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第九話 恐怖

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 パチンッ!


 その音を聞いたジルトールは、次に気が付くとベッドの中にいた。
 慌てて身を起こし周囲を確認すると、そこが自室のベッドの中だとジルトールには分かった。

 全身を確認してみても、どこにも怪我などしていなかった。

 全て悪い夢だったのだ。
 そう安堵の息を吐きたかった。

 しかし、それは出来なかった。

 体中どこにも怪我を負っていなかったというのに、どうしてなのか、全身にあの痛みが走ったのだ。
 あの民衆から受けた仕打ちが、体中に痛みの感覚として残ってるとでもいうかのように。

 夢の中で散々味わった痛みに苦しんでいると、侍女がジルトールを起こしにやってきたのだ。
 そして、ベッドの上に身を起こしているジルトールに一通の封筒を差し出したのだ。



 どこか覚えのある封筒を見たジルトールは、全身から冷や汗が噴き出すのが分かった。
 しかし、思い違いかもしれないと思いたかったジルトールは、慌ててその中身を確認していた。

 封筒の中には、よく知る部下の字である男の始末が終わったと簡潔に書かれていた。


 そう、その手紙は、悲劇の始まりともいえるユーステスの死を知らせるものだった。


 ジルトールは、これから始まる地獄の苦しみを瞬時に理解して盛大に失禁していたのだ。
 侍女は、そんな王太子の粗相に慌てて後始末をしたのだった。


 それからだった。ジルトールが、事あるごとに失禁をするようになったのは。

 少し驚いただけで、ズボンを濡らす。歩くだけで、喋るだけで、気が付くとお漏らしをすることを繰り返していたのだ。

 そして、いつしかオムツなしでは生活できないようになっていたのだ。

 日々、体中を蝕む幻痛に悩まされ、そして事あるごとにお漏らししてしまう生活を送るジルトールは、シエルがいつ復讐しに来るのかと怯えながら毎日を過ごしていた。
 しかし、シエルが現れることはなかった。

 そんなある日、隣国との戦争の準備を密かに進めて、国境沿いの要塞に配置していた兵士が全滅したと王宮に報告があったのだ。


 報告を受けた王宮は、即座に原因を探った。
 そして知ったのだ。
 ある男がたった一人で、化け物のような力を揮って兵士を皆殺しにしたと。


 その化け物の正体が、ユーステス・ソルラムだという知らせを聞いたジルトールは、その知らせを受けたその場で盛大にお漏らしをしたのだった。

 殺したはずの男が、甦って復讐に来たのだと理解してしまい、恐怖したのだ。
 次に殺されるのは自分なのだと思うと、小便を止めることが出来なかったのだ。
 
 そして、ユーステスの傍には、白髪の美しい少女がいたと報告が上がったとき、ジルトールは、ついに糞を漏らしてしまったのだ。

 小便と糞を漏らす王太子に、誰しもが隠しようもない嫌悪の表情を向けていたが、恐怖におびえるジルトールは、それに気が付かなかった。


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