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第一部 第五章

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 泉の効果なのか、レイラは短時間であれば自身の足で歩けるようになっていった。
 しかし、ギルベルトは、なんだかんだと理由を付けて、未だにレイラのことを抱っこして歩くことを止めていなかったのだ。
 そんな二人が次に訪れていたのは、不思議な噂話を聞いてたどり着いた街だった。
 その街には、毎夜不思議な鳴き声が聞こえるという教会があったのだ。
 街に着いた二人は、さっそく聞き込み調査をすることにしたのだが、街の人たちはそのことについて口を割らなかったのだ。
 というか、そもそもその噂話を知らない様子だったのだ。
 聞き込みのため立ち寄ったパン屋の店先で、チョココロネを美味しそうに食べながら、女性店員に話を聞いていたレイラは首を傾げた。
 
「おかしいなぁ? 隣の街では、結構噂になっていたのに」

「そうだな……。姉さん……、口元についてる」

「お、おう……。ここか?」

「もう、こっちですよ」

「ありがとう」

 女性店員は、店の軒先にあるベンチに座ったギルベルトのさらに膝に座らされているレイラが、チョコレートクリームをギルベルトに拭き取られている姿に目が離せなくなっていた。
 そして、ギルベルトが指先で拭ったチョコレートクリームを舐める姿に目を爛々とさせていたのだ。
 レイラは、まったく気が付いていなかったが、ギルベルトはその視線に気が付いていたが、まったく気にせずに、レイラを構い倒していたのだ。
 パンを食べ終わったレイラは、にっこりと微笑んで話をしてくれた女性店員にお礼を言う。
 
「ありがとう。それと、パン、美味しかったよ」

「っ! いいえ、こちらこそ、良いものが見られて……。い…いえ、何でもないです」

 そう言った女性店員は、慌てるように店の中に入っていったのだ。
 レイラは、女性店員を視線で見送った後に、ギルベルトを見て言うのだ。
 
「う~ん。とりあえず、いったん宿に戻って状況整理でもしようか?」

「そうだな」

 特に収穫のないままではあったが、宿に戻ることにした二人だった。
 宿に戻ったギルベルトは、レイラを抱っこしたままベッドに座って、これからのことについて話を進める。
 
「街の外では噂が広がっているのに、内側では全くその話を聞かないというのは……。何かありそうだな」

「うん。仕方ないから、街にある教会を回って、おかしなところがないか探すしかないな……。私が自分で歩ければいいんだけど……」

「いや、姉さんは、俺が抱いて運ぶから、何も心配しなくても大丈夫だ」

「でも……、ほら、歩く練習も少しはしないと、な?」

 レイラがそう言うと、眉をピクリと動かしたギルベルトは、不機嫌そうに言うのだ。
 
「無理に練習しなくても……」

「でもさ、あの泉に入ってから少しは、足が動くようになったし、練習すれば歩けるようになりそうだしさ?」

「はぁ……。なら、そのためにも、今日も足のマッサージをしようか?」

「えっ? あっ、今日は……」

 視線を泳がせたレイラは、焦ったような口調で逃げ腰になるが、それを逃がすギルベルトではなかった。
 
「駄目だ。ほら、準備するから、横になって?」

「うぅぅ~~」

 ギルベルトにそう言われたレイラは、渋々ズボンを脱いで横になるのだ。
 いつからだろうか、ギルベルトが言い出して行いようになった行為だった。
 俯せに横になったレイラの白く細い足に、マッサージ用の香りのいいオイルを垂らしたギルベルトは、ゆっくりとレイラの足を揉んでいくのだ。
 

「っあん。そこぉ……、いいぉ」

「ああ、ここ、凝ってるな……。ちょっと力入れるぞ」

「あっ! 痛たた!」

「悪い……」

「ぎるぅ、いたいよぉ」

 ぐっと押された内腿が痛くて、涙目で振り返り訴えるレイラだったが、頬を薄く染めて瞳を潤めるその姿にギルベルトは、ごくりと喉を上下させていた。
 すべすべな素足を撫でるように触るギルベルトは、深呼吸を繰り返す。
 最初は、レイラのことを考えての行動だったはずが、気が付けばレイラにただ触れたくて、やっている行為になりつつあったのだ。
 それでも、レイラに嫌われたくないギルベルトは、決して足以外の場所に触れることはなかったのだ。
 
 
 そしてその日も、腕の中の小さなレイラから香る、甘い匂いになかなか眠れないギルベルトと、ギルベルトの腕の中で胸がドキドキとしてしまうレイラの夜は更けていったのだった。
 
 
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