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第二部

第二話 絶倫王子と娼婦たち

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 アーレスに酷いことを言ってしまったとノルンが後悔している中、そのことを謝る機会を失ったまま、時だけが過ぎてしまっていた。
 あの日から、アーレスに会うのが怖くて、避けようとしていたノルンだったが、アーレスからノルンのことを訪ねて来てくれることはなかったのだ。
 
 そんな中、王宮内で新たな噂話がささやかれ始めていたのだ。
 その内容は、ノルンにショックを与える内容だった。
 
 
「王太子殿下は、娼婦たちを手玉に取っているらしい」

「数人の娼婦を相手にしても収まらないほど絶倫らしい」

「娼婦を食いまくっている。絶倫王子」

 
 ノルンに聞こえてきたのは、そんな噂話だったのだ。
 まことしやかにささやかれた噂話だったが、あの日、アーレスから与えられた頭が蕩けそうな快楽を思い出すと、確かにアーレスは絶倫のような気がしてくるノルンだった。
 それでも、自分から他でえっちしろと言っておいて、実際にしたら、やめろというなど、そんな身勝手なことを言える資格などノルンにはなかった。
 だから、前向きに考えるようにしたのだ。
 自分では、王太子であるアーレスの子供を産むことは出来ない。それに、えっちも出来ない。
 ならば、他のところで世継ぎを作って、えっちも……。
 そうすれば、アーレスの側に一緒に居られると。
 もう、一人残されることもないと。
 
 モヤモヤする心を抱えたまま、それを表に出さないようにしながら、久しぶりにアーレスの元をノルンが訪れたが、アーレスの執務室にその姿はなかったのだ。
 
 残念に思いながら執務室を出たとき、外にいた兵士たちの会話が聞こえてきたのだ。
 
「王太子殿下は、今夜もお盛んなようで。くくっ。まだ日も暮れていないというのに、もう娼館に行ったそうだぞ」

「本当か? まぁ、世継ぎは必要だが、母親が娼婦って言うのはなぁ……」

「だよな……。でも、あの一番人気の娼婦ですら、王太子殿下との行為で、メロメロだってさ。でけーちんぽでアンアン言わせてるってさ」

「羨ましいなぁ……」

 そんな会話を声も顰めずにする兵士たちにノルンは詰め寄っていた。
 
「王太子殿下のそのような話をこんな場所で! 口を慎みなさい!」

 そう言って、涙目で詰め寄るノルンに兵士たちは、たじたじとなってしまうのだ。
 そして、言うことだけ言ったノルンはそのまま踵を返してどこかへと立ち去ってしまうのだ。
 
 そんな、ノルンの背中を見送った兵士たちは、疲れたように言うのだ。
 
「なぁ……、これで本当に良かったのか? 王太子殿下の考えることは俺には分からねえよ?」

「だよなぁ……。大魔導士様、泣きそうになっていたぞ? お互いに好き合ってるのに、なんでこんな回りくどいことしてんだ?」

「俺に聞くな……」

 そんな兵士たちの会話など知る由もないノルンは、そのまま王宮を飛び出していたのだ。
 そして、その足で娼館のある区画へと走り出していたのだ。
 
 
 
 しかし、体力のないノルンは、早々に足をもつれさせて転んでいた。
 魔力はあっても貧弱な体を恨めしく思い、泣きそうになりながらも立ち上がったノルンは、何がしたいのか分からないまま、娼館にたどり着いていた。
 そして、一軒一軒入っていき、「王太子殿下はいるか?」と聞いて回るのだ。
 それには、娼館の人間も目を丸くするのだ。
 そして、何軒かの店を回ったところで、アーレスを遂に見つけたノルンは、その場で立ち尽くすのだ。
 とある娼館に入ったノルンは、階段を上がっていくアーレスの後ろ姿を見たのだ。
 しかし、そのアーレスの両手には素晴らしいプロポーションの美女がいたのだ。
 ただ立ち尽くすノルンを見た、娼館の主は、何を勘違いしたのか、ノルンに言ったのだ。
 
「もしかして、お嬢ちゃん、娼婦にでもなりたくてうちに来たのかい?」

 まさかそんなことを言われると思っていなかったノルンは、ぶんぶんと首を振っていた。
 そんなノルンの様子に店の主人は困ったように口にするのだ。
 
「そうかい。ごめんね。ここは、男に春を売る場所だから、用がないなら―――」

 主人かそこまで言ったところで、二階から主人に声をかける娼婦がいたのだ。
 
「王子様、娼婦追加ってーー! 今日も、王子様のやる気がすごくて、先に入った姐さんたち、もう降参だって!」

「へあ!! もう?! はぁ、大したもんだよ。これじゃ、大金を払ってもらっても、うちの子たちがつかいもんにならなく……、って、どうしたんだい?」

 頬に手を当てて、困ったように呟いていた主人は、目の前のノルンが泣きそうな顔で二階を見つめているのに気が付き、何かを察したような顔になる。
 そして、小さく呟くのだ。
 
「なるほど……、王子様の勝ちだねこれは……。はぁ……。これで、毎日の面倒ごとが減ってくれるといいんだけど……」

 そんな、主人の呟きなど耳に入っていないノルンはというと、我慢の限界とばかりに二階に向かって走り出していたのだ。
 そんなノルンの小さな背中を見送る主人は、やれやれと言った様子だった。

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