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第二話 運命

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 バルバロス王国にあるソルラム領の山奥にひっそりと建つ小さな家には、まだ幼い少女がたった一人で暮らしていた。
 少女の名は、シエルと言った。
 シエルの両親は1週間ほど前に二人ともこの世を去っていた。
 
 シエルは、白髪の長い髪を背中の中ほどで緩く縛っていた。
 小作りな顔は整っていて、中でも紅蓮に輝く瞳は美しい宝石のようだった。
 
 シエルは、幼いながらも両親の死の理由を理解していた。
 それは、仕方ないことだったのだと、この時のシエルは考えていた。
 
 
 そんなある日のことだった。
 領主の使いだと名乗る男がシエルの住む家を訪ねてきたのだ。
 
 シエルと両親は、魔法使いの一族の生き残りだった。恐らく、他に生きている一族の者はいないだろう。
 
 そんな両親は、領主のソルラム伯爵から許しを得てこの地に隠れるようにして住まわせてもらっていたのだ。
 その対価として、伯爵のために魔法を使っていたのだ。
 
 シエルは、領主の使いが来た時、この地を追い出されるのだと覚悟していた。
 しかし、何故か使いの男はシエルに山を降りて領主の元に来るように言ったのだ。
 シエルは、どうしたらいいのか分からずに、ただ流されるようにそれに従った。
 
 
 
 しかし、その行動がシエルの運命を変えたのだ。
 そう、それは運命だったのだろう。
 
 
 伯爵家でシエルは、恋に落ちたのだ。
 
 伯爵家の次男である、ユーステス・ソルラムを一目見て運命の人だと感じたのだ。
 そして、ユーステスも同じようにシエルに一目で恋に落ちたのだ。
 
 
 ユーステスは、栗色の少し硬い髪を短く切っていた。意志の強そうな瞳はダークブラウンで、程よく鍛えられた体は、少年から青年へと成長する途中だった。
 
 初めて会った瞬間から、お互いのことしか目に入らないくらい、惹かれ合ったのだ。
 
 
 そんな二人を見た伯爵は、醜悪な思いを胸の内に隠しながら、幼いシエルに言ったのだ。
 
「どうかな?ユーステスの婚約者としてここで一緒に住まないか?」

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったシエルは、瞳を輝かせてユーステスと見つめ合ってから、その提案に頷いていた。
 
「伯爵様、ありがとうございます」

「父上、ありがとうございます」

「いいんだ。可愛い息子が好きになった相手だ」

 そう言って伯爵は、二人の恋を応援したのだ。
 しかし伯爵の本当の目的は、珍しい魔法使いを手元に置くというものだった。
 
 それに気が付かないシエルは、自分に優しくしてくれる伯爵を心から慕ったのだ。
 
 
 
 シエルが13歳の時、16歳となったユーステスが王都の騎士団に身を置くこととなった。
 ユーステスの王都行に、当然シエルも付いて行くとこになった。
 
 王都の屋敷でも、シエルとユーステスは仲睦まじく暮らしていた。
 その頃、シエルは魔法の力でソルラム領を豊かにしたことで、領民から聖女と慕われていた。
 そして、誠実でシエルへの愛情を隠すこともなく、仲睦まじい姿を見せるユーステスも領民から好かれていた。
 
 そんな二人は、王都に移っても手を取り合い微笑ましい姿を周囲に見せていたのだ。
 美しい聖女と、聖女を心から愛する騎士の話は王都でも有名になるほどだった。
 
 
 
 そんな幸せのただなかの二人に運命の時が迫っていた。
 
 
 シエルが15歳の時だった。
 ユーステスは、騎士団である大きな任務を任されることとなったのだ。
 それが成功すれば、騎士として成功したも同然の大きな任務をだ。
 ユーステスは、任務に向かう前に心配するシエルに言ったのだ。
 
「シエル、この任務が終わったら、俺と正式に婚姻を結ぼう。俺の妻になってくれ」

 シエルは、愛するユーステスからのプロポーズの言葉に笑顔で頷いた。
 
「はい。ユーステス様。どうかご無事で。お帰りをお待ちしています」

 普段は、表情に乏しいシエルの嬉しそうな笑顔を見たユーステスは、白い歯を見せて笑ったのだ。
 そして、男らしい大きな手で、シエルの頭を優しく撫でた後に触れるだけのキスを送った。
 
「ああ。必ずシエルの元に帰ってくる。愛してるよ、シエル」






 そして、数週間後、シエルの元に知らせが届いた。
 その内容は、ユーステスの死を知らせるものだった。

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