大好きな第三王子の命を救うため全てを捨てた元侯爵令嬢。実は溺愛されていたことに逃げ出した後に全力で気付かされました。

22

　マーラカの協力・・の元、ヴィラジュリオたちは、すぐに少女の家に向かっていた。
　事情は知らないものの、マーラカ的に全てを穏便に済ませたい気持ちがあったためこう申し出たのだ。
　
「ああ……。ジュトレイゼの旦那。少し提案が……」

　そう言われたジュトレイゼは、小さく頷いてマーラカの話を聞く。
　
「えっとですね。突然、トレアちゃんの家にジュトレイゼの旦那や、ましてや第三王子殿下が来たとあっちゃぁ、トレアちゃんが驚いちまいます。ってことで、ここはまずは俺っちに任せてください」

　そう言ったマーラカの提案に乗ることにしたヴィラジュリオとジュトレイゼは、数歩後ろに下がって様子を見ることにする。
　それを見たマーラカは、大きく深呼吸をした後、普段通りを装って目の前の扉をノックする。
　しかし、中からは何の反応もなく、人の気配も全くしないのだ。
　多少焦る気持ちを抑えつつ、マーラカは中に向かって声を掛ける。
　
「おおーい。トレアちゃん？　もしも～し」

　そう言って強めに扉を叩くも、やはり何の反応もない。
　まさかの展開が頭を掠めたマーラカは多少早口になりながらもその可能性を確かめるためにある場所に向かうことにしたのだ。
　
「これは……。ちょっと確かめねぇと……。ジュトレイゼの旦那、悪わりいけどここで待っててくれねぇですか？」

　マーラカの言葉にジュトレイゼもある可能性を考えていたため、それに同意する。
　
「分かった。しかし、急げよ」

「はいよっ」

　そう言ったマーラカは、一瞬瞬きをしただけで、その身を見失うほどの速さで駆け出したのだ。
　その場に残ったジュトレイゼは、逃げ出した少女がアスタヴァイオンであるとこの時確信したのだ。
　
「殿下……。アスタヴァイオンは、相当に殿下と顔を合わせたくないみたいですよ……」

　そう声を掛けられたヴィラジュリオは、眉を寄せて苦し気に声を出す。
　
「ああ……。そのようだな。アスタヴァイオン……。どうしてだ？」

　それからしばしの沈黙がその場を覆った時だった。
　風のような速さで戻ってきたマーラカの表情を見たヴィラジュリオとジュトレイゼは、残念な思いを口にすることはなかった。
　
「そうか……。手間を掛けさせたな……。すまない」

「マーラカ。色々悪かったな」

　沈んだ様子でそう口にする二人に向かって、マーラカは強い口調で言うのだ。
　
「事情はよく分かんねーですけどね、諦めるにはまだはえーんですよ！」
　
　そう言って、懐から取り出した鍵で家の扉を開けたのだ。
　
「トレアちゃんには悪わりいけど、探らせてもらう。あれから時間はそれほど経ってはいねぇっす。つまり、第三王子殿下が探している人かどうか判断するための何かが残されているはずでさぁ」

　そう言って片目を瞑ったマーラカは、暗に家探しをしようと提案していたのだ。