上 下
72 / 91

第七十二話 揉み続ける

しおりを挟む
 ユリウスの叫び声をものともせずにレオールは、ある意味貴族らしい力技で船に乗る理由を託つけた。
 
「私の調べだと、ゴールデン・ウルフは我が国でもそこそこ名が知れている船だ」
「そうか。それが何だ?」

 名が知れていると言われて、ユリウスは満更でもない表情で続きを促した。
 
「しかし、普段の宝探しはハズレを引くことのほうが大半で、運営費は私掠船の報酬がほとんどという事だが?」

 レオールの言葉に、言い返せずに悔しそうな表情で黙った後、言い訳をした。
 
「別に、全部が全部ハズレというわけではない。たまに、お宝が手に入ることもある……」
「そうらしいな。しかし、船の運営は余裕があるわけではないだろう?そこでだ。私がスポンサーとなろう」

 レオールの提案にユリウスは、最初は目を点にしていたが、それを否定した。
 
「は?いやいやいや、それは無理だろう。お前はラジタリウス王国の人間だ。うちは、イグニスの船だ」
「無理ではないだろう?今や両国は正式に和平協定を結んでいる。私がスポンサーをすることに何ら問題はない」

 その言葉を聞いて、少し考えた後にユリウスは資金と人間関係を秤にかけて資金を選んだ。そして、ウィリアムの方をなんとも言えない表情で見た後に小さく一言言った。
 
「これからどうなろうともお前の努力次第だと思う。頑張れよ」
「何がだ?おい、俺は乗せる気はないぞ!!」
「万年金欠のうちの船のスポンサーになってくれるっていう奇特な申し出を断ることなど出来るか!!」
「この守銭奴め!!!」

 こうして、ユリウスの判断でレオールの船への乗船が許可されたんのだった。
 
 スポンサーということもあり、客室をレオール用に整えることに決めたユリウスは、部屋の内装で注文があるか確認すると既に先に家具などの調度品は手配済みだと驚くことを言ってきた。
 
 王都を出発して数日後、馬車に揺られた五人はようやくニルドニアについた。
 数週間ぶりにクルーに再開した一同は、互いに離れていた期間の報告を行っていた。
 春虎は、自分の居場所となっているキッチンに向かったが、そこは悲惨なことになっていた。
 
 すごく汚れていると言ったことではない。ただ、ジャガイモだらけだったのだ。
 そのことから、あることが頭をよぎり血の気が引いた。
 ちょうど、エルムが近くを通りがかったので恐る恐る確認をすることにしたが、エルムを一目見て確信した。
 
「エッ、エルム……。久しぶりだね。それで、これはどういうことかな?」

 そう言って、キッチンに山のようにあるジャガイモを指さして尋ねた。すると、目を泳がせたエルムが、出発前よりも幾分か・・・横幅のあるお腹周りを手で隠すようにしてから、突然地に伏した。
 そして、涙ながらに訴えた。
 
「違うんっす!!俺たち最初は、前みたいに当番制で頑張ってたっす!でも、ハルハルのうまい飯に慣れきった俺達にはその飯が不味くて仕方なかったんっす!それで、外食が続いたんっすけど、街で食べる食事も美味しくはなかったっすけど、俺達の作る飯よりはましな気がして……。でも、資金もそこまで多いわけではなくって……。そこで、水夫長が街で安いジャガイモを大量に買ってきて言ったっす。「今までの外食のせいで、預かった資金も危なくなってきている。これからはこれで凌ぐぞ!!」って!!前に、ハルハルからポテトフライとかチップスとか、コロッケとか美味しいジャガイモ料理を食べさせてもらったこともあって、頑張って簡単な、ポテトフライとチップスを作ったんっす。作り置きしてくれた、ケチャップとか、ハーブの風味のある塩とか色々付けて食べてたら……」

 そこまで一気に言ったエルムは、悲しそうに自分の腹部を摘んだ。
 
「ハルハル~。美味しくて、安くて、簡単に作れるから、毎日毎日食べてたっす。パンは作れないから仕方なく街で買って。そんな食生活が続いていたっす」

 そこまで聞いた春虎は、恐るおそおるエルムの腹部に触れた。
 ぷにぷにとしていて、お餅のようだった。出発前のエルムは、割れるほどではなかったが、スリムな体型だったことを考えると、離れていた間の乱れた食生活の酷さが伺えた。
 更に、肌は荒れて顔色も悪かった。これは、完全に栄養不足だと考えた春虎は、無意識にエルムの腹を揉み続けていた。
 
 エルムは、最初は悲しそうな表情で自分の腹を揉んでいた春虎が、何かを考えながら真剣な表情で自分の腹を揉み続けることが恥ずかしくなり、両手で顔を覆ってそれに耐えた。
 
 傍から見ると異様な光景ではあったが、それを突っ込む者はこの場にはいなかった。
 ようやく考えが纏まった春虎は、エルムの目を見て言った。ただし、揉むことはやめずに。
 
「よし、これから食生活改善プログラムを開始するよ。それで、みんなの体型がもとに戻ってから、王都で調達した材料で新しい料理を振る舞うことにするよ」

 新しい料理と言われたエルムは、顔を覆っていた両手を解いて春虎を見つめて期待のこもった表情で言った。

「えっ!!新しい料理っすか!!どっ、どんなものっすか!」
「えっと、美味しいけど今のエルムたちにはカロリーが致死量になるかも?」
「つまり、死ぬほど美味いってことっすね!!」
「そうとも言うのかな?」
「俺!頑張って、元の体型に戻すっす!!」
「うん」
「……。それよりも……」
「どうしたの?」
「ハルハルのエッチ」

 そう言って、エルムは顔を赤くして再び両手で顔を覆った。
 そこで、今までずっとエルムのぷよぷよなお腹を揉み続けていたことに気が付いた春虎は、慌てて手を離した。
 
「ごっ、ごめん!!なんだか気持ちよくって。何ていうか、ずっと揉んでいたいようなそんな魅力のある弾力があって……」
「ハルハル~。酷いっす。俺、恥ずかしくてお嫁に行けないっす!!責任とって美味しいご飯を食べさせて欲しいっす」

 エルムは、冗談めかしてそう言った。春虎もエルムの冗談に気が付いて、それに乗って冗談めかして返した。
 
「本当に、エルムは可愛いね。よし、僕が責任を持って美味しい食事を振る舞おう。今日は、エルムのために特別にだよ?明日から本気の改善メニューで行くからね」

 二人は、久しぶりのやり取りにいつもよりも楽しそうに、いつもどおりの軽口を言い合っていた。
 しかし、恋する男達はその会話を歪曲してしまっていた。
 
 そう、春虎に会いに向かったウィリアムとレオールはキッチンの入口で鉢合わせをしてしまい、お互いに牽制しあっていたところ入るに入れずに、二人の楽しそうな会話をキッチンの外で盗み聞きしていたのだ。
 妄想の入り混じったピンク色の思考の中で、二人の会話はこう変換されていた。
 
「お前のここ、気持ちいな。魅力的なお前のここをずっと揉んでいたいよ」
「ハルハル~。弄ぶなんて酷いっす。もう、責任とってお嫁にしてっす。そして毎日、美味しいご飯を食べさせてっす」
「可愛いエルム。僕が君をお嫁に貰ってあげるよ。そして、毎日エルムを美味しくいただくよ。今夜は寝かせないぜ」

 と、完全に誰それ?状態の妄想上の春虎とエルムは完全に春虎が悪い男でエルムが悪い男に騙されている乙女のような構図になっていた。
 春虎のことを女の子とは気が付いていないウィリアムならまだしも、気が付いているレオールまでもがそう想像してしまったのだから、二人の中の春虎像は強くて格好良いというイメージが大半を占めている事がよく分かる一幕だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

偽りの婚約のつもりが愛されていました

ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。 だけど私は子爵家の跡継ぎ。 騒ぎ立てることはしなかった。 子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として 慎ましく振る舞ってきた。 五人目の婚約者と妹は体を重ねた。 妹は身籠った。 父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて 私を今更嫁に出すと言った。 全てを奪われた私はもう我慢を止めた。 * 作り話です。 * 短めの話にするつもりです * 暇つぶしにどうぞ

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。 これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。 ※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。 ※同性愛表現があります。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、 ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。 家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。 十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。 次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、 両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。 だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。 愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___ 『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。 与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。 遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…?? 異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...