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11章 禁則領域 『異世界創造の主要』
書の6前半 英雄の最期『スタッフロールのその後に』
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■書の6前半■ 英雄の最期 After Credit
魔王軍の被害は少なからず出てしまった。完全に防ぐ事は今の状況では難しかった、という事だ。俺も一応納得したがそれでも、ため息が漏れる。
くそ、もう少し急いでいればもう少し、被害は最小限に出来ただろうか?
……過去を振り返っても今は変わらない。そりゃ分かってる、分かってるけど……それでもやっぱり何度も俺は過去を振り返っちまうんだよ。
目を閉じ右手を握りこんでみる。悔しさが残っているんだ、その腹いせにこのやり場のない憤りを拳に乗せて何かに叩き付けたい衝動を俺は必死に押さえこんでいた。
最善は尽くしたはず。全ては救えなかった、悔いはある……けどそれが現実だ。受け入れるしかない。
「僕は理解しかねますけどね」
「あ?何が」
ちょっとイライラしていたのでぶっきらぼうに聞き返すと、レッドは座り込んでいる芝生の地面を指さす。
「そんなに誰かを殴りたい気分なら、文句を言わないであろうここの地面にでも当たればよろしい」
う、俺の内心読むんじゃねぇよ。
「ですが、そうやって何かに暴力を振るって昇華する、そういうのは僕は理解しかねます、と言っているんです」
「ああ、そうか、よッ!」
俺はレッドにオススメされた通り、腹いせに地面を殴りつけた。
柔らかい土に拳がめり込むであろう感覚を期待したのだが。
「いってぇ!」
運悪くそこに石が埋まっていたらしく、俺は拳を押さえて思わず立ち上がって悶絶するハメに。
「……何も語らぬ大地も、時に手痛い反撃をするものですね」
「って、笑ってんじゃねぇ!ぐぉおおお!」
なまじ本気で地面を叩いただけに反撃も大きいって、ああ、おお、イテェ!しかし自業自得の様な気がして俺は自分が情けなくなってきた。
結局、暴力ってのは最終的に自分に跳ね返るものですよ、ってか!ああ、クソ!
俺が痛みを耐えてウロウロしているのを無視し、レッドは復興を急ぐ町の様子を眺めながら言った。
「普通に考えれば、魔王軍上陸から数時間でここまで爆発的な被害は出ないはずです。魔王軍を増やし得るホストが居たとしたって、大艦隊率いて攻め入ってきた訳ではないようです。使われたのはたった一隻の貨物船です」
「そうか、そう云われてみればあの船はラストラルツからの定期便じゃないよな、」
魔王軍が出ていた港は一番奥側の、倉庫が立ち並ぶ区画に着いていた。人を運ぶ船はもっと、町に近い手前に着くだろう。
かなりの被害は出たが、それでも町を壊滅させる様な事にはならなかった。多くの人が怪物となってイシュタル国中央に向かったが、その後しっかり軍が仕事をして、怪物たちは俺達が通った広いトンネルでほぼ制圧したとの事である。
被害が少なかったのは……ストアが使った船は魔王軍化の元となる人間が、すなわち搭乗している人が少ない商船だった事、町より少し遠い所に着いて魔王軍化はこれで、かなり少ない規模でしか起きなかった事。そんであの魔王軍化を伝播したヒルが、生物を見ると問答無用で飛び掛かるアブネー奴だったものの拡散能力はあまりなかった事。
ヒルじゃなくて、羽が付いてる虫系だったらかなりヤバかったろうと思う。
「貴方は十分間に合ったんですよ」
レッドの言葉に、俺は小さく頷いていた。最悪、湊町セイラード壊滅、って事も起こり得たのだ。この港はイシュタル国の玄関みたいなもんで、港の規模が大きく、大きな街が寄り添っている。そこの人間に全部赤い旗が灯ってしまったら……かつて、カルケード国でそうなっていたらどうしようと恐れた通りだ。
イシュタル国の軍隊と全面的な戦いになってセイラードは焦土と化すしかなかっただろう。
「東方ペランストラメールからではなく、西方から直接イシュタル国を目指す船をストアは使ったのでしょう。恐らくは、航海中にストアがその怪物を『出産』し、船員を魔王軍化して乗っ取ったのでしょうね。そしてそれをセイラードに入港させて例のヒルの怪物を船員にくっつけたまま港にばらまき、一気に感染を広げる……」
ストアは支配した船員達に予定通りセイラードへ入港を指示したのだろう、そいつが良い失敗になってる。彼らは『予定通り』倉庫街である街はずれに船を着けたのだろうな。
「僕らがこの通り到着に一日遅れて居ればどうなっていたか。貴方がギルの件で首都レイダーカと連絡を取らずにいたら、イシュタル国はストアの襲撃にこれだけ早く対処出来ていたかどうか」
「ああ、そうだな、」
ようやく痛みが引いてきたけど堪らなくなって籠手を外してグローブをとり、赤く腫れた拳を撫でてる俺。ちょっと内出血してそうだ。
けど、ナッツに治療して貰うにも見せるも、説明するも恥ずかしい怪我だなコレ……大した事なさそうだから我慢するか、トホホ。
「その怪物をストアは産んだ、と云う話でしたが」
「ああ、」
キモい話だ、と続けようとしたが……。
果たしてこれは生理的嫌悪だけだろうか。俺は逡巡しその言葉を止めていた。
……怪物として生まれたあの毛の怪物に、同情するなと俺はアインに言ったけど……今は、確実に少し……哀れみを感じているかもしれない。
今回セイラードを襲ったホストの怪物は、ストアとその息子だという怪物のみ。
魔王軍から魔王軍がネズミ講で増える訳じゃないのは今までも何度も説明しているよな?
下っ端である黒い怪物魔王軍から、魔王軍への感染はしない。
しかし今回ストアが『産んだ』怪物は、爆発的な感染力を血を吸うヒルを介する事で、ウイルスを伝播するのと似たような手段を用い実現させた。かつてはその展開を、ゾンビゲームお約束宜しく恐れた俺であるがそういう伝播は元来難しい事だったのかもしれないな。今回初めてストアは、爆発的パンデミックを興し得る怪物を『産んだ』のかもしれない。
「……もちろん、今回産んだ怪物の仕様を分かっていたから魔王八逆星連中は……いや。ナドゥは彼女らをイシュタル国に向かわせたんだよな」
俺は、止めた言葉をその様に言い直していた。
「どうでしょうね、そこはもう想像の域でしかありませんよ」
魔王八逆星、連中もまた被害者だ。本来奴らは大魔王ギガースを倒す側であったことはすでに知っている。そしてそれを諦めていない事もおおよそ把握している。だがその過程、奴らは怪物化した。自分でもそうとは知らずなのか、知っていて魔王八逆星などと開き直っているのか……。
どっちにしろ奴らは被害者だろう。
俺には今、そういう意識が少なからずある。アービス、クオレ、それにストア。
ナドゥ・DSを出発点としなんらかの悪意に引きずられているのではないか。魔王八逆星と呼ばれている者達が全面的に悪いんじゃなくて、それを操っている魔王八逆星側、……一番悪いのはギガースだと思っていたけどそうじゃなさそうだ。
恐らく……ナドゥ。
奴近辺がどうにも臭い。
そうでないというのなら一体誰が黒幕で、一体何が目的で赤い旗は世界にバラ撒かれるハメになってんだ。
いまだに俺達はそれを正確に把握できていない、事故だったのか、故意であるのか?
「ナドゥ以外にストアにイシュタル国を襲うように命令する奴はいると思うか?」
「いえ、いないと思います」
レッドは俺の言い直しによる主格の限定を否定せず、小さく頷く。
「ナドゥをディアス国で見かけたか」
「生憎と。接触していた人達は何人かいて、彼の命令で動いていた人も居ましたが本人はディアス国にはいなかったようです」
「カルケードにいるのか」
「……わかりません。それに、一人では無い可能性も在る訳でしょう」
俺はため息を漏らし、ようやく拳の痛みを落ち着かせて再び腰を下ろした。
「……これから、どうする」
「そうですね。まぁ、まず貴方の修羅場を終わらせるのが第一でしょう」
さらりと言われ、一瞬なんだそれと惚けそうになって思い出す。
思い出してしまう。
そうでした。
あっちのリアル、サトウ-ハヤトの修羅場は在る程度決着が付く気配を見せているのだが。
こっちの戦士ヤト事情では、アベルとの諍いがまだちゃんと終わっていない!
まだ俺は、アベルを完全に説得出来ていないんだよなぁ……。
というか、少なくともまだその返事を彼女から貰っていなかった。
緩やかにスキップを抜ける。
突然場が切り替わった、というイメージはすでにない。
こういう展開になるという前情報は仕入れている。正直、避けたい展開ではあるが何時までも逃げている訳にはいかない。避けがたい……それに至る経緯をすっかりオートにしておいて、俺は緩やかにその場に重なって行った。
「……悪かったよ」
「何が」
素っ気なく戻ってきた言葉に、この場におけるあらゆる言葉、行動、全てが否定されているような気配を感じてあっという間に俺は……不機嫌になった。なんでかよくわからんがムカついて来てしまった。
とはいえ、その気配を相手に悟られると即座拳が飛んでくるからな。なんでかって、俺も何でか教えて欲しい。
理屈ではない、仕様だ。
俺の目の前にいるのは赤い髪のアベル。
俺達がいるのは落ち着いた雰囲気の……決して、突然暴れて人を殴ったりなど出来ないような、シャレた雰囲気漂う静かな喫茶店内。
奴のあの嫌な『仕様』を防ぐに良い場所はないものかと、イズミヤに打診してなんとかセイラードの町はずれにあって営業している喫茶店をセッティングしてもらった。休業中だったけど無理言って開けてもらったんだ。
喫茶店に入るに鎧は着ません。かといって、今時の流行服とかも持ってないのでいつもの、ラフな姿なんだけど。
……アベルは何時も通りなんだよな。とはいえ流石に弱部を覆うプロテクター類は外している。
元々箱入りって事もあるし、まぁこれで『女の子』って事か。根無し草なのでそれ程数はないようだが、幾つか服は持っていて日々、精一杯のお洒落をしているのは知っていた。
そういうのに一応気が付くんだけど、男ってさ、決してそういうの口に出して言えない生物なんだよ……。今日の服はかわいいなとか似合ってるなとか、褒めたはずなののに何故だか良い顔をされなかったりするじゃんか。
うんまぁ、理屈は分かるよ。服はかわいいって何?って事だろ?
……服がお前に似合っていてかわいいかどうかを評価したんだから、なにも間違った事は言っていないはずなのだが……。
褒めたはずなのに褒めた事にならないのな。
女の機嫌は本当によくわからない。
すでにそのような奴の『仕様』を知っている俺は、少なくとも奴の御洒落に気が付いていても一切、口に出して評価出来ないでいる。
訳の分からない地雷踏む可能性の方が多くて怖いんだもん。だから見て見ぬ振りみたいな事をしてしまったりするのだ。
話題を探してそういう、女の子っぽい所を指摘してもいいものか。いや、やっぱり地雷かなぁ?
よくわかんねぇ……。
朝もまだ早く、先の魔王軍の闖入もある、まだ警戒は解かれていなくて、その所為で町はまだ混乱しているから客はいない。……客となる人達もそれどころじゃないだろうしな。勿論、野次馬もいないぞ。
俺は不機嫌な感情をなんとか揉み消そうと緩やかに息を吸い込み、ふっと窓の外に視線を泳がす。
ざっと見た所、外にも野次馬の気配はない。
とはいえ魔導師の連中と来たら『聞き耳』とか『遠見』とかいう魔法もデフォルトみたいに備えてるからな。
聞かれているとか見られているとか、気に掛けたらキリがないんだ。
忘れよう。俺はそのようにこの世界の仕組みを把握してしばし抱いた不機嫌を忘れる。
明るい日差しの入り込む窓際のプライベートルーム。
真面目に話そう。……地雷源に踏み込むのはその後にしよう。
「もっと言い方があるだろうって……アインにしこたま叱られたんだ」
自分に非があった事から始めたらどう、ってアドバイスを思い出してそっから切りだしてみる。
「……別に、良いわよ。今更何も期待はしない。昔からアンタはそうよ」
コーヒーが湯気を立てるカップを手に取ろうとしたのだが、俺はその手をその場で握る。
「……昔から変わらない……ね。確かにそうかもしれない、けどな」
俺はこちらを見ていないアベルの顔を見上げる。
「俺の昔をお前が知っているのはおかしいだろ」
何を言いたいのか、理解していないアベルではない。
その証拠に今更何を言うのだ、という呆れと失望を含んだ視線が俺を射抜いている。
「言っとくが、別に俺は逃げてるんじゃねぇぞ」
「何言ってんの。逃げてるじゃない」
便宜上『死んだ事』になって、その後改めてハジメマシテって感じでヤトが、アベルに会った事情でもって俺は、彼女との古い関連性を断ち切ろうとしている。すると決まって、彼女は逃げるなと言う。
俺は逃げているつもりはない。
これはけじめだ。
俺は『あいつ』ではないという、きっぱりとしたけじめのつもりだ。少なくとも俺の中ではそうなのだ。
それがきっと、彼女との間でねじれている所なのだろう。
いつもならムキになって言い返している所だけど今は、なんだかやけに冷静な俺。
「俺にとっては重要なんだよ。死んだ奴の縁まで背負って俺は、生きる事は出来ないししたくねぇ。俺は『あいつ』じゃない」
「やめて」
アベルはそう言ってカップを握っていた左手を伸ばして来た。
握り込んでいる俺の右手を押さえて、少し俯く。
「……そんな力一杯否定しないで」
なんか唐突だが……分かってきたかもしれない。
俺はアベルの左手を逆に掴む。
「エズに行ってもいいか?」
「え?」
「ちょっと付き合ってほしいトコがあるんだが。町の中には行かないから、近くだけど」
「何処に行くの」
「要するに、だ」
俺は左手でカップを掴んでコーヒーを飲み干す。
「お前はさ、認めたく無いんだろう。割と好きだった『あいつ』の死を」
そうかもしれない。
無言で俺の言葉を肯定するように俯くアベル。ああ、
否定はしないんだ。
ああ、割と好きだったんですか。へぇ。
……俺も人の事言えないけどな。誰かの事を『好きだ』と言うのに勇気がいる、なんて。なんでこんなに肩に力が入るのか俺も確かによくわからない。それと同じでアベルも、なんでそれを容易く口に出せないのか自分でも分かってないんだろうな。
「多分、奴の墓があると思うんだ」
「あるかしら?」
「どうだろうなぁ……あいつ罪人だし……。でも無縁に放置じゃ死霊を出す訳だから形式的な墓はあるはずだろ?……それを拝みに行こう。それで、認めるんだ。アイツは……死んだって事」
「それとアンタは……別問題なのよ」
「そうだな、別だ」
つまり行きたくない、と拒否されているのは分かる。
俺は結構強い力でアベルの手を引っ張っているつもりなのだが例の怪力でびくともしねぇし。
「でもお前は別だと考えられないんじゃないのか。俺とアイツが、今でも同じだと……履き違えてるんじゃないのか」
「………」
少し怯んだ、って事は図星って所か、成る程……。
認識出来ないのではない。したくないダケか。
俺は彼女が俺を見ていないのを良い事に少し目を伏せた。
そうか……。
アベルはアイツの死を受け入れたくなかったのか。
それ程に、アイツはアベルを悲しませたと云う事か。
アイツはきっと、いや……確実に。アベルの為を思ってと行動しただろうに……。
だからといって俺は、アイツのフリをするつもりはない。俺は俺だ、ヤト・ガザミだ。俺はアイツの代替じゃない。アイツの名前はヤトじゃない。
アイツは、GM。ジーエム、あるいは……ジムと呼ばれていた。
名前のない、その果てにグリーン・モンスターという名前を貰ってしまったアイツは死んだ。
GMという記号じみた名前を墓に刻み、この世界から消えたんだ。
例えそのGMの経験を俺が今共有していても俺は、アイツが抱いていた思いまで履き違えるつもりはない。
好き嫌いで言ったら即答出来る。俺はアベルが好きではない。むしろ嫌いだ。
ぶっちゃけると俺が好きなものなんて限られている。
コーヒー、可愛いもの、アインさん、俺よりもいろんな意味で強い人、特に云うと強い年上の女性、気の許せる友人、および戦友。
そんくらい。
それ以外は『好きではない』なんて詭弁を翻すつもりはない。嫌いだ、嫌いでいい。
心の奥底に全てがどうでもいい、大切なもの以外どうなってもいいと考えてしまいそうになる危うい感情がちらついているのを知っている。俺も、アービスの事をあんまり悪く言えないのかもしれない。自分がああいう風に成りたくないから手厳しく言っちまっただけかもしれないな。
この感情がどういうものなのか、俺にはよく分からない。
どういう感情に繋がっているのか正直分からなくて困惑している所はある。
『好き嫌い』と、『大切にしたい』は別だ。
別だと思う。
まるで自分を言い聞かせるように感情整理しながら俺は、アベルの手を引いて席を立ち上がる。
「馬を使っても往復一日かかるけど、その暇はもぎ取ってくるから」
「……そこまでしてアンタは、生きたくないの?」
誰に向けてアンタと呼びかけられているのか俺は分かっている。それは、ようするに俺の中では確実に『死んだ』事になっているアイツに向けて……アベルは言っているんだろう。
そんなにアイツを生かしておきたくないのか?
俺ではない、別だと認識して久しいだけにまさか、アイツの方が俺の本質で、本物と思われているのかと一瞬迷って言葉が濁る。
「それは、……」
……いや、迷いはない。今更迷ってたまるか。
「……俺は別に死にたいわけじゃねぇよ」
レッドじゃあるまいし……。アベルの意図をわざと無視して俺は俺の言葉で答えた。
決心して顔を上げようとしたところ誰かの幻聴が聞こえたような気がする。
バカ正直に答えないの。
って、これはアインの言葉だろうなぁ。苦笑が漏れる。こう言う時こそ嘘だと相手にバレてもいいから上手い事を言えって、怒られたんだっけ。
「……生きる努力はする。けどな、何をしたってもうマトモな生き方は出来ない事は目に見えてんだろ?俺は、俺の事情にお前を巻き込みたくないんだ」
「あたしはあたしの事情に……!」
言葉の続きは分かる。
俺を、あるいは『アイツ』を巻き込んだのに?
「俺はアイツじゃないんだぜ」
自分で混同させていると認めるようなもんだ。それに気が付いてアベルは途中で言葉を止めたんだろう。
「お前には酷かもしれねぇけど……ちゃんと認めて欲しい。これは、俺の意見だ。俺がアイツだったらそう思うだろうなって事。認めてくれ、お前はお前の事情にアイツを巻き込んでアイツを、死なせたって事」
ぎゅっと体が締め付けられる感覚に、俺は一瞬胸ぐら掴まれたのかと思ったのだがそうではなく、俺の胸のあたりを両手で掴みアベルは息を詰まらせていた。もう一歩間違うと胸ぐら掴んで脅してるポーズだが、ちょっとだけ違う。
これは、俺の言葉を止めたくて、つい殴る為に出てしまった手を、必死に自分で封じているのだ。
「……言わないで」
「それが、お前にとって一番重いんだろ」
アベルは無言で頷いていた。
うむ、一歩前進だ。
冷静に話し合いが成立すれば多少は理解してもらえるもんなんだなぁ。いや、事前にマツナギとかアインで在る程度の宥め賺しがあったからかもしれないけれど。
ふっと、思い出してはいけない記憶をリコレクトする。
頭一つ、俺より背の低い彼女を見下ろして……彼女は……こんなに小さかったかな?そんな感覚を思い出している。
彼女の事は、ずっと見上げていたように記憶するのはなぜだろうと、静かに思い出した過去に蓋をする。
癖のある赤い髪に触れてみて、恐る恐る梳いた。
「……悪かったよ」
俺もあの時死ねば良かったんだ。
そうしていればここまで彼女を混乱させ、混同させ、履き違えさせて苦しめる事はなかっただろう。
あと、今のこの実にめんどっちい状態になって、生きるも死ぬも苦労するなんて状態に陥ってもいなかっただろう。すくなくとも今の状態は無かったろう。
……当たり前だ。
今とは過去の積み重なりが導き誘う一つの結果で、これからの未来を指し示す過去へと積み重ねられていくものなんだから。
ところがいくら過去を振り返った所で今現在は変わらない。
こんなプロファイルに誰が設定した。過去何か選択を変えていれば俺の、ヤト・ガザミの今は変わったのか。今よりは幾分マシになったのか。
……きっと状況が変わるだけでマシには成らないんだろう。
ほら、だって。俺の中の人がアレだろう?
どうせ何度も同じような事を反復するんだ。現実にあった事を夢に反転させ、何度も後悔してはやりなおしたいという願望を元に、さ。
馬を貸してくれ、あと、ついでに1日ヒマをくれ。出来れば2日くれ。
そう言ったら全員から露骨に嫌な顔された。
「何してくるんですか」
「何してくるんだい」
「ナニしてくるんですか?」
「良いご身分ね」
リオさんだけ別の言い回しにしてくれたけど、どっちみち酷い事言われた気がします。
「いやほら、わだかまりあるままだと今後に響くっつーか?」
「わだかまりなんて最初からあったでしょうに。何か今まで問題ありましたか?」
「恋愛なんてね、世界を救う勇者の旅には必要不可欠じゃない、どこまでもオマケ要素なんだよ」
微笑んだまま辛辣な事言うだけに、何らかの恨みがこもっているナッツのぼやきを聞きつけたワイズが苦笑を洩らした。
「代理、なんかいつになく辛辣ですがどうしましたか」
それで遠慮なく不機嫌な表情に変わったナッツは、茶化してきたワイズを横目睨んでから……俺の腕を捕まえて部屋の隅へ。
小声で俺をせっつく。
「なんだよ、全面バックアップの話は?」
「おいこら、それはアッチの話だ。それにお前まだ何もアクション起こしてねぇだろうが」
部屋の隅で込み入った『俺達』の話をヒソヒソ。
「そんな事無い、僕だって色々努力しているしそれは……」
「……とにかく、これですっぱりきっぱり縁切ってくるから、な?」
リアル事情も良い具合に混じったような話をつけて……定位置に戻る。
レッドは俺達の事情を見なかった事にして話を続けた。
「それで、アベルさんは納得してくれそうなのですか」
「正直に言うと……別に理解させなくても良いのかなっても思うんだけどな。でもそれは俺が……真っ当に生きていればの話だ。存在が弄くられて代替になっているこの状況だろ?何が出てきても、どんな悪辣な罠があってもちゃんと、アベルがそいつを回避出来るようにしてやりたいじゃねぇか」
レッドは少し視線を天井に上げた。
俺が何を警戒し、どんな状況を想定しているのか、奴なら分かってくれるだろう。
「確かに、それは一理あります。あからさまな罠は仕掛けられていると考えて良いでしょう。貴方の『形』を利用した精神的な揺さぶりが無いとは言い切れません。それに一番動揺するのはアベルさんかもしれませんね」
「お前は?」
「何で僕が動揺しないといけないんですか」
にっこり笑いながら即答すんな。そーいうのが腹黒いってんだよ!
確かに、お前はそう云う事に精神を一々かき乱されるような事は絶っ対に無いんだろうな!ああ、分かってますよ!一応聞いただけです!
「じゃぁ許可するつもり?」
リオさんが腕を組む。彼女のこの動作、何らかの意思表示が混じっているよな。一種のストレス、緊張を感じ取って俺はレッドとナッツを振り返る。
「何か問題あるのか?」
「実はですね、カルケードの方から連絡が入りまして」
「ランドール・ブレイブが予測通り、貴方をダシにして南国侵略を始めたのだそうです」
「何!?」
まぁ慌てずに、とレッドは俺を止めるように掌をこちらに向ける。
「これは殆ど予測した通りの事ですので今の所問題はありません。問題なのは……別働隊がこちらに向かっているという情報の方です」
「別働隊?ランドール・ブレイブのか」
「要するにだね、ランドール本人がこっちに向かってる~みたいな話が聞こえてきていてね」
ナッツがのほほんと言った言葉に俺は、目を瞬く。少し間を開けたのは思考が間に挟まっているからと思いねぇ。
「何時の情報だそれは!?」
「要するに貴方はランドールらしい別働隊とやらが何時、こちらに来るのかを知りたい訳ですよね。ええ、答えられるならはっきりお教えしたい所なのですが残念ながら、分かりません。おかげさまでイシュタル国を出て次の目的地に向かいたい所なのですが、これでは国を出るに出れません。ランドールがどのように振る舞うのか全く予測が出来ませんね困った困った……と、今話し合っていた所なのです」
「で、どうするつもりだ」
「だからそれを今話し合っているんだってば」
「時間を掛けなきゃ結論が出ねぇのか?」
少々横暴と知りつつも俺はそのように軍師連中をたきつけてみる。すると各々、用意していた答えを目配せで確認しあった。
「タイミング的に見て、ストアが目的果たせず倒されたという情報を確認する前にランドールは動いている事になるだろう。だから何を目的としてこっちに向かっているのか、それが分からない」
「けど、坊ちゃん……いや、あのランドールがこの国に来て、横暴を働かないという保証がない。むしろ危険だ」
「何をしでかすか分からない……私達は変容した彼の目的をまだはっきりと把握出来ていないわ。彼が何を目指しているのか、それを知るためにも今一度、彼に会いたいと願っている」
「そも、彼が本当にここに来るのか、というのが保証されている情報ではありません。しかし可能性が少しでもある限り、彼という存在を無視するような選択肢は選ぶべきではないでしょう」
ナッツ、ワイズ、リオさん、レッドがそれぞれに見解を述べ、その後に代表してレッドが答える。
「暫らく、イシュタル国に残ります」
その決断に俺は無言で頷いた。
「我々は貴方と別行動になっている間、ランドールから何らかの横やりが入ってくる事を予測して動いていました。こちらにはどうにも、ランドールにとって不都合な事実を把握しているワイズさんが居ますからね。しかし結局ランドールとの接触は出来ずにいました」
俺はグランソール・ワイズを振り返る。
「奴に命を狙われる、その心当たりは何なんだ」
「恐らく、出生についての事と思いますよ」
真面目な顔は出来ない性分らしく、ワイズはにっこり笑って腕を組んだ。いや、長い前髪で顔の半分も見えない。口が笑っているだけで目はマジかもしれねぇけどな。
「前にも説明した通り……彼は破壊魔王に滅ぼされたオーンの出身でして。なんで滅ぼされたのかという事実はかなりファマメント政府で隠蔽していて……詳細は僕も調べきる事が出来なかった。要するに政府で隠している訳だ、オーンという町自体が秘密裏に『王の器』研究に使われていたって事を。ランドールは自分がそれである事は知っているが、あまり知られたくない事でもあるようなんだ」
ワイズの笑っている口元が少し寂しさを演出する。……俺は演出だと思います。
「それが彼の背負う、誰かに触れてほしくない……決してふさがる事のない傷口みたいなものなんでしょうねぇ」
「……その、王の器ってのは何だ」
「さぁね、」
惚けられて真面目に答えろよ、と俺はワイズを睨む。
「作戦名みたいで詳細までは僕には。それはウィン家の方がよく知っている事だと思うよ。しかし長らくその、王の器と呼ばれる人物……つまりランドールを観察していて観客的に推測はできる。天使教では王の器、ようするに彼をだね、ファマメント政府は『シュラード神』の後釜に据えようとしている、と……推測するねぇ」
すぐには理解できない単語が出てきました。リコレクト。
シュラード神、要するに……西方位神シュラードか。ディアス国の中心にすえられている『西教』における主神の名前でもあり、確かディアスを建国した王の名前でもあるんだっけ。違和感があるな、ええっと……ああ、ファマメント国の宗教は西教じゃねぇじゃん、天使教だから崇める神様が違うくねぇか!?
「おいおい、ファマメント国は西教を異端扱いにしてんだろ?」
「政府的に言えば宗教ってのは『使えるならば』何だっていいんだよ。ようするにだねぇ、ウチら天使教の権力が未だに強い事にファマメント政府は不満を抱いている訳ね」
「……よくわかんねぇ」
俺はレッドに助けを求める。
「政治の手法というものは色々あります。パターン化して説明するとすれば政治は国を規律化し国を定める物。指導力と影響力の強い者が国というものを纏める事です。国に向けて、安定した社会を約束し、平和に暮らせるように様々な調整を行う事。……属する全ての人になのか、権利者だけに約束するのかは国の方針によります」
例の腹黒い笑みでよけいな事を言ってから、レッドは続ける。
「また、二者間で起った問題に決着が付かない時に第三者として介入し解決させる事なども含まれるでしょう。この政治に、宗教という『魂の救済』という側面を持たせた方が良いのか、別にした方が良いのかというのは割と需要菜問題であったりするのです。しかし政治手腕を行う者に、人民の平和よりも人民の征服という側面が強くなれば……宗教は、人民を操るに都合の良い道具になる場合もある」
俺は必死に悩んでから聞いた。
「……ファマメント政府は自分の国にある宗教、天使教を道具として使いたいが、使えない。それが不満だって事か?」
ワイズはそんなとトコですと口だけ笑って答えた。
「それで、天使教に変わる宗教を作ろうとしている。というか……現段階その『王の器』関連は宗教と認識されている訳じゃないんですけど。要するにその後宗教に姿を変えるだろうと僕は推測している訳だね」
「シュラード神は元々一国の王と言われます。その後、神という属性に置き換わり彼を奉る行為は政治ではなく、宗教になりました。それがシュラードを神と奉る西教です」
回転の悪い頭を可能な限りフル回転させようと必死な俺。
つまり、その『王からいずれ神になる』という西教の成り立ちの手法を、ランドールを使って模すって事か?
魔王軍の被害は少なからず出てしまった。完全に防ぐ事は今の状況では難しかった、という事だ。俺も一応納得したがそれでも、ため息が漏れる。
くそ、もう少し急いでいればもう少し、被害は最小限に出来ただろうか?
……過去を振り返っても今は変わらない。そりゃ分かってる、分かってるけど……それでもやっぱり何度も俺は過去を振り返っちまうんだよ。
目を閉じ右手を握りこんでみる。悔しさが残っているんだ、その腹いせにこのやり場のない憤りを拳に乗せて何かに叩き付けたい衝動を俺は必死に押さえこんでいた。
最善は尽くしたはず。全ては救えなかった、悔いはある……けどそれが現実だ。受け入れるしかない。
「僕は理解しかねますけどね」
「あ?何が」
ちょっとイライラしていたのでぶっきらぼうに聞き返すと、レッドは座り込んでいる芝生の地面を指さす。
「そんなに誰かを殴りたい気分なら、文句を言わないであろうここの地面にでも当たればよろしい」
う、俺の内心読むんじゃねぇよ。
「ですが、そうやって何かに暴力を振るって昇華する、そういうのは僕は理解しかねます、と言っているんです」
「ああ、そうか、よッ!」
俺はレッドにオススメされた通り、腹いせに地面を殴りつけた。
柔らかい土に拳がめり込むであろう感覚を期待したのだが。
「いってぇ!」
運悪くそこに石が埋まっていたらしく、俺は拳を押さえて思わず立ち上がって悶絶するハメに。
「……何も語らぬ大地も、時に手痛い反撃をするものですね」
「って、笑ってんじゃねぇ!ぐぉおおお!」
なまじ本気で地面を叩いただけに反撃も大きいって、ああ、おお、イテェ!しかし自業自得の様な気がして俺は自分が情けなくなってきた。
結局、暴力ってのは最終的に自分に跳ね返るものですよ、ってか!ああ、クソ!
俺が痛みを耐えてウロウロしているのを無視し、レッドは復興を急ぐ町の様子を眺めながら言った。
「普通に考えれば、魔王軍上陸から数時間でここまで爆発的な被害は出ないはずです。魔王軍を増やし得るホストが居たとしたって、大艦隊率いて攻め入ってきた訳ではないようです。使われたのはたった一隻の貨物船です」
「そうか、そう云われてみればあの船はラストラルツからの定期便じゃないよな、」
魔王軍が出ていた港は一番奥側の、倉庫が立ち並ぶ区画に着いていた。人を運ぶ船はもっと、町に近い手前に着くだろう。
かなりの被害は出たが、それでも町を壊滅させる様な事にはならなかった。多くの人が怪物となってイシュタル国中央に向かったが、その後しっかり軍が仕事をして、怪物たちは俺達が通った広いトンネルでほぼ制圧したとの事である。
被害が少なかったのは……ストアが使った船は魔王軍化の元となる人間が、すなわち搭乗している人が少ない商船だった事、町より少し遠い所に着いて魔王軍化はこれで、かなり少ない規模でしか起きなかった事。そんであの魔王軍化を伝播したヒルが、生物を見ると問答無用で飛び掛かるアブネー奴だったものの拡散能力はあまりなかった事。
ヒルじゃなくて、羽が付いてる虫系だったらかなりヤバかったろうと思う。
「貴方は十分間に合ったんですよ」
レッドの言葉に、俺は小さく頷いていた。最悪、湊町セイラード壊滅、って事も起こり得たのだ。この港はイシュタル国の玄関みたいなもんで、港の規模が大きく、大きな街が寄り添っている。そこの人間に全部赤い旗が灯ってしまったら……かつて、カルケード国でそうなっていたらどうしようと恐れた通りだ。
イシュタル国の軍隊と全面的な戦いになってセイラードは焦土と化すしかなかっただろう。
「東方ペランストラメールからではなく、西方から直接イシュタル国を目指す船をストアは使ったのでしょう。恐らくは、航海中にストアがその怪物を『出産』し、船員を魔王軍化して乗っ取ったのでしょうね。そしてそれをセイラードに入港させて例のヒルの怪物を船員にくっつけたまま港にばらまき、一気に感染を広げる……」
ストアは支配した船員達に予定通りセイラードへ入港を指示したのだろう、そいつが良い失敗になってる。彼らは『予定通り』倉庫街である街はずれに船を着けたのだろうな。
「僕らがこの通り到着に一日遅れて居ればどうなっていたか。貴方がギルの件で首都レイダーカと連絡を取らずにいたら、イシュタル国はストアの襲撃にこれだけ早く対処出来ていたかどうか」
「ああ、そうだな、」
ようやく痛みが引いてきたけど堪らなくなって籠手を外してグローブをとり、赤く腫れた拳を撫でてる俺。ちょっと内出血してそうだ。
けど、ナッツに治療して貰うにも見せるも、説明するも恥ずかしい怪我だなコレ……大した事なさそうだから我慢するか、トホホ。
「その怪物をストアは産んだ、と云う話でしたが」
「ああ、」
キモい話だ、と続けようとしたが……。
果たしてこれは生理的嫌悪だけだろうか。俺は逡巡しその言葉を止めていた。
……怪物として生まれたあの毛の怪物に、同情するなと俺はアインに言ったけど……今は、確実に少し……哀れみを感じているかもしれない。
今回セイラードを襲ったホストの怪物は、ストアとその息子だという怪物のみ。
魔王軍から魔王軍がネズミ講で増える訳じゃないのは今までも何度も説明しているよな?
下っ端である黒い怪物魔王軍から、魔王軍への感染はしない。
しかし今回ストアが『産んだ』怪物は、爆発的な感染力を血を吸うヒルを介する事で、ウイルスを伝播するのと似たような手段を用い実現させた。かつてはその展開を、ゾンビゲームお約束宜しく恐れた俺であるがそういう伝播は元来難しい事だったのかもしれないな。今回初めてストアは、爆発的パンデミックを興し得る怪物を『産んだ』のかもしれない。
「……もちろん、今回産んだ怪物の仕様を分かっていたから魔王八逆星連中は……いや。ナドゥは彼女らをイシュタル国に向かわせたんだよな」
俺は、止めた言葉をその様に言い直していた。
「どうでしょうね、そこはもう想像の域でしかありませんよ」
魔王八逆星、連中もまた被害者だ。本来奴らは大魔王ギガースを倒す側であったことはすでに知っている。そしてそれを諦めていない事もおおよそ把握している。だがその過程、奴らは怪物化した。自分でもそうとは知らずなのか、知っていて魔王八逆星などと開き直っているのか……。
どっちにしろ奴らは被害者だろう。
俺には今、そういう意識が少なからずある。アービス、クオレ、それにストア。
ナドゥ・DSを出発点としなんらかの悪意に引きずられているのではないか。魔王八逆星と呼ばれている者達が全面的に悪いんじゃなくて、それを操っている魔王八逆星側、……一番悪いのはギガースだと思っていたけどそうじゃなさそうだ。
恐らく……ナドゥ。
奴近辺がどうにも臭い。
そうでないというのなら一体誰が黒幕で、一体何が目的で赤い旗は世界にバラ撒かれるハメになってんだ。
いまだに俺達はそれを正確に把握できていない、事故だったのか、故意であるのか?
「ナドゥ以外にストアにイシュタル国を襲うように命令する奴はいると思うか?」
「いえ、いないと思います」
レッドは俺の言い直しによる主格の限定を否定せず、小さく頷く。
「ナドゥをディアス国で見かけたか」
「生憎と。接触していた人達は何人かいて、彼の命令で動いていた人も居ましたが本人はディアス国にはいなかったようです」
「カルケードにいるのか」
「……わかりません。それに、一人では無い可能性も在る訳でしょう」
俺はため息を漏らし、ようやく拳の痛みを落ち着かせて再び腰を下ろした。
「……これから、どうする」
「そうですね。まぁ、まず貴方の修羅場を終わらせるのが第一でしょう」
さらりと言われ、一瞬なんだそれと惚けそうになって思い出す。
思い出してしまう。
そうでした。
あっちのリアル、サトウ-ハヤトの修羅場は在る程度決着が付く気配を見せているのだが。
こっちの戦士ヤト事情では、アベルとの諍いがまだちゃんと終わっていない!
まだ俺は、アベルを完全に説得出来ていないんだよなぁ……。
というか、少なくともまだその返事を彼女から貰っていなかった。
緩やかにスキップを抜ける。
突然場が切り替わった、というイメージはすでにない。
こういう展開になるという前情報は仕入れている。正直、避けたい展開ではあるが何時までも逃げている訳にはいかない。避けがたい……それに至る経緯をすっかりオートにしておいて、俺は緩やかにその場に重なって行った。
「……悪かったよ」
「何が」
素っ気なく戻ってきた言葉に、この場におけるあらゆる言葉、行動、全てが否定されているような気配を感じてあっという間に俺は……不機嫌になった。なんでかよくわからんがムカついて来てしまった。
とはいえ、その気配を相手に悟られると即座拳が飛んでくるからな。なんでかって、俺も何でか教えて欲しい。
理屈ではない、仕様だ。
俺の目の前にいるのは赤い髪のアベル。
俺達がいるのは落ち着いた雰囲気の……決して、突然暴れて人を殴ったりなど出来ないような、シャレた雰囲気漂う静かな喫茶店内。
奴のあの嫌な『仕様』を防ぐに良い場所はないものかと、イズミヤに打診してなんとかセイラードの町はずれにあって営業している喫茶店をセッティングしてもらった。休業中だったけど無理言って開けてもらったんだ。
喫茶店に入るに鎧は着ません。かといって、今時の流行服とかも持ってないのでいつもの、ラフな姿なんだけど。
……アベルは何時も通りなんだよな。とはいえ流石に弱部を覆うプロテクター類は外している。
元々箱入りって事もあるし、まぁこれで『女の子』って事か。根無し草なのでそれ程数はないようだが、幾つか服は持っていて日々、精一杯のお洒落をしているのは知っていた。
そういうのに一応気が付くんだけど、男ってさ、決してそういうの口に出して言えない生物なんだよ……。今日の服はかわいいなとか似合ってるなとか、褒めたはずなののに何故だか良い顔をされなかったりするじゃんか。
うんまぁ、理屈は分かるよ。服はかわいいって何?って事だろ?
……服がお前に似合っていてかわいいかどうかを評価したんだから、なにも間違った事は言っていないはずなのだが……。
褒めたはずなのに褒めた事にならないのな。
女の機嫌は本当によくわからない。
すでにそのような奴の『仕様』を知っている俺は、少なくとも奴の御洒落に気が付いていても一切、口に出して評価出来ないでいる。
訳の分からない地雷踏む可能性の方が多くて怖いんだもん。だから見て見ぬ振りみたいな事をしてしまったりするのだ。
話題を探してそういう、女の子っぽい所を指摘してもいいものか。いや、やっぱり地雷かなぁ?
よくわかんねぇ……。
朝もまだ早く、先の魔王軍の闖入もある、まだ警戒は解かれていなくて、その所為で町はまだ混乱しているから客はいない。……客となる人達もそれどころじゃないだろうしな。勿論、野次馬もいないぞ。
俺は不機嫌な感情をなんとか揉み消そうと緩やかに息を吸い込み、ふっと窓の外に視線を泳がす。
ざっと見た所、外にも野次馬の気配はない。
とはいえ魔導師の連中と来たら『聞き耳』とか『遠見』とかいう魔法もデフォルトみたいに備えてるからな。
聞かれているとか見られているとか、気に掛けたらキリがないんだ。
忘れよう。俺はそのようにこの世界の仕組みを把握してしばし抱いた不機嫌を忘れる。
明るい日差しの入り込む窓際のプライベートルーム。
真面目に話そう。……地雷源に踏み込むのはその後にしよう。
「もっと言い方があるだろうって……アインにしこたま叱られたんだ」
自分に非があった事から始めたらどう、ってアドバイスを思い出してそっから切りだしてみる。
「……別に、良いわよ。今更何も期待はしない。昔からアンタはそうよ」
コーヒーが湯気を立てるカップを手に取ろうとしたのだが、俺はその手をその場で握る。
「……昔から変わらない……ね。確かにそうかもしれない、けどな」
俺はこちらを見ていないアベルの顔を見上げる。
「俺の昔をお前が知っているのはおかしいだろ」
何を言いたいのか、理解していないアベルではない。
その証拠に今更何を言うのだ、という呆れと失望を含んだ視線が俺を射抜いている。
「言っとくが、別に俺は逃げてるんじゃねぇぞ」
「何言ってんの。逃げてるじゃない」
便宜上『死んだ事』になって、その後改めてハジメマシテって感じでヤトが、アベルに会った事情でもって俺は、彼女との古い関連性を断ち切ろうとしている。すると決まって、彼女は逃げるなと言う。
俺は逃げているつもりはない。
これはけじめだ。
俺は『あいつ』ではないという、きっぱりとしたけじめのつもりだ。少なくとも俺の中ではそうなのだ。
それがきっと、彼女との間でねじれている所なのだろう。
いつもならムキになって言い返している所だけど今は、なんだかやけに冷静な俺。
「俺にとっては重要なんだよ。死んだ奴の縁まで背負って俺は、生きる事は出来ないししたくねぇ。俺は『あいつ』じゃない」
「やめて」
アベルはそう言ってカップを握っていた左手を伸ばして来た。
握り込んでいる俺の右手を押さえて、少し俯く。
「……そんな力一杯否定しないで」
なんか唐突だが……分かってきたかもしれない。
俺はアベルの左手を逆に掴む。
「エズに行ってもいいか?」
「え?」
「ちょっと付き合ってほしいトコがあるんだが。町の中には行かないから、近くだけど」
「何処に行くの」
「要するに、だ」
俺は左手でカップを掴んでコーヒーを飲み干す。
「お前はさ、認めたく無いんだろう。割と好きだった『あいつ』の死を」
そうかもしれない。
無言で俺の言葉を肯定するように俯くアベル。ああ、
否定はしないんだ。
ああ、割と好きだったんですか。へぇ。
……俺も人の事言えないけどな。誰かの事を『好きだ』と言うのに勇気がいる、なんて。なんでこんなに肩に力が入るのか俺も確かによくわからない。それと同じでアベルも、なんでそれを容易く口に出せないのか自分でも分かってないんだろうな。
「多分、奴の墓があると思うんだ」
「あるかしら?」
「どうだろうなぁ……あいつ罪人だし……。でも無縁に放置じゃ死霊を出す訳だから形式的な墓はあるはずだろ?……それを拝みに行こう。それで、認めるんだ。アイツは……死んだって事」
「それとアンタは……別問題なのよ」
「そうだな、別だ」
つまり行きたくない、と拒否されているのは分かる。
俺は結構強い力でアベルの手を引っ張っているつもりなのだが例の怪力でびくともしねぇし。
「でもお前は別だと考えられないんじゃないのか。俺とアイツが、今でも同じだと……履き違えてるんじゃないのか」
「………」
少し怯んだ、って事は図星って所か、成る程……。
認識出来ないのではない。したくないダケか。
俺は彼女が俺を見ていないのを良い事に少し目を伏せた。
そうか……。
アベルはアイツの死を受け入れたくなかったのか。
それ程に、アイツはアベルを悲しませたと云う事か。
アイツはきっと、いや……確実に。アベルの為を思ってと行動しただろうに……。
だからといって俺は、アイツのフリをするつもりはない。俺は俺だ、ヤト・ガザミだ。俺はアイツの代替じゃない。アイツの名前はヤトじゃない。
アイツは、GM。ジーエム、あるいは……ジムと呼ばれていた。
名前のない、その果てにグリーン・モンスターという名前を貰ってしまったアイツは死んだ。
GMという記号じみた名前を墓に刻み、この世界から消えたんだ。
例えそのGMの経験を俺が今共有していても俺は、アイツが抱いていた思いまで履き違えるつもりはない。
好き嫌いで言ったら即答出来る。俺はアベルが好きではない。むしろ嫌いだ。
ぶっちゃけると俺が好きなものなんて限られている。
コーヒー、可愛いもの、アインさん、俺よりもいろんな意味で強い人、特に云うと強い年上の女性、気の許せる友人、および戦友。
そんくらい。
それ以外は『好きではない』なんて詭弁を翻すつもりはない。嫌いだ、嫌いでいい。
心の奥底に全てがどうでもいい、大切なもの以外どうなってもいいと考えてしまいそうになる危うい感情がちらついているのを知っている。俺も、アービスの事をあんまり悪く言えないのかもしれない。自分がああいう風に成りたくないから手厳しく言っちまっただけかもしれないな。
この感情がどういうものなのか、俺にはよく分からない。
どういう感情に繋がっているのか正直分からなくて困惑している所はある。
『好き嫌い』と、『大切にしたい』は別だ。
別だと思う。
まるで自分を言い聞かせるように感情整理しながら俺は、アベルの手を引いて席を立ち上がる。
「馬を使っても往復一日かかるけど、その暇はもぎ取ってくるから」
「……そこまでしてアンタは、生きたくないの?」
誰に向けてアンタと呼びかけられているのか俺は分かっている。それは、ようするに俺の中では確実に『死んだ』事になっているアイツに向けて……アベルは言っているんだろう。
そんなにアイツを生かしておきたくないのか?
俺ではない、別だと認識して久しいだけにまさか、アイツの方が俺の本質で、本物と思われているのかと一瞬迷って言葉が濁る。
「それは、……」
……いや、迷いはない。今更迷ってたまるか。
「……俺は別に死にたいわけじゃねぇよ」
レッドじゃあるまいし……。アベルの意図をわざと無視して俺は俺の言葉で答えた。
決心して顔を上げようとしたところ誰かの幻聴が聞こえたような気がする。
バカ正直に答えないの。
って、これはアインの言葉だろうなぁ。苦笑が漏れる。こう言う時こそ嘘だと相手にバレてもいいから上手い事を言えって、怒られたんだっけ。
「……生きる努力はする。けどな、何をしたってもうマトモな生き方は出来ない事は目に見えてんだろ?俺は、俺の事情にお前を巻き込みたくないんだ」
「あたしはあたしの事情に……!」
言葉の続きは分かる。
俺を、あるいは『アイツ』を巻き込んだのに?
「俺はアイツじゃないんだぜ」
自分で混同させていると認めるようなもんだ。それに気が付いてアベルは途中で言葉を止めたんだろう。
「お前には酷かもしれねぇけど……ちゃんと認めて欲しい。これは、俺の意見だ。俺がアイツだったらそう思うだろうなって事。認めてくれ、お前はお前の事情にアイツを巻き込んでアイツを、死なせたって事」
ぎゅっと体が締め付けられる感覚に、俺は一瞬胸ぐら掴まれたのかと思ったのだがそうではなく、俺の胸のあたりを両手で掴みアベルは息を詰まらせていた。もう一歩間違うと胸ぐら掴んで脅してるポーズだが、ちょっとだけ違う。
これは、俺の言葉を止めたくて、つい殴る為に出てしまった手を、必死に自分で封じているのだ。
「……言わないで」
「それが、お前にとって一番重いんだろ」
アベルは無言で頷いていた。
うむ、一歩前進だ。
冷静に話し合いが成立すれば多少は理解してもらえるもんなんだなぁ。いや、事前にマツナギとかアインで在る程度の宥め賺しがあったからかもしれないけれど。
ふっと、思い出してはいけない記憶をリコレクトする。
頭一つ、俺より背の低い彼女を見下ろして……彼女は……こんなに小さかったかな?そんな感覚を思い出している。
彼女の事は、ずっと見上げていたように記憶するのはなぜだろうと、静かに思い出した過去に蓋をする。
癖のある赤い髪に触れてみて、恐る恐る梳いた。
「……悪かったよ」
俺もあの時死ねば良かったんだ。
そうしていればここまで彼女を混乱させ、混同させ、履き違えさせて苦しめる事はなかっただろう。
あと、今のこの実にめんどっちい状態になって、生きるも死ぬも苦労するなんて状態に陥ってもいなかっただろう。すくなくとも今の状態は無かったろう。
……当たり前だ。
今とは過去の積み重なりが導き誘う一つの結果で、これからの未来を指し示す過去へと積み重ねられていくものなんだから。
ところがいくら過去を振り返った所で今現在は変わらない。
こんなプロファイルに誰が設定した。過去何か選択を変えていれば俺の、ヤト・ガザミの今は変わったのか。今よりは幾分マシになったのか。
……きっと状況が変わるだけでマシには成らないんだろう。
ほら、だって。俺の中の人がアレだろう?
どうせ何度も同じような事を反復するんだ。現実にあった事を夢に反転させ、何度も後悔してはやりなおしたいという願望を元に、さ。
馬を貸してくれ、あと、ついでに1日ヒマをくれ。出来れば2日くれ。
そう言ったら全員から露骨に嫌な顔された。
「何してくるんですか」
「何してくるんだい」
「ナニしてくるんですか?」
「良いご身分ね」
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レッドは少し視線を天井に上げた。
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にっこり笑いながら即答すんな。そーいうのが腹黒いってんだよ!
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「じゃぁ許可するつもり?」
リオさんが腕を組む。彼女のこの動作、何らかの意思表示が混じっているよな。一種のストレス、緊張を感じ取って俺はレッドとナッツを振り返る。
「何か問題あるのか?」
「実はですね、カルケードの方から連絡が入りまして」
「ランドール・ブレイブが予測通り、貴方をダシにして南国侵略を始めたのだそうです」
「何!?」
まぁ慌てずに、とレッドは俺を止めるように掌をこちらに向ける。
「これは殆ど予測した通りの事ですので今の所問題はありません。問題なのは……別働隊がこちらに向かっているという情報の方です」
「別働隊?ランドール・ブレイブのか」
「要するにだね、ランドール本人がこっちに向かってる~みたいな話が聞こえてきていてね」
ナッツがのほほんと言った言葉に俺は、目を瞬く。少し間を開けたのは思考が間に挟まっているからと思いねぇ。
「何時の情報だそれは!?」
「要するに貴方はランドールらしい別働隊とやらが何時、こちらに来るのかを知りたい訳ですよね。ええ、答えられるならはっきりお教えしたい所なのですが残念ながら、分かりません。おかげさまでイシュタル国を出て次の目的地に向かいたい所なのですが、これでは国を出るに出れません。ランドールがどのように振る舞うのか全く予測が出来ませんね困った困った……と、今話し合っていた所なのです」
「で、どうするつもりだ」
「だからそれを今話し合っているんだってば」
「時間を掛けなきゃ結論が出ねぇのか?」
少々横暴と知りつつも俺はそのように軍師連中をたきつけてみる。すると各々、用意していた答えを目配せで確認しあった。
「タイミング的に見て、ストアが目的果たせず倒されたという情報を確認する前にランドールは動いている事になるだろう。だから何を目的としてこっちに向かっているのか、それが分からない」
「けど、坊ちゃん……いや、あのランドールがこの国に来て、横暴を働かないという保証がない。むしろ危険だ」
「何をしでかすか分からない……私達は変容した彼の目的をまだはっきりと把握出来ていないわ。彼が何を目指しているのか、それを知るためにも今一度、彼に会いたいと願っている」
「そも、彼が本当にここに来るのか、というのが保証されている情報ではありません。しかし可能性が少しでもある限り、彼という存在を無視するような選択肢は選ぶべきではないでしょう」
ナッツ、ワイズ、リオさん、レッドがそれぞれに見解を述べ、その後に代表してレッドが答える。
「暫らく、イシュタル国に残ります」
その決断に俺は無言で頷いた。
「我々は貴方と別行動になっている間、ランドールから何らかの横やりが入ってくる事を予測して動いていました。こちらにはどうにも、ランドールにとって不都合な事実を把握しているワイズさんが居ますからね。しかし結局ランドールとの接触は出来ずにいました」
俺はグランソール・ワイズを振り返る。
「奴に命を狙われる、その心当たりは何なんだ」
「恐らく、出生についての事と思いますよ」
真面目な顔は出来ない性分らしく、ワイズはにっこり笑って腕を組んだ。いや、長い前髪で顔の半分も見えない。口が笑っているだけで目はマジかもしれねぇけどな。
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惚けられて真面目に答えろよ、と俺はワイズを睨む。
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俺はレッドに助けを求める。
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俺は必死に悩んでから聞いた。
「……ファマメント政府は自分の国にある宗教、天使教を道具として使いたいが、使えない。それが不満だって事か?」
ワイズはそんなとトコですと口だけ笑って答えた。
「それで、天使教に変わる宗教を作ろうとしている。というか……現段階その『王の器』関連は宗教と認識されている訳じゃないんですけど。要するにその後宗教に姿を変えるだろうと僕は推測している訳だね」
「シュラード神は元々一国の王と言われます。その後、神という属性に置き換わり彼を奉る行為は政治ではなく、宗教になりました。それがシュラードを神と奉る西教です」
回転の悪い頭を可能な限りフル回転させようと必死な俺。
つまり、その『王からいずれ神になる』という西教の成り立ちの手法を、ランドールを使って模すって事か?
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【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
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社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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