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番外編 EX EDITION

■番外編EX『戦いを捧げろ!』#8/10

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N&SinMFC シリーズ番外編『戦いを捧げろ!』#8/10

※同世界設定同士の物語登場人物による、
 俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め

 剣をお互い鞘から引き抜いて、中段に構えながら……まずは挨拶とばかりにダァクが口を開く。
 割とおしゃべりな部類であるダァク、無言試合はありえない。
 戦闘中でさえ軽口をたたくのが常だ。

「なんか変な事情になったがね……とりあえず対戦相手があんたでよかったよ」
「女性とは、剣を交えにくいという意味かな。そうなら同意する」
「それもあるが……最終的にバンクルドとここで当たらなくて良かったって意味が大きいかな」
 そのバンクルドを初戦で打ち破ってここまで来てくれたのがブレイズである。

 決着付けるならきっちり本編の方で。
 こっちの決着と本編が食い違う訳にも行きませんしねと上の都合で呟いてみる。

「バンクルドと君ははライバルらしいね。でも君は……」

 ブレイズは邪魔そうな前髪の隙間、目をすっと細めて剣を横に引き、肩の高さまで持ち上げ水平に構え直した。

「たとえここにバンクルドが来たとして、本気で戦うつもりはあったのかな?」

 本質がどうにも見抜かれている、これは気を許せない相手だとダァク、口の端を笑い顔に見えるように歪めて……長い前髪を抑えているゴーグルを下ろし、魔法剣ディフレクトを下段に構えた。
 視界を狭めるであろうになぜそんなものをつけるのか、これにもあれこれ理由はあるのだが……今回ダァクは別に理由あってゴーグルを着用している、理由は後ほど。


「……素直にディフレクトを抜いたな」
 司会解説部屋席でトリス、やや関心気味につぶやく。
「そういえば、ダァクさん計3本剣持ってきてますね。竜牙はともかく、あの黒剣重くないのでしょうか」
 ダァク、本編ではあり得ない事ながら現状3本の武器を携えてこのお遊び大会に出ているのである。
 普通なら背中に背負うべきだろうやけに長い黒い剣を腰にぶら下げていて、その他にディフレクト……一種魔法剣の『リンクソード』も帯びている。今両手に握っているのはそのディフレクトだ。さらに腰の後ろに歯の広い短剣も携帯しているのだ。

※解説※
 ネタバレながら、黒剣はディフレクトの代替えとして握る事になった剣なので3本同時はありえないのである

「黒剣を手放さないのは……先にバラしてしまうが、ディフレクトには致命的な欠点があるからだろう」
「欠点ですか、ディフレクトは当時におけるリンクソード、折れない錆びない『龍鍛合金』製と聞き及んでおります」
 レッドの仕様書を読み上げた言葉にトリスは顎に手をやる。
「君たちの時代ではリンクソードとは呼ばないようだが……彼の持つ剣は元来『リンクソード』だ、これは魔導師でなければ意味はよく分からないのだろうが……左手で使う制約がある剣。ところが、奴はそれを利き手である右で扱う。ディフレクトはリンクソードとしては弱体化しているようだな、魔法剣でありながら刃の部分は一般的な鋼であり、魔法負荷に負けやすく非常に折れやすい特色を持っている」
「なるほど、武器として極めて脆い……そういう制約を抱える事で『左曰く剣』でありながら右で使用するのですね」
「そういう訳でもないのだが……まぁそれは本編ネタバレとかいう奴か。とにかくその本編とやらは冒険譚とはなっているが戦闘は滅多に発生しないタイプの超長編とかいう奴でな、奴はあの脆い剣で傭兵家業が事足りているらしい」

 舞台の上では、武器を構えたままにらみ合って動かない二人がいる。
 明らかに今までの戦いとは何か違う。武器を合わせず互いの実力を測り合っているのだ。
 全く知らない相手であれば手合わせる所から始めるが……お互いこれで二戦目である。すでに互いの戦う姿は見ているのだから最低限の情報は仕入れている状況にある。
 だから最初に小手調べをするつもりがないのだろう。

 二人が動く時、はじめからトップギアの戦いが始まるに違いない。

 舞台上の緊張が伝播した様に、観客席は自然と静まり返って一秒たりとも試合を見逃すまいとしている。
 ブレイズが魔法剣士、その剣に非常に高い熱を宿し攻撃力を過剰に上乗せして振るってくるネタは割れている。
 見た限り剣はいたって普通の鋼の剣。そこに石をも溶かすような熱を宿すとなれば、普通は武器そのものも溶けてしまうに違いないだろうが……そうならない所、熱から使用者と付加先を保護するかなり高度に調整された付加魔法を使っているのだろう。

 実際問題『領主』ブレイズにはそんな技能あるはずないのだが。
 ここはSFバージョン込みなのでご了承ください。
 ブレイズもといカエン唯一にして無二の武器、フレイアの再現である。仕様的には超出力のビームサーベルです。エネルギー問題が化け物解決なのがSRPUなので出来る超仕様。
 ……ちなみにフレイア持ちのカエンはハイフン3において12話から活躍いたしますとCM。

 その熱が物理にしろ歪んだ魔法にしろ、すべてを逸らすのが魔法剣ディフレクト。
 これは普段の人間相手には基本的には『使わない』を主義とするダァクだが、ブレイズ相手では使わざるを得ないと判断した様だ。

 というか、あんな武器持ち出されたら打ち合えないよな……と、バンクルドの被った災難に苦笑が漏れる。

 それが合図となったようにお互い跳ぶ。
 ただ一歩ながら、まるで跳んだように見える。

 振りかざされるにまばゆい光を纏ったブレイズの剣が、ダァクのディフレクトを斬り伏せる前に……跳ね返る。

 腕ごと背中後ろまで吹っ飛ばされ、ブレイズは当然何が起こったか把握できない。
 それもそのはず、ダァクは初戦ディフレクトを使っていない。
 ディフレクトの『仕様』をまだブレイズは知らないのだ。

 多大に生まれていた隙をあえて放置し、ダァクはブレイズを下から見上げて好戦的に笑う。
「こいつは俺からのサービスだけど、どう?理解出来た?」
 ダァクの構える剣もまた魔法剣、ディフレクトは力を返す部類とブレイズ、戦うものに備わる勘で把握し背後にたたらを踏み、無言で構え直した。


 ……ああ、ブレイズったらかなり『やる気』になってしまった。

 ハイドロウは少し目を細め、同じく本気を察したルインが険しい顔をしているのを窺う。
 ブレイズは一件温厚そうに見えるが、それは内に秘める炎の攻撃性を把握しての『常態』である。
「……纏う雰囲気が変わりましたね」
「あれが本性、なのかな」
 レッドの問いは自分らに向けられている、そう察してハイドロウは答えた。ルインもまた腕を組み、険しい表情で言う。
「キレると手に負えない部類だからな……あれですんげぇ負けず嫌いなんだぜ」


 閃光のように剣が瞬く。
 あまりの一瞬で何が起きたのか多くは分からない。
 気がつけば……ダァクはブレイズの背後にいる。お互い背中を向け合っている訳だが次の瞬間振り向きざま武器がぶつかり衝撃とともにお互い吹っ飛ばされる。
 正確ではない、ふっ飛ばされたのはブレイズであってダァクは任意でその場を飛びのいた。
 ブレイズの剣は直前地面を撫でている、その所為で掬いあげた砂が熱で溶けて火の玉となり、吹きつけられて来たのをダァクは避けたのである。
 対しブレイズはディフレクトの作用によって純粋に攻撃を返され……それをモロに受け止めない為に吹き飛ばされる事を選んだのだ。


「ディフレクトが反らせる事象はそれほど多くは無い、剣撃を防いでも二次的に降りかかる被害までは防げないのだな」
 状況にトリス、冷静に解説。
「無敵の盾、というようには使えないのですね」
「当然だ、ディフレクトを使用したまま剣を振るえば、相手を切れないどころか逆にその一撃は自分に返ってくる……あの剣はそういう、非常に扱いの際どいものだ」


 ふっ飛ばされたところ身を丸めて一回転、腰を落とししっかりと地面に足を着けて着地したにもかかわらずそのまま背後にずり下がるブレイズ。
 対しダァクはよけきれなかった火の玉を鎧の上から着込んでいる長ったらしいコートで払いのけた。その所為で焦げ付いた所を必死に叩き、火種を消し止めている。
 二人の剣士の間に距離が生まれる。
 詰め寄るのかと思ったがお互い、剣が届かないにも関わらず同時にその場で構えを取る。

 再び閃光が走りぬけた。
 何が起こったのか分からぬうちに……様子が変わる。
 ブレイズが剣を前に突き出し……ダァクはいつの間にやら左手に竜牙を構えていた。
 よく見ればコートの一部が煙をあげているし、ダァクのほほに赤黒いやけどの跡がある。


「何が起こったんでしょう、輝度を落としスロウで見てみましょうか……ブイティーアールどうぞ」
「……せっかくまじめに戦っているのに、我々で茶々入れるのはどうなのだろう」
「トリスさん、ルインさんの仕事取っちゃいけませんよ」
「ぶいてぃーあーる?」
「……失礼しました、わからない事には突っ込みのしようがないのですね」
 VTRとはトビラのプレイヤーにとってはNG用語である。
 こっちの世界には無いか、あるいは魔導書(青の霹靂書)に載っていてシンクしている用語だろう。本来であればレッドはこれで経験値マイナスのペナルティを食らうのだが、今回ログインしている世界は特殊設定にそういうのは無い事になっていますご了承ください。

 ※解説※
 魔法のほぼほとんどが記載され、予言されているというのが青の霹靂書=リバティ。ここから技術を取りだす事をサルベージと言い、取り出せない事をシンクと言う。東方専門用語

 レッド、魔法投影の窓を呼び出した。VTRとは何の事はない、直訳ではビデオテープレコーディング等になるがこの場合正確な意図的には『録画映像』を指す。
 この世界において映像を記録しているのはテープではないのだからVTRは限りなくNGである。後段々若い子に通じない。
 今起こった事を輝度を落としゆっくり再生。それが中空に浮かぶ窓に映し出された。

 ……こういう魔法は禁忌時間魔法に抵触しているように思えるかもしれないが、全く問題ない。合法である。
 リアルにあるカメラや映像機器と同じで、光や音などを情報として仮想的に記録・再生するに過ぎない魔法である。時間そのものをリロードしている訳ではないので問題なしというわけだ。
 ……故に捏造も可能なのだが。
 そういう可能性も含む事を承知で取り扱うのが基本として……映像再生魔法は合法である。高等魔法ではあるものの。

 輝度を落とし、何が起きているのか見るに……ブレイズが4回攻撃を行ったのが確認できた。
 まず二回斬りつけている、距離があるにもかかわらずブレイズの剣は……光の腕となってダァクまで届いていた。魔法剣フレイアの特色なのだろう。
 しかしその二回の斬撃は……きっちりディフレクトによって防がれている。
 その後やや遅れてブレイズ、二度突きを見舞っているのが分かる。
 巧妙な時間差によりこれをディフレクトで防ぐ事が出来なくなったダァク。
 一撃目を辛うじて躱しその所為でコートが焦げ付いた。二撃目は避けられず、すでに左手に握っていた竜牙……石化した竜の牙でもって作られたといわれる非常に重い短剣でもってなんとか軌道を反らし避けている。その時攻撃が近すぎた為頬にやけどを負ったようだ。

「あの短剣が金属ではなく、熱に強い石であったのが幸いしたようだ。ブレイズの攻撃もかなり……早いようだが……よく避けたな」
「ダァクさん、閃光による目くらましを知っていてゴーグルを着用したようですね」
「そのようだな……奴はいい加減のように見えるが実際、頭は非常にきれる」
 まるでそれが厄介であるようにトリスは言う。
 本編において実はダァクをの事をよく思っていない(というそぶりは都合、あまりよくわからないかもしれないが)トリスは今回遠慮なくダァクの扱いは良くないのであった。
 ……こういう依怙贔屓含め、全体的に差別をしない平等の人だと周りからは思われているだろうから、こういう敵意丸出しなのは珍しい事である。


「やっかいな攻撃だねぇ」
 ダァクは構えを少し緩め、竜牙を前に構えディフレクトを背負う様に構える。
 元来ディフレクトは攻撃するための武器ではない。あらゆる全てを反らす『盾』であり、カウンターを見舞うためにある。その為ダァクの基本スタイルにおいて自ら切り込む事はあまりない。
「……そのようだ」
 未だ距離ある中、低いざわめきに支配される闘技場。
 そこにため息にも似た低い動揺が走りぬけた。

 突然ブレイズの姿勢が傾いたのだ。
 一歩前に踏み出すことで持ちこたえたが……剣を持った右手で左腕を抑えている。

 ブレイズが放った最初の二撃がディフレクトによって跳ね返っている。それでダメージを受けていたのが効いてきたらしい。
 もし跳ね返っていなければブレイズは突きによる攻撃を2回で止めず続けざま見舞っていたはずだ。そうしてダァクを追い詰めていただろう。
 ところが最初の二撃が『戻ってきた』
 戻ってきた事を察知しブレイズは突きを途中で止めたわけだが……おかげで一撃しっかり体を庇った左腕に被弾してしまったのだ。
 ダメージを隠すつもりだったようだが無理だったのだろう。
 血は流れていない、熱を伴う斬撃が傷口をえぐり焼けただれている。
 刺すような痛みを耐えきれず……ブレイズはしてやられたと苦笑いを口に浮かべた。

 戦略的に攻撃が組み立てられている事を思い知らされている。
 まず、ディフレクトが攻撃を『逸らす』事をブレイズは知らなかった。
 それをダァクは『サービスだ』とネタ晴らししてくれたわけだが……すでにここで複線が張られていた訳だ。ディフレクトは力を逸らすがそれだけにとどまらないのだという事を読み損ねたのである。
 ついで、ブレイズが元来自尊心が割と高い、キレやすいタイプの性格と知ってか知らずか『挑発』も兼ねていたわけである。
 ディフレクトが攻撃を逸らすとは教えられたが『跳ね返せる』事までダァクは手の内をばらさなかったのだ。

 本来ディフレクトは全てを逸らすだけだが……ダァクの技量の内においては、的確に攻撃を相手に向けて返すことすら出来てしまう。普通の使い手には無理だろう、長らくディフレクトを使って来たダァクだから出来る芸当だ。もしこれが『リフレクト』という名前の剣なら必ず相手に返すという特徴であっただろう。

 傷口を庇いながらも再びブレイズは武器を構える。
 こうなってしまうと……ダァクはまだ全ての手の内を見せていないようにも思えてくるのだ。
 何しろ武器を3本持ち込んでいる、ディフレクトでここまで巧妙にしてやられた現状、まだ他にも隠している手段があるのではないかと猜疑心が……ブレイズを今更ながら慎重にさせた。

 そんなブレイズの心の焦りを知ってか知らずか……いや、間違いなく知っている。

 後は一気に攻めるのみ、武器を構え静かに前へ歩き出し……今度はダァクから間合いを詰め、斬りに行く。


「これはどうした事でしょう、ブレイズさん……魔法剣を解除してしまいましたね」
 ダァクの猛攻に対しブレイズ、熱の魔法剣を解き応戦。
「当然そうなるだろう、フレイアは攻撃に特化しすぎているのだ」
「詳しく解説願います、トリスさん」
 トリスは適切な言葉を探すように少し迷ってから……口を開く。
「ブレイズが持っていた『盾』がディフレクトの前に無効化されている。魔法剣フレイアを発動したままでは『盾』が使えないから魔法を解いたのだろう。致し方ない判断だ」
 物事を解説するにいちいち余計な説話を持ってくるのが彼の癖である。分かりやすい例えを出したがるのは……その昔、弟子を抱えていた頃身についた解説作法らしい。

※解説※
 トリスはオフラインオンリー配布の第六期世界での物語で、魔物使いの弟子を取っていた事があります

「……盾?」
 奴ら盾なんかもってねーだろ?と見た目当たり前の事をルインはぼやく。
「……剣というものは必ずしも攻撃性だけを帯びているものではない。剣は確かに斬る武器であるが、剣自体に斬るという意思はない。なぜなら剣は道具であり、道具を使うものによって帯びるべき仕様が変わるからだ」
「いや、それじゃさっぱり分からん」
「そう急ぐな、下の戦いはまだしばらく続きそうだし……ゆっくり説明してやろう」


 怪我を負っているのは間違いないが、ダァクの猛攻をブレイズは巧みに捌いては逃げ回っている。
 ルインとハイドロウが『負けず嫌い』と評しただけあり……まだ勝負をあきらめる気配はない。
 完全に頭に血が上っていて今目の前にある障壁を切り払うことしか考えていないのだろう。


「あたりまえな事だが剣士の斬り合いに置いて重要な事は相手を斬る事であり、同時にその攻撃を避けて躱す事だ。傷を受けるのは致命的な事なのは分かるだろう、攻撃能率が下がるにとどまらないからな。だから、なるべく斬られないように相手を斬らなければならない」
「そんなん当り前だろう」
「あたりまえですがね、まぁそのあたり様々な要因があって忘れられがちなのです。TRPGにおいては攻撃は避けるか受けるかしてなるべく回避するのが基本」
 エヌジー喰らわないのを知ってレッドはリアル事情を遠慮なく盛る。
「てぃーあーるぴーじー?」
「……ルインさん、わかんない事にはいちいち突っ込まなくてもいーですから」

 TRPGとはテーブルトーク・RPGの事であるが詳細についてはググってくれ!
 今回はガッテンしているものとして話は続く。

 様々なルールブックは存在するものの、TRPGにおいてキャラクターの生命力を示すHPの値は体力と同じか、あるいは密接な関係を持つ場合が多い。
 HP残量1で『ガッツ』で立っている事は出来るかもしれないが、その時には攻撃性能には格段のペナルティが科せられてしまって戦うどころではなくなるのである。
 むしろ、その最後のHP1を失う危険性を毎ターン判定させられたりもする。
 そんなTRPGにおいては当然そうそうダメージ喰らってはいられないし、相手にもそうガンガン攻撃がヒットしない。
 基本は避ける、避け損ねたら攻撃は受ける、最後に防御点で防ぐ、通って来たダメージでようやく被弾という段取りになる場合が多く……敵味方同様の処理が行われるのである。
 このあたり、HP設定が高くお互いにダメージを受けつつ戦闘が行われるコンピューターゲームとは明らかに仕様が異なる訳だ。
 リアル事情に照らし合わせた場合当然、この『話』の仕様がどちらにより近いかといえばもちろんTRPG仕様となるだろう。
 攻撃は基本避ける、避けられなければ盾などで防ぐ、最終的には防御点すなわち装備品などで攻撃を止めて……なるべき傷は負わないように戦う事になる。
 しかし実際に盾を持つキャラクターというのは限られてくる。なぜなら、盾は重い。
 TRPGではルールブックにもよるが装備重要が移動や技能にまで影響を及ぼす場合がある。現実的に考えても重装備は鈍足になって動きが鈍くなると考えるのが妥当だ。
 よって、基本的には『避ける』が第一である場合、軽装であるのが好ましいという事でもある。

 盾を構えるのは最初から重装備で避けるという事を捨て、受けと防御点でダメージを止めてしまう仕様にするというのはゲームにもまれにある。……スク○ェアゲームにおけるナイト系がそれにあたるだろう。
 スク○ェア系RPGには重量制限があったゲームも存在する(ロマ○ガ某やFF2……FF2では盾の重量はノーカウントだったよーな気がするがッ)

 それはともかく、再びTRPGに例えさせていただくが……避ける技能判定をするに、これが失敗した場合攻撃を『受ける』という判定を行える場合がある。この判定はもちろん盾を装備していた方が有利となるわけだが……手に持っている武器の種類によってはこれである種の攻撃を受け止める事が出来るのだ。
 ……もっとも、銃弾を武器で受けられるのはよほど特殊な技能がなければ許可されないだろうし、くだものナイフしか持っていないのにブロードソードの一撃を受けられるかというとのはケースバイケース。
 TRPGにおいては状況に合わせた補正を自由に設定できるからこそ多彩な判定が出てくる事になる。(ちなみにその補正を指示するのがGM……ゲームマスターの仕事になる。最終的にはダイスの出目が全て★)

 こんなん話し出したら止まらないのでもう自重。


 今は剣士VS剣士。同じ重量で斬りと突きの技能性能は同じ武器同士で戦っているのであんまり難しく考える必要はない……はずなのだが。

「ブレイズの魔法剣フレイアが非常に攻撃特化しているというならば、ダァクの持つ魔法剣リンクソードのディフレクトは防御および……反撃(カウンター)に特化している。繰り返すが、剣は斬るだけの道具ではない、時に盾となり相手の攻撃を防ぐという役割も担う」
 その言葉にようやくルインもピンと来た。
 気づくのが遅いんだよとハイドロウが悪態をついたが……彼の悪口はいつもの事らしくルイン聞かないふりをした。そのいらない所にはあえて反応しないという作法をウチの某勇者も見習ってほしいもんですとレッド、片肘を突いてぼんやりと思っていたり。
「フレイアは常に『攻撃性』を帯びている事になる。防御特性を一切持っていない、フレイアはより強い攻撃によって相手の攻撃を飲みこむことしかできない。振りかざされる剣を受けるにしろ、振りはらうにしろそのとたん相手の剣を破壊する事で攻撃を防ぐ事になるわけだからな」
「……奴のディフレクトっつー『盾』はブレイズのその常時かましっぱなしの攻撃性を跳ね返しちまう訳だ!」
「反らし防ぐに留まらずダァクは相手の攻撃をそのまま相手に返す」
 ブレイズはそれを知ったために魔法剣を解除しなくてはならなくなったという事である。

 フレイアの熱をディフレクトは受け付けない、ディフレクトという魔法作用によって遮断し反らしてしまう。
 それだけならばまだしも事もあろうか、ダァクはフレイアの熱をそっくりそのままブレイズに返してしまう事も出来る。
 絶えず熱を放っていては、相手の剣を受け止めるたびにディフレクトが受けるべき熱がブレイズに向けて反射されてしまう事になる……というわけである。

 ならば、ダァクから繰り出される攻撃を避け、避けきれない場合を想定し武器によって受け止めなければいけないと判断した場合……当然フレイアは解除するだろう。

 ダァクの持つディフレクトの真骨頂は『カウンター』なのだ。
 相手の攻撃力が高いければ高いだけ強烈な反撃を見舞う事が出来てしまう。

「加え、ダァクはディフレクトの切り替えも自由自在に行えている。だからこそあの際どい剣を使いこなせているわけだが……対するブレイズはそうはいかないらしい」
 ダァクの猛攻の前にフレイアを再発動する隙を見つけられないブレイズはもはや、防戦一方となっていた。そんな様子をため息交じりに眺めおろしながらハイドロウはぼやく。
「そりゃそうだよ、実際彼は不器用な方だし」
「だな、剣は使えるけど包丁とかナイフとか持たすと必ず怪我するぐらいすげぇぎっちょだ」
「ぎっちょって、方言でしょうか」
 ちょっとした疑問を口にしたレッドにルイン、やや固まる。
 ちなみに、左利きという意味です。ブレイズが左利きだという意味ではなく、家事をやらせると左で包丁握ってんじゃねーかというくらいに不器用になるという意味合いで使った様です。
「べ、別に問題ねーぞ!?俺達ド地方出身って事になってんだから!そうそう、方言だ方言!」
 そんなにあわてなくてもいいのにと……開き直ったルインの反応を明らかに楽しんでいるレッドである。


 そうこうする間、ついにダァクの攻撃がブレイズの剣を弾き飛ばし……壁際に追い詰める。
 それでもなお止まらぬ攻撃に……ついにブレイズの闘志が折れた。 

「はい、おしまい」
 戦闘中にもかかわらず目を閉じてしまったブレイズの、首の数センチ手前でディフレクトの切っ先が止まっていた。
「……かなわないな、」
 負けず嫌いではあるが……意地っぱりではない。
 ブレイズは素直に負けを認め、緊張を解いて……いつもの穏やかな表情を取り戻した。

 *** 続く ***
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