異世界に転移したけど、パーティーメンバーが全員総受けってことは僕が攻めればいいんだよね？

第十一話 タライ

　冒険者ギルドに依頼達成の報告をした後は、そのまま宿屋に直行した。
　細切れでミンチ状態のコボルトから牙を取る作業は、想像以上に僕に精神的なダメージを与えていた。
　これから先、ここで冒険者として生活する上で慣れていかなければならないけど、今すぐは無理そうだ。
　本当は風呂に入ってさっぱりしたいところだけど、ここにそんなものはない。
　いつもは、体を拭くだけで済ませていたけど、今日は頑張ったご褒美として風呂に入りたかった。
　
　考えた結果、宿の人から大き目のタライを借りることにした。
　一刻も早くすっきりしたかった僕は、部屋に入るなり服を脱ぎ棄てていた。
　僕の後から続いて部屋に入ってきた一生が後ろで変な声を上げていたけどそんなこと気にしている場合ではない。
　
　全裸になった僕は、火と水の複合魔法でお湯をタライに張った。
　そして、膝を抱えるようにしてタライに入って久しぶりのお湯の感覚を味わった。
　お湯を手で掬って、肩にかけながらお湯の温かさに息が漏れた。
　
「はぁぁぁあああ。気持ちいい。足が伸ばせれば最高なんだけどなぁ。でも、いい気持だぁ」

　タライの縁に背を預けるように体を仰向けに倒して両腕をタライの縁にかけ、足は胡坐をかくような体勢で、だらける様に体を仰け反らせた。
　逆さまの視界の中に、目を泳がせる一生が見えた。
　一人だけ極楽気分でいるのが申し訳なく思った僕は、一生にだらしない恰好のまま声をかけていた。
　
「一生、わりぃーな。もう少ししたら代わるからぁ」

「ふへ？　べ、別に大丈夫だから！　陽騎はゆっくり浸かってていいから！！」

「遠慮すんなって。お湯、気持ちいいぞぉ」　

「いやいやいや！！　俺は見てるだけで十分最高だから！」

「えーー。変な一生？」

　こんなに気持ちいのに。何遠慮してんだか。
　もしかして一生のやつ腹でも痛いのか？　変に腰が引けてるし？
　まぁ、無理強いすることでもないし、入らないって言うなら僕一人で楽しむからしいですよーだ。
　
　腹痛を我慢しているのか、ソワソワもじもじしている一生に呆れたように僕は言ったよ。
　
「一生？　我慢すんなって。腹痛いならトイレ行って来いよ」

「へ？　ああ、大丈夫だから。それよりも今はここにいたいから。十分堪能してからトイレに行くから。今はそっとしておいてくれていいから」

「はあ？」

　よく分からんが、大丈夫そうならいいか。
　はぁ、それよりも。そのうちでっかい風呂に思う存分浸かりたい。
　うん。魔物の解体とか剥ぎ取りとか頑張って、金稼いで、風呂の付いた家に住む。
　明日からもっと頑張ろう！！
　
　
　こうして僕は、タライ風呂でリフレッシュしたことで、明日からの冒険者としての活力を得たのだった。
　一生はというと、僕がタライ風呂から出て服を着た後に早足でトイレに駆け込んで行った。
　それを見た僕は、一生がいい所のボンボンかもしれないということを思い出していた。
　そうだよな。ここのトイレすげー汚いから、あんまり使いたくないのは十分わかる。
　元の世界だと、水洗トイレは常識だったけど、ここでは違う。
　聖堂のトイレはここよりましだったけど、汲み取り式だったことに変わりないしなぁ。
　魔具で、水洗トイレみたいな物もあるらしいけど、富裕層向けらしいから庶民には手が出せない代物らしい。
　
　それから、10分くらいして一生がすっきりしたような表情で戻ってきた。
　
「おかえり。腹の調子はどうだ？　もし辛いようなら早く寝ろな？」

「へ？　ああ、大丈夫だよ」

「そっか。ならいいけど。ここは元の世界とは違うんだから、体調管理だけはしっかりしないとな。何かあったら隠さずにきちんと言えよ？」

「うん。わかった。陽騎も何かあったら俺に言ってね？」

「おう」