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本編後推奨あとがきとオマケの章
番外編短編3『再興と再考と採光』
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おまけ6 □ 西国エラい人説話 □から分岐しました
番外編短編3『再興と再考と採光』
テリオスとして戻り、特に問題なくウィン家を当主として迎え入れられ……。
それにもう少し手こずるかと思ったがそうでもないなと最初は思ったけど、しばらくたってからやっぱり、一筋縄じゃいかねぇんだと気がついた。
何が問題って、兄だ。俺の兄の……テニーとの折り合いがもっと手こずると俺は思ってたんだ。
俺自身の感情問題もあるし、兄貴だって内心穏やかなじゃねぇだろう。
形ばかりで正しくは迎え受け入れられてないような気がするんだよな。
俺は、何をすればこの家に正式に、迎え入れてもらえるのだろう。
タトラメルツでとっ捕まえられ、忌避してきた兄との対面になっちまったよな。
俺は、何にへそを曲げて兄貴との会話を拒否したのか、多くの連中は理解はしなかっただろう。
分かっていたとするなら兄貴と、もしかすればナッツ。そして支天祭司の一人ワイズあたりか。
ランドールはもちろん何も知らないだろう。
きっと何も知らせずにいるに決まっている。
それは、あの時の兄貴の態度でよくわかった。
俺の気持ちが分かっている?何を、ふざけた事を。
怒っているのは俺じゃなくて兄である事を知っている。
あれが、俺の気持ちを理解出来るはずが無い。周りに他の目があったからそういう風に、綺麗に言ったに過ぎないんだ。
まったく理解なんぞしてねぇだろ。奴は、もし俺と二人きりだったら殴りかかって来て罵倒するに違いないんだ。
のちに中央大陸でとち狂って襲いかかっって来た訳だが……いや、あれは狂ってなんかないぞ、あの態度が正常なんだよ。
レッド曰く、ナドゥが使うのは心に偽る本心を引き出す『ログ改編』だとか言ってたな。
本音を外に出さないように自分自身で嘘で固め、そうやって封じこめた上に自分が立っている程に、根本から覆されて『おかしくなる』とか。
他から見たら兄貴はおかしく見えたのかもしれない。
けど、俺にはそうは思わなかった。
そうだ、奴はこうやって逃げ出した俺の事を罵倒するのが正しい。
理解したふりをして我慢なんかすんじゃねぇ。そんな風に気持ちを閉じ込めたって、苦しいだけで何もその先良い事なんかねぇんだ。
それで兄貴は、俺に帰ってくるなと言ったな。
逃げるならどこまでも逃げていけばいい、戻ってくるなと喚いた。
俺は正直それでもよかった。
ナッツから戻ってこいとか色々言われた訳だが、今更政治に足を突っ込もうにもファマメント情勢にさっぱり疎くなったわけだし……出来るとするならお飾り程度だよなぁと思う。
兄貴に認めてもらわなきゃ、俺はウィン家には戻れないんだ。
でもライバルの手前逃げっ放しってのもカッコがつかねぇ。
終わりが来て、結構色々覚悟をしたんだ。褒めてくれなどと誰かさんみたいには言わないが、こうやって辛い事を乗り越えないと新しい道は出来ないんだよな。ぶっちゃけすげぇしんどい。あいつもこの辛いのなんとか乗り切ったって事だよな……負けてらんねぇよ。
ただ一言、兄貴を前にして家出してすみませんでした、迷惑掛けました。
それを言うのにどんだけ俺はガチガチになってんだろう。
嗤えてくる。たったそれだけの事も俺は出来ずにいたのか、と笑いながら……。
大陸座の力、デバイスツールによってなんとかまともに戻った兄貴を前に俺は……頭を下げたんだ。
……そしたら、あっさり兄貴は俺を許してくれた。
正直信じられなかったくらいだ。
兄貴は俺がテリオスに戻る事を認め、事もあろうか俺に傅いてくる。
やめろ、というに止めるなと兄貴は言った。
自分にはウィン家を背負う資格はない。俺こそが正式な当主であるのだから、兄・弟の立場は無く俺は兄貴の主人なのだって……。
これはこれでおかしくなったんじゃねぇのかと、赤旗をデバイスツールで解消したレッドに何か余計な事でもしたのかと聞いてみたら、レッドは俺に笑いながら言ったっけな。
俺は、ヤトと同じく物事をまっすぐに信じすぎる、だとよ。
一度信じたら二度と疑う事が出来ない、例え嘘と分かっても信じて騙されるに妥協するのは……どうなのですか、だとよ。
どうにも時間をいじくったって話らしいが。正直……その仕組みについてはヤトと同じくよく分からんというのが正直な所だ。
時間を後に戻してから、いずれ到達するログにまで強制的に早回す、という事をやったそうだ。ナドゥの所為で順列が狂ってしまった記憶と、積み上げたはずの経験がその所為で崩れ去った……残骸。
デバイスツールの力を借りて、それらを強制的に元に戻したという事らしい。
完全ではないという話だ。
理論的にはMFCと同じだと言っていたが……やっぱりわかんねぇな。
「入るぞ」
書類の……束だよなぁ。それを手に持ちやってきた兄を俺はデスクで額を抱えて出迎えた。
「今度は何だ?何すりゃいいんだ」
俺が戦々恐々としたのに兄貴は苦笑する。
「大した作業ではない、チェックは終わっているからお前が判を押せばいいだけだ……余裕があるなら内容も読んでおくといい」
「はぁッ……デスクワークってなんでこう、肩が凝るんだろうな?」
「それと、来週にはお前が開く記念パーティがある事を忘れるな」
俺は一切開く予定を立てた覚えはないが、俺が開く事になっているらしい。付き合うに色々決まり事があるわけだな……うぜってぇ。
……で、ようするにこの汚い口調を改めろと言われている。
そんな一週間そこらで直るかよ。……レッドでも呼んでなんとか手助けしてもらうしかねぇな。
「礼儀作法はそれなりに残っているようだが、どこでそういう汚い言葉を覚えたのだ?」
「そりゃーエズだろう。上品にしゃべってたらナメられるからな」
「……理解に苦しむ言語だ」
「ランドールだってひでぇじゃねーか……」
些細な事で怒りだすあいつは、頭に血が上るとヤト並みに口調が乱れやがるのだ。
軽く睨まれ、俺はため息をついて少し背筋を伸ばす。
「あいつは敬語なんてつかえないんだろう?」
「使う必要が無い方だったからな」
ふむ、じゃぁ俺はランドールの真似をすればいい訳だ。尊大に、ふんぞり返ってりゃいいって事だな。
「なら、なんとかなりそうだな」
用事が終わって出ていこうとする兄貴を呼びとめる。
「なんだ?」
「ちょっと付き合ってほしいんだが」
「……お前がその机に仕事を貯めているように、私も早く始末しなければならない事が多く残っている」
俺は、冷静に背筋を伸ばし当主として問いかけてやった。
「そうやって、私から逃げているのか?」
「……逃げる?」
目を細め、怪訝な顔で振り返ってきたのに俺は口元を笑わせて答えた。
「話をしたい。ちゃんと二人きりで腹を割って、兄弟としてだ。正直……俺の方がビビってるんだけどな。……いつまでもこうじゃいけねぇだろ」
「…………」
ここ最近慣れないことばかりやっていて気苦労からか、よく寝れたりする。
しかしこうもデスクワーク尽くめじゃ体がなまりそうで怖いからな。仕事がひと段落ついたらランドールを稽古に呼び出したりしている。
噂によると奴もこっそり鍛練しているとかで、俺の誘いには文句を言わずに乗って来てくれる。
強い奴と戦うのは勉強になるぜ。俺も、拳一つは卒業して公族らしいたしなみとして突剣を帯びていたりするが……どうにも力が強いもんですでに何本かダメにしている。
そんな俺に用意されたのが……この、ふにゃふにゃと刀身が柔らかい剣。
ふざけてんのかと思ったが本気らしい。
もう俺の能力的には両手剣でも振り回さない事には、という監督指南の人の話だった。よってランドールは頑丈な両手剣を使っている。しかし俺は都合そういう武骨な武器は帯びれない。
そんな俺の為に、全ての衝撃を受け止める柔らかい剣が用意されたというわけだ。
柔軟な刀身を持つ剣、というのはあるがこれは少々やりすぎたしろものだろう。
何しろ鞘から抜くに自らの重みでしなりやがるんだぜ?
これを隠すに構えは下段が常。
使い手の力によって初めてまっすぐに構えられ、相手を切り裂く剣だ。
力が余剰の俺には、これくらいじゃないと突剣は釣り合わないという事らしい。
右腕に肩からガントレットを着けて全て、右半身で戦う。
左手は背中、左腕は使わない。
ランドールの粗削りな剣戟を鍔ではじき、あるいはガントレットでもって受け流しつつ隙を狙って連続攻撃を叩きこむ。主に突き、そして左右への短い斬り。
ランドールはしっかり両手剣使い、大振りながらも素早い切り返しで俺の突きを防ぎかばう。
ところが俺の剣が緩い。弾き飛ばしたと思ったのは切っ先だけで俺の右手姿勢までは掬えないからだ。
素早くその場で鋭く回す動作で緩んだ刀身を立て直し、再び俺は体勢を狂わせられる事無く突進が出来る。
地味ながらこれは、面白い剣だ。
「お前はさ、ちょっと動きが大きすぎるんだよ」
シリアからお互い受けた切り傷を塞いでもらいながら、大抵沈む夕日を見ながら反省会になる。
「……テニーはこれでいいって言ってたぞ」
「他にはそれでいいんだろうが、俺みたいなのにはそれはいかんだろ?もうちょっと相手に見合った対処をした方がいいぞ」
不機嫌な顔してるが、一応俺の言葉は受け入れてはくれているらしい。
「他の武器も握ってみたらどうだ」
「それはお前にも言えることだろう」
「俺は今これを極めてる最中だからいいんだよ。いずれ慣れたら別の武器でも遊んでみるさ」
「……お前にとっては遊びか」
ランドールの問いに苦笑が漏れた。
「本音を言えば暴れまわりたい方だ。……実践に生かす方法が無い限りどこまでも遊びだろ」
そして、立ち上がり伸びをする。すでにあくびが出そうな具合だが、今日はこれからまだちょっと予定があるんだよな。
「ある程度極めたら、魔王八逆星に挑んでみるもいいかもな。噂によると完全に専業主夫化してるとか言うし、いっちょ怠けてんじゃねぇぞと揉んでやるのも悪かねぇ」
お前もどうだ、そん時ぁ一緒に『遊びに』行くか?
そのように誘うにランドールはそっぽを向いた。
「いや……まずはいい」
「なんだよ、負けてんの悔しいんだろ。ばっちりし返してやれ、応援するぞ」
「……お前に遊ばれている状況じゃ、な」
多少は素直になってきたかもしれないな。俺の教育の賜物だぞ、兄貴は甘やかしすぎだ。
「いずれだれよりも強くなって……俺が、あれを倒すんだ」
ふむ……なるほど、遊ぶじゃ気に入らないって顔だ。
いいんじゃねぇの。
とりあえず、ランドールの野望を止める理由は俺には無い。のほほんと余裕ぶっこいてると寝首刈られるとぜと、友人として忠告はしてやれるけれど、それが限度だ。
世界が流れるままにすべきだろう。
あいつは……ヤトは俺の好敵手だった。
もはや過去系だと……ランドールを見ているにそんな風に思ったりする。
好敵手だったのはエズでの事で、お互い倒すべき目標としていた時だけで、その関係が壊れた時からもはやライバルじゃねぇんだよな。
あいつとはただの友人としての付き合いしか出来なくなった。
立場が同じじゃぁなくなった。
ただ、ほんの少しスペシャルな、友人。
だから、もう一度あいつと肩を並べるには、あいつが超えて行った所を俺も越えなきゃいけない。
忙しいと言っていた兄貴がほんの少し時間をあけてくれる事になってる。
あれ以来お互い忙しいとか何とかで……ちゃんと話をしていない。
仕事の話はするけどそれだけだ。
長い間放蕩した事を両親親戚に謝りがてら訪問しにいったり、戻ってきたら戻ってきたで俺の両親は何かと俺を呼び出してくれやがるし。
可愛がってくれるのはいいが、正直……真実を話すつもりが無い気配も感じて辛くもある。
流した汗を軽くぬぐい服を着替えて、本来ならもう戻らない執務室の扉をあける。
「おっと、待たせたか」
「いや、今しがた仕事が上がって来た所だ」
「ところでよぅ、母上はありゃ痴ほうっ気が出てきてたりするか?やけにべったりで、毎日のように呼び出されて困ってるんだが……昔からあんなんだっけか?」
「寂しかったのだろう」
「兄貴がいるだろ?」
「……私は」
そう言って兄貴はソファに座っていたところ、立ち上がる。
「何度も言うようだが、この家を継ぐ資格がすでに無い。それは母も父も知っている、私の行いに失望されたのだろう。私はすでに……彼らの目に息子と映る事は無いのだよ」
そうなった理由を俺は、うっすらと知っている。
はっきりとした事じゃないけどな。
第一次魔王討伐隊として家を出て、戻ってこなかったテレジア姉さんから……俺は、ほんの少し自分の家の真実を知らされてしまった。
でも、それでどうして俺なんだろう?
兄貴がいるのに。ちゃんと、俺の前に兄貴がにいるのになんで、弟の俺がウィン家の当主をやんなきゃいけないのだろうか?
そこまでひどい事をしたというのなら今ここにいる『俺』は?
近くに寄れ。
そう言われ、戸口に立ったままだったので扉を閉めるに近づく。
右手を掴まれた。
そして、あるべきものがあるだろう場所に俺は、触れさせられる。
……しかしあるべきものが無い。
ああ、なるほど、そう言う事か。
俺は目を閉じ、なぜこうなったのか。なぜ兄がこれを選んだのか。
理解しようとして苦しくなった。
「お前が……この家を逃げ出したように。これが私の、この家に向けた最大の反抗だ」
太陽が完全に山の間に隠れ、窓から真横に入って来ていた光が失せる。
「ウィン家は閉じたのだ」
「……いいや、そんな事ぁねぇだろ」
窓へ歩み寄り、紫色に染まっていく空を見上げる。寒いと思ったら星が出てやがるな。
きっと月明かりが眩しいだろう。
薄いカーテンを開け放って振り返る。
「俺がウィンを名乗って起こし直せばいい」
「……あえて聞いては来なかったが。本気なのだな」
「ぶっちゃけ、今本気になった。……俺は兄貴、あんたにまだ全部頼ったままでいた。いずれめんどくさくなって俺の代わりに全部やってくれるんじゃないかと思ってたけど……」
出来ないんだ。
家というものを背負って行くのはもはや俺にしかできない。
そう云う事か。
「……ウィン家は俺が必ず存続させる」
「信じていいのか」
信じてもらうに一番いいセリフを俺は知ってるな。
「ようするに、来週のパーティとやらでで俺は、嫁を決めればいいんだろう」
「……よし、その言葉を待っていた」
そう言って兄貴、つかつかと俺の執務室の棚の一つを開放。
正直、ここ俺の部屋なんだけど何が入っているのか全く把握していない、俺。
そこから、紙束を持って来てテーブルに広げた。
……似顔絵がついてる。
「これが今現在お前が嫁に貰うべきご婦人方の一覧だ」
「おいこら!用意周到すぎんだろうが!」
「私の手によるものではない、……テリオス、母上はまだ耄碌はされていないぞ。この通り、ちゃぁんとお前の為に事細かな情報をおまとめ下さっているのだからな!」
うはぁ、長らく離れていたってのに……全く、母親にはかなわねぇもんだ。
俺はソファに座り込みいろいろと覚悟をきめて、苦笑しながらその紙束をめくる。
「うーわ、すんげぇ年の差婚になるんだな……」
正直言うと、年上好きなんだけど……。
……我儘言える立場じゃないからなぁ。
苦笑いをして、開け放った外を眺めるに、そこから差し込む月光が強くなってくるのが分かる。
親友が世界を見守るに魔王として封じられたのに見合うかどうかは分からんが。
俺は、おとなしくこの家に封じられるとするか。
END
*** *** *** 分岐 *** *** ***
『最後の難関に挑む』がありまして、おまけ05の後半、
『サブキャラGO☆GO』と同じページに行きつきます。
そうです、通貨計算問題です。
今回は答えと解説を全公開していますので おまけ05に移動してご確認ください
番外編短編3『再興と再考と採光』
テリオスとして戻り、特に問題なくウィン家を当主として迎え入れられ……。
それにもう少し手こずるかと思ったがそうでもないなと最初は思ったけど、しばらくたってからやっぱり、一筋縄じゃいかねぇんだと気がついた。
何が問題って、兄だ。俺の兄の……テニーとの折り合いがもっと手こずると俺は思ってたんだ。
俺自身の感情問題もあるし、兄貴だって内心穏やかなじゃねぇだろう。
形ばかりで正しくは迎え受け入れられてないような気がするんだよな。
俺は、何をすればこの家に正式に、迎え入れてもらえるのだろう。
タトラメルツでとっ捕まえられ、忌避してきた兄との対面になっちまったよな。
俺は、何にへそを曲げて兄貴との会話を拒否したのか、多くの連中は理解はしなかっただろう。
分かっていたとするなら兄貴と、もしかすればナッツ。そして支天祭司の一人ワイズあたりか。
ランドールはもちろん何も知らないだろう。
きっと何も知らせずにいるに決まっている。
それは、あの時の兄貴の態度でよくわかった。
俺の気持ちが分かっている?何を、ふざけた事を。
怒っているのは俺じゃなくて兄である事を知っている。
あれが、俺の気持ちを理解出来るはずが無い。周りに他の目があったからそういう風に、綺麗に言ったに過ぎないんだ。
まったく理解なんぞしてねぇだろ。奴は、もし俺と二人きりだったら殴りかかって来て罵倒するに違いないんだ。
のちに中央大陸でとち狂って襲いかかっって来た訳だが……いや、あれは狂ってなんかないぞ、あの態度が正常なんだよ。
レッド曰く、ナドゥが使うのは心に偽る本心を引き出す『ログ改編』だとか言ってたな。
本音を外に出さないように自分自身で嘘で固め、そうやって封じこめた上に自分が立っている程に、根本から覆されて『おかしくなる』とか。
他から見たら兄貴はおかしく見えたのかもしれない。
けど、俺にはそうは思わなかった。
そうだ、奴はこうやって逃げ出した俺の事を罵倒するのが正しい。
理解したふりをして我慢なんかすんじゃねぇ。そんな風に気持ちを閉じ込めたって、苦しいだけで何もその先良い事なんかねぇんだ。
それで兄貴は、俺に帰ってくるなと言ったな。
逃げるならどこまでも逃げていけばいい、戻ってくるなと喚いた。
俺は正直それでもよかった。
ナッツから戻ってこいとか色々言われた訳だが、今更政治に足を突っ込もうにもファマメント情勢にさっぱり疎くなったわけだし……出来るとするならお飾り程度だよなぁと思う。
兄貴に認めてもらわなきゃ、俺はウィン家には戻れないんだ。
でもライバルの手前逃げっ放しってのもカッコがつかねぇ。
終わりが来て、結構色々覚悟をしたんだ。褒めてくれなどと誰かさんみたいには言わないが、こうやって辛い事を乗り越えないと新しい道は出来ないんだよな。ぶっちゃけすげぇしんどい。あいつもこの辛いのなんとか乗り切ったって事だよな……負けてらんねぇよ。
ただ一言、兄貴を前にして家出してすみませんでした、迷惑掛けました。
それを言うのにどんだけ俺はガチガチになってんだろう。
嗤えてくる。たったそれだけの事も俺は出来ずにいたのか、と笑いながら……。
大陸座の力、デバイスツールによってなんとかまともに戻った兄貴を前に俺は……頭を下げたんだ。
……そしたら、あっさり兄貴は俺を許してくれた。
正直信じられなかったくらいだ。
兄貴は俺がテリオスに戻る事を認め、事もあろうか俺に傅いてくる。
やめろ、というに止めるなと兄貴は言った。
自分にはウィン家を背負う資格はない。俺こそが正式な当主であるのだから、兄・弟の立場は無く俺は兄貴の主人なのだって……。
これはこれでおかしくなったんじゃねぇのかと、赤旗をデバイスツールで解消したレッドに何か余計な事でもしたのかと聞いてみたら、レッドは俺に笑いながら言ったっけな。
俺は、ヤトと同じく物事をまっすぐに信じすぎる、だとよ。
一度信じたら二度と疑う事が出来ない、例え嘘と分かっても信じて騙されるに妥協するのは……どうなのですか、だとよ。
どうにも時間をいじくったって話らしいが。正直……その仕組みについてはヤトと同じくよく分からんというのが正直な所だ。
時間を後に戻してから、いずれ到達するログにまで強制的に早回す、という事をやったそうだ。ナドゥの所為で順列が狂ってしまった記憶と、積み上げたはずの経験がその所為で崩れ去った……残骸。
デバイスツールの力を借りて、それらを強制的に元に戻したという事らしい。
完全ではないという話だ。
理論的にはMFCと同じだと言っていたが……やっぱりわかんねぇな。
「入るぞ」
書類の……束だよなぁ。それを手に持ちやってきた兄を俺はデスクで額を抱えて出迎えた。
「今度は何だ?何すりゃいいんだ」
俺が戦々恐々としたのに兄貴は苦笑する。
「大した作業ではない、チェックは終わっているからお前が判を押せばいいだけだ……余裕があるなら内容も読んでおくといい」
「はぁッ……デスクワークってなんでこう、肩が凝るんだろうな?」
「それと、来週にはお前が開く記念パーティがある事を忘れるな」
俺は一切開く予定を立てた覚えはないが、俺が開く事になっているらしい。付き合うに色々決まり事があるわけだな……うぜってぇ。
……で、ようするにこの汚い口調を改めろと言われている。
そんな一週間そこらで直るかよ。……レッドでも呼んでなんとか手助けしてもらうしかねぇな。
「礼儀作法はそれなりに残っているようだが、どこでそういう汚い言葉を覚えたのだ?」
「そりゃーエズだろう。上品にしゃべってたらナメられるからな」
「……理解に苦しむ言語だ」
「ランドールだってひでぇじゃねーか……」
些細な事で怒りだすあいつは、頭に血が上るとヤト並みに口調が乱れやがるのだ。
軽く睨まれ、俺はため息をついて少し背筋を伸ばす。
「あいつは敬語なんてつかえないんだろう?」
「使う必要が無い方だったからな」
ふむ、じゃぁ俺はランドールの真似をすればいい訳だ。尊大に、ふんぞり返ってりゃいいって事だな。
「なら、なんとかなりそうだな」
用事が終わって出ていこうとする兄貴を呼びとめる。
「なんだ?」
「ちょっと付き合ってほしいんだが」
「……お前がその机に仕事を貯めているように、私も早く始末しなければならない事が多く残っている」
俺は、冷静に背筋を伸ばし当主として問いかけてやった。
「そうやって、私から逃げているのか?」
「……逃げる?」
目を細め、怪訝な顔で振り返ってきたのに俺は口元を笑わせて答えた。
「話をしたい。ちゃんと二人きりで腹を割って、兄弟としてだ。正直……俺の方がビビってるんだけどな。……いつまでもこうじゃいけねぇだろ」
「…………」
ここ最近慣れないことばかりやっていて気苦労からか、よく寝れたりする。
しかしこうもデスクワーク尽くめじゃ体がなまりそうで怖いからな。仕事がひと段落ついたらランドールを稽古に呼び出したりしている。
噂によると奴もこっそり鍛練しているとかで、俺の誘いには文句を言わずに乗って来てくれる。
強い奴と戦うのは勉強になるぜ。俺も、拳一つは卒業して公族らしいたしなみとして突剣を帯びていたりするが……どうにも力が強いもんですでに何本かダメにしている。
そんな俺に用意されたのが……この、ふにゃふにゃと刀身が柔らかい剣。
ふざけてんのかと思ったが本気らしい。
もう俺の能力的には両手剣でも振り回さない事には、という監督指南の人の話だった。よってランドールは頑丈な両手剣を使っている。しかし俺は都合そういう武骨な武器は帯びれない。
そんな俺の為に、全ての衝撃を受け止める柔らかい剣が用意されたというわけだ。
柔軟な刀身を持つ剣、というのはあるがこれは少々やりすぎたしろものだろう。
何しろ鞘から抜くに自らの重みでしなりやがるんだぜ?
これを隠すに構えは下段が常。
使い手の力によって初めてまっすぐに構えられ、相手を切り裂く剣だ。
力が余剰の俺には、これくらいじゃないと突剣は釣り合わないという事らしい。
右腕に肩からガントレットを着けて全て、右半身で戦う。
左手は背中、左腕は使わない。
ランドールの粗削りな剣戟を鍔ではじき、あるいはガントレットでもって受け流しつつ隙を狙って連続攻撃を叩きこむ。主に突き、そして左右への短い斬り。
ランドールはしっかり両手剣使い、大振りながらも素早い切り返しで俺の突きを防ぎかばう。
ところが俺の剣が緩い。弾き飛ばしたと思ったのは切っ先だけで俺の右手姿勢までは掬えないからだ。
素早くその場で鋭く回す動作で緩んだ刀身を立て直し、再び俺は体勢を狂わせられる事無く突進が出来る。
地味ながらこれは、面白い剣だ。
「お前はさ、ちょっと動きが大きすぎるんだよ」
シリアからお互い受けた切り傷を塞いでもらいながら、大抵沈む夕日を見ながら反省会になる。
「……テニーはこれでいいって言ってたぞ」
「他にはそれでいいんだろうが、俺みたいなのにはそれはいかんだろ?もうちょっと相手に見合った対処をした方がいいぞ」
不機嫌な顔してるが、一応俺の言葉は受け入れてはくれているらしい。
「他の武器も握ってみたらどうだ」
「それはお前にも言えることだろう」
「俺は今これを極めてる最中だからいいんだよ。いずれ慣れたら別の武器でも遊んでみるさ」
「……お前にとっては遊びか」
ランドールの問いに苦笑が漏れた。
「本音を言えば暴れまわりたい方だ。……実践に生かす方法が無い限りどこまでも遊びだろ」
そして、立ち上がり伸びをする。すでにあくびが出そうな具合だが、今日はこれからまだちょっと予定があるんだよな。
「ある程度極めたら、魔王八逆星に挑んでみるもいいかもな。噂によると完全に専業主夫化してるとか言うし、いっちょ怠けてんじゃねぇぞと揉んでやるのも悪かねぇ」
お前もどうだ、そん時ぁ一緒に『遊びに』行くか?
そのように誘うにランドールはそっぽを向いた。
「いや……まずはいい」
「なんだよ、負けてんの悔しいんだろ。ばっちりし返してやれ、応援するぞ」
「……お前に遊ばれている状況じゃ、な」
多少は素直になってきたかもしれないな。俺の教育の賜物だぞ、兄貴は甘やかしすぎだ。
「いずれだれよりも強くなって……俺が、あれを倒すんだ」
ふむ……なるほど、遊ぶじゃ気に入らないって顔だ。
いいんじゃねぇの。
とりあえず、ランドールの野望を止める理由は俺には無い。のほほんと余裕ぶっこいてると寝首刈られるとぜと、友人として忠告はしてやれるけれど、それが限度だ。
世界が流れるままにすべきだろう。
あいつは……ヤトは俺の好敵手だった。
もはや過去系だと……ランドールを見ているにそんな風に思ったりする。
好敵手だったのはエズでの事で、お互い倒すべき目標としていた時だけで、その関係が壊れた時からもはやライバルじゃねぇんだよな。
あいつとはただの友人としての付き合いしか出来なくなった。
立場が同じじゃぁなくなった。
ただ、ほんの少しスペシャルな、友人。
だから、もう一度あいつと肩を並べるには、あいつが超えて行った所を俺も越えなきゃいけない。
忙しいと言っていた兄貴がほんの少し時間をあけてくれる事になってる。
あれ以来お互い忙しいとか何とかで……ちゃんと話をしていない。
仕事の話はするけどそれだけだ。
長い間放蕩した事を両親親戚に謝りがてら訪問しにいったり、戻ってきたら戻ってきたで俺の両親は何かと俺を呼び出してくれやがるし。
可愛がってくれるのはいいが、正直……真実を話すつもりが無い気配も感じて辛くもある。
流した汗を軽くぬぐい服を着替えて、本来ならもう戻らない執務室の扉をあける。
「おっと、待たせたか」
「いや、今しがた仕事が上がって来た所だ」
「ところでよぅ、母上はありゃ痴ほうっ気が出てきてたりするか?やけにべったりで、毎日のように呼び出されて困ってるんだが……昔からあんなんだっけか?」
「寂しかったのだろう」
「兄貴がいるだろ?」
「……私は」
そう言って兄貴はソファに座っていたところ、立ち上がる。
「何度も言うようだが、この家を継ぐ資格がすでに無い。それは母も父も知っている、私の行いに失望されたのだろう。私はすでに……彼らの目に息子と映る事は無いのだよ」
そうなった理由を俺は、うっすらと知っている。
はっきりとした事じゃないけどな。
第一次魔王討伐隊として家を出て、戻ってこなかったテレジア姉さんから……俺は、ほんの少し自分の家の真実を知らされてしまった。
でも、それでどうして俺なんだろう?
兄貴がいるのに。ちゃんと、俺の前に兄貴がにいるのになんで、弟の俺がウィン家の当主をやんなきゃいけないのだろうか?
そこまでひどい事をしたというのなら今ここにいる『俺』は?
近くに寄れ。
そう言われ、戸口に立ったままだったので扉を閉めるに近づく。
右手を掴まれた。
そして、あるべきものがあるだろう場所に俺は、触れさせられる。
……しかしあるべきものが無い。
ああ、なるほど、そう言う事か。
俺は目を閉じ、なぜこうなったのか。なぜ兄がこれを選んだのか。
理解しようとして苦しくなった。
「お前が……この家を逃げ出したように。これが私の、この家に向けた最大の反抗だ」
太陽が完全に山の間に隠れ、窓から真横に入って来ていた光が失せる。
「ウィン家は閉じたのだ」
「……いいや、そんな事ぁねぇだろ」
窓へ歩み寄り、紫色に染まっていく空を見上げる。寒いと思ったら星が出てやがるな。
きっと月明かりが眩しいだろう。
薄いカーテンを開け放って振り返る。
「俺がウィンを名乗って起こし直せばいい」
「……あえて聞いては来なかったが。本気なのだな」
「ぶっちゃけ、今本気になった。……俺は兄貴、あんたにまだ全部頼ったままでいた。いずれめんどくさくなって俺の代わりに全部やってくれるんじゃないかと思ってたけど……」
出来ないんだ。
家というものを背負って行くのはもはや俺にしかできない。
そう云う事か。
「……ウィン家は俺が必ず存続させる」
「信じていいのか」
信じてもらうに一番いいセリフを俺は知ってるな。
「ようするに、来週のパーティとやらでで俺は、嫁を決めればいいんだろう」
「……よし、その言葉を待っていた」
そう言って兄貴、つかつかと俺の執務室の棚の一つを開放。
正直、ここ俺の部屋なんだけど何が入っているのか全く把握していない、俺。
そこから、紙束を持って来てテーブルに広げた。
……似顔絵がついてる。
「これが今現在お前が嫁に貰うべきご婦人方の一覧だ」
「おいこら!用意周到すぎんだろうが!」
「私の手によるものではない、……テリオス、母上はまだ耄碌はされていないぞ。この通り、ちゃぁんとお前の為に事細かな情報をおまとめ下さっているのだからな!」
うはぁ、長らく離れていたってのに……全く、母親にはかなわねぇもんだ。
俺はソファに座り込みいろいろと覚悟をきめて、苦笑しながらその紙束をめくる。
「うーわ、すんげぇ年の差婚になるんだな……」
正直言うと、年上好きなんだけど……。
……我儘言える立場じゃないからなぁ。
苦笑いをして、開け放った外を眺めるに、そこから差し込む月光が強くなってくるのが分かる。
親友が世界を見守るに魔王として封じられたのに見合うかどうかは分からんが。
俺は、おとなしくこの家に封じられるとするか。
END
*** *** *** 分岐 *** *** ***
『最後の難関に挑む』がありまして、おまけ05の後半、
『サブキャラGO☆GO』と同じページに行きつきます。
そうです、通貨計算問題です。
今回は答えと解説を全公開していますので おまけ05に移動してご確認ください
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