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番外編 補完記録13章 『腹黒魔導師の冒険』
書の8 中 光の王国記『そこに居る事は分かっている』
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■書の8 中■光の王国記 I know you are there
ここ二日で集めた情報から察するに……ロダナム家には確実にナドゥの息が掛かっている、にもかかわらずそれらしい人物の情報が一切出てこない。
これは恐らく彼の『経験値の取得』と称した、記憶改竄に近い能力が行使されているのではないかと思われます。
それの具体的な仕様はあくまで推論でしかないのですが、記憶の組み換えに近いものでしょう。行使に何らかのリスクはあるのでしょうが、良く分かりません。
明らかにロダナム家が手中に収めている麻薬精製理論は文化レベルが高すぎる。
実際の麻薬を手に入れて見ている訳ではありませんが、その麻薬に手を出した者が陥った状況ついては否が応にも耳に入ります。
この麻薬は極めて肉体的、精神的に依存性が高く一週間以内に薬の再摂取を行おうとする……これはエチル氏のスケジュールから、あの日後を追った高官と会っている頻度を抜き出して推測しました。廃人寸前ともなれば人格は破壊され、手が付けられなくなって命を奪われた者も居ると聞いています。実際には、そうなってしまって影で命を絶たれた人が多くいる可能性がありますね。
阿片を精製してモルヒネ、ヘロインの類を作る事自体は知識と必要な物資を揃えれば難しい事ではありません。
あ、ちなみにこちらの世界の件の麻薬は直接的にソレだと断定は出来ていません。そもそも名前が違う様ですね、芥子から取れる物質は『阿片』で、リアルのソレと同じなのですが、ね。
今ディアス国の上流階級で猛威を振るっている麻薬は、LTという略称で呼ばれています。
何かの略称かと思いますが……正式名称については徹底的に隠ぺいされていて良く分かりません。
しかし僕が問題視しているのは阿片を精製して更に危険な麻薬が作られている事ではありません。
その麻薬の依存性を悪用して金を集める事、多くの麻薬が作れるような製造ラインを整備してある事です。
この世界には魔法が在るのですよ?そういう世界でありながら、純粋な医術や薬草や化学物質の生成による薬の調合、それらを用いた治療だけを施す医者という存在は極めて稀有です。しかし、過去にそれに近い存在が確かに居て、医学や薬学のレベルを相当に引き上げている……と、ナッツさんが言っていました。
その系譜は間違いなく錬金術師側に在る。
ナドゥは明らかに魔法使いでは無く錬金術師です、麻薬の大量精製とそれが齎す『金』の精錬法は正しく錬金術と呼べるでしょう。そうして生まれた『金』でディアスは、魔王八逆星から完全に操られている状況ではないでしょうか。そもそも彼らが根城にしていた所は全部ディアス国側ですよ。
今ヤトが向かっているトライアンについてはファマメント国領土ではありますが、位置関係的にはディアス国に隣接している地域です。
……金の流れをもう少し考えてみましょう。
アービスの故郷には、かなり大規模な芥子畑が在るそうですね。
そこからロダナム家が表立って商売品として売っているロダナム薬、睡眠鎮静剤を作る為の材料を仕入れている。これはロダナム家の表の事業として、チョウジ氏から抜き取った記憶から知る事が出来ます。
ロダナム家は、精製した麻薬をもっと大々的に国外に売る事も出来るはず。しかし、それを国内からやっている気配はないですね。……マリアから直接輸出している、という事でしょうか。
阿片というのは薬師にとって需要があるもので、それなりに高値なのだそうですが、阿片相場が崩壊しているのを見た事が無いと……ナッツさんが言っていました。
ロダナム家は植民地としたマリアで大量の阿片を精製出来ていて、これを市場に流しているならば……必ず阿片の値段はもっと安くなっているはず。
ディアス国で麻薬禍が起きている気配は察知していたので、この辺りはナッツさんとエイオール船で打ち合わせてあった訳ですが……阿片は、在ればあるだけ使う、という薬品ではないそうですよ。薬師や薬剤師の間では少なからず依存のある危険な薬剤という認識が通っているという。
では、大量の阿片は一体何処へ?
例えばLTという麻薬を精製するに、その量が大分減るとしましょう。
その麻薬がリアルにあるモノに近い物質であるならば、ヘロインを純度の高い物まで精製するとなると総量は相当に圧縮される事でしょう。
例えてモルヒネに該当する薬品は例の、ロダナム薬です。
純度等でいろいろ種類がある様ですね。
ではヘロインに相当する物は?これは薬にはならないでしょう、逆にヘロインに該当する物質はこの世界に在るのかとナッツさんに聞いたところ、それらしい薬の文献は見た事は在れど精製方法は不明であるし、実在については分からない、との事でした。存在の否定までは出来ず、麻薬として取引されているのならばどこかで流通している可能性はあるだろう、との事です。
娼館や裏家業、もしかすれば闘技場などでの流通はあったかもしれません……案外、その辺りはテリーさんの方が知っていますかね?先に聞いておくべきでしたか。
ロダナム家は『阿片』を自社製品ロダナム薬の精製の為にディアス国に仕入れ、国外には阿片を精製した麻薬のLTを密かに流して大金を得ている、そしてその金で上流階級や公族に取り入って……その一部を依存性の高いLT薬に染めつつある。
どこかでナドゥが介入していて、ディアス国の領土に堂々と根城を構える為にお膳立てをしたはずです。
タトラメルツなんて、曰くもあって多くが近づく事の無い廃墟がいつの間にか魔王八逆星の本拠地になっていたのですよ?
すぐ近くに住む領主が許可した事では無かった、しかしディアス国がそれを問題視して解決しようと働いている気配も無かった。
だからタトラメルツ領主は自らで魔王の脅威を取り除く為に動く必要があり……そこに忍び寄った悪魔、カオス・カルマの甘言に踊らされて僕ら魔王討伐隊を招く事になった訳です。
……ナドゥは、別段ディアス国の政治に興味は無いと見えます。
興味は無いとして、無作為に干渉してしまえば均衡を崩し国が崩壊する事を知っている。彼の理想は犠牲をいとわない世界平和です。物事は、生かさず殺さず、崩壊しない程度の均衡を持たせて停滞させ、自分の成そうとしている事に手を出してこないようにしているのかもしれません。
それならばこのディアス国の状況にも納得が行きます。
法王側の騎士団にアービスと魔王軍を忍ばせ、一方で国王側には薬で錬金術を行う商人を滑り込ませている。一見矛盾した行為は、二つの王が対立する事で均衡しているディアス国の性質を利用しての事ですか。
さて……問題なのは大陸座ユピテルトの行方です。
ナドゥは自分の足跡を消していますが、以上の推論を元に考えるに法王、国王、どちら側にも影響力を持って居たという事になります。
それなのに双方に大陸座に繋がる手がかりは無かったという事でしょうか?
大陸座ユピテルトに干渉した痕が見付けられません。
そもそもユピテルト本人がどこに居るのかも全く見えてこない。
難問ですねぇ、魔王八逆星エルドロウと大陸座ジーンウイントによる、大陸座の封印術の前までは間違いなくユピテルトも世界に健在であったはず。
ファマメント国のハクガイコウとして現れた大陸座ファマメントの様に、政治に近い所に居るものと思っていましたが今だ、法王、国王、どちら側にユピテルトが居たのか良く分かりません。大陸座ユピテルトは、自分がそれである事を大々的に吹聴していない、という事でしょうか?そういう存在が自国に在る事自体、ディアス国民の頭には無いのかもしれない。
少なくともチョウジ氏、エチル氏の側近、あと無作為に政治に詳しいを自負している人を喫茶店や酒場で捕まえて催眠魔法をかけて情報を引き出してみましたが……誰も大陸座ユピテルトを御存じではない。
それに近しい存在も見当たらない。
多くの人が、記憶操作をされて存在を忘れた、という綻びも見つけられない。
ユピテルトは突然姿が消えても問題の無い所に居た、という事でしょうか?
気が付いた時には陽が傾き始めていて、昼ご飯を頂く事無く思考に没頭していた事に気が付きました。正しくは、集中力が切れて来て何も食べていない事を思い出した所ですね。
宿を出て、近くに在る喫茶店で軽食でも頂きますか。
魔導マントは羽織らずラフな格好のまま宿を出て、段々と高くなっていく丘に広がる大きな都市を見上げる。遠く高い所に立派な城の尖塔が僅かに見えます。
ディアス、光と影の精霊ユピテルトが座する国です。
光ある所に影が出来る、その原理を司るユピテルトは光でありながら影も内包する。
法王と国王、時代によってどちらかが光となり、どちらかが影となって……一つの国を成す。この国は二つで一つなのですね。光を受けて、影を還す存在が真。
傾いた陽が、くっきりと影を作る様を見ながらそんな事を考えて……道路を横切り喫茶店に入ろうとした所、初老の男が僕が押した扉に同時に手を掛ける。
「これは、失礼」
「うん、これはすまんね」
その人は……何故か、どこかで見た事が在る様な気がして僕は思わず二度見していた事でしょう。
「……」
暫らく声が出ず、推理しようと頭を回転させようにも空腹で上手くいかない、そんな気がしますが……どうしてもその人物が誰だったのか思い出せない。
後でリコレクトするに、リアルにおいて記憶力に頼ったゲーマーであるこの僕が『思い出せない』といういのは……意図的ですよね。
でも、この時は全く頭が働いていなくてそれには気が付けなかったのです。
「ここの紅茶とケーキが美味しいんだよ、君もそれ目当てかな」
「え、ええ……そうですね、生クリームの鮮度が良くて甘すぎず、中々だと思います」
「だろう?どうかね、同席してはくれまいか」
「かまいませんよ」
この御人、やはりどこかで見た事がある気がする……誰かの空似でしょうか?と暫らく悩んでいた僕でしたが、頼んだ生クリームと秋の果実がふんだん使われたパンケーキが運ばれてきて暫らくはその悩みを忘れましたね。
いやぁ、頭を使う時に空腹はいけません。おすすめされた紅茶の香りも味も素晴らしい、この所ヤトに付き合ってコーヒーばかり飲んでいましたからねぇ。
僕はカフェインを摂取出来ればどちらでも構わない派ですが、しかし紅茶というのはあれでなかなかコーヒーと同じく淹れるのが難しいものなのです。お湯の温度を間違えば渋みが出る。そこの所、うちの弟子サトーさんは淹れるのが上手かったですねぇ……魔種のくせに魔法がからっきしでしたが、料理や薬物調合技術は中々のものでしたよ。
そっちの方に鞍替えしたらどうかと勧めた事が在る位には……あの子は魔法がダメです。
糖分を摂取した脳がようやくまともに回って来て、同席した初老の男に向け……何時もの様に情報収集と称して催眠魔法を入れようか、そう思ったものの……男が穏やかな目で窓の外の町を眺める様子を見ていて思い留まりました。
今日はそういう事はせず、僕は情報整理に当てると自分で宣言したではありませんか。
たまには魔法を一切使わないでいる日というのも悪くありません。今、魔導マントも脱いできたことですし……。
あ、一応ですね、決まり事として魔導師は魔導式の行使の際は魔導マントを着用する義務みたいなものがあるのですよ。具体的な罰則が在る訳ではありませんし、制約も無いのですが……そうですね、車を運転する時のシートベルトみたいなものでしょうか。魔導マント無しで魔法行使したあげくに起こしたトラブルについては、魔導師協会の恩恵に与れない、という約束事も在る事ですし。
男とは、たわいもない会話をほんの少ししましたかね。
あとはお互い銘々にケーキや紅茶を味わって穏やかな昼下がりを堪能しておりましたよ。
宿の辺りは大通りが近く、人の往来も多い方ですね。国を統べる機関が麻薬だ、魔王八逆星だと混乱している状況であるだろうに……その底辺はいつも通りに回っている。
天で起きている事など良く知らずに居ても、自分たちが出来る生活は出来る。
ディアス国の政治的混乱は、まだ国の根底を乱すまでには至っていないという事でしょうか。自分の生活をするだけの多くの市民によって……国は支えられているものですじゃらべ。
そう思えば、光を受けて影を還す者達はこの国のどこにでも溢れている。王も、公族達も国民も、みな平等に光と影を持って在る。
そんな事をぼんやり考えていると、同席した男がゆっくり席を立つ。
「さて、ありがとうね。私はそろそろおいとまするよ」
「あ、では僕も……仕事の続きが在ります」
「おや、お仕事中だったのかね?」
「自営ですから、お構いなく。ああ……もしよろしければここは奢らせて頂けませんか。良い息抜きが出来ました」
「それはこちらこそお構いなくだよ、私もお金には不自由していない方でね、今日は若いのに奢れるかと思ったのだが」
どうやらこの御仁、平民街に降りてきている上流階級民の様ですね。地味な割に品の良い格好をしている訳です。
「では、こうしましょう。次に会う時には僕が御馳走になります」
「いいね、それは楽しみが増えて良い事だよ」
「いやぁ、大変だったよ」
とやや興奮気味にジェスチャーを交えて話すのはマース君です。
「今日は下見ですって言っても、なんだか人員不足なのかなぁ、勧誘がしつこくって振り切るのに大変でした。その前に軍の事をあれこれ聞いたからよほど感心が在ると思われてしまったみたいで、こちらは知らないフリをして色々聞き出すのにもう、大変だったんですよ」
「大変って繰り返すわりに、楽しそうじゃねぇか」
「そ、え?そう、ですか?ははは、いや……久しぶりの自国だし、」
思っていたよりもすんなりと目的が達せた事にマース君は興奮している様ですね。
そう、エルエラーサ城に行き、田舎から騎士を目指してやって来たという体で色々質問をしたところ、親切丁寧に国の現状を教えてくれた平騎士が見事に釣り上がってくれて、お蔭で守備は上々という訳です。
その平騎士は徴兵隊長の様で、騎士になるとこんな良い事が!みたいなセールストークを展開されたとの事。
「知らなかったよ、央軍ってあんなにお給金良いなんて!」
……実は、興奮している理由はそこだったりしませんよね?マース君?
マース君の話を要約すると、どうやら四方騎士の北魔槍は健在で、しかし前からそうではあったけれど更にも増して鎧の中身が誰なのか、何なのか、良く分からない……とても不気味な騎士団だという話になっている様です。
そのおしゃべりな平騎士の主観では、北魔槍騎士団は無駄口を叩く事無く、命じられた仕事を機械的にこなすので四方騎士の中では扱いやすい、との事です。ヘタな噂も立たないし、平騎士に向けて陰口を叩いたり、差別的な言動もしない。央軍との共同戦線をすることの多い四方騎士唯一の実務部隊との事でした。
それを聞いて、確かに北魔槍って他の騎士より央軍と一緒に動く事が多いかもとマース君も言っていますね。
しかし、北魔槍と多少の会話は成り立っていたはずなのにこの所、その些細な会話さえ成り立たなくなった。鎧だけで動いているのかと疑う者も居る位だが、確かに中に人はいて幽霊という訳ではなさそうだ……云々。
ただ、どうにも……前よりも個性が無くなった気がする。
具体例として、平騎士の男は体格の差が殆ど無くなった気がしてどれもこれも俺と同じくらいの背丈なんだよ、と言ったそうです。
その話を聞いて、流石のマース君もピンときたようですね。
「今の北魔槍は、十中八九中身が新生魔王軍なんじゃないかな」
拳を固め、マース君は興奮冷めやらず机を叩きそうな勢いです。
「四方騎士にまた魔王軍を入れるなんて、一体法王様は何を考えていらっしゃるのか」
その辺り、考えていた推論を披露する事にしましょうか。
「恐らく、第一次魔王討伐隊を命じたのは法王なのでしょう。だから、その所為で北魔槍騎士団が欠落してしまった事をなんとか隠蔽したいのでは?法王は、第一次討伐隊として派遣した北魔槍騎士団は、無事遠征を終えて戻って来た事にしたいのでしょう。多くの国では、第一次魔王討伐隊は戻って来なかったとされている。しかし北魔槍騎士団は無事に戻った……そういう方向性で、第一次魔王討伐隊を送った責務を良い方向性に評価されるように事実を捻じ曲げてしまっている。一度そうしてしまった以上、代替として立てたアービスが裏切った後でも同じ部隊を確保する必要に迫られて……新生魔王軍を許したのではないでしょうか」
マース君は黙って話を聞いていましたが、意見を求める僕に応えしばらく考え……口を開きました。
「それにしたっておかしいよ、魔王八逆星についての事は法王様もご存じのはずだ。代替なら、他にも立てようがあるんじゃないのかな?それともよほどナドゥから何か握られていて、良い様に使われているって事?」
「そこは、逆だと思います」
「逆?」
「法王としては、ナドゥを使っているのは自分だと思っている、という事です」
マース君は、少し身を乗り出し気味にしてどういう事かと腕を組む。
「その方が操り易い人物なんだろうな、その法王様ってのは」
テリーさんの言葉にマース君は黙り込んでしまいましたね。
「あの男は権力者を操る術に長けている」
カルケード国のアイジャン偽王にしても同じく、だと思うのです。
「ましてや記憶の改竄に近い能力有している様ですから、法王は魔王軍を単純に使える手駒程度にしか認識出来ていないのかもしれません。魔王ギガースについての危機感は、何か別のものにすり替えられているのかもしれませんね……例えば、国王から責任を追及され、弾劾される事とか。その時に力で持って央軍を抑えるためにも単純な軍事力として魔王軍を手元に置く様になってしまった……」
そんな感じのシナリオでどうでしょうか?
実際の所は分かりませんし、ぶっちゃけどうだって良いのです。
「魔王軍ってんなら容赦はしねぇよな、俺達ァ中立国家イシュタル認定魔王討伐隊、なんだからよ」
「そういう事ですね」
まさに、テリーさんの云う通りですよ。魔王軍であるのなら、一切の容赦は無用。法王の立場やら何やら鑑みて差し上げる必要も無い。
「行くしかねぇな」
「ええ、まぁこうなるだろう事は分かっていましたが」
「うんと、ええと……つまり……北魔槍騎士団に?」
「そうです、殴り込みに行きますよ。僕らは何といっても魔王討伐隊ですからね」
「……三人で、だよね?」
不安、という声のマース君にテリーさんは問題無い、という風に拳を固めながら顔を上げた。
「いや、あっちの用事が住んだらナッツも来ると言っていたな」
「あっち?って……?」
「そうですねぇ、ディアス国はいわば、フォークタワー仕様なのです」
二人が同時に怪訝な顔をしましたね、それで良いのです。これは僕の非常に個人的に気になる部分の検証作業なので。リアルの話をどこまでコチラに持ち込むとペナルティで経験値が削られる事になるのか、という……検証をしたくてですね。良い機会なので使わせて頂きましょう。
経験値マイナスは一旦ログアウトしないと確認出来無いのですが、先に言っておきますとこの場合僕にペナルティは入らない様です。
ここにヤトやナッツさんが居たらアウトです。
このメンツだと、まさかこれがNGワードである事など双方分かっていないのでペナルティが発生しないんですよ。
詳しい事をお知りになりたい方はググりましょうね。あ、難易度高いので使いませんでしたがピュロボロスとか、三重・反逆・恐怖某のデルタアタックチームでも良いですよ。あえて同じ作品から出しておきましたので。
「専門用語で言われても俺ら分からねぇぞ」
「ディアス国は、二つの王があって正しい国。どちらかが欠けてるだけで国は混乱してしまう」
「現状、二王在っても国は混乱を極めてると思うが」
「そうでしょうか、国の末端を見ていてもそう思いますか?少なくともまだ国としての態は保っているし、政治的な事に関与出来ない者達はいつもと変わらぬ暮らしをしている様には、見えませんでしたか?」
市民目線、というのにテリーさんは案外慣れてないのかもしれませんね。元は支配階級側なので、どうしても政治的な所から国を見てしまう所があるのでしょう。
「内側を見ればボロボロでしょうが、少なくとも外側はマトモなんですよ、この国。その状況で、法王、国王、どちらが倒れても国は傾く。監視者が無ければ、力関係が崩れて好き放題を始めるでしょう。残念ながら双王、どちらも監視者が無ければ暴走を始めるまで追い込まれている状況に在ります」
「だから、総倒れを狙うってか」
「え?どういう事なんですか?」
マース君にはまだ、ナッツさん達にお願いした事を話していませんからね。
「……どっちも建て直すのは無理か」
この乱暴な方法以外に道は無いのか、とテリーさんは言いたいようですが、
「どっちも無理です。腐った木の柱は倒してしまって、新しい柱を立てるべき所まで来ています。幸いな事に、双方に相当のダメージが蓄積しており僕ら三人、いや四人と一党でも、それが難しくは無い状況なのが幸いです」
いわば、同時撃破が必要なのです。
法王も、国王も同時に倒してしまいましょうと僕は言っている。
「いやいやいや、どっちの王様も倒しちゃったら大変だよ!」
「大丈夫ですよ、腐っている所を全部引き倒すだけです。後から生えるモノの方が多少はマシになるのは調べがついています」
「そんでも多少はマシ、なのかよ」
「魔王軍に操られて居たり、薬に染まっていない分マシという意味ですね」
「……」
「順次、ではダメです。法王が魔王軍を招き入れている汚点を責めるべき国王と、戦争を仕掛けたい法王を抑える為という名目で兵を集め、金を使い過ぎてその為に広がった麻薬禍を抑えきれなかった国王を責めるべき法王が居なくてはいけません」
良く分かって無い顔をしているので、ちゃんと説明しましょう。
「法王を倒した場合、国王側は四方騎士の指揮権も得ますよね?」
「うん……多分、そういう事態になった歴史を良く知らないけど……教皇に国王側の意図した人選が出来るなら、そうなるかな?」
「実は、戦争をしたいのは国王側も同じなんですよ」
「え?ん?なんで?」
「ディアス国は一番近い時代に、カルケード国と戦ってボロ負けしたという傷があります。それをディアス国は否定しているし、カルケードは戦ったつもりすら無いという認識ですが……その根は極めて深いだろうと推測しています。マース君は央軍に支払われる賃金が良い事に驚いた様ですが、今や央軍はそうやって多くの兵を集めていて魔王八逆星の混乱に乗じて他国進軍の為の力を着々と整えつつある。法王は領土の問題には手出しできないそうですね。ならばタトラメルツの魔王を放置したのは、国王側にそういう意図があったという事になるはずです」
この、内部ボロボロの状態で戦争なんか始めたらどうなるか。ただでさえ、カルケードもファマメントも魔王八逆星に引っ掻き回されて危険な状況ですよ?新生魔王軍だってどこからどれだけ湧いて出て来るのか分かったものではない。
「ましてや、麻薬禍でまともな判断が出来る公族が減っている今、他国、特にファマメントがディアス国の振る舞いを危険視し、完全掃討を打ち出す可能性も捨てきれない。ディアスが戦争を仕掛けると云う事は、ファマメントにディアスを叩く口実を与えるようなものなのです」
「ほ、本格的な西方大戦争にっちゃう……?」
勿論国は戦争をしたがるものではありません。僕らや他国が、それだけは回避するよう各国に働きかけるでしょうから最悪の事態としての可能性、ですね。
「逆に国王を倒した場合、内部で肥大している央軍が法王の手中に渡ります。あとは、分かりますね」
「……」
「だから同時撃破でなければいけません。双方、戦争をしている場合ではないと思わせなければならないのです。どちらの柱も今はへし折るべきなのです」
「そこまでディアスをボロボロにしたのは、ナドゥなんだよね?」
マース君はディアス国出身で、今は罪を負って逃げている上、身分や見た目からの差別も受けて来たのだと思うのですが……それでも、自分の国ディアスが大好きなのでしょうねぇ。だから……湧き上がる憤り及び敵意を誰かに向けずには居られないのでしょう。
「魔王八逆星サイドでここまで巧妙に動けるのは、僕が見てきた限り彼位かと」
「ぼっちゃんも彼に拐されてる様なものだし、アービス団長なんて初めっから……」
「その怒りは、新生魔王軍を殴るのに使え。中身がどうとか考えるんじゃねぇぞ、それも奴の策略の内だ」
「テリーさん」
「俺も、遠慮なく殴り殺す方向で行くからな……で、何時殴りに行く」
「ナッツさんの合図ですぐにでも。テリーさんが預かって来た手紙によれば、準備は整っているのであとはエイオールの仕事次第だそうです」
情報戦のプロがどうしても手助けしたいと近くに居るのです。
ここは使わないという手はありません。麻薬カルテルについての証拠は捨て置きましたが、必要とあらば手を伸ばせるようにあらゆる情報は、エイオールに流しました。
莫大な量の情報になるので直接渡してしまった方が早い。文字に書き起こしていたら日が暮れます。
使いにやったテリーさんに持たせた手紙には、所謂情報メディア的な付加魔法を載せてありますした。手段を用いれば封じられた情報が開示され『読める』様になる魔導式です。
もちろんこれは読み出せる回数に制限があります。いわば記憶付加の魔導式は魔力によって働くランダムアクセスメモリーの様な物。リードオンリーメモリー、すなわち光学式メディアの様に何度も、という魔導式はまだ開発されていないかシンク中ですね……いや、嘘を言いました。実はそれに近い技術はあるんですが……所謂生体メモリとなる都合やや倫理観に欠けておりまして、無かった事にしました。
どっちにしろこの僕が集めた情報は、物的証拠としては機能していない。
テリーさんが届けた手紙は、情報を情報屋に渡して物的証拠を抑えるようにお願いするものでした。勿論ミンジャンは快く引き受け、すでに独自に情報収集に走っていたであろう仲間達を、国王側の要人を貶める為にばら撒かれた薬についての情報と物的証拠を上げる方向にシフトさせてくれているでしょう。
国王側に麻薬を蔓延させたきっかけとしては法王側ですが、そこには利権を得たい国王側の足の引っ張り合いも在った訳ですね。しかし全体的にこの薬、LTについて甘く見ていた様で、国王側は勿論法王側にも多少乱用者が居て、一度手を付けた者らは収拾がつけられなくなっている。
それから……阿片膏、ロダナム薬、精製した薬などで財を成したロダナム家から、央軍強化の為の軍事資金援助を受けている事は……あまり公になっている事ではありませんでした。
それはチョウジ氏から抜いた情報からもそうだと知れるし、割と常にジリ貧であるディアス国が軍事拡張しているその資金はどこから出ているのか、多くの市民が疑問を感じている有様でした。
少なくともフィナル家ではない、といった風に……恐らくはロダナム家であろうと多くの市民が噂話をしていてそれを、マース君も知っているという具合です。
勿論ロダナム家は危ない薬を売っている事などおくびにも出さず商売をしている訳ですが、影では薬の売買して一代で財を成した事が囁かれている。
この資金の流れを『公に出来る』物的証拠も押さえる必要が在ります。
世界で一番の情報屋、とはいえ……流石に一日で事を詰めるのは無理だろうと思っていましたが、僕は彼らをちょっと舐めていたようですね。
次の日の昼前に、ミンジャンの使いだという人が密かに訊ねて来たので近くの喫茶店で話をすることになりましたが……。
使いだという人は、明らかに女物と分かる高級そうなスツールを頭に被っていて顔を隠していました。もしかすると女性の方だろうかと思ったりもしたのですが……喫茶店で腰を落ち着かせて、露わにしたその顔に僕は驚くしかない。
「いや、お待ちください、ここでは場所がよろしくない」
「心配しなさんな、この辺りの飲食店は全部ウチの傘下よ」
僕はこの顔を知っている。
長めお金髪に色素の濃い明るい瞳、そして何より特徴的なのは……僕と同じく眼鏡をかけている事です。
リコレクト、……この方は現フィナル家当主、レイ・フィナル!
「あ?誰だよこいつ」
「テリーさんは御存じでは無いのですね。現フィナル家当主ですが」
「……マジか」
流石、ファマメント公族。フィナル家当主がこんな所に一人でのこのこ現れる状況の異常性を良くご理解頂けている。マース君は勿論知っていて、さっきから固まって動いてませんよ。
「そんな驚くほどの事かねぇ?情報屋から事情は聴いているし俺の方でもその問題、どうにか出来ないかと手をこまねいていた所だったわ。渡りに船よ、感謝する」
「それで、わざわざ貴方の方で『お使い』ごときをを引く受けなくとも……」
「いいや、その方がお前さんらに信頼が売れる」
流石、根っからの商人ですね。打算も素直にあっけらかんと言い切ってくれます。
「それに、事が済む前にどうしてもお前さんらの顔を拝んでおきたかったりしたのよ……ディアス国を救ってくれる者達に向けて、どうして俺が黙って居られるか」
僕が彼の顔は知っているのは、彼が魔導都市に何度も正式訪問しているからです。
フィナル家というのは世界各地に妙に縁を持っている人で……魔導都市にも親しい人が何人かいる様でした。魔導都市特有の貨幣であるキャスに大いに興味があって、その辺りの関係で何度も来ているらしい、と聞いています。
しかし、
「貴方はすでに国外に脱出、商家の指揮はそちらで取っているという話は?」
「はっ!そうだよ!フィナル家は戦争をしそうな勢いのディアスに制裁を加える意味で、ディアス国から撤退したって僕もそう聞いた!」
「そんなものは国で流した嘘に決まっているでしょ」
実際、会話をするのは初めてですが……極めてフランクに話す方ですね。年齢もまだ二十代か三十代前半だと聞いています。嫁も娶らず、各地に置いている愛人の間をフラフラしているのだという噂もありますが……あながち嘘では無いかもしれません。
「ディアス国に愛想つかしたのは確かだけど、でも見捨てるかと云えばそれは無い」
毅然と背筋を伸ばし、遊び人の様な風貌ではあれど……自分の成す事に絶対の自信があるのでしょう。一瞬真面目な顔をした所すぐ余裕じみた笑みを浮かべる。
「金の力は絶大だ、融資を切られては軍事拡張も侭成らない事だろうと思ったもんだが、そこにあのロダナム家が台頭して来てこりゃぁ一筋縄ではいかないわねぇ、と」
「……お聞きしますが、魔王八逆星からの何らかの妨害等をフィナルでは受けていらっしゃいますか?」
「直接的には無いけど、ロダナム家の問題なんかは間接的なウチへの干渉と言えるわね。ありゃチョウ爺の手腕じゃない、かといってぼんくら息子どもにも器量があるとは思えない、俺も色々探って入るが一向に……姿がつかめなくてね。もしかすれば魔王一派かとは思っていたが、」
レイ氏はじっくりと僕らの顔を見廻してから言いました。
「お前さんら、ロダナムの背後に魔王八逆星が居ると断定して動いているわよね、あと法王様の件もそうだ。俺らが掴んでいる情報としては、北魔槍がコウリーリス側に『何か』の荷物を運ぶ為に動いた後、帰還が確認されないまま北魔槍騎士団がディアスに『戻った』そうよ。しかしそれだけでは魔王軍の関与は疑えるものじゃない」
「僕は、……元北魔槍騎士団のマースと言います」
「知ってる」
鉄仮面を脱いでも居ないのに即座レイ氏から言われてマース君、絶句してます。
「お前さんの事は前からマークしてた。勿論そうだとは分からんようにな、手掛かりになるのはお前さん位だろうってね。しかしファマメント側に取られてしまったでしょ?接触も難しくなってディアスに戻って来るかどうかを見張らせてあったから、先日城下に現れた事は俺の方で把握してたわ」
「そ、そんな」
「話は、ミンからあらかた聞いているから……用件から先に言おう」
細かい話を勝手に切り上げ、レイ氏はテーブルを人差し指でトンと叩く。
「国王側、ひいてはロダナム家の一斉検挙の手筈は整っている。俺の一方的な取捨選択にはなるが……治癒すべき人物の洗い出しも終わっているわよ」
「貴方の選んだ人ならば、信用出来ますよ」
実はそこがネックだったのですよね、情報屋ひいてはナッツさんに一任しましたが、人選にかなり手間取るのではと思っていました。
ナッツさんが開発してくれている、薬の毒およびその依存から『抜く』為の治療法は、多くの数を揃える事が出来ないと事前に分かっていました。時間も物資も限られてますから今は麻薬禍から救い出せる人物に限りがあります。
また、それは魔法や薬物ではなく、然るべき魔導式を用いた治癒行為として施行される『治療法』である為、それが行える人物にも限られている。
お手軽に誰でも麻薬から救える訳では無い、という事です。
何かの手違い、あるいは意図的に薬を摂取してしまい抜け出せずにいる国王側の公族で、一体誰がディアス国を良い意味で導くに適した人材であるのか……それを調べるのは容易ではないと思っていた訳ですが……ディアス国の大商家にして信頼できる平和主義者、フィナル家からその情報提供を頂けるというのです。
間違いないでしょう。
フィナル家が信頼出来る事は、一国の王を信じるよりも確実な事です。それくらいの善行を世界に向けて実施し続けていて、その話は至る所で聞く事が出来ます。
そんなフィナル家の慈善活動など大いに偽善行為であり、色々な事を裏で画策していて世界への支配力を強めているだけだと警戒する国家も数多い。しかし……僕のフィナル家に対する認識は絶対的な『商家』としての信頼に集約します。
彼らは、国があってこそ商いが出来るという信念を持って、世界に等しく仕える召使いの様な存在なのですよ。
野心も野望も抱く事が無いという意味では、フィナル家は一種狂気的にも絶対的な『商人』であるとも言えるでしょうね。
そういう都合、ディアス国内でも、国外でも……敵も味方も多い事でしょうに。
「じゃ、明日にも殴り込んで良いって事か」
テリーさんの言葉にレイ氏は頷く。
「そっちは任せて良い、というミンの話を信頼するしかないけど……良いのよね?何なら傭兵でも何でもすぐに用意出来るが」
「いえ、僕らだけで十分です」
たった三人で法王の悪事を暴く。成る程、北魔槍は強く無くてはならなかった訳ですね。魔王八逆星の手を借りている証拠そのものであるから、生半可な者から抑え込まれてしまう様では困る。制圧するのにそれなりの軍事力を用いる必要があるから、そこが怪しいと思っていても手出し出来ずに居た所はあるのでしょう。
「ナッツさんから話は行っていると思います。魔王軍とは、魔王討伐隊だけが戦うべきなのです。今南国に向かっているランドール・ブレイブの様に、国や民間を巻き込んで戦う様では相手の思う壺です」
「よし……では、明日早朝ウの刻に一斉に動くでいいわね?」
リコレクト、卯刻六つ、朝の六時の意味ですね。ディアスに漢字文化は無いのでウが卯であるのかは微妙ですが、ディアス国の古い時間に観念で日本の十二時辰が在る様です。
テリーさんが一瞬僕に目配せをしましたね、彼が何を気にしているのか、勿論僕は分かっていますよ。
「そうしましょうでは……よろしくお願いします」
「それはこちらのセリフよ、頼むわよお前さん達、ディアスの命運は明日のお前さんらの働きに掛かっているわ」
という事は、今日はもう丸一日何もせず明日を待つという事です。
北魔槍騎士団襲撃の手筈として、マース君お手製の地図で建物の構図やルートなどを確認してあっという間に日は暮れました。
マース君は早目に休むと、英気を養いに……ようするにご飯を調達に出て行きましたね。鎧の隙間から食事ではどうしても不便なので、夕方から出て来る屋台のお世話になっています。勿論宿で食事も出してくれるんですが、彼がどうしても人前で鉄仮面を脱ぎたくないという事で……自室で食事を取る事にした訳です。
その隙に、テリーさんはじゃぁここで一旦ログアウトした方が良くねぇか?と……提案してきました。
「おや、貴方ともあろう人が、大好きな大暴れイベントを最悪スキップで飛ばす事になっても良いと言い出すとは、意外ですねぇ」
「マースには遠慮なく殴れとは言ったが……正直な事を言えば殴らないで済むなら殴りたくはねぇな、『俺』は」
テリーさんは、やや困った顔で言いましたね。
中身がヤトの劣化コピーであろう新生魔王軍を……それでも、彼は殴り殺すでしょう。そこにすでに迷いは無くとも、それでもテルイータテマツさんとしては殴りたいと思っているわけでは無い……と。
「COMに任せてイベントをやり過ごそうと」
「とはいえ、次にログアウトした時はどっちで体験した事なのか、リコレクトして分からなくなるんだろうけどな」
今は、節目ではある訳です。
何しろ僕ら、明日敗北を規す事になるなんて毛頭思っていませんからね。絶対に新生魔王軍ぶっ殺すマンとして間違いなくちゃんと仕事をする事は分かり切っている。
「もしかすれば、殴っている途中でログインになるかもしれませんが……結局今回もあまり冒険出来る容量の事を気にする事無く限界まで進めて来てしまいましたね、時にログアウトする事なんて思考から欠落している気配すらある」
「そうだな、それは俺も思うな」
「展開が多かったので、安全にここでセーブ・ログアウトが正解かもしれません」
という事は……ヤト達も同じく、今頃ログアウト危機に瀕している訳ですよね。
「アイツは大丈夫なのか?」
その懸念はテリーさんにもある様です。
「あまり大丈夫ではないですね、世界の真ん中に在った木との関連で、また難解な結合をしているので果たしていつも通り暴走するのかどうなのか、」
「奴ら、どのあたりに居るかな」
「日程的にはすでにトライアンには入っているでしょうから、何事も無ければディアス国の方に向けて出発し、僕らと合流すべくリオさんが導いてくれているはずです」
しかし、僕らの作戦も現在佳境ですからね、ヤト達と合流するまでは恐らく体感的に持たずにログアウトしてしまうでしょう。
僕らはまだログインを三回しか体験していません。
前回は魔導都市で暴走前提でヤトを先にログアウトさせました。しかし、結局ログインはほぼ同時で、ヤトの覚醒と同軸から始まっていた様な気がします。……ここはテリーさんの言う様にリコレクトするたびに良く分からなくなってしまうので、断言は出来ません。
結局の所ヤトに向けては打てる手が無いので、彼に同行した仲間達を当てにするしかありません。
よって……続きをまだディアス国で出来れば幸いと願い、ここで一旦僕らはログアウトを選択する事になりました。
現実の事などは、まぁ得に記する事も無く……正直に言いますと本編だけで僕はあのログアウト期間はいっぱい一杯なので……割愛で。
ここ二日で集めた情報から察するに……ロダナム家には確実にナドゥの息が掛かっている、にもかかわらずそれらしい人物の情報が一切出てこない。
これは恐らく彼の『経験値の取得』と称した、記憶改竄に近い能力が行使されているのではないかと思われます。
それの具体的な仕様はあくまで推論でしかないのですが、記憶の組み換えに近いものでしょう。行使に何らかのリスクはあるのでしょうが、良く分かりません。
明らかにロダナム家が手中に収めている麻薬精製理論は文化レベルが高すぎる。
実際の麻薬を手に入れて見ている訳ではありませんが、その麻薬に手を出した者が陥った状況ついては否が応にも耳に入ります。
この麻薬は極めて肉体的、精神的に依存性が高く一週間以内に薬の再摂取を行おうとする……これはエチル氏のスケジュールから、あの日後を追った高官と会っている頻度を抜き出して推測しました。廃人寸前ともなれば人格は破壊され、手が付けられなくなって命を奪われた者も居ると聞いています。実際には、そうなってしまって影で命を絶たれた人が多くいる可能性がありますね。
阿片を精製してモルヒネ、ヘロインの類を作る事自体は知識と必要な物資を揃えれば難しい事ではありません。
あ、ちなみにこちらの世界の件の麻薬は直接的にソレだと断定は出来ていません。そもそも名前が違う様ですね、芥子から取れる物質は『阿片』で、リアルのソレと同じなのですが、ね。
今ディアス国の上流階級で猛威を振るっている麻薬は、LTという略称で呼ばれています。
何かの略称かと思いますが……正式名称については徹底的に隠ぺいされていて良く分かりません。
しかし僕が問題視しているのは阿片を精製して更に危険な麻薬が作られている事ではありません。
その麻薬の依存性を悪用して金を集める事、多くの麻薬が作れるような製造ラインを整備してある事です。
この世界には魔法が在るのですよ?そういう世界でありながら、純粋な医術や薬草や化学物質の生成による薬の調合、それらを用いた治療だけを施す医者という存在は極めて稀有です。しかし、過去にそれに近い存在が確かに居て、医学や薬学のレベルを相当に引き上げている……と、ナッツさんが言っていました。
その系譜は間違いなく錬金術師側に在る。
ナドゥは明らかに魔法使いでは無く錬金術師です、麻薬の大量精製とそれが齎す『金』の精錬法は正しく錬金術と呼べるでしょう。そうして生まれた『金』でディアスは、魔王八逆星から完全に操られている状況ではないでしょうか。そもそも彼らが根城にしていた所は全部ディアス国側ですよ。
今ヤトが向かっているトライアンについてはファマメント国領土ではありますが、位置関係的にはディアス国に隣接している地域です。
……金の流れをもう少し考えてみましょう。
アービスの故郷には、かなり大規模な芥子畑が在るそうですね。
そこからロダナム家が表立って商売品として売っているロダナム薬、睡眠鎮静剤を作る為の材料を仕入れている。これはロダナム家の表の事業として、チョウジ氏から抜き取った記憶から知る事が出来ます。
ロダナム家は、精製した麻薬をもっと大々的に国外に売る事も出来るはず。しかし、それを国内からやっている気配はないですね。……マリアから直接輸出している、という事でしょうか。
阿片というのは薬師にとって需要があるもので、それなりに高値なのだそうですが、阿片相場が崩壊しているのを見た事が無いと……ナッツさんが言っていました。
ロダナム家は植民地としたマリアで大量の阿片を精製出来ていて、これを市場に流しているならば……必ず阿片の値段はもっと安くなっているはず。
ディアス国で麻薬禍が起きている気配は察知していたので、この辺りはナッツさんとエイオール船で打ち合わせてあった訳ですが……阿片は、在ればあるだけ使う、という薬品ではないそうですよ。薬師や薬剤師の間では少なからず依存のある危険な薬剤という認識が通っているという。
では、大量の阿片は一体何処へ?
例えばLTという麻薬を精製するに、その量が大分減るとしましょう。
その麻薬がリアルにあるモノに近い物質であるならば、ヘロインを純度の高い物まで精製するとなると総量は相当に圧縮される事でしょう。
例えてモルヒネに該当する薬品は例の、ロダナム薬です。
純度等でいろいろ種類がある様ですね。
ではヘロインに相当する物は?これは薬にはならないでしょう、逆にヘロインに該当する物質はこの世界に在るのかとナッツさんに聞いたところ、それらしい薬の文献は見た事は在れど精製方法は不明であるし、実在については分からない、との事でした。存在の否定までは出来ず、麻薬として取引されているのならばどこかで流通している可能性はあるだろう、との事です。
娼館や裏家業、もしかすれば闘技場などでの流通はあったかもしれません……案外、その辺りはテリーさんの方が知っていますかね?先に聞いておくべきでしたか。
ロダナム家は『阿片』を自社製品ロダナム薬の精製の為にディアス国に仕入れ、国外には阿片を精製した麻薬のLTを密かに流して大金を得ている、そしてその金で上流階級や公族に取り入って……その一部を依存性の高いLT薬に染めつつある。
どこかでナドゥが介入していて、ディアス国の領土に堂々と根城を構える為にお膳立てをしたはずです。
タトラメルツなんて、曰くもあって多くが近づく事の無い廃墟がいつの間にか魔王八逆星の本拠地になっていたのですよ?
すぐ近くに住む領主が許可した事では無かった、しかしディアス国がそれを問題視して解決しようと働いている気配も無かった。
だからタトラメルツ領主は自らで魔王の脅威を取り除く為に動く必要があり……そこに忍び寄った悪魔、カオス・カルマの甘言に踊らされて僕ら魔王討伐隊を招く事になった訳です。
……ナドゥは、別段ディアス国の政治に興味は無いと見えます。
興味は無いとして、無作為に干渉してしまえば均衡を崩し国が崩壊する事を知っている。彼の理想は犠牲をいとわない世界平和です。物事は、生かさず殺さず、崩壊しない程度の均衡を持たせて停滞させ、自分の成そうとしている事に手を出してこないようにしているのかもしれません。
それならばこのディアス国の状況にも納得が行きます。
法王側の騎士団にアービスと魔王軍を忍ばせ、一方で国王側には薬で錬金術を行う商人を滑り込ませている。一見矛盾した行為は、二つの王が対立する事で均衡しているディアス国の性質を利用しての事ですか。
さて……問題なのは大陸座ユピテルトの行方です。
ナドゥは自分の足跡を消していますが、以上の推論を元に考えるに法王、国王、どちら側にも影響力を持って居たという事になります。
それなのに双方に大陸座に繋がる手がかりは無かったという事でしょうか?
大陸座ユピテルトに干渉した痕が見付けられません。
そもそもユピテルト本人がどこに居るのかも全く見えてこない。
難問ですねぇ、魔王八逆星エルドロウと大陸座ジーンウイントによる、大陸座の封印術の前までは間違いなくユピテルトも世界に健在であったはず。
ファマメント国のハクガイコウとして現れた大陸座ファマメントの様に、政治に近い所に居るものと思っていましたが今だ、法王、国王、どちら側にユピテルトが居たのか良く分かりません。大陸座ユピテルトは、自分がそれである事を大々的に吹聴していない、という事でしょうか?そういう存在が自国に在る事自体、ディアス国民の頭には無いのかもしれない。
少なくともチョウジ氏、エチル氏の側近、あと無作為に政治に詳しいを自負している人を喫茶店や酒場で捕まえて催眠魔法をかけて情報を引き出してみましたが……誰も大陸座ユピテルトを御存じではない。
それに近しい存在も見当たらない。
多くの人が、記憶操作をされて存在を忘れた、という綻びも見つけられない。
ユピテルトは突然姿が消えても問題の無い所に居た、という事でしょうか?
気が付いた時には陽が傾き始めていて、昼ご飯を頂く事無く思考に没頭していた事に気が付きました。正しくは、集中力が切れて来て何も食べていない事を思い出した所ですね。
宿を出て、近くに在る喫茶店で軽食でも頂きますか。
魔導マントは羽織らずラフな格好のまま宿を出て、段々と高くなっていく丘に広がる大きな都市を見上げる。遠く高い所に立派な城の尖塔が僅かに見えます。
ディアス、光と影の精霊ユピテルトが座する国です。
光ある所に影が出来る、その原理を司るユピテルトは光でありながら影も内包する。
法王と国王、時代によってどちらかが光となり、どちらかが影となって……一つの国を成す。この国は二つで一つなのですね。光を受けて、影を還す存在が真。
傾いた陽が、くっきりと影を作る様を見ながらそんな事を考えて……道路を横切り喫茶店に入ろうとした所、初老の男が僕が押した扉に同時に手を掛ける。
「これは、失礼」
「うん、これはすまんね」
その人は……何故か、どこかで見た事が在る様な気がして僕は思わず二度見していた事でしょう。
「……」
暫らく声が出ず、推理しようと頭を回転させようにも空腹で上手くいかない、そんな気がしますが……どうしてもその人物が誰だったのか思い出せない。
後でリコレクトするに、リアルにおいて記憶力に頼ったゲーマーであるこの僕が『思い出せない』といういのは……意図的ですよね。
でも、この時は全く頭が働いていなくてそれには気が付けなかったのです。
「ここの紅茶とケーキが美味しいんだよ、君もそれ目当てかな」
「え、ええ……そうですね、生クリームの鮮度が良くて甘すぎず、中々だと思います」
「だろう?どうかね、同席してはくれまいか」
「かまいませんよ」
この御人、やはりどこかで見た事がある気がする……誰かの空似でしょうか?と暫らく悩んでいた僕でしたが、頼んだ生クリームと秋の果実がふんだん使われたパンケーキが運ばれてきて暫らくはその悩みを忘れましたね。
いやぁ、頭を使う時に空腹はいけません。おすすめされた紅茶の香りも味も素晴らしい、この所ヤトに付き合ってコーヒーばかり飲んでいましたからねぇ。
僕はカフェインを摂取出来ればどちらでも構わない派ですが、しかし紅茶というのはあれでなかなかコーヒーと同じく淹れるのが難しいものなのです。お湯の温度を間違えば渋みが出る。そこの所、うちの弟子サトーさんは淹れるのが上手かったですねぇ……魔種のくせに魔法がからっきしでしたが、料理や薬物調合技術は中々のものでしたよ。
そっちの方に鞍替えしたらどうかと勧めた事が在る位には……あの子は魔法がダメです。
糖分を摂取した脳がようやくまともに回って来て、同席した初老の男に向け……何時もの様に情報収集と称して催眠魔法を入れようか、そう思ったものの……男が穏やかな目で窓の外の町を眺める様子を見ていて思い留まりました。
今日はそういう事はせず、僕は情報整理に当てると自分で宣言したではありませんか。
たまには魔法を一切使わないでいる日というのも悪くありません。今、魔導マントも脱いできたことですし……。
あ、一応ですね、決まり事として魔導師は魔導式の行使の際は魔導マントを着用する義務みたいなものがあるのですよ。具体的な罰則が在る訳ではありませんし、制約も無いのですが……そうですね、車を運転する時のシートベルトみたいなものでしょうか。魔導マント無しで魔法行使したあげくに起こしたトラブルについては、魔導師協会の恩恵に与れない、という約束事も在る事ですし。
男とは、たわいもない会話をほんの少ししましたかね。
あとはお互い銘々にケーキや紅茶を味わって穏やかな昼下がりを堪能しておりましたよ。
宿の辺りは大通りが近く、人の往来も多い方ですね。国を統べる機関が麻薬だ、魔王八逆星だと混乱している状況であるだろうに……その底辺はいつも通りに回っている。
天で起きている事など良く知らずに居ても、自分たちが出来る生活は出来る。
ディアス国の政治的混乱は、まだ国の根底を乱すまでには至っていないという事でしょうか。自分の生活をするだけの多くの市民によって……国は支えられているものですじゃらべ。
そう思えば、光を受けて影を還す者達はこの国のどこにでも溢れている。王も、公族達も国民も、みな平等に光と影を持って在る。
そんな事をぼんやり考えていると、同席した男がゆっくり席を立つ。
「さて、ありがとうね。私はそろそろおいとまするよ」
「あ、では僕も……仕事の続きが在ります」
「おや、お仕事中だったのかね?」
「自営ですから、お構いなく。ああ……もしよろしければここは奢らせて頂けませんか。良い息抜きが出来ました」
「それはこちらこそお構いなくだよ、私もお金には不自由していない方でね、今日は若いのに奢れるかと思ったのだが」
どうやらこの御仁、平民街に降りてきている上流階級民の様ですね。地味な割に品の良い格好をしている訳です。
「では、こうしましょう。次に会う時には僕が御馳走になります」
「いいね、それは楽しみが増えて良い事だよ」
「いやぁ、大変だったよ」
とやや興奮気味にジェスチャーを交えて話すのはマース君です。
「今日は下見ですって言っても、なんだか人員不足なのかなぁ、勧誘がしつこくって振り切るのに大変でした。その前に軍の事をあれこれ聞いたからよほど感心が在ると思われてしまったみたいで、こちらは知らないフリをして色々聞き出すのにもう、大変だったんですよ」
「大変って繰り返すわりに、楽しそうじゃねぇか」
「そ、え?そう、ですか?ははは、いや……久しぶりの自国だし、」
思っていたよりもすんなりと目的が達せた事にマース君は興奮している様ですね。
そう、エルエラーサ城に行き、田舎から騎士を目指してやって来たという体で色々質問をしたところ、親切丁寧に国の現状を教えてくれた平騎士が見事に釣り上がってくれて、お蔭で守備は上々という訳です。
その平騎士は徴兵隊長の様で、騎士になるとこんな良い事が!みたいなセールストークを展開されたとの事。
「知らなかったよ、央軍ってあんなにお給金良いなんて!」
……実は、興奮している理由はそこだったりしませんよね?マース君?
マース君の話を要約すると、どうやら四方騎士の北魔槍は健在で、しかし前からそうではあったけれど更にも増して鎧の中身が誰なのか、何なのか、良く分からない……とても不気味な騎士団だという話になっている様です。
そのおしゃべりな平騎士の主観では、北魔槍騎士団は無駄口を叩く事無く、命じられた仕事を機械的にこなすので四方騎士の中では扱いやすい、との事です。ヘタな噂も立たないし、平騎士に向けて陰口を叩いたり、差別的な言動もしない。央軍との共同戦線をすることの多い四方騎士唯一の実務部隊との事でした。
それを聞いて、確かに北魔槍って他の騎士より央軍と一緒に動く事が多いかもとマース君も言っていますね。
しかし、北魔槍と多少の会話は成り立っていたはずなのにこの所、その些細な会話さえ成り立たなくなった。鎧だけで動いているのかと疑う者も居る位だが、確かに中に人はいて幽霊という訳ではなさそうだ……云々。
ただ、どうにも……前よりも個性が無くなった気がする。
具体例として、平騎士の男は体格の差が殆ど無くなった気がしてどれもこれも俺と同じくらいの背丈なんだよ、と言ったそうです。
その話を聞いて、流石のマース君もピンときたようですね。
「今の北魔槍は、十中八九中身が新生魔王軍なんじゃないかな」
拳を固め、マース君は興奮冷めやらず机を叩きそうな勢いです。
「四方騎士にまた魔王軍を入れるなんて、一体法王様は何を考えていらっしゃるのか」
その辺り、考えていた推論を披露する事にしましょうか。
「恐らく、第一次魔王討伐隊を命じたのは法王なのでしょう。だから、その所為で北魔槍騎士団が欠落してしまった事をなんとか隠蔽したいのでは?法王は、第一次討伐隊として派遣した北魔槍騎士団は、無事遠征を終えて戻って来た事にしたいのでしょう。多くの国では、第一次魔王討伐隊は戻って来なかったとされている。しかし北魔槍騎士団は無事に戻った……そういう方向性で、第一次魔王討伐隊を送った責務を良い方向性に評価されるように事実を捻じ曲げてしまっている。一度そうしてしまった以上、代替として立てたアービスが裏切った後でも同じ部隊を確保する必要に迫られて……新生魔王軍を許したのではないでしょうか」
マース君は黙って話を聞いていましたが、意見を求める僕に応えしばらく考え……口を開きました。
「それにしたっておかしいよ、魔王八逆星についての事は法王様もご存じのはずだ。代替なら、他にも立てようがあるんじゃないのかな?それともよほどナドゥから何か握られていて、良い様に使われているって事?」
「そこは、逆だと思います」
「逆?」
「法王としては、ナドゥを使っているのは自分だと思っている、という事です」
マース君は、少し身を乗り出し気味にしてどういう事かと腕を組む。
「その方が操り易い人物なんだろうな、その法王様ってのは」
テリーさんの言葉にマース君は黙り込んでしまいましたね。
「あの男は権力者を操る術に長けている」
カルケード国のアイジャン偽王にしても同じく、だと思うのです。
「ましてや記憶の改竄に近い能力有している様ですから、法王は魔王軍を単純に使える手駒程度にしか認識出来ていないのかもしれません。魔王ギガースについての危機感は、何か別のものにすり替えられているのかもしれませんね……例えば、国王から責任を追及され、弾劾される事とか。その時に力で持って央軍を抑えるためにも単純な軍事力として魔王軍を手元に置く様になってしまった……」
そんな感じのシナリオでどうでしょうか?
実際の所は分かりませんし、ぶっちゃけどうだって良いのです。
「魔王軍ってんなら容赦はしねぇよな、俺達ァ中立国家イシュタル認定魔王討伐隊、なんだからよ」
「そういう事ですね」
まさに、テリーさんの云う通りですよ。魔王軍であるのなら、一切の容赦は無用。法王の立場やら何やら鑑みて差し上げる必要も無い。
「行くしかねぇな」
「ええ、まぁこうなるだろう事は分かっていましたが」
「うんと、ええと……つまり……北魔槍騎士団に?」
「そうです、殴り込みに行きますよ。僕らは何といっても魔王討伐隊ですからね」
「……三人で、だよね?」
不安、という声のマース君にテリーさんは問題無い、という風に拳を固めながら顔を上げた。
「いや、あっちの用事が住んだらナッツも来ると言っていたな」
「あっち?って……?」
「そうですねぇ、ディアス国はいわば、フォークタワー仕様なのです」
二人が同時に怪訝な顔をしましたね、それで良いのです。これは僕の非常に個人的に気になる部分の検証作業なので。リアルの話をどこまでコチラに持ち込むとペナルティで経験値が削られる事になるのか、という……検証をしたくてですね。良い機会なので使わせて頂きましょう。
経験値マイナスは一旦ログアウトしないと確認出来無いのですが、先に言っておきますとこの場合僕にペナルティは入らない様です。
ここにヤトやナッツさんが居たらアウトです。
このメンツだと、まさかこれがNGワードである事など双方分かっていないのでペナルティが発生しないんですよ。
詳しい事をお知りになりたい方はググりましょうね。あ、難易度高いので使いませんでしたがピュロボロスとか、三重・反逆・恐怖某のデルタアタックチームでも良いですよ。あえて同じ作品から出しておきましたので。
「専門用語で言われても俺ら分からねぇぞ」
「ディアス国は、二つの王があって正しい国。どちらかが欠けてるだけで国は混乱してしまう」
「現状、二王在っても国は混乱を極めてると思うが」
「そうでしょうか、国の末端を見ていてもそう思いますか?少なくともまだ国としての態は保っているし、政治的な事に関与出来ない者達はいつもと変わらぬ暮らしをしている様には、見えませんでしたか?」
市民目線、というのにテリーさんは案外慣れてないのかもしれませんね。元は支配階級側なので、どうしても政治的な所から国を見てしまう所があるのでしょう。
「内側を見ればボロボロでしょうが、少なくとも外側はマトモなんですよ、この国。その状況で、法王、国王、どちらが倒れても国は傾く。監視者が無ければ、力関係が崩れて好き放題を始めるでしょう。残念ながら双王、どちらも監視者が無ければ暴走を始めるまで追い込まれている状況に在ります」
「だから、総倒れを狙うってか」
「え?どういう事なんですか?」
マース君にはまだ、ナッツさん達にお願いした事を話していませんからね。
「……どっちも建て直すのは無理か」
この乱暴な方法以外に道は無いのか、とテリーさんは言いたいようですが、
「どっちも無理です。腐った木の柱は倒してしまって、新しい柱を立てるべき所まで来ています。幸いな事に、双方に相当のダメージが蓄積しており僕ら三人、いや四人と一党でも、それが難しくは無い状況なのが幸いです」
いわば、同時撃破が必要なのです。
法王も、国王も同時に倒してしまいましょうと僕は言っている。
「いやいやいや、どっちの王様も倒しちゃったら大変だよ!」
「大丈夫ですよ、腐っている所を全部引き倒すだけです。後から生えるモノの方が多少はマシになるのは調べがついています」
「そんでも多少はマシ、なのかよ」
「魔王軍に操られて居たり、薬に染まっていない分マシという意味ですね」
「……」
「順次、ではダメです。法王が魔王軍を招き入れている汚点を責めるべき国王と、戦争を仕掛けたい法王を抑える為という名目で兵を集め、金を使い過ぎてその為に広がった麻薬禍を抑えきれなかった国王を責めるべき法王が居なくてはいけません」
良く分かって無い顔をしているので、ちゃんと説明しましょう。
「法王を倒した場合、国王側は四方騎士の指揮権も得ますよね?」
「うん……多分、そういう事態になった歴史を良く知らないけど……教皇に国王側の意図した人選が出来るなら、そうなるかな?」
「実は、戦争をしたいのは国王側も同じなんですよ」
「え?ん?なんで?」
「ディアス国は一番近い時代に、カルケード国と戦ってボロ負けしたという傷があります。それをディアス国は否定しているし、カルケードは戦ったつもりすら無いという認識ですが……その根は極めて深いだろうと推測しています。マース君は央軍に支払われる賃金が良い事に驚いた様ですが、今や央軍はそうやって多くの兵を集めていて魔王八逆星の混乱に乗じて他国進軍の為の力を着々と整えつつある。法王は領土の問題には手出しできないそうですね。ならばタトラメルツの魔王を放置したのは、国王側にそういう意図があったという事になるはずです」
この、内部ボロボロの状態で戦争なんか始めたらどうなるか。ただでさえ、カルケードもファマメントも魔王八逆星に引っ掻き回されて危険な状況ですよ?新生魔王軍だってどこからどれだけ湧いて出て来るのか分かったものではない。
「ましてや、麻薬禍でまともな判断が出来る公族が減っている今、他国、特にファマメントがディアス国の振る舞いを危険視し、完全掃討を打ち出す可能性も捨てきれない。ディアスが戦争を仕掛けると云う事は、ファマメントにディアスを叩く口実を与えるようなものなのです」
「ほ、本格的な西方大戦争にっちゃう……?」
勿論国は戦争をしたがるものではありません。僕らや他国が、それだけは回避するよう各国に働きかけるでしょうから最悪の事態としての可能性、ですね。
「逆に国王を倒した場合、内部で肥大している央軍が法王の手中に渡ります。あとは、分かりますね」
「……」
「だから同時撃破でなければいけません。双方、戦争をしている場合ではないと思わせなければならないのです。どちらの柱も今はへし折るべきなのです」
「そこまでディアスをボロボロにしたのは、ナドゥなんだよね?」
マース君はディアス国出身で、今は罪を負って逃げている上、身分や見た目からの差別も受けて来たのだと思うのですが……それでも、自分の国ディアスが大好きなのでしょうねぇ。だから……湧き上がる憤り及び敵意を誰かに向けずには居られないのでしょう。
「魔王八逆星サイドでここまで巧妙に動けるのは、僕が見てきた限り彼位かと」
「ぼっちゃんも彼に拐されてる様なものだし、アービス団長なんて初めっから……」
「その怒りは、新生魔王軍を殴るのに使え。中身がどうとか考えるんじゃねぇぞ、それも奴の策略の内だ」
「テリーさん」
「俺も、遠慮なく殴り殺す方向で行くからな……で、何時殴りに行く」
「ナッツさんの合図ですぐにでも。テリーさんが預かって来た手紙によれば、準備は整っているのであとはエイオールの仕事次第だそうです」
情報戦のプロがどうしても手助けしたいと近くに居るのです。
ここは使わないという手はありません。麻薬カルテルについての証拠は捨て置きましたが、必要とあらば手を伸ばせるようにあらゆる情報は、エイオールに流しました。
莫大な量の情報になるので直接渡してしまった方が早い。文字に書き起こしていたら日が暮れます。
使いにやったテリーさんに持たせた手紙には、所謂情報メディア的な付加魔法を載せてありますした。手段を用いれば封じられた情報が開示され『読める』様になる魔導式です。
もちろんこれは読み出せる回数に制限があります。いわば記憶付加の魔導式は魔力によって働くランダムアクセスメモリーの様な物。リードオンリーメモリー、すなわち光学式メディアの様に何度も、という魔導式はまだ開発されていないかシンク中ですね……いや、嘘を言いました。実はそれに近い技術はあるんですが……所謂生体メモリとなる都合やや倫理観に欠けておりまして、無かった事にしました。
どっちにしろこの僕が集めた情報は、物的証拠としては機能していない。
テリーさんが届けた手紙は、情報を情報屋に渡して物的証拠を抑えるようにお願いするものでした。勿論ミンジャンは快く引き受け、すでに独自に情報収集に走っていたであろう仲間達を、国王側の要人を貶める為にばら撒かれた薬についての情報と物的証拠を上げる方向にシフトさせてくれているでしょう。
国王側に麻薬を蔓延させたきっかけとしては法王側ですが、そこには利権を得たい国王側の足の引っ張り合いも在った訳ですね。しかし全体的にこの薬、LTについて甘く見ていた様で、国王側は勿論法王側にも多少乱用者が居て、一度手を付けた者らは収拾がつけられなくなっている。
それから……阿片膏、ロダナム薬、精製した薬などで財を成したロダナム家から、央軍強化の為の軍事資金援助を受けている事は……あまり公になっている事ではありませんでした。
それはチョウジ氏から抜いた情報からもそうだと知れるし、割と常にジリ貧であるディアス国が軍事拡張しているその資金はどこから出ているのか、多くの市民が疑問を感じている有様でした。
少なくともフィナル家ではない、といった風に……恐らくはロダナム家であろうと多くの市民が噂話をしていてそれを、マース君も知っているという具合です。
勿論ロダナム家は危ない薬を売っている事などおくびにも出さず商売をしている訳ですが、影では薬の売買して一代で財を成した事が囁かれている。
この資金の流れを『公に出来る』物的証拠も押さえる必要が在ります。
世界で一番の情報屋、とはいえ……流石に一日で事を詰めるのは無理だろうと思っていましたが、僕は彼らをちょっと舐めていたようですね。
次の日の昼前に、ミンジャンの使いだという人が密かに訊ねて来たので近くの喫茶店で話をすることになりましたが……。
使いだという人は、明らかに女物と分かる高級そうなスツールを頭に被っていて顔を隠していました。もしかすると女性の方だろうかと思ったりもしたのですが……喫茶店で腰を落ち着かせて、露わにしたその顔に僕は驚くしかない。
「いや、お待ちください、ここでは場所がよろしくない」
「心配しなさんな、この辺りの飲食店は全部ウチの傘下よ」
僕はこの顔を知っている。
長めお金髪に色素の濃い明るい瞳、そして何より特徴的なのは……僕と同じく眼鏡をかけている事です。
リコレクト、……この方は現フィナル家当主、レイ・フィナル!
「あ?誰だよこいつ」
「テリーさんは御存じでは無いのですね。現フィナル家当主ですが」
「……マジか」
流石、ファマメント公族。フィナル家当主がこんな所に一人でのこのこ現れる状況の異常性を良くご理解頂けている。マース君は勿論知っていて、さっきから固まって動いてませんよ。
「そんな驚くほどの事かねぇ?情報屋から事情は聴いているし俺の方でもその問題、どうにか出来ないかと手をこまねいていた所だったわ。渡りに船よ、感謝する」
「それで、わざわざ貴方の方で『お使い』ごときをを引く受けなくとも……」
「いいや、その方がお前さんらに信頼が売れる」
流石、根っからの商人ですね。打算も素直にあっけらかんと言い切ってくれます。
「それに、事が済む前にどうしてもお前さんらの顔を拝んでおきたかったりしたのよ……ディアス国を救ってくれる者達に向けて、どうして俺が黙って居られるか」
僕が彼の顔は知っているのは、彼が魔導都市に何度も正式訪問しているからです。
フィナル家というのは世界各地に妙に縁を持っている人で……魔導都市にも親しい人が何人かいる様でした。魔導都市特有の貨幣であるキャスに大いに興味があって、その辺りの関係で何度も来ているらしい、と聞いています。
しかし、
「貴方はすでに国外に脱出、商家の指揮はそちらで取っているという話は?」
「はっ!そうだよ!フィナル家は戦争をしそうな勢いのディアスに制裁を加える意味で、ディアス国から撤退したって僕もそう聞いた!」
「そんなものは国で流した嘘に決まっているでしょ」
実際、会話をするのは初めてですが……極めてフランクに話す方ですね。年齢もまだ二十代か三十代前半だと聞いています。嫁も娶らず、各地に置いている愛人の間をフラフラしているのだという噂もありますが……あながち嘘では無いかもしれません。
「ディアス国に愛想つかしたのは確かだけど、でも見捨てるかと云えばそれは無い」
毅然と背筋を伸ばし、遊び人の様な風貌ではあれど……自分の成す事に絶対の自信があるのでしょう。一瞬真面目な顔をした所すぐ余裕じみた笑みを浮かべる。
「金の力は絶大だ、融資を切られては軍事拡張も侭成らない事だろうと思ったもんだが、そこにあのロダナム家が台頭して来てこりゃぁ一筋縄ではいかないわねぇ、と」
「……お聞きしますが、魔王八逆星からの何らかの妨害等をフィナルでは受けていらっしゃいますか?」
「直接的には無いけど、ロダナム家の問題なんかは間接的なウチへの干渉と言えるわね。ありゃチョウ爺の手腕じゃない、かといってぼんくら息子どもにも器量があるとは思えない、俺も色々探って入るが一向に……姿がつかめなくてね。もしかすれば魔王一派かとは思っていたが、」
レイ氏はじっくりと僕らの顔を見廻してから言いました。
「お前さんら、ロダナムの背後に魔王八逆星が居ると断定して動いているわよね、あと法王様の件もそうだ。俺らが掴んでいる情報としては、北魔槍がコウリーリス側に『何か』の荷物を運ぶ為に動いた後、帰還が確認されないまま北魔槍騎士団がディアスに『戻った』そうよ。しかしそれだけでは魔王軍の関与は疑えるものじゃない」
「僕は、……元北魔槍騎士団のマースと言います」
「知ってる」
鉄仮面を脱いでも居ないのに即座レイ氏から言われてマース君、絶句してます。
「お前さんの事は前からマークしてた。勿論そうだとは分からんようにな、手掛かりになるのはお前さん位だろうってね。しかしファマメント側に取られてしまったでしょ?接触も難しくなってディアスに戻って来るかどうかを見張らせてあったから、先日城下に現れた事は俺の方で把握してたわ」
「そ、そんな」
「話は、ミンからあらかた聞いているから……用件から先に言おう」
細かい話を勝手に切り上げ、レイ氏はテーブルを人差し指でトンと叩く。
「国王側、ひいてはロダナム家の一斉検挙の手筈は整っている。俺の一方的な取捨選択にはなるが……治癒すべき人物の洗い出しも終わっているわよ」
「貴方の選んだ人ならば、信用出来ますよ」
実はそこがネックだったのですよね、情報屋ひいてはナッツさんに一任しましたが、人選にかなり手間取るのではと思っていました。
ナッツさんが開発してくれている、薬の毒およびその依存から『抜く』為の治療法は、多くの数を揃える事が出来ないと事前に分かっていました。時間も物資も限られてますから今は麻薬禍から救い出せる人物に限りがあります。
また、それは魔法や薬物ではなく、然るべき魔導式を用いた治癒行為として施行される『治療法』である為、それが行える人物にも限られている。
お手軽に誰でも麻薬から救える訳では無い、という事です。
何かの手違い、あるいは意図的に薬を摂取してしまい抜け出せずにいる国王側の公族で、一体誰がディアス国を良い意味で導くに適した人材であるのか……それを調べるのは容易ではないと思っていた訳ですが……ディアス国の大商家にして信頼できる平和主義者、フィナル家からその情報提供を頂けるというのです。
間違いないでしょう。
フィナル家が信頼出来る事は、一国の王を信じるよりも確実な事です。それくらいの善行を世界に向けて実施し続けていて、その話は至る所で聞く事が出来ます。
そんなフィナル家の慈善活動など大いに偽善行為であり、色々な事を裏で画策していて世界への支配力を強めているだけだと警戒する国家も数多い。しかし……僕のフィナル家に対する認識は絶対的な『商家』としての信頼に集約します。
彼らは、国があってこそ商いが出来るという信念を持って、世界に等しく仕える召使いの様な存在なのですよ。
野心も野望も抱く事が無いという意味では、フィナル家は一種狂気的にも絶対的な『商人』であるとも言えるでしょうね。
そういう都合、ディアス国内でも、国外でも……敵も味方も多い事でしょうに。
「じゃ、明日にも殴り込んで良いって事か」
テリーさんの言葉にレイ氏は頷く。
「そっちは任せて良い、というミンの話を信頼するしかないけど……良いのよね?何なら傭兵でも何でもすぐに用意出来るが」
「いえ、僕らだけで十分です」
たった三人で法王の悪事を暴く。成る程、北魔槍は強く無くてはならなかった訳ですね。魔王八逆星の手を借りている証拠そのものであるから、生半可な者から抑え込まれてしまう様では困る。制圧するのにそれなりの軍事力を用いる必要があるから、そこが怪しいと思っていても手出し出来ずに居た所はあるのでしょう。
「ナッツさんから話は行っていると思います。魔王軍とは、魔王討伐隊だけが戦うべきなのです。今南国に向かっているランドール・ブレイブの様に、国や民間を巻き込んで戦う様では相手の思う壺です」
「よし……では、明日早朝ウの刻に一斉に動くでいいわね?」
リコレクト、卯刻六つ、朝の六時の意味ですね。ディアスに漢字文化は無いのでウが卯であるのかは微妙ですが、ディアス国の古い時間に観念で日本の十二時辰が在る様です。
テリーさんが一瞬僕に目配せをしましたね、彼が何を気にしているのか、勿論僕は分かっていますよ。
「そうしましょうでは……よろしくお願いします」
「それはこちらのセリフよ、頼むわよお前さん達、ディアスの命運は明日のお前さんらの働きに掛かっているわ」
という事は、今日はもう丸一日何もせず明日を待つという事です。
北魔槍騎士団襲撃の手筈として、マース君お手製の地図で建物の構図やルートなどを確認してあっという間に日は暮れました。
マース君は早目に休むと、英気を養いに……ようするにご飯を調達に出て行きましたね。鎧の隙間から食事ではどうしても不便なので、夕方から出て来る屋台のお世話になっています。勿論宿で食事も出してくれるんですが、彼がどうしても人前で鉄仮面を脱ぎたくないという事で……自室で食事を取る事にした訳です。
その隙に、テリーさんはじゃぁここで一旦ログアウトした方が良くねぇか?と……提案してきました。
「おや、貴方ともあろう人が、大好きな大暴れイベントを最悪スキップで飛ばす事になっても良いと言い出すとは、意外ですねぇ」
「マースには遠慮なく殴れとは言ったが……正直な事を言えば殴らないで済むなら殴りたくはねぇな、『俺』は」
テリーさんは、やや困った顔で言いましたね。
中身がヤトの劣化コピーであろう新生魔王軍を……それでも、彼は殴り殺すでしょう。そこにすでに迷いは無くとも、それでもテルイータテマツさんとしては殴りたいと思っているわけでは無い……と。
「COMに任せてイベントをやり過ごそうと」
「とはいえ、次にログアウトした時はどっちで体験した事なのか、リコレクトして分からなくなるんだろうけどな」
今は、節目ではある訳です。
何しろ僕ら、明日敗北を規す事になるなんて毛頭思っていませんからね。絶対に新生魔王軍ぶっ殺すマンとして間違いなくちゃんと仕事をする事は分かり切っている。
「もしかすれば、殴っている途中でログインになるかもしれませんが……結局今回もあまり冒険出来る容量の事を気にする事無く限界まで進めて来てしまいましたね、時にログアウトする事なんて思考から欠落している気配すらある」
「そうだな、それは俺も思うな」
「展開が多かったので、安全にここでセーブ・ログアウトが正解かもしれません」
という事は……ヤト達も同じく、今頃ログアウト危機に瀕している訳ですよね。
「アイツは大丈夫なのか?」
その懸念はテリーさんにもある様です。
「あまり大丈夫ではないですね、世界の真ん中に在った木との関連で、また難解な結合をしているので果たしていつも通り暴走するのかどうなのか、」
「奴ら、どのあたりに居るかな」
「日程的にはすでにトライアンには入っているでしょうから、何事も無ければディアス国の方に向けて出発し、僕らと合流すべくリオさんが導いてくれているはずです」
しかし、僕らの作戦も現在佳境ですからね、ヤト達と合流するまでは恐らく体感的に持たずにログアウトしてしまうでしょう。
僕らはまだログインを三回しか体験していません。
前回は魔導都市で暴走前提でヤトを先にログアウトさせました。しかし、結局ログインはほぼ同時で、ヤトの覚醒と同軸から始まっていた様な気がします。……ここはテリーさんの言う様にリコレクトするたびに良く分からなくなってしまうので、断言は出来ません。
結局の所ヤトに向けては打てる手が無いので、彼に同行した仲間達を当てにするしかありません。
よって……続きをまだディアス国で出来れば幸いと願い、ここで一旦僕らはログアウトを選択する事になりました。
現実の事などは、まぁ得に記する事も無く……正直に言いますと本編だけで僕はあのログアウト期間はいっぱい一杯なので……割愛で。
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