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本編
第二章 欠陥姫と騎士(2)
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急激に一人でいることが心細くなってきたミリアリアは、自然と涙が込み上げて来るのを抑えられなかった。
涙が盛りあがり、美しい瞳が潤んだ次の瞬間だった。ミリアリアが、瞬きをした瞬間、涙が一滴頬伝って流れ落ちた。
流れ星のように白い頬を伝い落ちた綺麗な涙を見てしまった男は、動揺したように手をあたふたと振って何とかミリアリアを泣き止ませようとしたが、ミリアリアには何も見えていなかった。
ただ、声のした方を仰ぎ見た時、ミリアリアの色を失って真っ暗となってしまったはずの世界に強い光を感じた気がしたのだ。
それを不思議に思いながらも涙を止めることが出来ないミリアリアは、瞬きを繰り返し何度も美しい涙を零してしまっていた。
瞬きをするたびに綺麗な涙が零れるのを見た男は、出来るだけ優しい声音を心掛けて慎重に口を開いていた。
「すまない。泣かないでくれ。頼むから泣き止んでくれ」
必死にそう言う男の醸し出す、たどたどしいながらも優しさを感じさせる言葉を聞いたミリアリアは、小さく笑ってしまっていた。
細い肩を揺らして声もなく笑っているミリアリアに気が付いた男は、疲れたように言ったのだ。
「泣き止んでくれたのはいいが、俺が笑われているように感じるのは気のせいか? いや、気の所為じゃないな。おい、笑うな」
男の独り言のような言葉が楽しく思えたミリアリアは、笑いを抑えることが出来なかった。
笑い過ぎて別の意味で涙が出てしまっているミリアリアだったが、突然目元に触れる温もりに驚いて笑いと涙が引っ込んでしまっていた。
ミリアリアからは見えなかったが、男が優しい手つきでその涙を拭っていたのだ。
それを知らないミリアリアは、目元に触れた温もりが何か気になって、恐る恐る細い指先で目元にある男の大きく硬い手に触れていた。
自分とは全く違うごつごつと硬い指先だったが、何故か優しい温もりを感じたミリアリアは、その指先を両手で握りしめて知らずしらずのうちに微笑んでいたのだ。
それは、美しいものではあったが、それと同時に脆く消えてしまうような儚さも感じさせる微笑みだった。
それを見た男は、何故かその微笑みを守りたいと強く感じた自分に心の中で首を傾げていた。
そして、世界にミリアリアと男しか存在しないような、そんな空気はあっという間に壊れてしまったのだ。
情報収集から帰ってきたセイラが、見知らぬ男からミリアリアを庇うようにその身を抱きしめたのだ。
「ひ……この子に何をしていたんです!!」
そう言って、男をきつく睨みつけたのだ。
それを見た男は、指先にほんのりと残る温もりを逃がさないとでも言うように手を握った後に困ったような表情で言ったのだ。
「すまない。この子を驚かせてしまったようで、慰めようと……」
「慰めるですって? 嘘をおっしゃい!」
「誓って、俺は何もしていない」
そう言って、男は両手を上げて見せた。それを見たセイラは一瞬疑わしいと言いたげな表情をしたが、それよりもミリアリアの身の安全を確認する方を優先した。
腕の中のミリアリアに視線を向けて、衣服や髪に乱れが無いことを確かめてから安堵の息を吐いたのだ。
そうすると、ミリアリアがセイラに抱き着いて服を小刻みに引っ張ったのだ。
一瞬どうしたのかと思ったセイラだったが、一瞬でミリアリアの意図を理解したのだ。
いつもの音の代わりに服を引っ張って言葉を伝えようとしていると。
(セイラ。心配かけてごめんね。この人に声をかけられて驚いてしまっただけなの。それに、この人は優しい人だよ)
セイラは、男に向かって一度疑わし気な視線を向けたが、その間もミリアリアが服を引っ張ってきていたので、すぐに視線をミリアリアに戻していた。
(セイラ、心配かけてごめんなさい)
涙目でそう訴えるミリアリアを見たセイラは、小さく息を吐いた後に、ミリアリアにだけ聞こえる小さな声で断りを入れていた。
「姫様、ここは私に任せてください」
そう言った後セイラは、ミリアリアを背中に庇うような体勢で男の方を振り返ってから機械的な口調で言ったのだ。
「娘がご迷惑をおかけしました。私たちは、最近この小屋に住まわせてもらっている、王宮に勤める使用人です。貴方様は?」
セイラのその説明を聞いた男は、なるほどと言った表情をした後にそれでも不思議そうな顔をしながら独り言のようにぶつぶつと言ったのだ。
「そうか……。しかし、ここに誰かが住むことになったという報告は聞かなかったが……。いや、使用人の人事については任せっきりだったからな……。ふむ、まぁいいか。すまない。俺は、……リートだ。王宮に勤める騎士だ。俺は、ときたまこの小屋に来て休憩していたんだ」
その言葉を聞いたセイラは呆れた顔をして、セイラの背後に庇われていたミリアリアは、小さく噴き出してしまっていた。
男の話を要約すると、「たまにこの小屋で仕事をさぼっていた」ということだった。
この小屋が誰も住んでいないのに手入れがされていた理由が分かった瞬間、ミリアリアはなるほどと一人感心していたのだった。
涙が盛りあがり、美しい瞳が潤んだ次の瞬間だった。ミリアリアが、瞬きをした瞬間、涙が一滴頬伝って流れ落ちた。
流れ星のように白い頬を伝い落ちた綺麗な涙を見てしまった男は、動揺したように手をあたふたと振って何とかミリアリアを泣き止ませようとしたが、ミリアリアには何も見えていなかった。
ただ、声のした方を仰ぎ見た時、ミリアリアの色を失って真っ暗となってしまったはずの世界に強い光を感じた気がしたのだ。
それを不思議に思いながらも涙を止めることが出来ないミリアリアは、瞬きを繰り返し何度も美しい涙を零してしまっていた。
瞬きをするたびに綺麗な涙が零れるのを見た男は、出来るだけ優しい声音を心掛けて慎重に口を開いていた。
「すまない。泣かないでくれ。頼むから泣き止んでくれ」
必死にそう言う男の醸し出す、たどたどしいながらも優しさを感じさせる言葉を聞いたミリアリアは、小さく笑ってしまっていた。
細い肩を揺らして声もなく笑っているミリアリアに気が付いた男は、疲れたように言ったのだ。
「泣き止んでくれたのはいいが、俺が笑われているように感じるのは気のせいか? いや、気の所為じゃないな。おい、笑うな」
男の独り言のような言葉が楽しく思えたミリアリアは、笑いを抑えることが出来なかった。
笑い過ぎて別の意味で涙が出てしまっているミリアリアだったが、突然目元に触れる温もりに驚いて笑いと涙が引っ込んでしまっていた。
ミリアリアからは見えなかったが、男が優しい手つきでその涙を拭っていたのだ。
それを知らないミリアリアは、目元に触れた温もりが何か気になって、恐る恐る細い指先で目元にある男の大きく硬い手に触れていた。
自分とは全く違うごつごつと硬い指先だったが、何故か優しい温もりを感じたミリアリアは、その指先を両手で握りしめて知らずしらずのうちに微笑んでいたのだ。
それは、美しいものではあったが、それと同時に脆く消えてしまうような儚さも感じさせる微笑みだった。
それを見た男は、何故かその微笑みを守りたいと強く感じた自分に心の中で首を傾げていた。
そして、世界にミリアリアと男しか存在しないような、そんな空気はあっという間に壊れてしまったのだ。
情報収集から帰ってきたセイラが、見知らぬ男からミリアリアを庇うようにその身を抱きしめたのだ。
「ひ……この子に何をしていたんです!!」
そう言って、男をきつく睨みつけたのだ。
それを見た男は、指先にほんのりと残る温もりを逃がさないとでも言うように手を握った後に困ったような表情で言ったのだ。
「すまない。この子を驚かせてしまったようで、慰めようと……」
「慰めるですって? 嘘をおっしゃい!」
「誓って、俺は何もしていない」
そう言って、男は両手を上げて見せた。それを見たセイラは一瞬疑わしいと言いたげな表情をしたが、それよりもミリアリアの身の安全を確認する方を優先した。
腕の中のミリアリアに視線を向けて、衣服や髪に乱れが無いことを確かめてから安堵の息を吐いたのだ。
そうすると、ミリアリアがセイラに抱き着いて服を小刻みに引っ張ったのだ。
一瞬どうしたのかと思ったセイラだったが、一瞬でミリアリアの意図を理解したのだ。
いつもの音の代わりに服を引っ張って言葉を伝えようとしていると。
(セイラ。心配かけてごめんね。この人に声をかけられて驚いてしまっただけなの。それに、この人は優しい人だよ)
セイラは、男に向かって一度疑わし気な視線を向けたが、その間もミリアリアが服を引っ張ってきていたので、すぐに視線をミリアリアに戻していた。
(セイラ、心配かけてごめんなさい)
涙目でそう訴えるミリアリアを見たセイラは、小さく息を吐いた後に、ミリアリアにだけ聞こえる小さな声で断りを入れていた。
「姫様、ここは私に任せてください」
そう言った後セイラは、ミリアリアを背中に庇うような体勢で男の方を振り返ってから機械的な口調で言ったのだ。
「娘がご迷惑をおかけしました。私たちは、最近この小屋に住まわせてもらっている、王宮に勤める使用人です。貴方様は?」
セイラのその説明を聞いた男は、なるほどと言った表情をした後にそれでも不思議そうな顔をしながら独り言のようにぶつぶつと言ったのだ。
「そうか……。しかし、ここに誰かが住むことになったという報告は聞かなかったが……。いや、使用人の人事については任せっきりだったからな……。ふむ、まぁいいか。すまない。俺は、……リートだ。王宮に勤める騎士だ。俺は、ときたまこの小屋に来て休憩していたんだ」
その言葉を聞いたセイラは呆れた顔をして、セイラの背後に庇われていたミリアリアは、小さく噴き出してしまっていた。
男の話を要約すると、「たまにこの小屋で仕事をさぼっていた」ということだった。
この小屋が誰も住んでいないのに手入れがされていた理由が分かった瞬間、ミリアリアはなるほどと一人感心していたのだった。
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