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第一章 聖女になった少女①
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その少女の名前はサラと言った。
長い濡羽色の髪と猫を思わせるような吊り上がった黒曜石のような瞳。
人形の様に整った顔の少女は、その見た目に反して無表情で尊大な口調で言うのだ。
「ラン兄ちゃん。腹が減った。もう食ってもいいか?」
そう言われた少年。ランドールは、困ったような笑顔で答える。
「まだだよ。もう少しだから」
「うん」
素直に返事をしたサラの小さな頭を撫でたランドールは、目の前の鍋に視線を戻した。
鍋を見つめるランドールは、サラよりも五歳年上の十六歳だったが、鍛えられた体つきは、彼を少しばかり大人に見せていた。
月を連想させるような灰色の髪は長く伸ばされており、後ろで一つに結ばれていた。
切れ長の青い瞳と高い鼻梁の整った顔をしたランドールは、ボロ小屋とは似つかわしくない容姿だった。
そんなランドールは、小さな鍋をお玉で数回掻き回した後、ひと掬いして味を見る。
「うん。上出来だな。サラ、器を持ってきてくれ」
そう言われたサラは、小さく頷いた後に二人分の器を持ってランドールの元に駆け寄る。
「はい。熱いから気を付けるんだぞ」
「うん」
自分の分のスープの入った器を持って、テーブルに運ぶサラの後ろから、自分の分と二人分のパンを持ったランドールが続く。
綺麗に磨かれたテーブルにスープとパンを置いたランドールは、サラに視線を向ける。
それを見たサラは、両手を合わせてからスープに口をつけた。
「美味しい。ラン兄ちゃんのスープは最高に美味い。これで、明日も頑張れる」
「サラは大げさだよ。ただの野菜屑と申し訳程度の肉の切れ端を煮込んだだけのものだぞ? まぁ、そう言って美味そうに食ってくれるのは嬉しいがな」
「世辞じゃない。わたしは心から美味いと思っている。今まで生きていた中で、ラン兄ちゃんの作ってくれるものが美味くて、わたしは幸せだ。ラン兄ちゃん、一生わたしに飯を作ってくれ」
「ぶっ!! げほっ。大げさだ……。それに一生って……」
「ん?」
「なんでもない! サラがいいなら、一生面倒めてやるから」
「うん!」
ランドールにそう言われたサラは、普段の無表情が嘘のように可愛らしい笑顔を見せた。
普段表情を変えないサラの嬉しそうな笑顔にランドールは、ぐっと胸を押さえた後に困ったように眉を寄せるのだ。
サラとランドールは、本当の兄妹ではない。
一年ほど前、路頭に迷っていたサラをランドールが拾ったのが始まりだった。
ランドールと出会った当初、サラはここがどこかも分からないどころか、言葉も話せなかったのだ。
スラムで暮らすランドールも自分の出自については人に話したくもないので、敢えてサラに聞くこともせず、言葉を教え、生き方教えたのだ。
自分を慕い、表情はあまり変わらないながらも子猫の様に懐くサラにいつしかランドールは、情が湧いていた。
出会った当初は、十歳には全く見えないほど細かったサラは、ランドールの世話のお陰で少しは肉が付いてきていた。
しかし、スラムのさらに奥の人気のない区画のボロ小屋で暮らす二人の暮らしはさほどいいものではなかった。
ランドールが日々、お使いの様な仕事で日銭を稼ぎ、何とか養っているといったところだ。
サラも何度も働きたいとランドールに訴えてはいたが、ランドールは可愛い妹分の見た目が良すぎることをよく分かっていた。
ただ、ランドールは言葉を教えるときのことを思い出して頭を抱えた。
人に何かを教えるといった経験などないランドールは、精一杯全力を尽くしてサラに短期間で言葉を覚えさせたのだが、何故かサラの言葉遣いは単調なものとなってしまったのだ。
ぶっきら棒な言葉と無表情な顔の美少女。
ただし、笑いと天使の様に可愛いというギャップにランドールは、ついつい過保護になってしまうのだ。
だからなのだろう、サラを自分が見ていないところで働かせるのが心配で仕方がなかったのだ。
だからランドールは、サラに言い訳がましいことを言って留守番をさせていたのだ。
それは、「サラはまだここでの暮らしに慣れていないから一人で働くのは駄目だ」という取ってつけたような理由だった。
長い濡羽色の髪と猫を思わせるような吊り上がった黒曜石のような瞳。
人形の様に整った顔の少女は、その見た目に反して無表情で尊大な口調で言うのだ。
「ラン兄ちゃん。腹が減った。もう食ってもいいか?」
そう言われた少年。ランドールは、困ったような笑顔で答える。
「まだだよ。もう少しだから」
「うん」
素直に返事をしたサラの小さな頭を撫でたランドールは、目の前の鍋に視線を戻した。
鍋を見つめるランドールは、サラよりも五歳年上の十六歳だったが、鍛えられた体つきは、彼を少しばかり大人に見せていた。
月を連想させるような灰色の髪は長く伸ばされており、後ろで一つに結ばれていた。
切れ長の青い瞳と高い鼻梁の整った顔をしたランドールは、ボロ小屋とは似つかわしくない容姿だった。
そんなランドールは、小さな鍋をお玉で数回掻き回した後、ひと掬いして味を見る。
「うん。上出来だな。サラ、器を持ってきてくれ」
そう言われたサラは、小さく頷いた後に二人分の器を持ってランドールの元に駆け寄る。
「はい。熱いから気を付けるんだぞ」
「うん」
自分の分のスープの入った器を持って、テーブルに運ぶサラの後ろから、自分の分と二人分のパンを持ったランドールが続く。
綺麗に磨かれたテーブルにスープとパンを置いたランドールは、サラに視線を向ける。
それを見たサラは、両手を合わせてからスープに口をつけた。
「美味しい。ラン兄ちゃんのスープは最高に美味い。これで、明日も頑張れる」
「サラは大げさだよ。ただの野菜屑と申し訳程度の肉の切れ端を煮込んだだけのものだぞ? まぁ、そう言って美味そうに食ってくれるのは嬉しいがな」
「世辞じゃない。わたしは心から美味いと思っている。今まで生きていた中で、ラン兄ちゃんの作ってくれるものが美味くて、わたしは幸せだ。ラン兄ちゃん、一生わたしに飯を作ってくれ」
「ぶっ!! げほっ。大げさだ……。それに一生って……」
「ん?」
「なんでもない! サラがいいなら、一生面倒めてやるから」
「うん!」
ランドールにそう言われたサラは、普段の無表情が嘘のように可愛らしい笑顔を見せた。
普段表情を変えないサラの嬉しそうな笑顔にランドールは、ぐっと胸を押さえた後に困ったように眉を寄せるのだ。
サラとランドールは、本当の兄妹ではない。
一年ほど前、路頭に迷っていたサラをランドールが拾ったのが始まりだった。
ランドールと出会った当初、サラはここがどこかも分からないどころか、言葉も話せなかったのだ。
スラムで暮らすランドールも自分の出自については人に話したくもないので、敢えてサラに聞くこともせず、言葉を教え、生き方教えたのだ。
自分を慕い、表情はあまり変わらないながらも子猫の様に懐くサラにいつしかランドールは、情が湧いていた。
出会った当初は、十歳には全く見えないほど細かったサラは、ランドールの世話のお陰で少しは肉が付いてきていた。
しかし、スラムのさらに奥の人気のない区画のボロ小屋で暮らす二人の暮らしはさほどいいものではなかった。
ランドールが日々、お使いの様な仕事で日銭を稼ぎ、何とか養っているといったところだ。
サラも何度も働きたいとランドールに訴えてはいたが、ランドールは可愛い妹分の見た目が良すぎることをよく分かっていた。
ただ、ランドールは言葉を教えるときのことを思い出して頭を抱えた。
人に何かを教えるといった経験などないランドールは、精一杯全力を尽くしてサラに短期間で言葉を覚えさせたのだが、何故かサラの言葉遣いは単調なものとなってしまったのだ。
ぶっきら棒な言葉と無表情な顔の美少女。
ただし、笑いと天使の様に可愛いというギャップにランドールは、ついつい過保護になってしまうのだ。
だからなのだろう、サラを自分が見ていないところで働かせるのが心配で仕方がなかったのだ。
だからランドールは、サラに言い訳がましいことを言って留守番をさせていたのだ。
それは、「サラはまだここでの暮らしに慣れていないから一人で働くのは駄目だ」という取ってつけたような理由だった。
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