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第一部 第四章
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レイラとギルベルトは、聖なる泉があると言われている、とても喉かな村に来ていた。
しかし、村の人間に聞いても誰一人聖なる泉の場所を知らないのだという。
村人たちに長老と呼ばれていた老人は、「森の奥に泡立つ泉があるそうじゃ。ワシの爺さんが昔、その泡立つ泉に浸かって傷を癒したらしいのじゃが……。誰もその場所を知らないんじゃ……」そう言って、申し訳なさそうにするのだ。
ギルベルトも噂話程度に思っていたため、そこまで期待していたわけではなかったのだ。
だから、村の名物の餅をレイラが気に入ったことで良しとしたのだ。
レイラは、ギルベルトに買ってもらった、甘いタレのかかった餅を食べながらご機嫌の様子で言うのだ。
「散歩がてら、森を散策してみようよ。すごく、綺麗な森だし、いいよね?」
レイラにニコニコと笑ってそう提案されたギルベルトは、村に唯一ある宿の主人に弁当を作ってもらって、軽い足取りで森に入っていったのだ。
小規模ながら、観光地となりつつあるその場所は、きちんと整備がされていて、歩きやすいようになっていたのだ。
しかし、魔術でマッピングをしながらギルベルトは、進んでいった。
次第に人の手が加わっていない地帯が広がっていくが、そこまで深い森ではなかったため、レイラを腕に抱いた状態でのんびりと散歩するように森の中を歩いていく。
そろそろ昼食にしようと考えたギルベルトは、開けた場所を探して歩みを進めた。
耳に心地いい、風で揺れる木々の音や、小鳥のさえずりの中に、水のせせらぎが聞こえたのは偶然だった。
レイラと視線を合わせたギルベルトは、水音の方に進んでいく。
するとそこには、木々の隙間から木漏れ日が降り注ぐ中に現れた、小さな泉があったのだ。
まさかと思いつつも、二人はその泉に近づいていく。
「あったね……」
「ああ……。それに、微かに泡立っているな……」
そう言って、レイラをそっと柔らかい草の上に降ろしたギルベルトは、泉に手を入れる。
すると、指先にシュワシュワとした不思議な感覚があったのだ。
「ああ、なるほど」
何かに気が付いたギルベルトがそういうと、興味を持ったレイラが質問をするのだ。
「何かわかったの?」
小さく首を傾げてそう聞いてくるレイラのことが可愛く見えたギルベルトは、胸がドキリとしたが、首を振って、「あれの中身は姉さん、ゴリラ女だから、違うから」とぶつぶつと呟くのだ。
ひとしきり、小声で自分に謎の言い訳をしたギルベルトは、レイラに向かって言うのだ。
「これは、炭酸泉だな」
「炭酸泉?」
「温泉の一種だ。しかし、元の泉の水と混ざったからなのか、温かさはないな。そこまで冷たくはないが、温泉のように浸かるのは止めた方がいい」
そう言ったギルベルトは、レイラに向かって微笑む。
「とりあえず、昼食にしようか。宿の主人が、サンドイッチを用意してくれた」
「うん!」
泉の側に敷物を敷いて、その上で用意してもらったサンドイッチを仲良く口にする。
レイラは、美味しいサンドイッチを食べながらギルベルトにお願いしていた。
「歩けるようになるかは分からないけど、一応泉に浸かってみたい」
「うーん。そこそこに冷たいぞ?」
「大丈夫。足だけ、ほんのちょっとだけだから。駄目?」
レイラに上目遣いでそうお願いされたギルベルトは、可愛く見えてしょうがないレイラにドキドキしながら、しぶしぶ頷くのだ。
「分かった……。だが、落ちないように俺が姉さんを抱っこしてはいることが条件だ」
出された条件に付いては、「そんなことか」と軽く考えたレイラは、にこりと微笑んで頷く。
「うん。ありがとう! それじゃ、ギル、お願いするよ」
「あ、ああ……」
しかし、ギルベルトは、自分の出した条件にこの後、すぐに後悔することになるとは知る由もなかったのだ。
しかし、村の人間に聞いても誰一人聖なる泉の場所を知らないのだという。
村人たちに長老と呼ばれていた老人は、「森の奥に泡立つ泉があるそうじゃ。ワシの爺さんが昔、その泡立つ泉に浸かって傷を癒したらしいのじゃが……。誰もその場所を知らないんじゃ……」そう言って、申し訳なさそうにするのだ。
ギルベルトも噂話程度に思っていたため、そこまで期待していたわけではなかったのだ。
だから、村の名物の餅をレイラが気に入ったことで良しとしたのだ。
レイラは、ギルベルトに買ってもらった、甘いタレのかかった餅を食べながらご機嫌の様子で言うのだ。
「散歩がてら、森を散策してみようよ。すごく、綺麗な森だし、いいよね?」
レイラにニコニコと笑ってそう提案されたギルベルトは、村に唯一ある宿の主人に弁当を作ってもらって、軽い足取りで森に入っていったのだ。
小規模ながら、観光地となりつつあるその場所は、きちんと整備がされていて、歩きやすいようになっていたのだ。
しかし、魔術でマッピングをしながらギルベルトは、進んでいった。
次第に人の手が加わっていない地帯が広がっていくが、そこまで深い森ではなかったため、レイラを腕に抱いた状態でのんびりと散歩するように森の中を歩いていく。
そろそろ昼食にしようと考えたギルベルトは、開けた場所を探して歩みを進めた。
耳に心地いい、風で揺れる木々の音や、小鳥のさえずりの中に、水のせせらぎが聞こえたのは偶然だった。
レイラと視線を合わせたギルベルトは、水音の方に進んでいく。
するとそこには、木々の隙間から木漏れ日が降り注ぐ中に現れた、小さな泉があったのだ。
まさかと思いつつも、二人はその泉に近づいていく。
「あったね……」
「ああ……。それに、微かに泡立っているな……」
そう言って、レイラをそっと柔らかい草の上に降ろしたギルベルトは、泉に手を入れる。
すると、指先にシュワシュワとした不思議な感覚があったのだ。
「ああ、なるほど」
何かに気が付いたギルベルトがそういうと、興味を持ったレイラが質問をするのだ。
「何かわかったの?」
小さく首を傾げてそう聞いてくるレイラのことが可愛く見えたギルベルトは、胸がドキリとしたが、首を振って、「あれの中身は姉さん、ゴリラ女だから、違うから」とぶつぶつと呟くのだ。
ひとしきり、小声で自分に謎の言い訳をしたギルベルトは、レイラに向かって言うのだ。
「これは、炭酸泉だな」
「炭酸泉?」
「温泉の一種だ。しかし、元の泉の水と混ざったからなのか、温かさはないな。そこまで冷たくはないが、温泉のように浸かるのは止めた方がいい」
そう言ったギルベルトは、レイラに向かって微笑む。
「とりあえず、昼食にしようか。宿の主人が、サンドイッチを用意してくれた」
「うん!」
泉の側に敷物を敷いて、その上で用意してもらったサンドイッチを仲良く口にする。
レイラは、美味しいサンドイッチを食べながらギルベルトにお願いしていた。
「歩けるようになるかは分からないけど、一応泉に浸かってみたい」
「うーん。そこそこに冷たいぞ?」
「大丈夫。足だけ、ほんのちょっとだけだから。駄目?」
レイラに上目遣いでそうお願いされたギルベルトは、可愛く見えてしょうがないレイラにドキドキしながら、しぶしぶ頷くのだ。
「分かった……。だが、落ちないように俺が姉さんを抱っこしてはいることが条件だ」
出された条件に付いては、「そんなことか」と軽く考えたレイラは、にこりと微笑んで頷く。
「うん。ありがとう! それじゃ、ギル、お願いするよ」
「あ、ああ……」
しかし、ギルベルトは、自分の出した条件にこの後、すぐに後悔することになるとは知る由もなかったのだ。
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