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第八話
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華火が異世界に来てから一週間ほどが経過していた。
相変わらず言葉は分からないままだったが、華火はウェインのお陰で何不自由なく暮らすことが出来ていた。
ただ、華火としては何故ウェインがここまでしてくれるのか分からず戸惑うこともあったが、当の本人であるウェインと身の回りの世話をしてくれるマリアのお陰で少しずつこの生活に慣れつつあったのだ。
マリアと言うのは、最初は軍服を着ていた美女のことだ。
華火の世話をしてくれながら、根気強く自らを指さし「マリア」と言葉を発したのだ。
初めて華火がマリアの名前を呼んだ時、マリアは冗談抜きで飛び上がっていたのだ。
なんと言っているかわからないものの、名前を呼ばれてマリアがとても喜んでいるということが伝わった。
名前を呼ぶようになってから、マリアのお世話は加速していった。
朝起きると、気配を察したかのように現れて、洗顔の準備とその日着る服の用意をしてくれた。
最初、服の着方が分からずにいた華火の着替えを手伝って以降、マリアは毎回華火の着替えを進んで手伝ったのだ。
現在、服の着方も分かり、一人で着られるはずなのに、何故かマリアの手によって身支度を整えられていた。
何度、一人で着られると言っても言葉が通じないせいで、未だにマリアの手を煩わせてしまっていることに華火は申し訳なく思ってるが、それをマリアに伝える術がなかったのだ。
マリアは、華火がお世話になることになった屋敷の案内をしてくれていた。
想像以上に広大な敷地に建つ屋敷は、一週間たった今でも全てを見て回ることが出来ていなかった。
そんな華火の一日は、朝マリアに世話をされて、朝食はウェインと共に摂り、昼食の時間まで屋敷内をマリアに案内してもらい、昼食もウェインと摂る。
その後、ウェインとのんびりとした時間を過ごし―――庭園の散歩をしたり、お茶をしたりと日によって違うが―――、夕食をウェインと摂り、マリアに世話をされながら湯に浸かり、ふかふかのベッドで眠りにつく。
そんな毎日を華火は過ごしていた。
ベッドに入った華火は、毎日のようにその日の出来事を思い返しては、ベッドの中で身もだえをするのだ。
こちらに来てから、何故か食事はウェインの手で食べさせられことが続いていた。
別にどこか怪我をしているわけでもないのに、自分で食べることを禁止されていた。
言葉は分からないが、ウェインやマリアの様子から、禁止されているという言葉が適切な気がしたのだ。
自分で食べようとフォークを取ろうとすると、その前にウェインが奪っていき、気が付くと料理を切り分けられて、食べさせられてしまっていたのだ。
さらに言うと、食事の時は隣合って座っているが、お茶の時はウェインの膝の上が華火の定位置となりつつあった。
ただ、ウェインの傍に居ればいるほど、体が軽くなり体調が良くなるので、これについては華火は恥ずかしいと思いつつも、為すがままになっていた。
そして、最大級に恥ずかしいことは入浴の時間だった。
一番初めに、バスルームの使い方が分からずにいたことが始まりだった。
バスルームで困惑する華火の様子を知ったマリアに服を脱がされ、温かいお湯をかけてもらい、戸惑う華火に構うことなくマリアは、その全身をくまなく泡で優しく洗い上げたのだ。
頭の先から足の先まで、隅々まで華火を洗い上げたマリアは、次に華火を湯に入れていた。
そして、華火が十分に温まった後、湯から上げて全身をふわふわのタオルで拭いて、寝間着を着せてくれたのだ。
あっという間の出来事に華火が戸惑っているうちにすべてが終わっていたのだ。
この事が切っ掛けで、華火の入浴はマリアが手伝うことが習慣化したともいえるのだ。
どんなに華火が恥ずかしがっていようとも、マリアは「何を言っているのか分かりません」と言う顔で、華火を嬉々として裸にするのだ。
短い付き合いながらも、少しづつマリアのことが分かってきた華火には分かったことがある。
華火がもう一人で入浴できることを知っていても、マリアは知らないふりをしているということをだ。
華火はいつもそんなマリアに首を傾げるのだ。
何が楽しくて自分の入浴を世話しているのだろうかと。
ただ、華火はマリアの体調が心配になることがあった。
メイド服を着た状態で入浴の世話をしているマリアがのぼせそうになっていることがあったのだ。
表情はあまり変わっていないものの、首と耳が赤くなり、「はぁはぁ」と荒い息を付いていることがあったのだ。
ある時、心配のあまり水で濡らし冷たくした手のひらでマリアの頬に触れた時、彼女は勢いよく鼻血を噴き出したのだ。
それに慌てた華火が、「まりあ? 大丈夫?」と声を掛けると、マリアはエプロンで鼻血を拭いて、血の跡が残るもののとてもいい笑顔で『ごちそ……じゃなくて、大丈夫です。ふふふ』と華火には理解できない言葉を返したのだ。
それからは、余り長湯をしないように心掛けているとはいえ、元を正せば、一人で湯を使わせてもらうのが一番なのだが、それが許される気配はなかったのだった。
華火は、眠気に身を委ねながら、お世話になるだけでは申し訳ないから、そろそろ何か仕事をもらえないか試しに聞いてみようと考えたのだが、どうやってその意思を伝えればいいのかは思い浮かぶ前に眠りに落ちていた。
相変わらず言葉は分からないままだったが、華火はウェインのお陰で何不自由なく暮らすことが出来ていた。
ただ、華火としては何故ウェインがここまでしてくれるのか分からず戸惑うこともあったが、当の本人であるウェインと身の回りの世話をしてくれるマリアのお陰で少しずつこの生活に慣れつつあったのだ。
マリアと言うのは、最初は軍服を着ていた美女のことだ。
華火の世話をしてくれながら、根気強く自らを指さし「マリア」と言葉を発したのだ。
初めて華火がマリアの名前を呼んだ時、マリアは冗談抜きで飛び上がっていたのだ。
なんと言っているかわからないものの、名前を呼ばれてマリアがとても喜んでいるということが伝わった。
名前を呼ぶようになってから、マリアのお世話は加速していった。
朝起きると、気配を察したかのように現れて、洗顔の準備とその日着る服の用意をしてくれた。
最初、服の着方が分からずにいた華火の着替えを手伝って以降、マリアは毎回華火の着替えを進んで手伝ったのだ。
現在、服の着方も分かり、一人で着られるはずなのに、何故かマリアの手によって身支度を整えられていた。
何度、一人で着られると言っても言葉が通じないせいで、未だにマリアの手を煩わせてしまっていることに華火は申し訳なく思ってるが、それをマリアに伝える術がなかったのだ。
マリアは、華火がお世話になることになった屋敷の案内をしてくれていた。
想像以上に広大な敷地に建つ屋敷は、一週間たった今でも全てを見て回ることが出来ていなかった。
そんな華火の一日は、朝マリアに世話をされて、朝食はウェインと共に摂り、昼食の時間まで屋敷内をマリアに案内してもらい、昼食もウェインと摂る。
その後、ウェインとのんびりとした時間を過ごし―――庭園の散歩をしたり、お茶をしたりと日によって違うが―――、夕食をウェインと摂り、マリアに世話をされながら湯に浸かり、ふかふかのベッドで眠りにつく。
そんな毎日を華火は過ごしていた。
ベッドに入った華火は、毎日のようにその日の出来事を思い返しては、ベッドの中で身もだえをするのだ。
こちらに来てから、何故か食事はウェインの手で食べさせられことが続いていた。
別にどこか怪我をしているわけでもないのに、自分で食べることを禁止されていた。
言葉は分からないが、ウェインやマリアの様子から、禁止されているという言葉が適切な気がしたのだ。
自分で食べようとフォークを取ろうとすると、その前にウェインが奪っていき、気が付くと料理を切り分けられて、食べさせられてしまっていたのだ。
さらに言うと、食事の時は隣合って座っているが、お茶の時はウェインの膝の上が華火の定位置となりつつあった。
ただ、ウェインの傍に居ればいるほど、体が軽くなり体調が良くなるので、これについては華火は恥ずかしいと思いつつも、為すがままになっていた。
そして、最大級に恥ずかしいことは入浴の時間だった。
一番初めに、バスルームの使い方が分からずにいたことが始まりだった。
バスルームで困惑する華火の様子を知ったマリアに服を脱がされ、温かいお湯をかけてもらい、戸惑う華火に構うことなくマリアは、その全身をくまなく泡で優しく洗い上げたのだ。
頭の先から足の先まで、隅々まで華火を洗い上げたマリアは、次に華火を湯に入れていた。
そして、華火が十分に温まった後、湯から上げて全身をふわふわのタオルで拭いて、寝間着を着せてくれたのだ。
あっという間の出来事に華火が戸惑っているうちにすべてが終わっていたのだ。
この事が切っ掛けで、華火の入浴はマリアが手伝うことが習慣化したともいえるのだ。
どんなに華火が恥ずかしがっていようとも、マリアは「何を言っているのか分かりません」と言う顔で、華火を嬉々として裸にするのだ。
短い付き合いながらも、少しづつマリアのことが分かってきた華火には分かったことがある。
華火がもう一人で入浴できることを知っていても、マリアは知らないふりをしているということをだ。
華火はいつもそんなマリアに首を傾げるのだ。
何が楽しくて自分の入浴を世話しているのだろうかと。
ただ、華火はマリアの体調が心配になることがあった。
メイド服を着た状態で入浴の世話をしているマリアがのぼせそうになっていることがあったのだ。
表情はあまり変わっていないものの、首と耳が赤くなり、「はぁはぁ」と荒い息を付いていることがあったのだ。
ある時、心配のあまり水で濡らし冷たくした手のひらでマリアの頬に触れた時、彼女は勢いよく鼻血を噴き出したのだ。
それに慌てた華火が、「まりあ? 大丈夫?」と声を掛けると、マリアはエプロンで鼻血を拭いて、血の跡が残るもののとてもいい笑顔で『ごちそ……じゃなくて、大丈夫です。ふふふ』と華火には理解できない言葉を返したのだ。
それからは、余り長湯をしないように心掛けているとはいえ、元を正せば、一人で湯を使わせてもらうのが一番なのだが、それが許される気配はなかったのだった。
華火は、眠気に身を委ねながら、お世話になるだけでは申し訳ないから、そろそろ何か仕事をもらえないか試しに聞いてみようと考えたのだが、どうやってその意思を伝えればいいのかは思い浮かぶ前に眠りに落ちていた。
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