異世界創造NOSYUYO トビラ

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11章  禁則領域    『異世界創造の主要』

書の8後半 行きて帰らぬ『……予定です。』

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■書の8後半■ 行きて帰らぬ Become Revenants scheduled

 一寸待て、いや……全然わかんねぇ。
 もう一回分からないんだけどと言うのも憚られ、俺は例によって助けを求めてナッツを振り返っていた。ようするに俺が理解してないなとテリー、把握してため息を漏らしている。
「面倒だ、じゃぁ俺は話したから。言って置くが軽々しく誰かに喋るんじゃねぇぞ。言った所で何も解決しねぇ話だ」
「そ、そうか?」
 そういう部類の話を俺が、理解できるはずないだろッ!?
「そうだ、俺がどうしてランドールが王の器とやらで、それが何で、ウィン家の意図がどんなものか。それを知っている理由をお前に話しただけだからな。俺の都合なんて知った所で現状は何も解決しねぇよ。……大体それはナッツ、ハクガイコウだったお前は知っているだろ?」
 不機嫌に睨むテリーにナッツは苦笑した。
「天使教は政府の意図は全部掴めてないと、ワイズも言ってたじゃないか」
「でも、お前は知ってただろうが」
 テリーから本格的に睨まれてようやくナッツは真面目な顔になる。
「……そう、だね。少なくとも君が、ウィン家の『あの』次男坊のテリオス君だったのは知っていたし、ウィン家の事情は大凡察している方だろう。でも僕は王の器ってものについては本当に知らないよ。君がランドールの前身だってのは……知っていたけど」
「十分だ。ナッツ、こいつにわかるように説明しとけ」
 そう言ってテリーは窓から離れ、大股に窓から見える中庭を歩いて行ってしまった。
 俺は呆然として改めてナッツを振り返る。
「どういう事だ?」
「ホントに分かってないのか?」
「……ランドールの兄貴?血が繋がってないのに、都合で作ったって……あれか?試験管ベイビーとか」
「似たようなものかなぁ」
「……マジかよ」
「疑問に思った事ないのか?」
 ナッツは席を立ち上がり、コーヒーでも飲むかいと俺に聞いてきた。俺が頷くと座っていた所立ち上がり、腰に手を当てて笑う。
「彼、ただの人間にしては強すぎると思った事ない?」
 そう言い残して部屋を出て行った。

 ……た、確かに。

 なんかもうあの強さに慣れてしまってその異常さを俺は、すっかり忘れていたかもしれない。
 というか純西方人って詭弁にすっかり騙されていた感じだ。西方人と言えば『ただの人間』の代名詞。まだ東方人の方が魔種との混血があり多少ポテンシャルは高いと言われる。しかし、俺と同じ何の魔種とも強くは混血していない、ただの人間。
 それが拳の一振りで鋼をぶち破るとか、よくよく考えるとすげぇおかしいんだよな。よっぽどクンフーを重ね、ハドウとかいうものを練り上げ異常な攻撃力を有した、という特殊背景でもあるんだろうくらいに俺は、結構簡単に考えていたりしたんだ。
 純血の西方人。
 西方人は『ただの人』たる代名詞だが、純血がついたら何か、ちょっと違うのかな?みたいな。
 でもテリーは自分で言ってた。純血西方人なんて何の取柄もない、ただの人だって。
 ただの人が拳の一振りで岩を壊し、衝撃波を発生させて空間を吹っ飛ばすような攻撃を有するか?
 いくらこの世界がなんでもありでも人間が、魔という手段を使わずにそれは無いだろう。
 テリーは自分が純血だ、と言った。
 魔は混じっていないという意味だ。もちろん、奴は魔法も使わない。

「ドリップでいいよね」
「……ああ、」
 茶道具一式を持って戻ってきたナッツに、俺は生返事を返す。
「純血西方人って、元来強かったとか?」
「定義にもよるねぇ」
 ナッツはのほほんと答え、整理の付かない俺を見やる。
「昔西教を開いた王様で、今は方位神に数えられているシュラードは『純西方人』だよ。彼が強かったかどうかは分からないけど、王になってその後神になるような人だ。特殊な存在だったと見る事は出来る」
「……?」
「ようするに、テリーの言っている純血っていうのは西方人の血しか入っていないって意味じゃないんだろう。恐らく……そのシュラードを意味する純血だよ。神になる王の器という意味じゃないかなと僕は考えているけどね」
「王の器、作られたっていうのはつまり。……いずれ王になり神に据えるために都合良く作られたって意味じゃないかなって、ワイズが言ってたな。ランドールはそうやって『ナドゥ』っていう魔導師によって作られたらしいって」
 俺は顔を上げる。
「テリーも同じって事か?奴も、まさか、」
「それは随分前に彼に確認してみたよ、ナドゥを知っているかって。いや、ほら。僕はナドゥっていう人物が魔王討伐隊第一陣に関わっている事は知ってたからね。でもテリーはナドゥなんて知らないって言ってた。ただ、物心付いた時にはウィン家の次男として育てられてて……ひょんな事で彼は自分の出生を知っちゃったんだよ」
「……成る程な」
 自分がどういう風に生まれたかなんて、そんなのわかんねぇよな。
 父親と母親がいて、それは確かに自分の両親であるって子供は、信じるしかないんだ。
 どうやって生まれたか、だなんて知る事になるのはずっとずっと後だぜ、うはは。
「何かの拍子で本当の事を知った。両親と血の繋がりがないって、知った彼はグレちゃったんだねぇ」
「グレちゃったんだねぇって……」
 理屈としてはへっ?そんな事でって思ったりもする。
 が、確かに子供の頃って多感だし行動が極端になると俺も思う。致命的な勘違いを大まじめに悩むんだ。大抵そんなもんだよ……後で気が付くんだ、バカな事をしたって。
「……どこまで話して良いものかな」
 挽き立てのコーヒー豆を、目の粗い金具に敷いた漉し布に入れて湯を注ぎ入れる。途端に部屋中を支配する香しい匂いに俺は一気に気が緩んだ。やべぇ、大好き。
「ウィン家の次期当主が魔王討伐隊第一陣を指揮したって話は、したよね」
「ああ、けどテリー兄弟がお前を睨んで話を止めてたよな」
「そう、……彼女は……ウィン家の上で言えばテリーらの姉になるのかな」
「それは、」
「それと同時にランドールの姉でもある。もっとも、ランドールはそんな事知らないだろうけど。テリーが兄にあたる事情もたぶんランドールは知らないと思うな。僕の予測だけどね」
 俺は腕を組んでしまう。
「じゃぁ、テニーさんだけが仲間はずれなのか?テニーさんだけ生まれ方が違う?」
「どうかな。ウィン家はその王の器とかいう事情を公にしている訳じゃない。実際僕も知らなかった事だ。だけど、どうにもテレジアは知っていたみたいだよ。彼女は……ウィン家の縛りの上ではテリーとテニーの姉だけど血縁関係で言えばむしろ、テリーの母親だと思うし」
「母親ぁ!?実母って事か?」
「ええとね、まず純血ってのをどうやって『生み出すか』って問題があるんだよ。ヤト、この世界は僕らの現実世界みたいに遺伝子を弄くって都合の良い生命体を作る、だなんて段階まで文化レベルは高くない。ただそれに似たような状況を魔導技術で作り出す事は可能かもしれない、それくらいのレベルだ。ちょっとでも他の血が混じれば混血、どんなに同じ血の巡りで掛け合わせても決して純血には戻らない。だけど、限りなく純血に近づける事は出来る」
 リアルの知識を引っ張ってきて俺は、考えた。つまり、ええと。
「……親近相姦」
 リアルのサイエンスな話でマンモス再生プロジェクト、ってのがあってさ。何かの映画で見た図だったかもしれない。遺伝子を過去に巻き戻す為に、近親相姦を繰り返していく。すると古い血が、遺伝子が……立ち現れてくる、らしい。
 木が枝を広げ葉が茂る様に『広がっていく』遺伝子の可能性を、逆に切り込んで狭める事で劣性遺伝で埋もれていた可能性を掘り起こすっていう奴だ。
「……意図的な、ね」
「でもそりゃ、基本的には欠陥が出るんじゃねぇのか?遺伝子的な劣勢遺伝がええと、どーたらこーたら」
「そうだね、だからそういう欠陥を埋めて優位な能力を色濃くさせる。そういう技術を磨いた人達がファマメント国には居たんだろう。それが……ナドゥ・DSっていう魔導師と伝えられている訳。でも少し考えればわかると思うけどそうやって近い血を掛け合わせるなんて事を真面目に行うには、血族全員の一致がないと出来ない事なんだ。だってそうだろう?生まれた子供を明日大人にしてしまう事は出来ないじゃない。次の掛け合わせが出来るまでその人を育てなきゃ行けない。数ヶ月で成熟するハツカネズミとは違うんだから」
「……なんか生々しい話になってきたな」
「だから彼も嫌になったんだろう、多分。彼は魔王討伐隊が出発した後、西方から出て行った。出発する直前に恐らく、テレジアから事実を聞いちゃったんじゃないのかな」
 じっくり蒸らしたコーヒー豆に、今一度湯を注ぎ入れながらナッツは続けた。
「彼女は、戻れる可能性が低い遠征に行くのだからね。だから、本当の事をテリーに言い聞かせたのかもしれないって僕は想像してるよ。何が正しいのかはテレジアが……戻ってこなかったから分からないけどね。テリーも話さないし」
「その、テレジアって人が『戻って来れない』事を……察したから?」
「そうだろうね。だって……うん、第一次魔王討伐隊がどこに派遣されたかはまだ言ってなかったよね?」
「聞いてないな」
「……中央大陸なんだよ」

 中央大陸、それは中央海の真ん中にあると言われ、たどり着く事は出来ない。
 あるいは、たどり着いたなら二度と戻っては来られないと言われる……伝説の土地だ。

「成る程、それじゃぁ戻ってこれねぇわな。……いや、なら魔王八逆星の連中だって戻ってこれるはずねぇじゃん」
「そうだね、でも事実彼らは怪物になって戻ってきた。全員じゃない、代表者は前に話した通りだけどあれの他に同行した人達は結構いたんだよ。テレジア付きの僧兵一個師団とか、南国の兵隊とディアスの騎士団も少しいたはずだ。それらを世話する人達とか物資を運ぶ馬とか……。それらのうちごく一部が存在の仕方を変えて戻ってきている」

 じゃぁ、そのテレジアって人は、ウィン家の時期当主の座を追われてやっかい払いされたって見方も出来る。

「心にそっとしまっておくれよ」
 ナッツはそう言って俺にコーヒーカップを手渡してきた。
「……何をだ?」
「テリーには父親と母親が余計にいるんだ。世の中にはそのどちらも居ない人もいるって言うのにね……彼には二人ずつ存在する。ウィン家としての父母、彼はずっとそれが本当の両親だと疑ってなかった。でも……本当の意味でテリーを産んだのはテレジアで、本当の意味でテリーの父はテニーらしいとのもっぱらの噂だよ」

 ああ、そういう符号になるわけか。

 俺は香しい匂いを立てるコーヒーをなぜか飲む気になれず、黙って黒い液体が揺れながら俺の顔を写し込んでいるのを眺めてしまった。ナッツはやや大げさに肩を竦め、芝居じみた風に手をひっくり返しなが笑う。
「や、下非た噂話だよね。相手がウィン家だ、酷い陰口だよ。スキャンダラスな事を暴くのが好きなゴシップ紙ってのも結構がんばっててね、儲かるから首斬られる覚悟でこっそりファマメントで活動しててさ、そういう雑誌があるんだけど……僕の趣味はそういう雑誌とか新聞を読みながらお茶を飲む事だったりしてさ」
「お前、悪趣味だなぁ」
「気味の悪い悪意掃き溜めみたいな、自分の悪口が書いてあるかもしれない雑誌さ。そうと知っていて実は怖いのに、何故かそれを覗き込みたくなる。どうしようもない性だよね」
 ああそうか、ナッツは一応ファマメント国では有名人だった。
 ハクガイコウ、神の使いの肖像だったな。
 元来自分の事がどう書いてあるかを見る為に読んでいたた雑誌って事か。
「で、そこにどうにも女伊達らに名家ウィンを背負い立つテレジアの私生活を暴く、なぁんてコーナーがあったりして。案外家庭内では優しい一面があるとか、家族愛はここまで来ると異常ではないか、とか。在る事無い事好き勝手に妄想もここまで来ると関心するよなぁとか」
「……事実だってのか」
「どうにも事実でもおかしくないな、位の事だよ。実際そんな噂が踊った後ウィン家はちょっと、おかしくなった。嘘なら毅然として無反応でいいだろ?けど、テレジアを次期当主にって話が取り消されるのではないかって公式に囁かれるようになってね。それで、最終的には魔王討伐隊を率いろって話になってやっかい払い。その後テリオス……テリーが行方不明になった」
 なんだよナッツ、こいつ相当に事情分かってやがる。それ、今に知った事じゃねぇけどさ。

 分かってきたぞ、ナッツが俺達のパーティに加わってきた理由。
 ワイズがランドールの監視をしたのと同じだ。ナッツは、テリーを探してきたに違いない。行方知れずになった問題児のその後を何らかの理由で、探し出す必要があったんじゃねぇかと思う。
 割と最初から魔王討伐隊に加わる目論みはあったようだが、それよりテリーを探し出すのが先だったのではないかな?と俺はナッツの都合をそのように睨んでみる。
 きっと、こっそりナッツとテリーの間で密約があったんだろう。
 ファマメント国での事情はいっさいしゃべるな。だから、ナッツは何かファマメント国の事情を話すに都度、テリーの顔色を窺うんだ。

「実は……さ、」
 コーヒーをすすってナッツは小さくため息を漏らした。
「テニーにはウィン家次期当主って話、降りてないんだよ。なぜだか真っ直ぐテリオスが次の当主って話になっててさ。そこからして何かおかしい訳だろ」
 それは確かにおかしな話だ。
 俺はようやくカップを口に付け一口コーヒーを口に含む。
 んむ、美味い。
 脱力して俺は、深いため息を漏らす。鼻一杯に立ち上る香気を吸い込んで、至福の瞬間に浸った。
「ま、推測多き、だけど。……だからこの話はもぅ終わり」
 ナッツはさっさとコーヒーを飲み干してしまったようだが、俺は味わって飲むもんね。
「了解、テリーも詮索は望んでねぇだろ。終わり了解」
 ナッツは笑って空のカップを置く。
「お前のその、さばさばした態度は憧れるね」
「なんだそれ」
「僕は割とレッドに近しい所がある。あらゆる事を知っておきたいって願ってしまう。だからゴシップ紙も好んで読んでいたんだろうし。でもお前は、全てを知ろうとはあえてしないだろ。知らなくても良い事ってのを把握してあっさり切り捨てる。それで納得出来るのって疑問だけど……」
「知らなきゃ余計な事悩まなくて良いんだぜ」
「……成る程ね。どうにも頭の作りが違うみたいだ」
 バカにして言っているだろ?そのように俺が怪訝な顔を向けるとナッツは、憧れるって言っただろ、それはつまり羨ましいって事さって苦笑しながら言いやがった。
 そんでもってそのままの勢いでこんな事を聞いてくる。
「それで……アベルとはどうなった?」
 ……俺にとってはそれの方が何より話したくない話題だ。と、いつもならゲンナリするのだろうが思いの外そうでもなかった。
「そうだな……俺の暴走目の当たりにした訳だろ?何か言ってたか?……てゆーかなんであそこでレッドが?」
「お前自身がアベルに言った言葉忘れてない?あんな夜中に空が燃えてりゃ隣町のセイラードですぐに異変に気が付く。あの時すでに僕らは首都レイダーカへの移動に入ってたけど取り急ぎ、僕とレッドがエズに高飛びしたんだよ。本当はアービスとマーズは船に乗せてイシリ行きのつもりだったけど急遽、全員エズに移動する事にしたんだ」
「そうだった、よかった、異変には気が付いてちゃんと駆けつけてくれた訳だよな……はぁ。何が起ったかよくわかんねぇけどレッドには助けられたな」
「何が起ったのかさっぱりわからないって。アベルも同じ事言ってたよ。でも……」
「でも?」
「……ヤトが本当に赤旗感染を完全解消はしてなくて、魔王八逆星側に行っているという事実は目の当たりにしたわけで、なんだかようやく納得出来たかも、とか言ってたよ」
「………」
「ヤトはもうこっちには戻って来れないんだ、って。だから自分の事必死に拒否するんだなって、」
「……そっか。よかった」
「よくないよ」
 がっちり肩をつかまれ、ナッツさんてば。顔は笑っているが言葉が笑ってません。
「お前、言ったよな。ばっちりエズで決着付けてくるって」
 確かに、言いました、言っちゃいました。
「ついてないじゃん!」
「ついてないんじゃんて、付いたも同然だろ!やっと奴が俺を諦めたって事……じゃ、ないの?」
 ナッツから威圧気味に迫られ……自信なくなってきた。
「墓を見たら昔好きだった人を諦められたからきっと、ヤトのお墓を見たらそこで気持ちが落ち着くのかな?とか。そんな事を漏らしておりましたが!どうする?先にお墓作っておく?人間どーせいつかは死ぬんだから生きている間にお墓作っても何も問題は無いと思うよ?エジプトの王様も立派なお墓作ってるじゃない、生きているうちに!」
「一緒にすんな!落ち着け、落ち着けカイエン・ナッツ!ええと、とりあえず俺はいずれ死ぬんだからそんな血相変えて俺を責めなくても良いだろっ?それにあっちとこっちを混ぜるな!」
「心外な、混ぜてないよ」
「……何?」
 ナッツ、そこでようやく俺の肩から手を放してそっぽを向いて明らかに照れながら言った。
「僕は結構前から、アベルはツボだったよ」
「ツボ?」
「気の強い女の人に弱くてねぇ」
「はぁ、」
「なんか、割と好きみたいよ?」
 他人事みたいに言うなぁ……。いや、実際。

 俺と『俺』があるみたいに、ナッツの中でもどこか自分を観客的に見るような不思議な感覚があるんだろう。

「アベルを見ているとね」
 ……お前、そんな事やってたんですか。
「ずっと、お前を目で追っかけているのがスゴイわかるよ」
「……お前ら、ヒマな事してんなぁ」
「ヒマとは何だ。そもそもお前がいつも無茶をするからみんなみんな目が離せないんだろう!自分が今までやった事をよぉく胸に心を当てて思い出してみろ!」
「いたひ、いたひからふぉっぺをひっはらないでくりゃはい!」



 その後、色々あった。
 色々っつっても割と些細で、どーでもいい事だからあえてスキップしてリコレクトするけど。
 いや、ごめん。ぶっちゃけて言うと照れ隠しだ。察してくれ。

 まずランドールに会いに行って……そんで、ちゃんと話をしてみた。
 何って事じゃねぇけど言いたかった事はちゃんと奴に言ってやらなきゃなって思ってな。
 ウリッグ倒してねぇじゃんってまずつっこんで見た。まずそこはっきりさせないとな。
 ところがランドール、いや、間違いなく倒したとがんとして聞かない。
 それでよくよく事情を聞くに、ランドールはウリッグは『大蜘蛛』という認識しかしてねぇのな。だから、大蜘蛛をぶっ殺したらそれでウリッグは倒した事になってんだよ。
 基本的にはそうなんだよな。肉体が入れ物で容易く何かに乗り移る存在、なんてモノの方がイレギュラーだ。ランドールはウリッグに乗り移られていた事はちゃんと把握していなかったが……最期の最期でその気配には気が付いたらしい。
 今、ウリッグは完全にランドールの元から離れていった。シリアさんの話のよるとこのウリッグがランドールを乗っ取ろうとするのをなんかの薬品で押さえつけていたらしい。それが切れるだろう時間を察し、シリアさんは『時間が無い』と言ったのだ。
 それ、聞くにナドゥが作った怪しい薬品らしいぜ?
 ブツはすでに押収、リオさんに渡しているという。成分についてはナッツも一緒に分析してるはずだが、何も言って来ない所を見ると小細工は無い、シリアさんの言う通りの作用がある怪しいが悪質ではない薬品だったのかもしれんな。

 自分の故郷を大蜘蛛から、目の前で蹂躙された記憶が消えなかったとランドールは言っていた。
 しかし、ランドールはウリッグに執着したがそれが復讐だという感情だとは……理解出来ないらしい。
 奴には愛と憎の区別がつかねぇらしいんだ。
 それで、その事に自分でも気が付いている。
 なんとか区別を付けようとして執着を強め、自分のものにすれば何か変わるだろうかと奴も奴なりに必死なんだな。
 ところがそうやって突き詰めていくと愛と呼べる執着が存在しないような気がして……訳が分からなくなったそうだ。それで、奴は奴なりに悟ったと言いきった。自信満々にな!……その無駄に自信満々なのが問題だと俺は思う。

 ようするに執着に愛と憎という種類があるのはまやかしだ、ってな。

 そんなものは無いのだと、奴は……何か分からんが悟っちまったらしい。
 勝手に悟ってんなよと俺、つい突っ込んじまったら同じく、らしい。
 絞め殺しはしなかったけど無傷じゃなかった為、今はベッドの上から動けないランドールに、シリアさんがきっちり抱きつきながら言ってた。

 似ていてもそれは違うものだって。私だって損得なんか無くラン様が大好きです、ってさー。
 ああ、お熱いこって!その場にいるのもアホらしくなってとりあえず奴はそのまま放っておく事にした。

 奴の頭上の赤い旗。実はそれを確認に行ったんだが、やっぱり安易に剥がれたりはしないよなぁ。それは、ついたまんまだった。
 けどな、俺は思い直している。
 描いていた意見に大幅な改訂が必要だと思い始めている。

 赤い旗、あれはバグだって考え、止めてみたらどうだろう?

 もちろんそれは、俺自身を肯定したいからそういう事を言っている訳じゃない。そうじゃなくて、とりあえずあの赤い旗を世界は存在を許している。なら、あれはあれでこの世界に存在し続けても問題はない事かもしれないって考えたら、……どうなのだろうって思ったんだ。

 俺は、それを確認するために次に仲間達の所を訪ねる事にした。

 所が入り口でマツナギとばったり出くわしちゃって、何を話せばいいのかよく分からなくて俺は頭を下げていた。

 何に謝っているんだいってマツナギは、いつも通りに笑いながら聞いてくるんだけど。
 俺にはそのいつもの態度がちょっと辛い。察してほしいなぁ、でもそれって他力本願か。

 クオレを守れなくて悪かったと思っているって……答えた。
 今わかる。俺、すごい後悔をしている。
 もしかすれば殺さなくてもいい人を手に掛けたかもしれないって思い始めていて、それを相談しようって思い立った所でマツナギと出くわして。
 守るんじゃなかったのかって責められて俺は、酷い言い訳をしたなと思って……頭を下げる事しかできなかったんだ。

 それならあたしも謝るよって、俺が顔を上げた途端マツナギも腰を折って来た。
 俺の事情、マツナギはあの時……知らなかったって。
 それを理解もしないで自分の感情を押しつけたのは私の方だからお前は、謝らなくても良いって。
 そうやって遠慮無くその豊かな胸に俺を抱き留めてさ、やめてくださいよもぅ、こっちが真っ赤になるっつーの!
 それに、俺は。
 別に現状俺の気持ちなんて理解されなくてもいいと思っている。そうやってクオレの事も否定しちまったんだよなって漏らしたら、マツナギは言うんだ。

 理解出来るはずがないとか考えちゃダメだよ。
 みんな必死にお前の気持ちを理解したいんだから。その思いまで否定しちゃいけない事位もう、分かっているだろうって。
 そんな事言うんだ。

 ちょっと待ってくれよ。
 ……俺、こんな気持ちじゃ仲間と顔、会わせらんねぇ。

 それで俺は自室に逆戻りして、だな。まさか、理解される事がここまで心に突き刺さる事だとは思いも寄らなくってさ。
 布団被ってマジ泣きしてしまった。
 嬉しいの俺?違うよねたぶん、違うよな?わかんねぇ、
 もぅ、訳がわかんねぇけど切なくなって溜まらなかったんだよ!ああ、恥ずかしい!



 すっかり日が暮れた部屋で俺は目を覚まし以上の事をリコレクトし、そりゃぁもう自分を呆れ込んでる最中だ。
 だけどなんかすごいスッキリした。
 よくわかんねぇけど……、あ、でもまだ目ぇ腫れてんじゃね?いいや、明日まで不貞寝しちまえ。緊急事態なら叩き起こしてくれるだろ。
 そんな風に思っていたら突然部屋をノックする音が聞こえてきてびっくりしてしまう。
「……何だ?」
「起きてましたか」
 レッドの声だ。
「あー……ええと、」
 入れよと言うべきか入るなと言うべきか。返事をしてしまった事に今、後悔している俺がいる。
「お疲れでしょう、結果報告だけしておきましょうかと思いましてね。明日からまた忙しくなりますから……今日はもうお休みなさい」
 こっちの都合分かって言ってんのかなぁ?扉の向うでレッドの奴、例のニヤニヤした顔をしてそうでなんだか腹が立ってきた。起き上がってがっちり対面で事情説明でも受けようかと思ったがその前に、レッドは扉の外から言った。
「結果から言いますと、ギルの封印の下にギガースはいませんでしたよ」
「……なんだと?」
「ただし、トビラが在るようです」

 ……どういう事だ?

「転移扉です。門ではない、一方通行の悪質な仕掛けが在るらしい事が判明しました。死守して正解です。解放していたら貴方達、恐らくただでは済んでませんよ」
「じゃあ、ギガースはどこにいるんだ」
 俺は被っていた布団を抱える。
「恐らく……その扉の向こうでしょう」
「……ギガース本人がそこにいるんじゃなくて、ギガースが居る場所に繋がってるって事か?」
「察しがいいですね。僕もそう考えています」
 俺は一人頷いていた。
「封印を解く」
「ギガースを倒しに行くために?」
「ああ、そうだ。通用するかわからんけど今なら、ランドールも協力してくれるはずだろ。奴の力を試してみる価値あると思うが」
「……例え扉の先が中央大陸でも、ですか?」
 その答えに息を呑んだ。
 いや、知らなかった訳じゃない。さっきナッツが漏らしていた。
 そもそもギガースは中央大陸にいたんだ。そして、今もそこにいる。
 たどり着けば二度と戻って来れないと言われる謎の大陸に派遣された、第一次魔王討伐隊。
 だが奴らはちゃんと戻ってきた。

 ただし魔王八逆星という怪物になって、だけど。

「戻ってこれるだろ。魔王八逆星が戻ってきたんだ。そもそも、中央大陸に繋がる扉があるって事は、その印をあっちに刻んであるって事だろ?」
「そうです、そう云う事になると思います。ついでに言うと、トビラの先が中央大陸だとははっきりしていません。憶測で脅してみただけです」
 相変わらずいけしゃぁしゃぁと……。
「方法はあるはずだろ。行って……戻ってくる方法。絶対、どっかに」

 行き先が中央大陸かどうか、とか。それは迷う理由には成らない。
 迷いはない。行こう。
 でも本音は心に秘めておく。言葉にしなくても連中の事だ、分かっているだろ。
 俺の気持ちはぜぇんぶ、分かってくれやがるんだ。

 行って戻って来れなくても俺は、それでもいいって思っている。
 どうせ死んでいるんだ。どうせすでに怪物だ。今更怪物になって戻ってくるの、なんて全然怖くない。

 そんな俺の心構え。きっとみんな知ってるだろう。バレバレなんだ。

 きっと止めるだろうな……でも、俺は暴走キャラなんだよ。何が何でも俺はこの自分のキャラを裏切ったりはしない。

「俺が何を考えているか、分かっているんだろ」
 俺は静かに扉の向こうへ呼びかけた。
「ええ、賛同するかどうかは別として。貴方のその心構えはよく、分かっております」
 レッドの声は笑っている。
 ああ、ムカつくが何故か俺も同様に笑えたりする。
「では、おやすみなさい。その件は改めて明日話しましょう」

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