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第三十一話 怒り
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呪いのせいで受けたダメージから回復したウィリアムは、何もなかったという顔を作りキッチンに入って行った。
「おお、いい匂いだな」
「船長、お帰りなさい」
「お帰りなさいっす」
新人二人の笑顔での出迎えに、ウィリアムは何とも言えない心境を隠しつつ、王宮からの指示を教えることにした。
「これからクルー全員に王宮からの依頼について説明するから食堂に全員を集めてくれるか?」
「了解っす」
「分かりました」
「俺が行くっすよ」
「うん。それじゃ、ボクはお茶の準備しておくよ」
「やった、さっきのまた食べられるっすか?」
「残念ながら全員分には足りないから、作り置きしてたクッキーがお茶請けになるかな」
「クッキー!!やったっす~。ハルハルのクッキー大好きっす~」
「ふふ。エルムありがとう」
エルムは、足取りも軽くクルー全員を呼ぶために駆けて行った。春虎は、全員分のお茶とお茶請けの用意に取りかかった。
そんな春虎を眺めながらウィリアムは、無意識に口にしてしまった。
「ハルって、エルムのことどう思ってるんだ?」
「えっ?エルムですか?う~ん、手のかかる弟ですかね」
「それにしては、仲がいいと思うぞ」
「そうですか?でも、一番歳も近いですし、よくキッチンに遊びに来てくれますし、それでですかね?」
「ふーん」
「どうしたんですか?」
「別に何でもない」
「?」
「それじゃ、先に食堂に行ってる」
そう言って、ウィリアムはその場を後にした。このままここにいたら、嫉妬で何か口走ってしまうような気がして、早々にその場から離れることにしたのだ。
◆◇◆◇
食堂に全員が集まったところで、ユリウスが今後のことについて説明を始めた。
「今回、ラジタリウスの旗艦に乗船している人間の通訳をハル坊が務めることになったため、この仕事が終わるまでは、港に停泊することになる。どのくらいかかるかは、今のところ未定だ。そのため、ハル坊以外のクルーは全員休暇に入ってもらう。ハル坊、悪いな。終わったら、お前には何か褒美をやるからな」
ユリウスの説明に全員が歓声を上げた。そして、どのように休暇を過ごすかと盛り上がり始めた。しかし、ユリウスのその後の説明に全員ががっかりした表情をした。
「分かっていると思うが、休暇の間の食事は各自で済ますように」
「そうだぞ、ハルだけ仕事の上にお前達の食事まで世話させるなんて可哀そうだろう?」
「船長~、そう言って自分だけハルトラの飯を食ったりするんですかい?」
「え~、船長。それは不公平ですよ~」
「喧しい、俺もユーリも仕事で休暇どころじゃない。ついでに、食べさせてもらう位良いだろうが!!ハル、いいよな?」
少し、自信なさげなウィリアムの問いに快く返事をした春虎だった。
ユリウスの説明で、通訳の仕事は明日からということだったので、今日の食事はみんなのリクエストに答えたメニューになったことは仕方なかったと言えよう。
翌日、春虎、ウィリアム、ユリウスの三人は宴ぶりの王宮にいた。
まずは、女王陛下に挨拶をして、それから通訳の仕事に取り掛かる。
女王陛下は、相変わらずの眼力で三人を特に、春虎とウィリアムを熱い眼差しで見つめた。
しかし、いろいろと勘違いした春虎は航海中の話を聞きたがる女王陛下のリクエストに答え、あれこれウィリアムのことを話した。
春虎的には、「女王陛下に船長のいいところをアピールしなくちゃ!」という思いからだったが、女王的には、「ウホっ!!そんな萌えシチュエーションが!!」と言った感じで、お互いの思いはかけ離れていたのだった。
話を聞きたがる女王だったが、宰相の「そろそろ……」という、声で名残惜しそうにその場を後にした。
女王から解放された三人は、例の青年の通訳に取り掛かるために部屋を移動した。
通された部屋に入ると、そこには明るい金髪に青い目をした長身の美丈夫が、シーツがこんもりと盛り上がったベッドの側に困り顔で立っていた。
部屋に入ってきた春虎達に直ぐに気が付いたその青年は、硬い表情で三人を見つめた。
三人と一緒に部屋にやってきた宰相が、その青年の紹介をした。
「彼は、ラジタリウスのレオール・ファティマ殿だ」
宰相から紹介された青年は、改めて自己紹介をしてきた。
「私は、ラジタリウスの艦隊を率いてきたレオール・ファティマだ。訳あって提督代理の任に着いている」
レオールは、流暢なイグニス王国語で挨拶をしてきた。
それを聞いたウィリアムは三人を代表して自己紹介をした。
「俺は、私掠船ゴールデン・ウルフの船長でウィリアム・ロメオだ。で、こっちが副船長のユリウス・ブラックだ。で、こっちが、これから通訳の仕事をすることになったハルトラ・ツバキだ」
ウィリアムに紹介をされたユリウスは会釈し、春虎は敬礼をした。
レオールは、三人を順番に眺めてから、ウィリアムをきつい眼差しで睨みながら言った。
「ふん、海賊か。しかもこんな幼い子供を働かせるなんて碌でもない事がうかがい知れる。どうせ、遠くから連れてこられた子供を丸めこんで無理やり働かせてるんだろう」
そう言ってから、今度は少し屈んで春虎の目線に合うようにしてから、先ほどとは打って変わって優しい眼差しで言った。
「ハルトラ君と言ったね。今まで辛かっただろう、もう大丈夫だ。君さえ望めば私が君を保護してあげるよ」
そう言って、春虎に微笑んだのだった。
それに対して春虎が否定しようとしたが、その前にウィリアムが切れた。
「おい、ラジタリウス野郎!!何勝手言ってる!!ハルは望んで俺の船に乗ってる!!お前に何か言われる筋合いはない!!」
「ふん。本人が望んだ?こんな小さな子なんだ、大人が上手く丸めこむことなど造作もない」
「お前に何が分かる!!ハル、こんな奴の手助けなんてする必要はない。帰るぞ、そして直ぐにでも次の―――」
「ウィル、落ち着け」
「これが落ち着いてられるか!!」
「俺だって、お前の気持ちは分かる。しかしだな、これは国からの依頼だ。勝手に断ることは出来ない」
「くっ」
怒り心頭のウィリアムを落ち着かせるように、ユリウスは言ったが効果はあまりなかった。
春虎は、自分の気持ちをきちんと伝える必要を感じ、先にウィリアムを落ち着かせてからレオールに話をしようと考え、まずはウィリアムの両手を包み込むようにして握り、ウィリアムの瞳を見つめながら言った。
「船長、落ち着いてください。ボクはゴールデン・ウルフのみんなのこと家族みたいに思っています。船長は、ちょっと駄目なところもあるけど頼りになるお父さんみたいで、副船長は、怒ると怖いけど、いつもは優しいお母さんみたいに思っています。だから、落ち着いてください」
ウィリアムは、その言葉で落ち着きを取り戻したが、春虎の言葉に衝撃を受けていた。
(俺が……、お父さん……。これって望み薄すぎないか?それに、ユーリがお母さんって……、まぁ、おかんっぽいところはあるが、しかし俺がお父さん……。俺はまだ25だぞ、お父さんじゃなくてお兄さんだろ?はぁ……、せめてお兄さんなら可能性があったかもしれないのに!!)
一体何の可能性だと、ウィリアムの心の声を聞いた人間がいたらツッコんでいたことだろう。流石の残念属性を発揮し、思考が斜め上に行き始めたウィリアムはおとなしくなった。
ウィリアムが落ち着いたところで、次はレオールの方を振り向き、その青い目をしっかりと見つめながら言った。
「ボクは、本当に自分からゴールデン・ウルフに乗せて欲しいとお願いしたんです。それに、ボクはもう15歳です。そこまで小さな子どもという訳ではありません。なので、自分のことは自分で決めます」
そう言って、力強い眼差しでレオールのことを見たのだった。
「おお、いい匂いだな」
「船長、お帰りなさい」
「お帰りなさいっす」
新人二人の笑顔での出迎えに、ウィリアムは何とも言えない心境を隠しつつ、王宮からの指示を教えることにした。
「これからクルー全員に王宮からの依頼について説明するから食堂に全員を集めてくれるか?」
「了解っす」
「分かりました」
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「やった、さっきのまた食べられるっすか?」
「残念ながら全員分には足りないから、作り置きしてたクッキーがお茶請けになるかな」
「クッキー!!やったっす~。ハルハルのクッキー大好きっす~」
「ふふ。エルムありがとう」
エルムは、足取りも軽くクルー全員を呼ぶために駆けて行った。春虎は、全員分のお茶とお茶請けの用意に取りかかった。
そんな春虎を眺めながらウィリアムは、無意識に口にしてしまった。
「ハルって、エルムのことどう思ってるんだ?」
「えっ?エルムですか?う~ん、手のかかる弟ですかね」
「それにしては、仲がいいと思うぞ」
「そうですか?でも、一番歳も近いですし、よくキッチンに遊びに来てくれますし、それでですかね?」
「ふーん」
「どうしたんですか?」
「別に何でもない」
「?」
「それじゃ、先に食堂に行ってる」
そう言って、ウィリアムはその場を後にした。このままここにいたら、嫉妬で何か口走ってしまうような気がして、早々にその場から離れることにしたのだ。
◆◇◆◇
食堂に全員が集まったところで、ユリウスが今後のことについて説明を始めた。
「今回、ラジタリウスの旗艦に乗船している人間の通訳をハル坊が務めることになったため、この仕事が終わるまでは、港に停泊することになる。どのくらいかかるかは、今のところ未定だ。そのため、ハル坊以外のクルーは全員休暇に入ってもらう。ハル坊、悪いな。終わったら、お前には何か褒美をやるからな」
ユリウスの説明に全員が歓声を上げた。そして、どのように休暇を過ごすかと盛り上がり始めた。しかし、ユリウスのその後の説明に全員ががっかりした表情をした。
「分かっていると思うが、休暇の間の食事は各自で済ますように」
「そうだぞ、ハルだけ仕事の上にお前達の食事まで世話させるなんて可哀そうだろう?」
「船長~、そう言って自分だけハルトラの飯を食ったりするんですかい?」
「え~、船長。それは不公平ですよ~」
「喧しい、俺もユーリも仕事で休暇どころじゃない。ついでに、食べさせてもらう位良いだろうが!!ハル、いいよな?」
少し、自信なさげなウィリアムの問いに快く返事をした春虎だった。
ユリウスの説明で、通訳の仕事は明日からということだったので、今日の食事はみんなのリクエストに答えたメニューになったことは仕方なかったと言えよう。
翌日、春虎、ウィリアム、ユリウスの三人は宴ぶりの王宮にいた。
まずは、女王陛下に挨拶をして、それから通訳の仕事に取り掛かる。
女王陛下は、相変わらずの眼力で三人を特に、春虎とウィリアムを熱い眼差しで見つめた。
しかし、いろいろと勘違いした春虎は航海中の話を聞きたがる女王陛下のリクエストに答え、あれこれウィリアムのことを話した。
春虎的には、「女王陛下に船長のいいところをアピールしなくちゃ!」という思いからだったが、女王的には、「ウホっ!!そんな萌えシチュエーションが!!」と言った感じで、お互いの思いはかけ離れていたのだった。
話を聞きたがる女王だったが、宰相の「そろそろ……」という、声で名残惜しそうにその場を後にした。
女王から解放された三人は、例の青年の通訳に取り掛かるために部屋を移動した。
通された部屋に入ると、そこには明るい金髪に青い目をした長身の美丈夫が、シーツがこんもりと盛り上がったベッドの側に困り顔で立っていた。
部屋に入ってきた春虎達に直ぐに気が付いたその青年は、硬い表情で三人を見つめた。
三人と一緒に部屋にやってきた宰相が、その青年の紹介をした。
「彼は、ラジタリウスのレオール・ファティマ殿だ」
宰相から紹介された青年は、改めて自己紹介をしてきた。
「私は、ラジタリウスの艦隊を率いてきたレオール・ファティマだ。訳あって提督代理の任に着いている」
レオールは、流暢なイグニス王国語で挨拶をしてきた。
それを聞いたウィリアムは三人を代表して自己紹介をした。
「俺は、私掠船ゴールデン・ウルフの船長でウィリアム・ロメオだ。で、こっちが副船長のユリウス・ブラックだ。で、こっちが、これから通訳の仕事をすることになったハルトラ・ツバキだ」
ウィリアムに紹介をされたユリウスは会釈し、春虎は敬礼をした。
レオールは、三人を順番に眺めてから、ウィリアムをきつい眼差しで睨みながら言った。
「ふん、海賊か。しかもこんな幼い子供を働かせるなんて碌でもない事がうかがい知れる。どうせ、遠くから連れてこられた子供を丸めこんで無理やり働かせてるんだろう」
そう言ってから、今度は少し屈んで春虎の目線に合うようにしてから、先ほどとは打って変わって優しい眼差しで言った。
「ハルトラ君と言ったね。今まで辛かっただろう、もう大丈夫だ。君さえ望めば私が君を保護してあげるよ」
そう言って、春虎に微笑んだのだった。
それに対して春虎が否定しようとしたが、その前にウィリアムが切れた。
「おい、ラジタリウス野郎!!何勝手言ってる!!ハルは望んで俺の船に乗ってる!!お前に何か言われる筋合いはない!!」
「ふん。本人が望んだ?こんな小さな子なんだ、大人が上手く丸めこむことなど造作もない」
「お前に何が分かる!!ハル、こんな奴の手助けなんてする必要はない。帰るぞ、そして直ぐにでも次の―――」
「ウィル、落ち着け」
「これが落ち着いてられるか!!」
「俺だって、お前の気持ちは分かる。しかしだな、これは国からの依頼だ。勝手に断ることは出来ない」
「くっ」
怒り心頭のウィリアムを落ち着かせるように、ユリウスは言ったが効果はあまりなかった。
春虎は、自分の気持ちをきちんと伝える必要を感じ、先にウィリアムを落ち着かせてからレオールに話をしようと考え、まずはウィリアムの両手を包み込むようにして握り、ウィリアムの瞳を見つめながら言った。
「船長、落ち着いてください。ボクはゴールデン・ウルフのみんなのこと家族みたいに思っています。船長は、ちょっと駄目なところもあるけど頼りになるお父さんみたいで、副船長は、怒ると怖いけど、いつもは優しいお母さんみたいに思っています。だから、落ち着いてください」
ウィリアムは、その言葉で落ち着きを取り戻したが、春虎の言葉に衝撃を受けていた。
(俺が……、お父さん……。これって望み薄すぎないか?それに、ユーリがお母さんって……、まぁ、おかんっぽいところはあるが、しかし俺がお父さん……。俺はまだ25だぞ、お父さんじゃなくてお兄さんだろ?はぁ……、せめてお兄さんなら可能性があったかもしれないのに!!)
一体何の可能性だと、ウィリアムの心の声を聞いた人間がいたらツッコんでいたことだろう。流石の残念属性を発揮し、思考が斜め上に行き始めたウィリアムはおとなしくなった。
ウィリアムが落ち着いたところで、次はレオールの方を振り向き、その青い目をしっかりと見つめながら言った。
「ボクは、本当に自分からゴールデン・ウルフに乗せて欲しいとお願いしたんです。それに、ボクはもう15歳です。そこまで小さな子どもという訳ではありません。なので、自分のことは自分で決めます」
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こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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