31 / 40
第三十一話
しおりを挟む
そして、約束の時がとうとうやってきた。
こちらに来てひと月。
わたしと、ラヴィリオ王子殿下の結婚式の日がとうとうやってきたのだ。
見ることは出来ないけれど、触っただけでも分かるわ。
用意されたウエディングドレスの素晴らしい出来栄えが。
雲のように軽く、滑らかな肌触り。
高価そうな布地がふんだんに使われたウエディングドレスをまとったわたしはその日、ラヴィリオ王子殿下の正式な妻となった。
大勢の人が見ている中、わたしはラヴィリオ王子殿下と並んで、教皇様の前で誓いの言葉を口にする。
わたしが誓いの言葉を口にしたとき、ラヴィリオ王子殿下からとても嬉しそうな気配を感じて、わたしは嬉しくなってしまう。
短い間ではあったけど、わたしはラヴィリオ王子殿下のことをいつの間にかお慕いしていた。
わたしに優しくしてくれるとか、抱きしめてくれるとか、色々理由はあったけれど、一番の理由は、わたしがラヴィリオ王子殿下の傍に居たいと思ってしまったことだろう。
今まで、いつ死んでもいいと、そう思っていたけれど、今は違うわ。
ラヴィリオ王子殿下とずっと一緒にいたい。叶うことなら、彼と同じものを見て、同じように喜びを感じて、幸せを分かち合いたいと思っていた。
きっとこれが愛情と言う物なのだろう。
ぼんやりと教皇様の祝福の言葉を聞いているうちに、いつの間にか誓いのキスをするように言われてしまっていた。
誓いのキスについては、事前にローザ様から聞いていた。
二人の愛を神様や沢山の人に見届けてもらうための儀式だと。
少し上を向いて、じっとしていればラヴィリオ王子殿下が全てやってくれると、そう言われたの。
だからわたしは、言われた通り少しだけ上を向いてじっとしたまま待っていたわ。
少しすると、何故かベールが少しだけ捲られたのが分かった。
何故だろうと思って、少し首をかしげたその時だった。
何か柔らかいものがわたしの唇に触れていた。
フニフニとしたそれは、わたしの唇に数秒間触れた後に離れていった。
一体あれは何だったのだろう?
そんなことを考えているうちに、式は終わっていた。
式後、ラヴィリオ王子殿下は式に参加してくれた貴族の方たちに挨拶があると言ってわたしの側らか離れてしまった。
わたしはというと、ラヴィリオ王子殿下から「疲れただろう? 少し休むといい」と言われて、その言葉に甘えていた。
わたしに用意された部屋で休んでいると、突然周辺の空気が揺らぐのを感じた。
どうしたのかと、周囲を探ると、さっきまで一人だったはずの室内に誰かの気配を感じた。
わたしは、突然の侵入者に驚きつつも、事前にローザ様に何かあったら鳴らすようにと言われたベルを鳴らそうと手を伸ばしたけれど、ベルに手が届くことはなかったの。
聞きなれた声にわたしは伸ばしていた手を止めてしまったから……。
「久しぶりね。ふふ。ゴミカスの分際で、良い暮らしをしていたみたいじゃないの?」
「…………」
「ふふ。やっぱりお前を始末しなくて正解だったわ。ねぇ、最後の務めを果たす時が来たわ」
そう、わたしに冷たく言い放ったのは、わたしの実の姉。
マリーデ・ディスポーラだった。
なぜ彼女がここにいるのかとか、最後の務めとか、色々聞きたいことはあったけど、わたしは口を開くことは出来なかった。
震えが止められなかった。
これから、ラヴィリオ王子殿下と幸せを分かち合うと思っていた矢先だった。
だけど、わたしは今までそう生かされていたから……。
膝を付いて、首を垂れることしかできなかった。
そんなわたしを見て、彼女は心底楽しそうに言うのだ。
「ああ、なんて愉快なのかしら。やっぱり、本体のお前がいないと結界が揺らぐみたい。だから……。お前の力の元をぜーんぶ差し出しなさい」
ああ、やっぱりそうなのね。
それでも、ほんの少しでも幸せな夢を見られた。それだけでわたしは十分だった。
「承知しました……」
「ふふ。物分かりが早くて助かるわ。でもね、今回はそのままで処置するわね」
「っ!!」
「ふふ。だってね。前回と前々回。それで失敗していたってようやく分かったんだもの。お前の意識が無い状態では力が注ぎきれなかったみたいなのよね。だから……。お前は、力を込めることだけ考えなさい。それ以外は許さないわ。もし、失敗したら、成功するまで続けるからそのつもりで」
体が恐怖で震えた。あまりの恐怖に胃の中のものを吐き出しそうになってけれど、何とかそれを堪えて、わたしは心の中でラヴィリオ王子殿下助けを求めてしまっていた。
「さあ、ゴミカス。利き手がいいわね。右だったかしら? 左だったかしら? まあ、どちらでもいいわね。ふふふっ。右手にお前の中の力を全て集中させなさい。もし失敗したら、今度は左手だから。そうなりたくなかったら頑張るのよ?」
ああ、やっぱりわたしに幸せになる資格なんてなかったんだ。
でも、幸せな夢を一時でも見られたことに感謝しなくては……。
さようなら、わたしの愛しいひと。
「あぁぁーーーーーーーー!!!!」
痛い痛い痛い!!
痛い痛い痛い痛い痛い!!
右腕に感じる焼けるような熱に苦痛の叫びが出てしまう。
「あはははは!! ゴミカス! いい感じよ! さあもっと、もっと力を込めなさい!!」
「あああっ!! あああぁあぁーーーーーーーー!!!」
「あはははは!! 痛みに呻くお前、最高に良いわ!」
わたしの体から右腕がゴトンと床に落ちる音がした。
それと同時に、今まで当たり前のように感じていた魔力がわたしの体の中から消えていた。
「ラヴィリオ王子殿下…………。ごめんなさい……」
こちらに来てひと月。
わたしと、ラヴィリオ王子殿下の結婚式の日がとうとうやってきたのだ。
見ることは出来ないけれど、触っただけでも分かるわ。
用意されたウエディングドレスの素晴らしい出来栄えが。
雲のように軽く、滑らかな肌触り。
高価そうな布地がふんだんに使われたウエディングドレスをまとったわたしはその日、ラヴィリオ王子殿下の正式な妻となった。
大勢の人が見ている中、わたしはラヴィリオ王子殿下と並んで、教皇様の前で誓いの言葉を口にする。
わたしが誓いの言葉を口にしたとき、ラヴィリオ王子殿下からとても嬉しそうな気配を感じて、わたしは嬉しくなってしまう。
短い間ではあったけど、わたしはラヴィリオ王子殿下のことをいつの間にかお慕いしていた。
わたしに優しくしてくれるとか、抱きしめてくれるとか、色々理由はあったけれど、一番の理由は、わたしがラヴィリオ王子殿下の傍に居たいと思ってしまったことだろう。
今まで、いつ死んでもいいと、そう思っていたけれど、今は違うわ。
ラヴィリオ王子殿下とずっと一緒にいたい。叶うことなら、彼と同じものを見て、同じように喜びを感じて、幸せを分かち合いたいと思っていた。
きっとこれが愛情と言う物なのだろう。
ぼんやりと教皇様の祝福の言葉を聞いているうちに、いつの間にか誓いのキスをするように言われてしまっていた。
誓いのキスについては、事前にローザ様から聞いていた。
二人の愛を神様や沢山の人に見届けてもらうための儀式だと。
少し上を向いて、じっとしていればラヴィリオ王子殿下が全てやってくれると、そう言われたの。
だからわたしは、言われた通り少しだけ上を向いてじっとしたまま待っていたわ。
少しすると、何故かベールが少しだけ捲られたのが分かった。
何故だろうと思って、少し首をかしげたその時だった。
何か柔らかいものがわたしの唇に触れていた。
フニフニとしたそれは、わたしの唇に数秒間触れた後に離れていった。
一体あれは何だったのだろう?
そんなことを考えているうちに、式は終わっていた。
式後、ラヴィリオ王子殿下は式に参加してくれた貴族の方たちに挨拶があると言ってわたしの側らか離れてしまった。
わたしはというと、ラヴィリオ王子殿下から「疲れただろう? 少し休むといい」と言われて、その言葉に甘えていた。
わたしに用意された部屋で休んでいると、突然周辺の空気が揺らぐのを感じた。
どうしたのかと、周囲を探ると、さっきまで一人だったはずの室内に誰かの気配を感じた。
わたしは、突然の侵入者に驚きつつも、事前にローザ様に何かあったら鳴らすようにと言われたベルを鳴らそうと手を伸ばしたけれど、ベルに手が届くことはなかったの。
聞きなれた声にわたしは伸ばしていた手を止めてしまったから……。
「久しぶりね。ふふ。ゴミカスの分際で、良い暮らしをしていたみたいじゃないの?」
「…………」
「ふふ。やっぱりお前を始末しなくて正解だったわ。ねぇ、最後の務めを果たす時が来たわ」
そう、わたしに冷たく言い放ったのは、わたしの実の姉。
マリーデ・ディスポーラだった。
なぜ彼女がここにいるのかとか、最後の務めとか、色々聞きたいことはあったけど、わたしは口を開くことは出来なかった。
震えが止められなかった。
これから、ラヴィリオ王子殿下と幸せを分かち合うと思っていた矢先だった。
だけど、わたしは今までそう生かされていたから……。
膝を付いて、首を垂れることしかできなかった。
そんなわたしを見て、彼女は心底楽しそうに言うのだ。
「ああ、なんて愉快なのかしら。やっぱり、本体のお前がいないと結界が揺らぐみたい。だから……。お前の力の元をぜーんぶ差し出しなさい」
ああ、やっぱりそうなのね。
それでも、ほんの少しでも幸せな夢を見られた。それだけでわたしは十分だった。
「承知しました……」
「ふふ。物分かりが早くて助かるわ。でもね、今回はそのままで処置するわね」
「っ!!」
「ふふ。だってね。前回と前々回。それで失敗していたってようやく分かったんだもの。お前の意識が無い状態では力が注ぎきれなかったみたいなのよね。だから……。お前は、力を込めることだけ考えなさい。それ以外は許さないわ。もし、失敗したら、成功するまで続けるからそのつもりで」
体が恐怖で震えた。あまりの恐怖に胃の中のものを吐き出しそうになってけれど、何とかそれを堪えて、わたしは心の中でラヴィリオ王子殿下助けを求めてしまっていた。
「さあ、ゴミカス。利き手がいいわね。右だったかしら? 左だったかしら? まあ、どちらでもいいわね。ふふふっ。右手にお前の中の力を全て集中させなさい。もし失敗したら、今度は左手だから。そうなりたくなかったら頑張るのよ?」
ああ、やっぱりわたしに幸せになる資格なんてなかったんだ。
でも、幸せな夢を一時でも見られたことに感謝しなくては……。
さようなら、わたしの愛しいひと。
「あぁぁーーーーーーーー!!!!」
痛い痛い痛い!!
痛い痛い痛い痛い痛い!!
右腕に感じる焼けるような熱に苦痛の叫びが出てしまう。
「あはははは!! ゴミカス! いい感じよ! さあもっと、もっと力を込めなさい!!」
「あああっ!! あああぁあぁーーーーーーーー!!!」
「あはははは!! 痛みに呻くお前、最高に良いわ!」
わたしの体から右腕がゴトンと床に落ちる音がした。
それと同時に、今まで当たり前のように感じていた魔力がわたしの体の中から消えていた。
「ラヴィリオ王子殿下…………。ごめんなさい……」
10
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。
しゃーりん
恋愛
学園の卒業パーティーで傷害事件が起こった。
切り付けたのは令嬢。切り付けられたのも令嬢。だが狙われたのは本当は男だった。
狙われた男エドモンドは自分を庇った令嬢リゼルと傷の責任を取って結婚することになる。
エドモンドは愛する婚約者シモーヌと別れることになり、妻になったリゼルに冷たかった。
リゼルは義母や使用人にも嫌われ、しかも浮気したと誤解されて離婚されてしまう。
離婚したエドモンドのところに元婚約者シモーヌがやってきて……というお話です。
花は何時でも憂鬱で
青白
BL
日本屈指の財力を持つ金持ち学校
春栄学園に入学した春は
とある事情で財閥の長子であるにも関わらず偽名で入学することになった
けれど、その学園には奇妙な独自規則が展開されていた。
______『力こそが、全てだ』_____と。
そして、春も様々な思惑の中で
その独自規則に巻き込まれていく
そして知ることとなる
この学園の端々に感じる
『春田叶多』の名と『オーロ世代』と呼ばれるその世代とは何なのか、を。
『オーロ世代』 の間違いのその犠牲の果てに、この学園には
“何か”が欠如してしまった生徒たちが多く蔓延っていた。
【 ヒトは、変わらないことを願う。願い続ける。けれど、それを壊さんとする悪魔が鬼が
現れたのならどうなるのだろうか____待っているのは“安寧”かそれとも“崩壊”か 】
※登場人物は随時更新していくので
お手数ですがご確認下さい
※生徒会・風紀委員それぞれ出ますが
王道の様な王道ではない様な所が多々あるのでご注意下さい
※関西弁使いますが
本場の人からすれば違和感まんさいです
けど、どうか温かい目で見てやってください
※年齢制限の表現は極力挟まない予定ですが。全くないとも言い切れませんのでR指定させていただきます。
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる