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廃屋調査
了の仕事。
しおりを挟む翌朝、
部屋には透けた障子紙を
通り抜け、眩しい日が差し込んでいた。
その光が畳や木目の美しい天井に
反射する。
そして、雑に開けられた大量の
ブランドモノのショッパーにも。
「まさか…昨日買ってた
アホみたいな量の服とコスメが
9割、私用だったとは…ビックリした…」
私は何十枚もの試着の末に着せられた
真っ白な綺麗めロングワンピを
ヒラヒラさせながら
彼にメイクをされていた。
立ち直りが早いのか、了さんは
いつも通りケロッとしている。
ケロッと、どころか超ご機嫌。
「そりゃ、そうですよ!
大好きな彼女には自分好みのカッコ
させたいじゃないですか!」
「……な…なるほど…
じゃあこの格好は100%了さんの
趣味…」
「ピンポーン!その通りです!」
了さんはメイクブラシを持ったまま
ニコニコ笑い、
話しながらも手際よくメイクを進める
「あー…シャドーは
どっちが良いですかねぇ?迷うなぁー
うーん…楓さんはどっちがいいですか?」
「えーとじゃぁ…これ…?」
「うん!俺もそれがいいと思ってました!こっちにしましょ!」
彼の気にいる回答だったのか
わしゃわしゃと機嫌良く頭を撫でると
了さんは私の顎を持って、
クイっと上げる。
「はい。シャドー乗っけるので、
眼を閉じてくださいねー」
「…はぁ…」
顔に触れるブラシの感触がこそばゆい。
「あ、次ホットビューラー使うんで
動いちゃダメですよ。
じっとして?」
眼を閉じた薄赤色の視界の奥から
了さんの声が聞こえる。
…にしても器用だなぁ…。
「よし!できました!
これでメイクは完成です!」
眼を開けると、了さんは満足そうに
私の顔を見て頷いている。
ものすごい満面の笑み。
「うんうん、やっぱり、
楓さんは地がいいですね!
いやぁ…超可愛いです!!完璧!!
もう、持って帰っちゃいたいくらいです!
あ、もう持ち帰ってましたね!!
はははっ!!」
「あ、はは…」
…一体どう反応したらいいだろう…
その発言…。
「ほら、楓さんも見てくださいよ!
自信作です!ほらほら!」
了さんは私に
手鏡を向ける。
「!!?うわ!何これ凄っ!?
加工済みじゃんこんなの!!」
「そうでしょう。上手くいきました!
完全に俺好み!!
どこから見たって完璧です!
世界一可愛い…!」
確かにどこから見ても完璧…
毛穴とかどこ行った?
てか、顔の造形が変わってない?
「凄すぎる…了さん、プロになれるよコレ。」
「でしょ?でしょう?!
さぁ!今日もデートに…」
そんな会話をしていると
廊下から静かな足音が近づいてきて
襖の奥から澄んだ女性の声がした。
「了様、急ぎ、
お伝えしたい要件がございます。」
女性がそう言うと了さんの声のトーンが
怖いくらいにガクッと下がった。
「…はぁ?
今、折角楓さんと楽しく遊んでたのに…ムカつくなぁ…
なに?
用なら早く済ませて。」
了さんはあからさまに眉を顰めながら、
何故か、
私を後ろ抱きにして寄りかかる。
そして
廊下で床に手をつく女性を招いた。
「失礼致します。」
女性は紫の着物を着た使用人だった。
例に漏れず、能面を被っている。
「了様、要件というのは
本日のお仕事についてなのですが…」
使用人がそこまで言うと間髪入れず
了さんが言葉を遮る。
「あぁ?仕事ぉ??
俺が、楓さんと結婚するまで、
仕事は入れるなって言いましたよね?!
俺は結婚するまでに楓さんともっと仲良くなりたいんですよ!
仕事なんてしてる暇ありません!」
そのまま彼は後ろから私の肩を持ってギュッと抱きしめる。
…仲良くなりたいんだ…。
了さんちょっと可愛い。
「今日だってまたデートに行って
帰りはホテルに寄りたかったんですよ!もう!!」
あ、やっぱ可愛くなかった。
ケダモノだ。
「了さん。発言が欲望に忠実過ぎる。」
「そうですか?普通
こんなもんですよ。」
使用人さんは私達の会話は無視して、
頭を深々と下げた。
「了様、申し訳ありませんが
このたびは、市からの依頼でして…
少し急ぐ必要が…」
「お母様が、行けばいいだろ!
ていうか、市とも県とも、
うちの家はズブズブなんだから、
行かなくても問題ない。」
彼はそう言って
拗ねた様にそっぽをむく。
「当主様は、出張中ですよ。
そして、こういった仕事こそが
そのズブズブな関係を維持するのに欠かせないのです。
お分かりでしょう?了坊ちゃん。」
……部屋に気まずい空気が流れると
暫くして、了さんが大きなため息をついた。
「わかりました。
行きますよ…仕方ない。」
「わかっていただけて何よりです。
車の手配は済んでおりますので
準備ができ次第、御出立ください。」
「了ー解…で?どんな依頼だったんです?市からの依頼とやらは?」
「廃屋の調査と、除霊だそうです。
廃屋付近では多数の行方不明者も出ているそうです。その点をご留意の上
ご準備をお願い致します。」
使用人さんはそう言ってトンと
襖を閉じ廊下へと消えていった。
「…はぁー、すみません。
楓さん。今日のデートは難しそうです。
悲しいですね…」
了さんはあからさまにションボリしながら私を抱える様にして頭を撫でる。
…仕事…という事は…
了さんが私から離れる…?
一人になれれば禊さんの所に行って
作戦とか…
もしくは、この隙に…
もう逃げ…
ーーカシャン
「え…??」
首元から金属音がした。
「よし。外出用のリードに
付け替え完了です!
さぁ!行きましょうか!楓さん!」
「え?どこに…?」
嫌な予感。すっごく嫌な予感。
「どこって件の廃屋ですよ!
俺は一瞬でも楓さんから離れたくありません!!
一緒にいきますよ!」
「えっ!!?嫌!!嫌だ!!
だって、その廃屋…つまり…
心霊スポットってことでしょ??!」
了さんはニコニコしたまま
立ち上がり、私のリードを引っ張る。
「ええ、もちろん。俺の本業は
『拝み屋』。つまり除霊師ですからねー。
あっ、もしかして怖いんですかぁ?
カワイイー」
「ちょっと了さん!!
ほんと…ほんとにやだ!!
白石さんので幽霊とか結構トラウマなんですよぉ…」
「ふふっ!そうなんですねー。
じゃあ、吊り橋効果も狙えるかもってことですね!よぉし!
好感度アップの為に俺、頑張ります!」
了さんは私の抵抗を全く意に返さず
リードを引っ張り
ズルズルと私を引きずってあるく。
「ほんとにいやだ!行きたくない!」
「はいはい、ワガママ言わないでくださいねー。
あ、そうだ廃屋ならアイツも呼ばないといけませんね」
「アイツ…?」
私が首を傾げると
了さんはしれっと答える。
「飯島 禊ですよ。」
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