上 下
1 / 10

第一話 聖女の復讐

しおりを挟む
 聖女と呼ばれた少女は、遠く離れた場所での光景を魔法の力で覗き見ながら、薄笑いを浮かべていた。
 自分から愛する人を奪った憎い相手が無様に悲鳴を上げて助けを求める姿が滑稽で笑うしかなかった。
 
 憎くて憎くて仕方のない。
 だけど、簡単に殺してなんてやらない。
 苦しめて苦しめて、何度でも苦痛を与えて、それでもまだ殺さない。
 
 
 こんなものじゃ足りない。
 もっともっと苦しませてあげるから。

 憎しみに燃える紅蓮の瞳で、憎くて堪らない王太子の無様な様子を見つめ続けた。
 
 
 
 聖女は、どうしてこうなってしまったのかと空を仰いだ。
 
 聖女の荒んだ心とは正反対の、どこまでも透き通るような青い青い空には、雲が流れていった。
 とても綺麗な青空を見つめていると、最愛の人の笑顔が浮かんだ。
 
 歯を見せてにかっと笑うその顔を見ると、いつも太陽のようでとても眩しいと感じた大好きな笑顔を。
 聖女の髪を梳いて、優しく頭を撫でてくれる仕草を思い出すと、涙が溢れて止まらなかった。
 
 
 お互いに愛し合っていたのだ。
 結婚しようと約束をしていたのだ。
 
 大好きだった。
 初めて会った時、運命の人だとお互いに感じたのだ。
 
 
 
 それなのに、それなのに!!
 
 
 聖女の心は、嵐のように憎しみが渦巻いていた。
 
 憎いあいつを殺したい。
 憎いあいつを苦しめたい。
 憎いあいつを痛めつけたい。
 
 
 黒い感情に支配されていた聖女の心は、既に限界だった。
 
 カサカサに乾燥しヒビ割れて、真っ黒な血を流していた。
 だけど、そんなことどうでもよかったのだ。
 
 復讐を果たせるなら、悪魔にだってなってやるのだと聖女は誓ったのだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました

あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢 しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。

国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆるふわ設定です。 連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

乗せられなければ死なずに済んだでしょうに……悲しいことです

四季
恋愛
エリカ・ミレニアムには、幼いうちに家の都合で婚約した婚約者がいた。 二人は仲良かったのだけれど……。

処理中です...