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第二十六話 どちらにしろ、呪いの腕輪だった

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 叫びながら、腕輪のはまっている方の拳で扉の文字を殴りつけたウィリアムだったが、拳が当ると同時に扉は粉々に粉砕された。

「「えーーー!!」」

 まさか、粉々になるとは思わなかったユリウスは驚いた声を上げた。さらに、殴った本人も、まさかの展開に声を上げた。
 しかし、春虎は違った。

「流石船長。打撃が得意だったんですね」
「「違うから!!」」

 春虎の斜め方向な賛辞に、同時に突っ込むウィリアムとユリウスだった。

「ところで、これが地図じゃないですか?」

 春虎は、二人の突っ込みを気にした風もなく、マイペースに砕けた扉の中から出てきた紙を拾って二人に見せた。

「扉の中に隠されていたのか?」
「そうみたいだな。ただ、俺の推測だが、その腕輪を付けた者が扉に触れると扉が砕けて現れる仕組みだと思うぞ。じゃないと、ウィルの拳で扉が砕けたことの理由が付かない」
「そうだな、俺もユーリの考えに同意だ。俺が非力って訳じゃなく、普通に考えて鉄みたいな硬い物を素手で壊すなんて無理だからな」
「そうだな。お前は、残念なアホだが、運はそこそこ良いからな」
「ユーリは、俺を貶さないと褒められないのかよ」
「いや、俺は本当のことを言ったまでだ」

 そんなことを言い合っている二人を他所に、春虎は出てきた地図を見ていた。そして、地図の裏側にも先ほどの文字が書かれていることに気が付いた。

「船長、これを」
「ん?また、さっきの文字だな。なになに、『よくこの地図に気が付いたね。頭はそこそこ働くのか、それとも単に運がいいのか。まぁ、それはいいや。これから大事なことを書くよ。まず、副作用の解除方法だけど、この地図に書かれているもう一つの妖精の輪の模倣品の出来そこないを好きな相手に付けてもらうんだ。そして、二人の思いが通じあえば無事に共鳴効果が起こり、妖精の輪が完成すると同時に、腕輪は外れるようになるよ。ただし、相手が君と同じ気持ちじゃなかったら、それまでだ。失恋決定だね。まぁ、どの道外れなきゃ失恋はするんだけどね。ん?相手が別の人を現在進行形で好きな場合?もちろん、副作用で失恋決定だね。よかったね、自分の好きな人が別の人と結ばれることが無くなって。えっ?現在進行形の恋をしていない場合の解除方法?そんなのないよ。残念だけど、一生それを付けてもらうしかないね。でも、安心して。外れないだけで、何の害もないよ。それに、妖精言語を理解できるようになるなんてお得な特典も付いているんだからね。ということで、君の恋を応援しているよ。せいぜいがんばれ!!』って、なんじゃそりゃーーー!!!」

 書かれていることを一気に読み上げたウィリアムは発狂した。

「現在進行形の恋愛をしていなくても一生外れない呪いなのは変わらないじゃないか。しかも、解除する為には、ハっ、じゃない、好きな相手にまでリスクを負わせる可能性もあるなんて、そんなのダメだ!!なんてたちの悪い呪いなんだ」
「そうだな、相手次第なんてとんだ博打だ」

 ユリウスは、春虎の方を見てからウィリアムの叫びに同感だと頷いた。
 しかし、春虎は希望を持った表情で言った。

「諦めるのは早いです!!呪いの腕輪をとりあえず確保しておいて、相手に振り向いてもらうのはその後でもいいじゃないですか。それで、いい感じになったところで、呪いの腕輪を試すんです。事情を説明すれば、船長が好きなあの方だって協力してくれます!!とりあえずは、呪いの腕輪探しと、相手の方に積極的にアピールしていく作戦で行きましょう。あっ、でも長い間航海していると、あの方にアピールする術がないですね……」

 そう言って、春虎は黙り込んでしまった。ウィリアムとユリウスは春虎が誰のことを想像して、アピールするように進言したのか互いの顔を見合わせた。
 そして、ウィリアムはあることに気が付く。

(ん?ユーリの奴、もしかして俺が好きなのが誰なのか気が付いたんじゃ……)

 そう考え顔を青くしたウィリアムは、春虎に聞こえないように小声でユリウスに確認をした。

「おい、まさか俺の好きな相手が誰だか気が付いたのかよ……」
「ふう。長い付き合いだ。今までの行動でばればれだ。たぶん、お前が気持ちに気が付く前から分かっていたと思うぞ」
「まじか!俺なんて、さっき呪いに掛かった時に分かったって言うのに……」
「まぁ、相手が相手だから、仕方ない」
「はぁ、この失恋確定の呪いって、結構辛いな」

 小声で話していた二人だったが、春虎には実は聞こえていたのだった。しかし、春虎は、相手の名前が伏せられた状態の会話で、さらに誤解を深めたのだった。

(そっか、女王陛下のこと好きだって、さっき気が付いたんですね。それなら、早く街に戻って、ガンガンアピールしていかないと。これは、船長のためにもラブラブ作戦を無事に成功させなくては!!)

 まさに、呪いの効果は抜群だった。ウィリアムの想いに全く気が付かない春虎は、別の相手とのラブラブ作戦の成功を考え燃えていた。
 しかも、その相手が春虎とウィリアムのカップリングで悶える女王陛下腐女子という、恐ろしくも、大変な相手だということにも関わらずにだ。

 こうして、これからの目標が決まった三人は、また春虎に抱えられて戻って行ったのだった。
 ただし、ユリウスは、「あんな恥ずかしい恰好無理だ!俺は泳ぐ!!」と言い張ったが、「恰好が嫌なんですね。分かりました」と、言った春虎の肩に抱えられる姿で戻ったのだった。
 春虎の肩に抱えられている間、ユリウスはずっと手で顔を覆っていたが、それについて突っ込める者は誰ひとりいなかった。

 岸に残っていたクルーと合流した三人は、ウィリアムの「事情は後で説明する。とりあえず急いで船に戻ろう」という言葉で、その場を後にすることとなった。

 そして、船に戻りメンテナンス班も揃ったところで、今回の呪いの腕輪についてクルー全員に説明をした。

 クルー達は、ウィリアムを可愛そうな人を見るような眼差しで見つめた後に、「絶対に呪いを解きましょう!!」と心を一つにした。
 ただし、ウィリアムの本当の心に気が付いたものは、少数だがいた。その勘のいい者達は、「船長の失恋は俺達が癒してやろう」と、涙ながらだったという。
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