異世界創造NOSYUYO トビラ

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番外編・後日談 A SEQUEL

◆ 『トビラ』β版-逆ver.『ジニアーの異世界侵略-3』夢現編

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『ジニアーの異世界侵略-3』夢現編

※正式リリースされた想定の『後日談』
 『黄金色の扉を閉めろ!』SFサイド側からバージョン

※※ この番外編は某のCM的な要素を含みます ※※


 二人の魔法使いが開いた不可思議な空間、曰く『トビラ』だというモノの前に立ち、オービットはしばらく無言でこれを見ていた。見ていたところで理解できるわけでもない。彼は魔法使いでもなんでもないのだから、結局よくわからないものと諦めをつけてハイドローの方に振り返る。
「で、このモヤモヤしたのを潜ると、向こう側に出るのか」
「正しくは、その情報だけ、だけどね」
「ん?」
「説明したって理解できるはずないんだから、実際行ってみればいい。君が采配するんだから一番最初に潜って欲しい」
「えぇ、俺が最初にィ?」
 戦闘シーンでさほど役に立つ技能を持つわけでは無い、策士オービットは当然、臆病者の方である。
「これを持って行って、」
 躊躇しているオービットの手に、ハイドローは強引に片手の中に納まる程のガラス玉を握らせた。
「これは、いずれ安全な所に確保しておいてくれ」
「何だよ、これ」
「んー、何と説明すればいいか……要するに魔法の玉だよ。一番最初にトビラを潜った人が、トビラの開閉を出来る様にするための道具だ」
「そーいう大事なの俺に持たせるの?」
「お前が一番手ぶらだろ?他は、侵略の為にあれこれ働かなきゃいけないじゃないか。お前は安全な所にいてその指示を出す係りだろう?」
「というか、俺も行かないといけないのかよ?」
 その言葉に、ルインが……わりと容赦なくオービットの頭を殴った。
「な、何するんだよ!雑用係が!」
「悪い、なんか条件反射的に手が出ちまった」
 その仕様はSFである本編における二人の間のお約束である。

 この度の、イエロープランでログインした場合は、自分たちがゲームをするべくログインしている等の意識や情報はキャラクターの方でそうだと認識する事は出来ない。しかし、行動に示唆されて現れる様になっている。

 ブレイズは苦笑しつつもオービットに言った。
「いや、今のはお前が悪い。人の上に立つ人間は、自ら前線に立つべきだよ」
「そりゃ、ブレイズはいいけど俺は何の手段も持ってないし」
「この烏合の衆を未知の世界に何の心得も無く放してどうするんだよ」
 ハイドローの言葉に、それは最もだとオービットは思い至って少し反省。
 そう、戦闘能力はあるのだが考えて行動出来るだろう人は恐らくハイドローくらいだろう。主人であるブレイズ・サンデイからしてそうだ。彼は考える作業を全部オービットに丸投げして領主というお飾り色をやっている様な物ではないか。
 だからといってオービットが人の上に立てるかと言えば、それは出来ない。
 一応統括の様な仕事はしているが、全面的に責任を取ってくれる人が居てこそ指針を示せる、判断力では圧倒的に優柔不断なオービットはあくまで領主の補佐という役職で最も効率的な仕事が出来ていると言えた。
 それを、ハイドローが的確に見抜いて来ている事をオービットは理解している。
 『叡智』を得てからのハイドローは、以前とは比べ物にならないほど物事の道理に鋭くなり、特に先を読む事に強くなった様だ。
「状況を見て、的確に判断して指示を出せる人間が必要だ。お前が適任だよ」
「うー……それで、扉の開閉って何さ」
「それは、この先に行ってから説明するから」
 仕方が無く、オービットはガラス玉を握りしめたまま謎の空間に足を踏み出す。思わず目を閉じて通り抜けたが……。
「あれ?」
 そのまま、謎の揺らぎを通り越してオービットは向こう側に通り抜ける。
「扉……潜れて無くない!?」
「いいや、手の中を見てよ」
 そう云われてオービットは両手を見て、握っていたガラス玉が消えている事に驚いた。
「どういう事だ?」
「いや、成功だよ。無事にトビラの向こう側にオービットはたどり着いているはずだ」
「え?ええ!?」
 ハイドローは顎に手をやって少し考えるように唸り、小さく頷く。
「そうか、結果が帰って来るのに時間差があるようだね……多分この靄の様な扉は自動的に消えてガラス玉が戻って来るはずだ。僕らはそれを待ってないといけないのか」
 オービットも半信半疑の所、他の3人はもっと惚けた顔をしていたがハイドローはお構いなくトビラを指さす。
「とりあえず、残りの僕らも情報をあちらに送ろうか」




 扉を開いたはずだった。

 あらゆる覚悟をして、悪魔召喚をする扉を開く魔導式を構築したはずだったのだ。

 それなのに、やってきたのは悪魔では無かった。
 しかも一人では無く、続々と悪魔を呼び込むはずの扉から見知らぬ人がやってくる。
 呆然と、止まらない人の流入をぼんやり見送り続ける……それは、あまりにも想定外すぎた。
 悪魔召喚をしたつもりだった魔導師は……見ているしかなかった。

「はぁ、ここが異世界……か」
 ガラス玉は黄金色の輝きを放ち、手の中に在る。
 オービットはやや広めのホールを見渡して沢山の人が居る様子を眺めた。
 暫らくして自分の仲間達も扉を潜ってやって来たのだが、その後また別の知らない誰かが『こちら側』にたどり着いた様でやはり感嘆の声を上げている。『トビラ』の前は渋滞気味だ、多くの人が『異世界』に来た事に感動してその場で足を止めるからだ。
 オービットは自分の仲間四人を空いている壁際に一旦招き寄せる事にした。
「へぇ、僕ら以外にも大分呼び込まれてしまったみたいだね」
 きょろきょろと辺りを伺うルインとブレイズの後ろから、無表情な巨漢が続く。
 少し離れて振り返ると、『トビラ』の開いているそこは広い昇り階段が続く大きな門がある場所の様だ。うっすらと青白い膜が張っている様に見えるそれが『トビラ』だろう。今も数刻みで一人、また一人とこちらの世界にやってくる新規参入者が居るから自分たちもそこから来たというのは良く理解できる。
 一様に、辺りをキョロキョロと見廻す動作でそうだと分かる。
「どうして、こんなことに」
 その門の隣でひざを着いて呆然としているマントの男の言葉を聞きつけて、ハイドローは彼を一瞥。
 そっとオービットに耳を寄せて言った。
「出口のカギはあの男だ、頃合いを見て扉は閉めてしまった方が良い」
 何故だ、という事をオービットは視線だけでハイドローに訊ねる。
「そのうちに、もしかすれば早い段階でこの世界を保全する者が働き始める。その時までには排除してくれ。そうしないとトビラが塞がれてしまって二度とここに来れなくなる」
 意図は、説明されなくともオービットには分かった。

 異世界侵略は、一度きりで完了出来る事ではない。

 場合によっては一時撤退もしなくてはならないだろう、何しろここは異世界なのだ、初回はこの世界の成り行きを確認するだけでも十分だとオービットは思っている。つまり、この異世界の様子を探っていったん戻り、作戦を練ってから本格的な『侵略』を開始すべきだ。
 トビラを塞がれ、二度とこの世界に来る事が出来ないというのなら……一度の侵略で事を成さねばならない事になるが、たった五人で成すのは無理だ。
 他にもどこか別の世界からここに来ている人が多く居る訳だが、この周囲の者達が味方なのか敵なのかもわからない状況である。
 オービットは、多くが状況理解が追いつかず辺りに立ち尽くす人々をみやり、仲間達を集めて、広場から延びる廊下へ誘う。
 その廊下にも物珍しそうにあたりを伺う人が沢山居た。

 オービットはそのまま仲間達、つまりブレイズ、ルイン、ハイドロー、ダークの4人を連れて一旦建物の外までやって来た。構造物は単純構造で、どうやら5階相当程の塔を持った石造りの城だ。周りには水が殆ど干上がった堀があり、高い塀も健在で城内と行き来する扉には跳ね橋がついていてこれは降りていた。さび付いているが動作出来る事を確認しながらそのまま、オービットは城の外に出て……ここにはまだ人が居ないのを確認。

「ざっと確認したところ、装備品とか城の構造とかから見て明らかに、俺達の世界とは違うのは理解した」
 オービットの言葉にハイドローは深く頷く。多分、他3人は放っておいたらあの入口で突っ立っている有象無象と同じだったろう。
「それで、これからこちらの世界を制圧するのに必要な段取りを説明する」
「なんで城の外に出たんだよ?」
 ルインの言葉に、オービットは勿論それから説明すると前置いて、続けた。
「あの中に居た連中を一旦全部外に出したいからだよ。世界構造を確認しに来たんだ、この城の外側にも世界はちゃんと続いている……でも、俺達は出来れば構造物としてしっかりとした拠点を得て活動する必要がある。まず、俺達が一番最初にやるべきことは場の収拾、および場の制圧だ」

 まず、近辺の状況判断として敵対しうる存在が近くに居ない事を確認すべく、ハイドローが探査魔法を行使。使える魔法の種類が少ないルインはハイドローから、簡単に探査魔法の譲渡を受けて狭い範囲の監視魔法をいくつか持つ事になった。主に城内の人の動きを把握する為の魔法を展開し、この情報をオービットと共有する魔法で橋を架ける。

 次にオービットの指示で、4人は改めて外から『襲撃者』として城に入った。

 城の中に入るなりハイドローは1階唯一の出口、跳ね橋の前に氷の壁を作ってあえてこれを塞ぐ。
 ブレイズ、ダークが一方的に戦いの火蓋を切り、問答無用で入ってすぐの渡り廊下に居た人達に斬りかかる、あるいは殴り飛ばす。
 攻撃を受けた一部の人物は……不思議な事にこの場から姿が消えてしまう様だ。恐らく戦闘不能となった者の姿が消えている、とオービットは見る。どういう事だろうかと、ハイドローを振り無言で尋ねていた。
「これが、この世界における僕たちの正体だよ」
「情報だけ来ている、っていう奴、か?でもちゃんと実態はあるよな?」
「勿論、斬った手ごたえはあるぞ」
 ブレイズが手に持つ剣を掲げたのを見て、殴った方もという様に無言でダークが拳を上げた。その僅かな隙に、不意打ちを理解した多くの人が襲撃者を悟って逃げ出すが、捨て置く。
「うーん、でも血しぶきは出ないのか?」
「うん?そんな事は無いが、確かに浴びたはずの返り血の跡が……無いな」
 ブレイズは剣を握る手を見やって首を傾げた。
「お前が持ってるその魔法の玉が、一時的に僕らにこの世界への干渉が可能な……ええと、肉体でいいのかな?ちょっと違う気もするけど……とにかく、本来が概念だけで干渉出来ないものに触れる為の要素を補ってくれているんだよ」
「だから大事なモノなんだな」
「そういう事だ、それを破壊されたら僕らは元の世界に強制送還される……情報だけ、だけど」
 オービットはその言葉に暫らく思考し、顔を上げた。
「って事は、元の世界に居る俺達と今ここに居る俺達は、別か」
「完全に別、というわけでは無いのだけれども、元の世界に居る僕達に実害が及ばない様にはなっているね」
「それって、こっちの侵略される側の世界は一方的に搾取されるって事じゃないか?」
「そうだね、だから……必死に守ろうとする力が強くかかる。この侵略は徹底的に阻止されるし、拠点制圧の作法を誤れば2度とここに攻め入る事が出来なくなる。手短に話すけど……僕ら以外にもトビラを潜って来た人達が沢山居ただろう?彼らの構成や数は違えど僕らと同じだ。魔法の玉を持っていて、侵略を指揮する者が一人いて、残りは追従して来ている関係になる。そのうち一人がトビラを開いた案内役を兼ねていてそれは今回は僕だ。案内役と指揮者が同じである場合もあるし、別の場合もある」
「そういう約束の元に、開く魔法の扉って感じか?」
「そう、第三者が関与していて法則に縛られている事は間違いない」
「その第三者はどっちの味方なんだ?」
 オービットの質問にハイドローは、少し肩をすくめて苦笑う。
「君からはそういう質問が来ちゃうよねぇ、今それを問答している場合じゃないんだけど、そうだな……僕個人としては、僕らの味方だと思っているよ」
「……」
 オービットは暫らくまた考え事に黙り込んだ。
 そうこうしている内に、襲撃者……すなわち、侵略している世界を保全しようとする者が現れたのだと察した一団が逆にこちらに向かって来るのをブレイズとダークが察知して身構えた。
「条件は他も同じ?」
「同じだ、そういう制約でトビラを潜って僕らはここに居る」
「よし、じゃぁまず制圧が第一としよう。ブレイズ、ダーク、前進!」
 まだ敵影は見えない所、二人は遠慮なくその言葉に前へ走り出す。
「ルイン、二人が広間に入る前に広間の出入り口付近に爆破魔法展開」
 魔法は使えるが、手段が少ないルインが唯一なんの躊躇も無く使える魔法、それは攻撃的な破壊魔法だ。オービットは爆破と言ったが正しくは、想定した空間のものを一方的に破壊するだけである。それが、具体的には物体の物理的な毀損として現れる為……

 迫りくる剣士と拳士を迎え撃とうと身構えている一団が、広間出入り口に並んで居た10人未満が正しく、四散。

 武器も、鎧も、服も血肉も、結束を失って分解されその場に崩れ落ちる様子は一見、人体が爆発した様にも見えるのかもしれない。

 破壊された人物たちは即死と判定され即座、さらに細かい粒子に崩れて消えていく。
 その恐るべき破壊魔法が齎された空間に、ブレイズとダークは遠慮なく踏み込み最初の広間に踊り込んだ。そして明らかに怯んでいる手短な一団を躊躇なく攻撃。

 何故攻撃するんだ、と抗議した者と、オービットが取った行動を即座に理解して武器を構えだした者が居たが全てにおいて判断は、遅いと云えた。


 玉を保持した者『ヘッド』と、その従者『ゲスト』は等しく『経験値』という情報としてこの世界に来ている。

 この情報『経験値』を奪い合うのがこの『ゲーム』の肝である事を、恐らくオービットは元来のプレイヤーであるマシラサワ-カイトが生粋のゲーマーである都合、感覚的に察知していたのだろう。


 ハイドローはそうだと告げてはいないがオービットには分かっている。

 世界の保全をする者は、少しの時間差があってこの城に駆け付けて来るだろう。その間に烏合の衆である侵略者達は保全者を迎え撃つ為の作戦会議が出来る。そうでなければ、トビラの開く法則として何の事前情報が無い侵略者たちはただただ保全者に刈り取られるだけになってしまうはずだ。
 勿論、時間を無駄に使えばそうなる可能性もあるだろう。
 そこは、案内者が法則を唯一理解しているからそれを伝達し、どう行動するのかを自らで選択して動かなければならない。
 状況に置いて、出来る事を最大限にするべき指揮を捕る、という役においてオービットは5人の中で特出していたのでハイドローが案内するまでも無かったのだ。

 すでに先に殺生を始めて数人をすでに消し去ったブレイズ、ダーク、ルインの3人は他よりも情報量が高い。即ち……この場合は強くなっているという意味である。
 そうなる理論をここで追及している場合では無い、とにかくそういう法則が在る事だけを頭に叩き込むしかない事をオービットは良く理解していた。
 多分、ルインは腑に落ちてないんだろうけど……と、ぼやく余裕すらあった。

 すでにトビラは閉じていて無制限にやってくるように思えた人の流入は止まっている。誰かがこの世界への侵略の作法の一つである『出口の鍵』を壊したからだ……と、オービットは即座理解した。
 ハイドローが教えてくれた、この世界の人物で鍵となっていたあの、呆然とした魔導師を誰かが早速殺してしまったのだろう。
 トビラが開かれている時間だけ、この世界を侵略すべく異世界人の頭数は増えていく。しかしいつまでも開いていると、保全に来た者から確保され、鍵を解読されて2度とこの世界へのトビラが開かれないように閉じられてしまう。

「いずれやって来る敵を追い返せば、俺達の勝ちか?」
「その時は城の外に侵略を広げるだけさ。勝つためには、永続的にこの世界に占拠していなければならない。しかもそうしようと考える敵は多い、他の玉持ちは仲間であり、競合者でもある。僕らはそれを互いに奪い合いながらなんとか協力もして、保全者である敵を倒していかなければいけない。……大変だろう?」
 簡単ではない、というハイドローの意味を正しく理解してオービットは頷いた。
「与えられている法則として、玉を奪う事、保全者である敵を倒すことが出来れば……こちらの世界に送れる枠が増えるんだよ」
「それで、いずれサンデイの全員をこっちに連れて来て、」
「こっちに住んで、こっちで暮らせば、滅びる運命をせめて分岐させて置く事が出来るという訳だ」
「ん?それは良く分からんが」
「要するに、どうあがいてもあのサンデイはいずれ破滅と云う事だよ」
 ハイドローは笑って言うが、オービットには笑えない。
「僕はどっちかって言えば破滅を願う方だからねぇ、全然それでも良いしその未来をサンデイは覆す事は出来ないのさ」
「……」
「でも、君たちがそれでも足掻くというのなら……こちらの世界で生存っていう分岐が出来るという話だよ。そしてその分岐は、滅びたサンデイにある程度は戻すことが出来るのさ」
 侵略しに来ている多くがそういう、どうしようもない環境から抜け出そうと生地を求めて足掻いている連中なのだとハイドローは嗤う。普段あまり笑う事は無く、不機嫌な様子でいる所ばかり見てきた。滅びを語る彼の嬉しそうな様子に嘘は無く、やはり彼の本質は『叡智』を得ても変わりは無いのだと……オービットは小さくため息を漏らした。
「君に、最後の情報を与えよう。本来ならば最初に教えなければならない事だけど、僕はあえて最後にしたよ」
「そん位重要な事って事だよな!?」
「最悪伝えそびれてしまえばそれで『おしまい』だからさ。でも問題無いよ、君は今から教える事をする必要が無い。しないで済む事を僕は『知っている』から説明を後回しにしたに過ぎない」
 その間も、一つ頭抜きんでた3人は容赦なく、抵抗する者達を露と消している。魔法による広範囲攻撃も交じる様になっていたが、それはハイドローが展開した防御魔法で少なくとも、オービットの所までは届かない。
「君は魔法の玉を持ち、僕らが分岐した情報を滅びる運命の世界に戻す事が出来る者。君は今自分の他に4つの枠を持って居て、君だけがその枠の分のトビラの開閉が出来る。ご覧、」
 ハイドローが指さすのは三階相当を吹き抜けたこの広間の、二階にある踊り場だ。
 『出口の鍵』が失われ、その奥に在った階段から二階に上がった一団が居て頭上から魔法を浴びせたり、弓矢等を使ったり、あるいは……動向を見守っている者達も居る様だ。
「恐らく多くの『君』があそこに避難して死なないようにしている。『君』を『僕達』は死なないように守らなければいけない。なぜなら」
 ハイドローは二階へ続く階段に指を移す。と、そこから新しい一団が降りて来てブレイズ達と戦おうと展開した所だった。
「あれはすでにダーク達に倒された者達だよ。見覚え有るでしょう?」
 オービットの唯一の特技と云える技能は『記憶力』だ。
 見て、瞬間状況を把握し丸暗記する事と情報を結びつける能力が極めて高い。ハイドローから言われるまでも無く、先ほど廊下で不意打ちした一団、ルインの魔法で破壊された一団が混じっている事を見抜いている。
「扉の開閉とは、そういう事か!」
「そういう事だよ」

 説明するまでもなくオービットが理解した事に向けてハイドローは頷いた。

 俺は、倒されてしまった仲間達をトビラを開き、もう一度こちらの世界に呼ぶことが出来る。条件は何かあるだろうが、多分……何度もそうやって枠が在る限りこの世界に呼び戻す力がある……だから、いや、そうでなくても。

 俺は指示を出す者として守られて来た。

「はい、注目!」
 オービットは手を頭上に上げて叩きながら声を張り上げる。
「三人、一旦待て、な」
「俺らは犬じゃねーぞ」
 と云いつつもブレイズ、ダーク、ルインは一方的に攻撃の手を休めてオービットを守るように下がる。
「すでに俺達が先手を取った事はご理解頂けたものとするけど、どうかな?」
「このままお前達だけで敵を迎え撃つつもりか?」
 二階の誰かの言葉に、多くが同意するヤジを飛ばしてくるのにオービットは大声で応えた。
「お前達の指揮も俺が取る、その為の演出って奴だよ!」
 矢が飛んできたのを、ブレイズが問答無用で斬り捨てた。矢の飛んできた方向へ向けルインが人差し指を突き出し、遠慮なくレーザーの魔法を放つ。
 弓を構えていた人物が撃ち抜かれて倒れた。
「ごめんねぇ、うちの人達ったら防御したら報復は自動的に発動するんだわー」
 
 すでに、オービット率いる5人の情報量、すなわち強さのレベルが相当抜きんでてしまっている事をこの場に居る、多くが理解した事だろう。
 同じ事をして追いかけようとしても、それを許さない方向でオービットが容赦なく攻撃を向けて来る事を知って動けないでいる。

 何も言わなくても、何をすべきか分かっているという結束の面で……すでに、この5人は他とは違う、異常な『キャラクター』であった事も、こういう展開になった一つの要因だ。

 この5人のプレイヤーキャラクター達は『一般的』な、ゲームを楽しんでいる者達ではない。

 義務教育をもう一度受け直し、お金をもらうために仕事として、命を懸けて、殆ど誰も居ない宇宙で、ヘタすれば地球を制圧出来てしまう戦闘兵器に乗って、地球侵略をしかねない謎の生命体と、ガチに戦っている者達である。

 その作戦名はコードネーム ディス 『SRPU』という。

「……人の足並みを揃えるのは大変なんだ」
 オービットは小さく口の中で唱える。
 悪いけど、全員一致でとかやっていたらいつまでも侵略戦が始められないから強引に行かせてもらうと口の中で唱えてから、大きく息を吸う。
「敵を城内に極力入れない方向にまずは駒を動かすぞ。城の内部は一人あるいは少数の護衛をつけた玉持ちで各種罠を張る作業を行い、城の外は……」
「指揮は俺に任せてくれないか」
 と、一人が手を上げたのに遅れて、いや俺が、と数人が続いた。オービットは一番最初に手を挙げた人を指名。その人に城の外を巡回して敵が来た時には排除するように命じた。
「その為に、まず……混乱に乗じて城の外に出ようとしている一団が居るはずだからそいつらをやっつけておいてくれ。あ、懐柔できそうならしてもいいぞ」

 唯一の入り口である跳ね橋は上げてあるし、その仕掛けにたどり着く前の門の手前にはハイドローの魔法による氷の壁が在る。これは、そう簡単に破れないだろう。なぜならハイドローは案内役、この世界の条理が最初から分かっている。最初にオービットが城の外に一旦出るまでの間、何人かを密かに魔法で不意打ち殺傷しているのでブレイズ達と同じく、すでに情報量が多いからだ。
 外を任された男はすぐに動いた、オービットが求めたのはこのスピードだ。他がすぐ行動に移れない中で手を上げて仲間達を率い『許しが出た獲物』を狩りに走り出した。
 他は、そうだと気が付くのに少し遅れて、次々と時間差で経験値を得られる機会に気が付いて城の外を目指し走り出す。
「ハイドロー、」
 その我先にと裏切り者を追う者達の混乱に紛れ、オービットがハイドローを伺うとすでに承知している彼は笑って、入口を塞いでいた氷魔法を解除した。

 あっという間に多くの人が城の外に出てしまったのを、ルインが張っている城の内部情報を得る魔法を意識共有している感覚で把握しながらオービットは顔を上げた。
 残っているのは……二階の踊り場に避難していた恐らくは、玉持ちと思われる数えられる程の人数になった。

「さて、じゃぁ次にやるのは何なのか、皆さん分かっているよな?」

 にやりと笑って、オービットは自分の玉を差し上げた。


*** 続く ***
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