあったのかとオロオロしだしたシユニナは、カレンに相談していた。
 
「どうしよう……。何かあったのかな?」

「大丈夫です。信じがたい事実に説得が長引いているのでしょう?」

「……。行こう」

「えっ?」

「カイドの言う説得が分からないけど、何か問題があるなら私がそれを解決しないことには始まらないよ」

「ですが……。シユニナ様が行かれるのは……」

「もう! 何が心配なのか分からないけど、大丈夫!!」

 そう言って、シユニナは馬車の扉を開けて、屋敷の中にズンズンと進んでいく。
 
「あっ! シユニナ様!!」

 慌ててシユニナを追いかけるカレンだったが、シユニナとすれ違った使用人たちが驚愕の表情で固まるのを目にして、これから始まるかもしれない地獄絵図に震えが止まらなかった。
 
 そうこうしているうちに、シユニナは迷うことなく家族がいると思われる応接室に向かっていた。
 扉の前で深呼吸したシユニナは、強く扉をノックして凛とした声を上げる。
 
 コンコン!!

「シユニナです。ただいま戻りました」

 そう言って、中の返事も待たずにシユニナは応接室に入る。
 そして、四年ぶりに再会する父と母、そして兄の顔を見て首を傾げる。
 三人はまるで、死んで生き返った上で瀕死の重傷を負ったかのような、そんな表情をしていたのだ。
 
 そして、視線があったシユニナにたいして、口を揃えて叫んでいた。
 
「嘘だーーーーーーーー!!」

「嘘だと言ってくれ!!」

「そんなの嘘よーーーー!!!」

 家族三人から同時にそう言われたシユニナは、片目を瞑って恥ずかしそうにもじもじと身をよじった後に、あっけらかんと言うのだ。
 
「ただいま戻りました。えへへ、どうですか? 成長した私の姿は!」

 シユニナの言葉に、シュミットは鋭い突っ込みを入れていた。
 
「シユニナ! お前は間違いなく俺の可愛いシユニナだ!! でもな……。でもな!! そんなにムキムキのマッチョボディで、さらには男になって戻ってくるとは想像してなかった!!」

 そう言って、シユニナが戻ってきた喜びと、最愛の妹が想像をはるかに超える変貌を遂げたことに心がついて行けないシュミットは、号泣しながら気絶したのだった。

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