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第二話

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 それから4年。
 月に一回程度、手紙を送るだけで一切帰国しなかったシユニナが、留学を終えて伯爵家に戻る日がやってきた。
 
 アガート伯爵に代々仕えているシエンミル男爵家の長男、カイド・シエンミル。そして、その妹のカレンは、シユニナの滞在先まで迎えに行く道すがら、思い出話に盛り上がっていた。
 
 
「ああ、シユニナ様に四年ぶりにお会いできる! きっと、さらにお美しく成長されているんでしょうね」

「そうだな」

「ええ! だけど、身長はお小さいままよ。だって、お小さいシユニナ様って、本当にお可愛らしいんだもの!!」

「ははっ。カレンは本当にシユニナ様が大好きだな」

「ええ! 世界一大好きですよ! 世界中が敵になったとしても私はシユニナ様の味方ですから!!」

「俺もだ」

 カイドとカレンは、黒髪黒目の美しい容姿をしていた。
 兄のカイドは、執事見習いとしてアガート伯爵家で働いていたが、シユニナが留学をする前は、彼女の護衛も勤めていたこともあり、そこそこに腕が立った。
 妹のカレンもまた、侍女としてアガート伯爵家で働いていた。
 もちろん、シユニナが留学する前は、彼女の専属侍女を務めていたのだが、シユニナは、誰も連れずにたった一人で留学してしまった。
 その間は、屋敷に仕える侍女の一人として働いていたが、シユニナが帰ってくるということで、彼女の専属侍女の座に復帰することとなったのだ。
 妹大好きなシュミットが仕事で迎えに行けない代わりに、屋敷を代表して迎えに行くこととなったのだ。
 
 その手紙を受け取ったシユニナは、すぐに断りの手紙を出したが、シュミットの涙で滲む長々しい手紙を読んで諦めて迎えを待つことになったのだ。
 
 そして、馬車で十日の道のりを馬車を急がせて進み、隣国までやってきたのだ。
 
 シユニナから教えられた滞在先に向かう二人は、少しだけ雲行きが怪しいと感じていた。
 滞在先として教えられていた場所は、隣国の騎士養成学校として知られる場所だったからだ。
 
「カイド……。おかしくない? さっき見えた看板によると、この先の建物は騎士養成学校の寮だって……」

「カレン……。何かがおかしいと俺も思う。だけど、シユニナ様から教えていただいた住所は、間違いなくこの先だ……」

 カイドとカレンは互いに顔を見合わせて顔色を青くさせる。
 そして同時に、シユニナの異常なほどの行動力を思い出してしまい胃が痛くなってくるのだ。
 
「まさかとは思うけど……」

「まさかなぁ……」

 二人は同時に思ってしまうのだ。
 
(私のシユニナ様ならありえなくもないかもしれない……)

(シユニナ様ならなくもないか……)

 お互いに口に出さずとも、同じことを想像していることが予想できた二人は、同時に大きな溜息を吐いていた。
 
 そして、騎士養成学校の寮にたどり着いた二人は、間違っていてくれと思いつつも寮の管理人に問い合わせたのだ。
 すると、管理人はにっこりと微笑んで言うのだ。
 
「ああ、アガートさんだね。部屋に案内するよ。いや~。アガートさんが行ってしまうの寂しいねぇ~。だけど、アガートさんの帰国後の活躍をここから応援しているよ!!」

 やけに馴れ馴れしい様子でそう話す管理人に案内された二人は、シユニナの部屋だという扉の前にたどり着いていた。
 
「アガートさ~ん。お迎えの人が来ましたよ~」

 管理人がそう声を掛けると中から明るい声が聞こえた。
 
「は~い」

 すぐに開いた扉から出て来たその人は、扉の外のカイドとカレンを見てにっこりと微笑んで言うのだ。
 
「わぁ~。カイド、カレン。久しぶりだね」

「…………」

「…………」

「二人ともどうしたの? ああ、ごめんね。長旅で疲れただろう? さあ、入って入って。お茶でもご馳走するね」

 そう言われたカイドとカレンは、真っ白な頭のまま招き入れられた部屋に入ったが、身動き一つできなかった。
 
「管理人さん。ちょっと休憩してから出るので、もう少しだけお願いしますね」

「ああ、アガートさんなら大歓迎だよ。ゆっくり休んでから出発でいいからね」

「ありがとう」

 管理人と和やかに会話をしたその人は、テキパキとお茶を淹れて、立ち尽くしたままのカイドとカレンに笑顔で言うのだ。
 
「ほらほら、座ってよ。お茶も淹れたから。疲れただろう?」

 カイドとカレンは、優しい笑みを浮かべるその人に向かって同時に言い放つのだった。
 
 
「「どちら様ですか?!」」

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